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犬神祭り〈前編〉

 いつもなら親の実家に行くのは面倒だった。母さんの実家は近いからそこそこ会ってる。でも今年は違う。

 父親の──犬上家の親戚が集まる会、興味しかない!

 

 電車だと人が多い場所に行くのもあって、それはオレも父さんも嫌。長距離運転は疲れると言いながら電車ではなく車で移動していたのは、アイツらの存在があるからだ。

 まぁね、車で移動してたっているよ?

 フロントガラスにべちゃってくっついてニヤニヤ笑うアレとか。霊感が少ないといっても父さんも見えるので、運転は主に母さん。父さん冷たいなと思ってたけど、むしろこれ、父さんが運転したら事故る。オレも事故る。

 

 交際期間中も車を出してくれない父さんに苛立ってたらしいんだけど、お互いが結婚を考えはじめたところで、父さんが自白した。見えない母さんに分かってもらうのは大変だったらしい。そうだよなぁ、さすがにアレは……。

 後部座席に座ってただけだけど、父さんとオレ目掛けてガンガン来るの。SAで車止めてる時にも、手長脚長みたいな奴が車揺らしたりして、ハクジに消し炭にされてた。

 母さんは犬神を見たいらしいけど、それと引き換えに失う平和がデカすぎるから、止めたほうがいいと思う……。

 

 長距離移動を終えてたどり着いたじぃちゃん家。

 じぃちゃんばぁちゃん達も出迎えてくれた。

 

「母さんありがとう。あとはオレと父さんでやるから、もう休んで」

「ごめんな、役立たずで」

「そうそう、こんな遠いところまでありがとねぇ。部屋は涼しくしてあるからゆっくり休んでちょうだい」

 

 皆に手を引かれて、エアコンで快適温度になってる部屋に母さんは案内された。

 

 うーん、母さん大変そうだし、次はオレ一人新幹線でもいいかも。必要なら父さんも一緒に。

 ……で、じぃちゃんに柴犬が寄り添ってた! 似合いすぎ!

 オレがじぃちゃんの柴犬を見てたら、それに気付いたじぃちゃんが笑った。

 

「やーっと気付いたか、って顔してるな」

「この前十四になったからね」

「悠里の犬神は相変わらずでかいなぁ」

 

 主人のオレだけ見えてなかったんだよなぁ。

 

 家の中は結界が張ってあるのもあって、アイツらも入ってこれないしで安心するー。庭にも入ってきてない気がするんだけど、もしかして庭に置いてんのかな。

 

「じぃちゃんの犬神はなんて名前なの?」

「コテツだ」

 

 なんてイメージ通りなんだ。お約束を守る祖父、偉い。

 

「今年は悠里達が来るだろうからって皆、遊びに来るって言ってたぞ」

「え、そうなの?」

 

 いとこたちやおじさんおばさん達が来るってこと?

 

「久々に大集合だ。ばぁさん達も大忙しだ。ほれ、悠里もわしと一緒に手伝え」

「うん」

 

 皆でわちゃわちゃと準備してたら、母さんが起きてきた。

 

「あ、母さん。麦茶飲む?」

「うん、ありがとう」

 

 台所に行って、ばぁちゃんに母さんが起きたから麦茶もらうね、と断ってから麦茶をグラスに注ぎ、居間で座ってる母さんに渡す。

 

「ありがとうー、全然手伝えなくてごめんねー」

「いやいや、オレも父さんも運転できないから、母さんにばかりさせちゃってるんだから、気にしないで」

 

 年齢的に免許がないだけじゃなくて、アレが見えるから生涯無理だと思う。

 

 ひと通り準備を終えたから、居間でひと休み。

 オレはじぃちゃんのコテツが気になってたから、声をかけた。

 

「コテツ」

 

 しろあんもそうだけど、犬神は基本喋れない。犬神と呼んでるけど、その多くは神成りしていないんだって。霊格が上がってくると神成り前でも話せるらしいんだけど。

 ……うん、レラちゃん、謎!

