邂逅
部屋を出て児玉さん達が来るのを待っていたところ、昴の手の中にいたレラちゃんが起きた。
起きた! 良かったー!!
『ふわ〜ぁ』
こんな時になんだけど、あくびをするレラちゃんが可愛い。
キョロキョロと周りを見回したあと、首を傾げる。
「レラ、起きた?」
心配そうな表情でレラちゃんの顔を覗き込む昴。
『おはよー、ご主人』
「気分はどう?」
『? 平気。それよりご主人、ここ』
何処? と聞くのだと思っていたら、思いもよらない言葉をレラちゃんが言う。
『レラが前、いたとこ』
多分そうだろうと言っていたことが確信に変わってしまった。こんなの当たってほしくなかったのに。
目が覚めてくれて嬉しかった気持ちが急転直下。
「思い出したの?」
『うん。全部、思い出した。あのね、前世のレラ、何処か分かる』
思い出した、ではなくて、分かる。
それはどういうことなんだろう。
「んじゃ、児玉が来る前に行くか」
「え?」
児玉さん待たなくていいの?
「ここにいるとおまえらは平気だろうが、オレは逮捕されちまうからな。どっちにしろ逮捕されるからその前にレラちゃんの遺体を見つけようぜ。奴等の仲間が回収したら困るしな」
さっき春樹兄にのされた奴が全て、なわけないよな。
レラちゃんが春樹兄を見て、『誰?』と尋ねる。
春樹兄はレラちゃんに顔を近付けるとニカッと笑った。
「初めましてだな、レラちゃん。オレは春樹。昴の兄ちゃんだぞ」
『兄ちゃん』
「おぅ」
ほのぼのとしたやりとりしてるとこ悪いんだけども。
「なぁ、ここにいたほうがいいんじゃないの?」
ここにいて逮捕されるなら、ここから離れたら罪(?)が重くなりそうな気がした。
いや、奴等の仲間がレラちゃんの前世の遺体を隠蔽するのも駄目なんだけど。
「やることやったら捕まるわ。移動続きで疲れたし、捕まったら寝る」
いやいやいやいや、睡眠不足解消に捕まるみたいなこと言わないでくれ!
「行こう」
神様なだけあって人間のルールとか、割とどうでもいいハクジとルカが止めないのは分かる。ストッパーになるはずの昴の優先順位がレラちゃん優位なため、誰も春樹兄を止められない。
建物を出る前に春樹兄がザックから新しい靴を取り出して履き直した。……なんで新しい靴持ってんの?
「血だらけの靴で外歩くわけにいかんだろ?」
「そうだけどさ」
人聞き悪いけど、証拠隠滅図ろうとしてる?
「ここに置いてく。終わったらきちんと警察に行くつもりだからな。それにおまえらの靴の跡もあるんだから、オレだけ靴替えても意味ないからな」
そうだった!
「児玉には場所が分かり次第伝えるから大丈夫だぞ」
なんだか無茶苦茶で、何が大丈夫なんだか分からん!
一旦家に戻ったオレ達は、春樹兄が運転する車に乗り込んだ。
レラちゃんが言った場所に向かってるらしいんだけど……。
「おーおー、さっすが悠里だな。遠慮なく来る来る」
奴等に襲撃されてるっていうのに、楽しそうな春樹兄。
「着いたぞー」
高速を走ること三時間。ごめん、気がついたら寝てた。ルカのシールドのおかげで寝れちゃったよ。
「さてと、レラちゃん、案内頼む」
『分かった!』
レラちゃんが示す方向に向かって進むのはいいんだけど、オレはずっと春樹兄が捕まることが不安で仕方ない。
「なぁ、春樹兄、大丈夫なのか? 素直に児玉さん達を待ったほうが……」
「悠里もしかして信じてたのか?」
昴がちょっと呆れた顔でオレを見る。
「信じるって何を?」
「兄キが海外で怪しい活動してたって奴」
「え? ウソなの?」
春樹兄がうはははははと笑う。
え! 何!?
「まぁしゃーない、言ってないからな」
話の流れについていけない。
「兄キがマチュピチュに行ったのは本当だけど、それはれっきとした任務だから安心して」
「任務!?」
マチュピチュに行く任務ってなに!?
