光導さまとオレとルカのアレコレ
そうなってくるとそのカルト団体がナニモノなのかが気になるのは当然だと思う。
「そのカルトはなんていうんだ?」
「光導の標」
わぁ……それっぽい。もしくはゲームっぽい。
「ご祭神は?」
「光導さま」
まんますぎる! 長すぎる名前もどうかとは思うけどさ。
昴がスマホの画面を見る。
「兄キが帰って来るって」
「え? あっちで仕事してんじゃなかったっけ?」
今何処にいるんだっけ。えーと、あー、そうそう、マチュピチュだ。
鬱陶しいほどの光属性持ちの春樹兄。弟の昴とは真反対の性格。きょうだいとはいえ別の人間だから当たり前なんだけど。
「さっきの、光の筋が見える人がターゲットなんだとしたらさ、昴も危険なんじゃないの?」
「オレはただの霊感持ちで光の筋なんか見えないよ、やだなー」
ははっと胡散臭い笑みを浮かべる昴。最近色々ありすぎて忘れてたけど、昴ってこういう奴だった。いつも飄々として何かに関心を持つこともなくて。でも実は霊感がかなりあって、某団体に目をつけられる可能性があった。それを春樹兄が防いでたとするなら、昴は自分を殺すまではいかなくても、隠して生きてきたんだろうか。見えないものが見える。霊うんぬんよりヤバい(?)ものが見える。
「その筋、オレも見えるようになったんだけど、どうすりゃいいの?」
「最強の犬神に守護されてんのに、何か起きるわけないでしょ」
「え、でもハクジが見えなかったら意味ないんじゃないの?」
「あのねぇ、ハクジは神なの。姿を見せる必要もないし、アンタに何かしようとしたらそれこそ風でも火でも起こせるのよ」
「マジ!」
尊敬の眼差しでハクジを見たらルカに「バーカ」って言われた。酷すぎ。普通の人はそんなこと知らないから!
ルカが昴を見て言う。
「しばらく一緒にいるわ」
「ありがとう、助かる」
ハクジと同じ、神のルカが昴の側にいてくれればレラちゃんのことも守ってくれそうだし、安心できる。
まぁなんか、変な噂にはなりそうだけど、それより大事なものってあるよな!
……胸ポケットの中のレラちゃんは、今も光を吸い込んでいってる。あの光──魂がレラちゃんと融合していってるんだと思うと、叫んで頭を掻きむしりたくなる。
それに昴。巫覡の素質を持つ子供が狙われるなら、昴だって危ない。子供のほうが扱いやすいってのはあると思う。
自分でいうのもなんだけど、いうてオレ達まだDC。大人に太刀打ちできるとは思えない。霊が見えるようになるまでは、これから先のことなんて何とかなるでしょぐらいに思ってた。
見えるようになってハクジに守られて、いかに自分が無力か分かった。
霊力が他の人よりあろうとなかろうと、オレはオレの身を守る術を持ってなくて、悪霊達に日々襲われるだけの存在。それこそ昴が言ったように、見えるけど見えないフリをしてきた友人達とオレの違いはハクジの存在しかない。
それもハクジの厚意で守ってもらってるだけ。ハクジのことだからこれからもオレを守ってくれるだろうけど、当たり前じゃないって理解してる。生まれ変わるたびにオレを守る必要なんてないのに、こうやって守ってくれてる。それを当たり前だなんて思うほどバカじゃなくて良かった。
「……なぁ、その光、逆にこっちから辿ったらどうなんの?」
素朴な疑問として思ったので口にしてみた。
「兄キから今日の夜、人が行くから勝手に動くなってきてる」
「友人?」
「弟が行方不明になった友人、児玉さんが来る」
「兄が来てどうするのよ?」
ルカの言い方は厳しいけど、正直そうなんだよな。弟のことがあってその団体を追いかけてるとしても、一般人にできることってなくないか?
「児玉さん、警察官なんだって」
もしかしなくても弟のために警察官になった?
「しかも警視だって。兄キと同い年だし、キャリアだね」
警察の階級とか知らんけどガチっぽい……!?
「悪いんだけど、悠里もうちに来てもらっていい?」
「勿論!」
父さんと母さんなら話せば分かってくれる。
そういう意味で犬上家の子供で良かった。……児玉さん達は、見えないものの存在を信じてあげなかった自分達を責め続けたんだろうな。
見えることも、見えないことも悪くないのに。
「レラちゃんさ、どうなんの?」
この前も魂を吸い込んだけど、レラちゃんに変化はなかった。でも今回のは明らかに何かが起きると分かる。
「神成りするのか?」
ハクジが昔のオレと一緒にいてそうなったように。
「管狐だけについていえばそうなってもおかしくはないわ。ただ神としては弱いわよ? 霊格はまだ低いんだから」
「悠里の霊格って高いんだろう?」
昴の言葉にルカは頷いた。
「え、そうなの? オレは何もしてないよ?」
ただハクジに守られている電池なだけで。
「神道では、死後に自分の子孫や特別に思う存在を守ることで霊格を上げていって、それがある段階に達したら神成りするの。神成り後は古き神に仕えたり、神格を上げるために氏神となったりする。でもアンタはそうせずにずっと転生を繰り返してる。いつもいつも同じ理由で転生する」
「それ! なんでオレ、転生してんの?」
自他共に認めるビビりなのに!