 

「触ってもいいか?」

 

 喋れないけどこっちの言ってることは分かるから、コテツはワン、と吠えた。

 許可をもらったので触らせてもらう。おぉ、このハクジともしろあんとも全く違う肌触り! しっかりした毛! って感じ。

 

「犬種によってほんと毛質違うよなぁ」

「悠里、普通犬神は主人以外に自分を触らせんのじゃぞ」

 

 え、でもオレ、しろあんとかコテツに触ってる。

 

「おまえ、自分の犬神になんて名をつけた?」

「ハクジ」

「やっぱりなぁ」

 

 納得するようにじぃちゃんが頷く。

 

「おまえは犬上家初代の生まれ変わりだからな、その犬神の眷属達は触らせてくれる、そういうこった」

 

 なるほど、オレだけワンコさわり放題なの理解。

 

「じぃちゃん達は初代とハクジのこと知ってるんだ?」

 

 自分とハクジだけの秘密かと思ってたオレの厨二心よ。

 

「情報として伝わっとるなぁ。昔は巻物としてもあったらしいが今はないからな、口伝で自然と伝わっとるよ」

「ほーん」

 

 玄関からこんにちはー!という元気な声がした。うーん、玄関の鍵開いてるのすごいな。危なくないのかな。

 

「あら、真美達かしらねぇ」

 

 よっこいしょ、と言って勢いをつけてからばぁちゃんが立ち上がる。思わず立ち上がってばぁちゃんを支えた。二年ぶりに会ったらなんかこんなにばぁちゃんて年寄りだったっけって思うぐらい年取ってて、面倒がらずに会いに来ようって思った。

 

「悠里くん! 久しぶりー!」

 

 真美おばさんといとこ達もやって来た。そして自然と目がいくのは、犬神。オレの視線に気付いたおばさん達は笑う。

 

「うちの子、可愛いでしょう」

「可愛い」

 

 なんだとポメラニアン超モフモフで可愛い。従姉の犬神はチワワだ。チワワーッ! 従兄の犬神はイタグレ。

 

「え、じゅん、イタグレ似合わねー」

「うっせ」

「悠里くんとこの子はいつ見ても立派でカッコいいね!」

 

 ハクジはオレの横ですん、としてる。基本いつもこんな感じ。

 

 田舎の本家だからなのか、居間は十畳の和室。襖を開けばその隣も十畳の和室。その奥もある。掃除大変そう。

 各自ばぁちゃんに許しを得てから、自分で麦茶を入れたり持って来たお菓子をテーブルに並べる。

 

 父さんの実家は田舎にしては珍しく、女性をおさんどん扱いしない。跡取りを犬神の大きさで決めていく決まりがあって、女性が跡取りになることもあったらしくって、性別でくくらないんだって父さんが言ってた。それでいくとオレが跡取り? って聞いたら、家父長制度はもう終わったんだよ。悠里の好きなように生きなさい、って言われた。

 

 それからしばらくしてまた親戚が来て、料理がズラリと並んだ。いやー、家で全然手伝ってなかったけど、最近昴の家で一緒に作っててよかった。ちょっとは役立った、と思いたい。昴すごいな。オレももうちょっと料理覚えよう。

 

 それにしても、あちこちに犬神という名の犬、犬、犬!

 モフモフ好きなオレとしては最高。

 

「うちの子も大きいけど、やっぱ初代さんの犬神には敵わんなー」

 

 そう言う叔父さんの犬神はラブラドールだった。黒ラブ! 可愛いーっ!

 ハクジの主人という最高権力を駆使して、触りまくりです。

 

「これだけ揃うと壮観だなー」


 ドッグカフェ並み。たぶん。

 

「悠里くんも成人したからアレ、見えるんでしょ?」

「見える」

 

 従姉がニヤニヤしながら聞いてくる。

 くっそー、チワワじゃあんまり被害に遭ってなさそうだなー。

 

「私はオジぐらいしか見えないからさー」

 

 なんといううらやま!

 オレの犬神もチワワ……いや、ハクジ以外は、うん、ちょっと嫌だな。でも見たくないんだよ、アレ……。

 

「揶揄うなよ。おまえなんか見たらビビって漏らすぞ」

 

 イタグレ犬神の主人 純が妹を軽く小突く。

 チワワより大きいから、いくらか見てるんだろうな。

 

「オレが見えるのでもヤバいのにさ、悠里はもっとすげぇの見てんだろ?」

「うん」

 

 即答する。

 もうね、日々寿命をすり減らしてる。

 

「オレのだと自縛霊とか祓えないんだけど、悠里は祓えんの?」

「進んで近付かないから分からん」

 

 何故そんな恐ろしいものに自分から近付かなくちゃならないんだ。絶対やだ。

 

「何もしなくても寄ってくるもんな」

「車乗れないよなぁ」

 

 犬神の主人である親戚達が眉間に皺を寄せながら頷く。

 一族の共通の悩み。

 

「犬上家って変わってるよね」

「まぁなぁ、でももっと変わった家があるぞ」

 

 ほろ酔いなのか頬を赤くした叔父さんが言った。

 

「もっと変わった家?」

 

 唐揚げをハクジにあげてから自分も頬張る。皆、自分の犬神に色々食べさせてる。必要ないって分かってるのに。

 

