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座敷童子

不定期連載ばかり増やして申し訳ありません。

思いついた話を完結するまで、とためておくと全くアップできなくなるので、アップさせていただければと…。

 いつも飄々としてるご主人が近頃ため息を吐く。

 

『ご主人、だいじょぶ?』


 ご主人の頬にぺたりと触ると、ご主人は私に頬擦りしてきた。とっても珍しい。悠里くんにされると、本当に小動物好きなんだなぁ、って思うぐらいだけど、ご主人にされるとなんか嬉しい。

 

「心配かけてごめんね、レラ」

『何か、あった?』

「あったっていうか、くる」

『くる?』


 なんのことだかさっぱり分からない。

 ご主人だけでなく、悠里くんも青い顔をしてる。ため息も吐く。

 

「ああああああ、来週にならないでくれー」

『ハクジさま』

『あぁ、二人が消沈するのもやむを得んのだ』

 

 この口ぶりからして、ハクジさまは知ってるみたい。

 

『我もアレは鬱陶しい』

 

 ご主人→くる

 悠里くん→来週

 ハクジさま→アレは鬱陶しい

 

 来週、皆にとって凄く鬱陶しい存在が来ちゃう、ということかな。いつも冷静なハクジ様とご主人がこうなんだから、よっぽどなんだろうなぁ。







 おー、コレはアレですね。


「悠里も昴も、久しぶりにあった幼馴染みに会えたのに感動薄くない?」

 

 ツインテールにセーラー服。色白でまつ毛バチバチ。中学生から化粧してて許されるのかー。前世の記憶も朧だけど、自分の時は普通じゃなかったのだけは覚えてる。

 

『ご主人』

「あぁ、うん、レラの思ってるとおりだよ」

『男の娘?』

 

 ツカツカとやってきたツインテール男の娘は私のおでこを撫でた。

 

「可愛いわね」

「可愛いは同意」

 

 見えるし触れるのか。

 

 ご主人におでこを撫で撫でされ、アーモンド入りチョコをもらって食べていたら、ルカという名のツインテール男の娘にジロジロと見られた。

 

「でも管狐でしょう?」

 

 管狐は確かに弱いけど、ちっこいオジとは毎日戦ってるので、ちょっと強くなった!

 

「オレはただの人間なんだからいいの」

「もっと志高く持ちなさいよー」

『こころざし』

 

 確かに高いほうがいいとは言われる。


「私のように!」

  

 ツインテールの男の娘はドヤ顔で言い切った。

 ここまで言うのだからよほど高い志を……。

 

「ルカのは無理だろ」

 

 そうそう、とご主人が頷く。ハクジさまは呆れ顔。

 

「無理じゃないわ! 私はなるのよ、人間に!」

『え?』

 

 つい反応してしまった。

 

「座敷童子が人間になれるわけないだろ」


 あれ?

 ツインテールちゃんは朝のHRで皆の前で挨拶していて、認識されていたような?

 

「なるったらなるの! もう座敷童子は飽きたの!」

 

 飽きるものなの?

 

 はぁ、と大きくため息を吐くと、ご主人がことのあらましを教えてくれた。

 

 ツインテールちゃんことルカちゃんは、本物の座敷童子なのだそう。でも今は座敷童子が住めるような家が減って、旅館ぐらいしかないらしい。

 旅館の人もいるけど、毎回毎回見知らぬ人間が出入りする、そんな毎日が嫌になったのだとか。人間のように帰る場所がほしい、そう思ってしまったと。

 なるほど、確かにそれはなんとなく孤独かも、と思いはするものの、でもだからって人間になるはない。そしてなぜ男の娘なのだろ?

 

『護法童子が情けない』

 

 ごほうどうじ、とハクジさまがルカちゃんを見て言う。座敷童子の別名だろうか?

 

『座敷童子と言うと人間は金霊かなだまを連想するようだが、正体が野猿の妖であることもあるし、こやつのように護法童子なこともある。まぁ、護法童子であることは稀だ』

『ごほーどーじ』

『野猿は妖、金霊は精霊、護法童子は神霊だ』

『ルカちゃんすごかった!』

 

 そうよー、とドヤるルカちゃん。でもその護法童子を辞めようとしてるんだよね?

