児玉さんと春樹兄
昴の家で夕飯をわちゃわちゃしながら作って食べてまったりしていたら、インターホンが鳴った。
春樹兄の友人の児玉さんだろうか?
昴が対応する。児玉さんらしい。まぁ偽物だったとしても、ここにはルカとハクジがいるから大丈夫だろうけど。
チラッとテーブルの上に置いたレラちゃん用ベッドを見る。眠り続けるレラちゃん。時折目覚めるけど、すぐに眠ってしまう。ルカが言うには、魂を融合させるのに体力を消費するのだと。その証拠に昴はずっと何かを口にしてる。おまえも電池になってるな、って揶揄おうかと思ったけど、ちょっとそれは止めておいた。
……光はずっとレラちゃんに吸い込まれてる。時折光が強くなる瞬間があって、それは融合が完成したことを意味するのだとハクジが教えてくれた。完成したのに、まだ吸い込まれ続ける光が、事の深刻さを伝えてくる。
もしレラちゃんに吸い込まれる光が、児玉さんの弟さんの時と同じように集団児童誘拐事件と同じで、巫覡の才能を持つ子供が人身御供にされてるとするなら、一体どれだけの……。
考えるとゾッとするので、いつもここで考えるのを止める。
昴に案内されてリビングにやって来た人は、スーツ姿のピシッとした人だった。オレとルカを見て怪訝な顔をするものの、昴が「今回の件で頼りになる存在です」と言うと、頷いた。
「児玉という。春樹から情報を得てこうしてお邪魔した。よろしく頼む」
そう言って頭を下げる児玉さんにオレも慌てて頭を下げる。ルカはふん、とふんぞり返ってる。そんな偉そうな態度して……と思ったけど、実際偉いんだよな、神様だし。
ハクジといい、ルカといい、なんかオレの周り普通じゃないから、脳がバグる。
「兄から聞いてるか分からないんですが、オレは弟さんと同じものが見えます」
「……それは聞いている。今回の件が片付いたとしても、頭のおかしい奴等は何処にでも湧く。人に明かさずにいることをオススメする」
「はい」
そうだよな、光導の導とかいう団体以外にも、カルトはいるだろうしな。なまじっか本当に能力のある人間をターゲットにするから真実味が増すのかな。
皆、座って児玉さんの話を聞く。
それは聞いているだけで気持ち悪くなるような、悲惨な話だった。
弟は妙なことを言って皆の気を引きたいんだと思っていたら、誘拐されてしまった。本当にそんな力があったのかどうかは分からない。ただ弟の話を自分達が受け止めていたらこんなことは起きなかったのではないかということ、団体を追い込むには情報も証拠も足りなかったこと。──なにより未だに弟さんは見つかっていないこと。
「本来ならば弟はまだ生きてると信じるべきだし、両親は信じている。……だがオレは、ヒロユキは生きていないと思っている」
疲れとも違う、落胆とも違う、色んな感情が混じったような表情で児玉さんは言う。
「それで、こちらの二人は理解のある友人ということかな?」
「それもそうですが、弟さんよりそっちの能力があるんです」
神成りだなんだ言われたけど、やっぱりオレとしてはピンとこないから、オレはただの電池です。でもルカは信じてもらえないだろうけど、ガチ神様だから能力って言葉で表していいのか疑問。でもなー、神様です、なんて言ってもなぁ。
児玉さんはオレとルカを見て、眉間に皺を寄せた後、息を吐いた。
「よくアイツらに目を付けられずに無事に……良かった」
ヤバ。児玉さん良い人確定。
「昨夜のサイレンからして、何かが起きたことは近隣住民も察しているだろう。ただまだ情報が掴めていない。……前と同じようにな。だが春樹から君から有益な情報を得られるだろうと伝えられたんだが……」
有益、になるのか?
「兄がどんな風に伝えたのかは分からないんですが、試してみたいことがあるんです。それによってはオレ達は危険な目に遭う可能性があるので、児玉さんに一緒に来てもらえると助かります」
「試したいこと?」
昴が頷く。
「児玉さんは見えないと思うんですが」
そう言ってベッドの上で眠るレラちゃんを手にのせる昴。児玉さんには見えないんだろうな。
「オレには見えないが、何かを大切に手にのせているように見える」
「はい。オレの手の上には、多分、前回児玉さんの弟さん、ヒロユキさんと同じ被害者が乗ってます」
「なに!?」
信じられないでしょうがと前置きをしながら、昴はレラちゃんとの出会いからこれまでのことを説明した。ハクジとルカの正体については伝えないけど。
児玉さんの眉間の皺は更に深くなる。
「俄には信じ難いが……信じなかった結果、ヒロユキは行方不明になった。信じたいと思う」
言葉を選びながら、確認もできないことを信じたいと言ってくれる児玉さん。……ずっと後悔して生きてきたんだろうな。
「それで、そのレラ? という管狐に、弟が見たのと同じ光が吸い込まれてるいると」
「はい。昨夜からずっと。この光を辿ったら、何かが見つかるんじゃないかって思うんです」
はっきりと言葉にしないけど、児玉さんには伝わったみたいだった。
「……被害者を見つけられるかもしれんということか」
「かもしれない、とオレ達は思ってます」
しばらく思案した児玉さんは、「分かった」と頷いた。
「ただ、捜索協力とはいえ、民間人を危険に晒すわけにはいかない。その光の筋を辿る方法は他にないんだろうか」
「ないわね」
遠慮なくルカがバッサリと切り捨てる。
見た目JCのルカの言葉遣いに児玉さんは腹を立てることもなく、そうか、とがっかりした顔をする。
「光の筋が団体が所持する建造物だった場合は、それ以上中に入ることはできないし、囮捜査のようなことはさせられない」
マンガによくあるような囮捜査なんて現実には無理だよなぁ。あれはマンガだから可能なんであって、リアルでは問題になるから絶対にありえない。
「分かりました」
「……建物の中に入れないとしても、奴等なのだと確信を持てるだけでも、オレ達被害者家族としては助かる。そこからどうやって奴等に揺さぶりをかけるかは警察の仕事だ」
胸がグッと締め付けられる言葉に、思わず唇を噛んだ。
「早速で申し訳ないんだが、今から行動は可能だろうか?」
光の筋がいつ消えてもおかしくないんだから、児玉さんの言葉は当然だし、オレ達はレラちゃんを助けたい。
「勿論です」
「ちょーっと待ったー!」
突然の大声に驚いて、声のしたほうを見たら春樹兄がいた。え!? マチュピチュってそんな近くないのに何で!?
「早かったね」
昴の言葉に春樹兄がカカカッと笑う。いや、笑い声。
「虫の知らせって奴かな、帰国途中でおまえから連絡もらってたワケ!」
「相変わらず、暑苦しいわねー」
「おっ、ルカ! 相変わらず男の娘やってんのか?」
児玉さんがビックリした顔でルカを見る。
「なによ、文句あんの?」
「ないな!」
春樹兄は児玉さんの肩を組むと、笑いながら言った。
「あの男の娘、実は座敷童子なんだぜ? 凄くね?」
「はぁっ!?」
児玉さんのビックリ顔が凄まじい。
っていうか暴露しちゃっていいの、それ。