「ペルーを本拠地にしてる犯罪組織がいて、その組織が日本に対して攻撃してたんだよー」
「ペルーにいる犯罪組織が日本を攻撃!?」
何言ってんのか本当に分からん!
オレが混乱してるのが分かって、昴はそのまま説明しても無駄だと思ったようで、結論を言う。
「兄キは公安警察なんだ。ずっと黙っててごめん」
「実は公安調査庁内部部局、調査第二部所属勤務の警察官なんだなー!」
ジャーン! とか自分で効果音つけてるし!
……ウソでしょ。あのちゃらんぽらんな春樹兄が公安!?
「ペルーでの調査が終わったんで帰って来たのは本当。新参者の犯罪組織にあっちの大物組織が苛立ってて、繋がりをつけたのも本当。児玉にも教えてないから後で言わんとな」
「え、でもさ、じゃああの団体の建物に入る時見せてた手紙は?」
「本物だよ。いやぁ、職場の奴等、オレが霊感あるって知ってるから遠慮なくそういう系回してくるんだよねー。だからその界隈でオレは有名だよ。霊能者としてね」
「えぇ……ナニソレ」
まさかの本物の潜入捜査!?
「公安ってエリートのイメージなのに……」
「失礼だがその通りだ、悠里。オレが公安所属になったのはこの能力のおかげだからな」
「ガチのマジ」
「偽物はさ、偽物を見抜くわけよ。だから本当にそういう力を持ってる奴を欲すんの、いざという時のために」
なんかもう、何て言っていいか分からん。
「そんなわけだから秘密な?」
笑顔だけど目が笑ってないよ、春樹兄。
混乱というか、納得いかないというか、複雑な気持ちのまま山道を進む。
『そこー!』
レラちゃんが昴の肩の上でぴょんぴょん跳ねる。
「あいよ」
春樹兄はザックから何やら取り出した。組み立て式のスコップだ。その鞄、どういう基準のものが入ってんの?
手に持っていたランタンを昴に渡すと、春樹兄はポケットからヘッドライトを取り出して頭に装着し、電源をオンにした。かなりの光量が直線方向に向かって伸びてる。
ライトの方向を直線から周囲に切り替えたようで、周囲が見渡しやすくなった。すげー!
『そのようなものでやっていたら日が昇る』
ずっと黙ってたハクジが喋ったと思ったら、クレームです。
『そこを退け』
「ほーい」
スコップを肩にのせたまま春樹兄が離れる。
突風がレラちゃんが指摘した場所に積もる葉っぱや土を掘り起こしていく。
……こんなこともできたんだ、ハクジ。
掘り起こす風が緩やかになったな、と思っていたら、「あった」と昴が言った。かなり深く掘られた穴の中に白っぽいものが見えた。……人骨だ。
『あったー!』
喜ぶレラちゃんと正反対に、オレ達の気持ちは沈む。
白い布の手袋を装着した春樹兄がバケツを持って穴の中に下りた。ハクジが掘り起こしている間に用意したんだろう、バケツにはロープが括りつけられていた。
骨を踏まない位置でしゃがむと、そっと骨をバケツの中に入れていく。
「上げてくれ」
いつの間にやら昴も手袋をしてて、オレにも手袋を渡してきた。そうだよね、オレもやるんだよね。
バケツを引っ張り上げ、布の上に骨をそっと置いていく。
繰り返すこと六回。布の上に並んだ骨のうち一つは大人のものだった。
『レラの前世、これー!』
そう言って示したのは大人の骨だった。
子供だけが生贄になったのかと思っていたのに、レラちゃん、大人だったのか……?
春樹兄は並ぶ骨に向かって手を合わせていた。オレと昴も慌てて手を合わせる。
レラちゃんは昴の肩からぴょんと飛ぶと、自分の骨の前に立った。
『やっと、見つけられた』
そのひと言は、これまでのレラちゃんとは違った。レラちゃんは子供のような話しかただから、ずっと子供なんだと思っていた。
『皆のことも、これで救ってあげられる』