 

『神格を持ちながら人間になりたいなどと、戯け者めが』

「うるさいわねー、アンタに私の気持ちなんか分かるわけないでしょ」


 神さまも色々あるんだなってことは分かったよ。

 

『でもなんで男の娘?』

「可愛いから!!」







 ルカちゃんは意地悪なことも言わないし、しないし、ツンデレでもないし、問題ないと思うんだけど、悠里くんやご主人は困るみたい。ハクジさまは別の理由で困ってるというか、呆れてるように見える。

 

『ご主人、ルカちゃん苦手?』

「苦手っていうか、困るんだよね」

『困る?』

「ルカは顔立ちが整ってるから、誤解されるんだよ」

 

 なるほど! ご主人の青春が危うい!

 

『ご主人の青春、守る』

「そういった前世の知識は覚えてるんだ?」

 

 苦笑して、ご主人は私を撫でる。あったかくて、優しくて、気持ち良い。

 

「それはそうと、夕飯作ろうか」

『手伝う』

 

 ちゃんとご主人と同じように手を洗って、できることを手伝う。たまねぎの皮剥きとか、レタスちぎるとか、テーブルの上を拭くのはできる。包丁は飯綱用のがないからできない。炒めるのもできないから、できることは本当にちょっとだけ、お手伝いレベル。でもご主人楽しそうだし、私も楽しい。

 

「今日はエビチリ春巻きを作るよ」

『えびちり!』

 

 好き!

 

「美味しいよね」

 

 ご主人は優しいので、自分の分だけじゃなく、両親の分も作ってる。ご主人の両親は私のことが見えない。お兄さんはご主人と同じで見えるヒトなんだって。

 残業して疲れて帰って来たら息子の作った美味しいごはんがあるの、とっても幸せなことだと思う。

 

 ご主人は料理にこだわりがあるわけではないから、市販の中華合わせ調味料──つまりクックドゥを使う。前世の私もありがたく使わせてもらってたのを覚えてます。企業努力素晴らしい。

 

『春巻き、どうして?』

「食べやすいのと、ソースも無駄なく食べきれるから」

 

 前世で知りたかったー。

 

 私はエビの殻向きと、切れ目を入れてもらったら背わた取りを手伝う。その間にご主人はネギを刻む。終わったらご主人がビニール袋にエビと片栗粉を入れたのを、上から乗ったり押したりして、エビに片栗粉が満遍なく付くようにする。炒め作業はご主人がするので、その間にレタスをちぎったり。

 

「レラは料理が上手だね」

『前は嫌いだった。今ご主人一緒、楽しい』

「そうだね。オレもレラが来てから楽しい」

 

 飯綱になってから困るのは、手掴みで食べるしかないこと。ご主人や悠里くんは可愛いと喜ぶけど、手がベタベタになっちゃう。そんな私のためにご主人はウェットティッシュを持ち歩くようになった。

 手の構造的に箸は無理そうだし、フォークやスプーンも難しそう。

 

 出来上がったエビチリ春巻き。ご主人は私用に細いのを作ってくれた。優しい! 大好き! そして美味しい!

 飯綱の口は小さいから大きいものは食べづらいけど、身体のわりにたくさん食べられるし、動物だと食べられるものが限られるけど、飯綱だからなんでも食べられるのは嬉しい。

 

『美味しい!』

「美味しいねぇ」

 

 春巻き、出来立てだからパリパリだし、エビもぷりぷりだー! お米とも合うし、レタスもシャキシャキ。ご主人は最近人参ドレッシングにハマってる。

 美味しくって夢中になって食べてたら視線を感じた。ご主人かと思ったらアレが!

 飛びついてやっつけたら(弱い奴で良かった)、ご主人が手とか洗ってくれた。

 

『ご主人、ごはんなのにごめん』

「ううん、大丈夫だよ。ありがとう」

 

 気を取り直してごはん再開。せっかくの出来立てを邪魔するの、罪深い。

 ごはんを食べ終えて、ご主人は洗い物中。洗い物は全然手伝えないの。お皿のお片付けも。残念。

 

「レラ、無理してない?」

『無理?』

「そう、強くなろうと無理してないか、心配」

『無理してない。ご主人、霊力とか、大丈夫?』

「人によってはなくなるらしいんだけどね、オレは大丈夫みたい。それになくなったらレラとこうして過ごせなくなるから良かったよ」

 

 ハクジさまに確認して大丈夫なのは聞いてたけど、ご主人がどう思ってるかも大事。

 

「今はね、レラがいるから寂しくないし、料理もレラと一緒に作るから作業感ないし、毎日楽しいよ」

 

 そう言ってご主人が笑顔になった。

 なんで飯綱に生まれ変わっちゃったのかとか、さっぱり分からないけど、私の飯綱ライフは順調だし、楽しい!

 

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