山ってそれ系の定番かなって
じゃあレラちゃんの前世を探しましょう! となったからって思い出すわけもなく。
昴が言うには何かちょっとした時に記憶の片鱗として思い出すらしかった。
「色んな場所に行ってみる?」
「引きこもれなくなるけど、大丈夫?」
確かにアイツらは怖いしキモい。ハクジが最強だからってそれに甘えちゃいけないことも分かってる。
「オレは襲われているだけだから。ハクジ、良い?」
『構わん。そも、結婚するなどと豪語しておきながら家に篭りきりなのもどうかと思っていた』
「え、悠里、結婚願望があるの?」
「いつかね! いつか!」
もー、なんでこんな時に言うかなー、ハクジめ!
「行くとしたら……山、とか?」
「うーん……この前の話の感じからすると、そうかなって思っちゃうよね」
普通という表現が正しいのか分からないけど、弔われてないってことは、そういうことかなって思うわけで。
「まずは近くの山から行ってみようか」
『ピクニック、初めて!』
「そうだね。お弁当作って行こうか」
昴は喜ぶレラちゃんの頭を撫でる。その笑顔はちょっと暗い。無理もないんだけどね。
それにしても今の"ピクニックが初めて"とか、こういった時に前世が垣間見えるんだろうな。
ピクニックが初めてかぁ……。それだけでなんか、自分のことじゃないのに悲しい気持ちになる。
「レラちゃん、遊園地は好き?」
『遊園地? 行ったことない』
「行ってみたい?」
『うん!』
遊園地に男二人で行ったら変な目で見られそーだけど、レラちゃんのためだ。それにオレ達DCだし、ギリセーフ!
近場の山に向かい中。近場っていっても電車乗り継いで一時間半くらいかかる。
乗り継ぎのターミナル駅についた瞬間、思わず「うげっ」って言っちゃったけど、許して。だってもうめちゃくちゃすぎる。なにこれ、視界が真っ黒なんだけど!?
『鬱陶しい』
ハクジはそう言うと、次の瞬間身体からカッと光を放った。バリバリバリという軽めの雷のような音も。そして視界から黒いものが減った。ここで大事なのが、減っただけで完全に消えないところ。黒いものがすぐにあちこちから湧いてくる。
『進みながら消して行く。キリがない』
「あー、うん。その前に食料調達させてくれると嬉しいなー」
ピクニックということでお弁当作ってきたけど、下手なりに。ハクジがこのペースで力を使い続けると、山に到達する前にオレが空腹でダウンしそう。
「はい、これ」
昴がチョコパイをくれた。
「え、いいの?」
「こうなるだろうと分かってたからお菓子やら煎餅を大量に持ってきたよ」
なんだと、昴、凄すぎる。
っていうかオレ、見えるようになってから出歩かなさすぎて、自分が置かれた現状分かってなさすぎた。
「あ、おにぎりやだ。買ってくる」
買いに行こうとしたら昴にぽんと肩を叩かれた。
「おにぎりもあるよ」
昴、どれだけ備えてくれたんだ……。やたらデカいの背負ってるなとは思った。
「さすがにここらへんのは強すぎてレラが相手にするのは難しいからね、ハクジに対応してもらうことになるのは分かってたし」
そうなるとオレの霊力が消費されて、腹が減ることも見越していたってことですか……。うー、ビビりすぎて引きこもっていたオレが悪かったです……。
「まぁまぁ、凹むのは後にして進もっか」
食べながら歩くという、お行儀の悪いことをしながら進む。あー、カロリーって偉大だな。ハクジがガンガン雷落として浄化してるのに、オレの空腹が抑えられてるし。つまりそんだけカロリーがあるってことだよなぁ……こわっ! これオレ大丈夫かな、肥満にならない? ならなくても虫歯になるんじゃ!?
『ハクジさま、キラキラ、きれーい』
昴の胸ポケットに収まってるレラちゃんが拍手して喜んでる。可愛い。喜んでくれて嬉しいけど、オレは別のことが心配だ。虫歯とか肥満とか……。結婚も遠ざかりそう。
運動、しよっかな。体力と霊力、比例したりしないかなぁ?