『理由はあるといえばある』
あんの!? なんでなの前世のオレ!?
『人間が信仰を捨てたからだ。昔は両者はもっと近しいものだった。思想や生活に馴染んでおった。だが今の人間は己が願いがある時、困難に面した時にしか神と向かい合わん』
葬式仏教って奴だよな。
それとオレの関係性については、この後説明してもらえると信じて待機。
『神と向かい合うというのはカルトとは異なる。己の内面と向き合うことをいう。そうやって己が精神を磨くことによって魂は自浄していたのだがな』
そうだった。だから穢れがたまっていくんだもんな。
『世が栄えていくのに反して、人の心は未熟な者ばかりになり、穢れが増えた。そうやって増えた穢れが形を変えて人を襲う。それをそなたは憂えた』
「え」
『犬上家の血筋が何故妖や悪霊などに好かれるのか。それは我がそのようにそなたの血筋に呪いをかけたからだ』
呪い!!
でも分かる。それは憎いからかけた呪いじゃないってのが。
「もしかしなくても、犬上家の子孫を襲わせて、それを犬神となった先祖達が祓うためだよな?」
「アンタにしては鋭いじゃない」
ルカの安定の酷さ。
「妖として生まれたハクジは、あんたを襲う悪霊達を祓い続けた結果、霊格が上がって神成りをした。本来ならそこであんた達の縁は切れるはずだったのよ」
縁が切れるはずだったと言われてぎくりとする。もしかしてオレ、ハクジになんか無茶苦茶なお願いとかしたんだろうか?
『何度生まれ変わっても、今際の際にそなたは言う。"ありがとうな、また何処かで会えたらいいな"と』
「……ちょっと待ってよ……」
身体がサァッと冷たくなる。触れてないのに、指先が冷たくなってるのが分かる。
「まさか、オレの言葉がハクジを縛りつけてたのか?」
『そうではない』
「でも、そうだろう? そんなつもりがなくてもオレの所為でハクジはもごふ」
ハクジに肉球パンチを食らった。
『話を聞け』
でも、と言ったらまた肉球パンチを食らった。ごめん、ぷにっとして気持ちいい。ポップコーンの香り。
『我は別に神成りする必要などなかった。だがそなたがまた現世に転生することは分かっていた。だから神と成った』
「なんでオレが現世に転生するって分かったんだ? また余計なことを言ったのか……? それとさ、なんでオレは犬神になってないの?」
「犬神にはならないわ」
「なんないの?」
チワワからスタートして子孫を守るためにアイツらと戦う……アイツらと……無理かも……。
「はっきり言うわね、アンタは今生が最後の転生なの」
「え!?」
犬神にもならないし、転生もしないってなったら、一体どうなるの、死後のオレ!?
「さっき昴が言ったでしょ、悠里の霊格は高いって」
「あぁ、うん?」
電池としての格は高い自覚ある。
「神成りするの、アンタも」
「えぇ!?」
散々神成りは難しいって言ってたのに? 神成りする為に何度も転生して霊格を上げて……って、もしかしてそれが済んだってこと?
ルカが呆れ顔をしてる。
「やっと分かったみたいね。アンタは現世に転生することはないの。中つ国に生まれ変わるわ、新たな神としてね」
「え、オレが!? オレ神なんてやれないよ!?」
「そう言って毎回転生してたのよ」
オレ、本当に変わってないんだな……。
「悠里が転生しないってことは、ハクジも現世に来ないってことだよね?」
「そうよ」
昴の問いをルカが肯定する。
『護法が人になろうとする理由はな』
「あっ、ちょっと!」
ルカがハクジを止めようとするのをオレと昴で止める。
『そなたの代わりに犬神家の者として生まれ代わり、人の世を救うためだ』
「えっ! ルカって良い奴だったんだ!」
ぐーで殴られた。痛い。暴力反対。
「最初からそう言ってくれれば良かったじゃん」
「前から話していたことは本当よ。神として生まれた私には家族なんていなかったもの」
拗ねたように頬を膨らませるルカは、ビジュだけで言えば可愛い。男の娘だけど。
「護法としての役目を完全に放棄する気なんてないわよ。これからも人の子を守るわ。ただその形を変えようと思っただけよ。アンタが転生できなくなるのは分かっていたし」
ピヨちゃんの口にリンゴを押し付けるルカ。ちょ、啄ませてあげて!
「犬上家は祓魔師を生業とすることは止めたけど、これからもこの世の穢れを祓い続けるのよ。でもこの世の穢れるスピードは異常だから、犬神達だけでは無理なの」
それで犬上家に嫁入りならぬ、転生入りを?
「……帰る場所を選べるなら、アンタの一族が良かったのよ」