「犬江家っていってな、元はうちの分家だったらしいんだが」

 

 ふむふむ。

 

「還暦を迎えるとな、犬になるんだ」

「えぇっ!?」

 

 オレだけじゃなく、知らなかった他のいとこも驚いていた。

 

「犬になる? 人間が?」

「絶対になるんだよ。だから若い頃は別の場所で暮らしても、歳を取ると、こっちに帰ってくる」

「え、家こっちなの?」

「元がうちの分家だから」

「あっ、そっか」

「でも最後の最期は人の姿で逝くんだけどな」

 

 ふ、不思議が詰まりすぎてて……。

 チラ、とハクジを見る。ハクジなら何か知ってるかなと思って。

 

『犬江は初代、そなたの前世の末の息子が興した家だ。当然我の眷属である犬神を従えておったのだがな、自分もその力が欲しいというてな』

 

 あー……なんか分かったかも。

 ハクジの声は犬上家の血筋の人間には聞こえている。というか霊感というか。

 

『一体化すれば良いと言い出してな』

 

 やっぱりー。

 

『それが限界に到達するのが赤子に戻るとされる年でな、そこから十数年は犬として生き、今際の際に人に戻る』

「その、犬江の人達は困ってないのかな」

『犬上家と祖を同じくするということは、犬江の者も見えるということだ。そなた達のように祓う力は個体差があるだろうが』

「なるほど」

 

 でもその、犬神と融合してるから、見えても祓えるというか、なんとかなってるんだろうな。

 

「犬江家はうちよりも特殊だからなぁ、未だに色々と縛りがあるようだよ」

 

 本家は色々捨てちゃってるのに?

 でも霊感あるは人に言えるけど、犬になるは言えないなー……。

 

「他にもあるの? 特殊家系」

「知らんが、いるんじゃないか?」

 

 事実は小説より奇なり、だっけ。オレもまさか霊感があって常に悪霊とかに狙われて、最強の犬神連れてる上に記憶はないけど転生してるとか大概だもんなー。

 

「その犬江家とは交流あんの?」

「ないなー。そもそも犬江の一族のほとんどはこの地域から出てるからな」

 

 還暦後少ししてからこっちに来るんじゃ、交流のしようがないよなぁ。

 

「今際の際には戻るから、普通に人として弔えるしな、戻って来ん奴も増えたらしいしなぁ」

 

 犬になったり人になるとかじゃなければ、生活に支障はない、のか?

 

「ところで悠里、頼みがあんだけどさ」

 

 純がオレを肘でつつく。止めろ。そしてよく分からんけど断る。

 

「オレの通学路に棲みついちゃったのなんとかしてほしいんだよー」

「やだよ(即答)」

「そこをなんとか」

「回り道しろよ」

 

 犬神でなんとかできない地縛霊とか危険すぎる。うちのハクジが最強だからって軽く頼るな。

 

「悠里の犬神最強じゃん、瞬殺だって!」

「おまえさぁ、最強最強言うけど、ハクジを軽い気持ちで利用すんなよ。おまえの犬神だってそうだぞ。守ってくれてるんであって、おまえの好きに扱っていい存在じゃないんだからな」

 

 守ってもらえんの当たり前って態度、ちょいイラつくな。

 

「そうだぞ。おまえの頼みは図々しい」

 

 じぃちゃんにも言われてぺそっとする純。

 

「ごめん。でもアイツ、日増しにデカくなっててさ、このままじゃオレのハヤテも危険な気がして」

 

 イタグレの名前、ハヤテ。確かにシュッとしてるから早そうではあるけど、鷹につける名前っぽいな。っていうか和なんだ。

 

『悠里、我が行ったほうが良いようだ』

「そうなの?」

『地縛霊でありながら巨大化していってるということは、呼び寄せて周囲のを食らっているのだろう。周辺を通る生物その全てに影響を及ぼすようになる』

 

 影響?

 

『今は食らっておる側だが、そのうちに呪を撒き散らす存在になる。そうなれば草木は枯れ、近くにある生物全てが呪われる』

「なにそれこわっ!」

『早めが良かろう。明日でいいな』

「はい、ハクジさま!」

 

 純、超良い返事してるよ……。

 

「ハクジ、怪我とかしないか?」

『地縛霊如きに破れるわけはないが、ものによってはそなたの腹が減るかもしれんな』

 

 それってオレの霊力消費するってことじゃん。

 

「おにぎりこさえておくかい?」

「いや、コンビニでなんか買ってく」

 

 あぁ、犬にモフモフされるための帰省だったのに……。

 

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