……疲れた。長時間立ちっぱなしで疲れた、のは少しだけ。とにかく何処に行っても出てくるアイツら。うんざりするけどそれも致し方ないとして、ハクジが力使いまくりでオレはずっと食べ続けてる。
少し離れたところから、あの人食べすぎじゃない? って声が聞こえてきたけど、君の肩に乗っかってた奴をハクジが消し炭にしてくれたので感謝してほしい、ハクジに。
オレはただの食いしん坊でいいです。オレは襲われてるだけのハクジの電池だから。てかハクジ疲れないのかよ……。
『レラ、ハクジさまみたいになりたい!』
「頑張るのはいいけど、あそこまでならなくていいんだよ?」
昴、おまえも電池になろうよ。
「やっと着いたーっ!」
思わず声に出して言いたくもなるってもの。ハクジ、今日だけで一体どんだけ浄化したんだろう。そしてオレの身体大丈夫かな……。
それにしても、駅だけじゃなく電車の中にもわんさかいるんだな……。ハクジに消し炭にされていった中にかなりの大物がいたんだけど、ここのところ凄いのに出会してたのもあって、コイツもデカいなぐらいにしか思わない自分が怖い。慣れ、恐ろしい。
ちなみにさっき見た最大の奴はミリタリーナイフをぶんぶん振り回してた。ナイフに切り付けられた人は外傷はないんだけど、誰かと一緒にいる人は頭が痛いとか気持ち悪いとか、何かしらの体調不良を口にしてた。一人の人は言葉に出さないものの何となく体調を崩してるように見えた。危険すぎるのでハクジにお願いして退治してもらった。一分もかからずに滅殺してて、ハクジの強さ再確認っていうか、神だったわ。
「この路線の人達、ハクジと悠里のお陰で助かった人多かったんじゃないかな。さっきの大きい奴以外にもちょっと目付きのヤバい人が結構いたけど、ハクジに浄化されてたから」
なにそれこっわ!!
「ぶつかりオジサンとかって結構な確率で肩に乗っけてるんだよね」
「え、そうなの?」
食べるのに必死でそこまで観察する余裕がなかった。
「浄化されないままのオッサンってどうなんのかな」
「知りたい?」
「えっ」
意味深!
いつものオレなら「聞かない」と答えるところなんだけど、これまで逃げまくってたからちょっと向き合ってみようと、思う。嫌だけど。
「融合し始める」
「融合!?」
生きてる人間と悪霊が!?
「その先にどうなってくのかまでは知らないけど、良い結果にはならないと思うよ」
「それって、取り憑かれた場合どうすればいいんだ?」
『己の心の弱さに向き合わぬ人間は取り憑かれやすい』
己の心の弱さ?
「現実逃避や他責思考ってこと?」
『そうだ。己が力でどうにもならぬことは往々にしてあるものだ。それに耐えるのは辛かろうが、耐えきれずに他者に悪意を向ければ魂が穢れ、悪しき霊の侵食に耐えられなくなる』
……現実逃避しまくってた身としては耳の痛い話……。
「完全に融合するとどうなるの?」
『人が勝ればその身のまま妖となる。まぁそれ程の胆力を持つ者は多くないのでな、大概は魂が穢れ、地獄行きか悪霊と成り果てるか』
「えぇ……」
皆が皆、心が強いわけじゃないと思うんだけど。
「悪霊に憑かれないようにするにはどうすれば良いんだ?」
それだと皆、取り憑かれそうなんだけど。
『簡単なことだ。己ではどうにもならぬことがある場合には無理せず離れることだ。努力でどうにもならぬことは世の中にごまんとある。今も昔も人間は己が機嫌を人にとらせようとする者が多い。他者は己のために存在するのではないという当たり前のことすら分からぬから魂が穢れやすいのだ』
「それはそうだろうけどさぁ、皆、そんなに強くなれないと思うぞ?」
ハクジはオレの顔をじっと見る。え、なに?
『姿形が変わろうとも、そなたはお人好しだと思ってな』
それは前世のオレが同じことを言ってたってことかな。
「大丈夫、ディスられてはいないから」
昴にぽんと肩を叩かれた。
褒め言葉でもないと思うぞ?




