第71章 「バッハとハサミの交響曲」
陽希と莉桜が次に飛ばされたのは、荘厳な大聖堂のような場所だった。壁には精緻な装飾が施され、天井のステンドグラスが色とりどりの光を差し込んでいる。
「うわぁ…なんだここ…?」
「すごい…まるでコンサートホールみたい。」
莉桜が感動しながら呟いた瞬間、どこからか壮大なオルガンの音が響き渡った。
ドォォォォォォン!!!!
「わあああ!? なんか始まったぞ!?」
陽希が慌てる中、一人の男性がオルガンの前で悠然と演奏を続けている。白いカツラに上品な服装、その顔には真剣な表情が浮かんでいた。
「もしかして……ヨハン・ゼバスティアン・バッハ?」
「おおおお!! ついに音楽の巨匠に出会ったぞ!!」
陽希は興奮しながら駆け寄った。
「バッハさん! 今日はあなたに素晴らしい商品をご提案しに来ました!」
バッハは演奏を止め、ゆっくりと振り向いた。
「……商売人か?」
「はい!! 本日のお品はこちら!!」
陽希は懐からハサミを取り出し、高らかに掲げた。
「音楽家には絶対に必要な特製ハサミです!!!」
バッハの表情が完全に固まった。
「……ハサミ?」
「そう!! これさえあれば、あなたの楽譜を好きな形にカットし、より自由な作曲が可能になります!!!」
「……いや、ハサミは使わないが?」
「えっ。」
「待ってくださいバッハさん!! あなた、作曲家ですよね!? ならばハサミは必要なはず!!」
陽希は必死に説得を続ける。
「なぜだ?」
「だって、楽譜って書き直したり、貼り付けたりしますよね!? だからハサミがあれば、楽譜を切り貼りしながら試行錯誤できるんですよ!!!」
バッハは腕を組み、しばし考え込んだ。
「確かに、修正することはある……。」
「でしょう!? それにこのハサミは特別製!! 音楽的カットが可能なんです!!」
「音楽的カット?」
「そう! 例えば、楽譜を切るとその音が聞こえる! まるで音楽を奏でるような気分でカットできるんです!!」
「……ほう。」
バッハは少し興味を示し、ハサミを受け取った。そして、試しに楽譜の端をカットしてみる——
チョキッ
♪ファーーーーーン♪
「えっ?」
「えっ?」
「……今、音が鳴った?」
「うおおおおお!? まさか本当に音が出るとは!!?」
陽希ですら驚いている。どうやら、ハサミが謎の機能を持っていたらしい。
「これは……面白い。」
バッハの目がキラリと光る。
「おお!? いい感じか!?」
「これを使えば、新しい音楽のインスピレーションが湧くかもしれない……!!」
「ですよね!! じゃあ買いますよね!?」
しかし、次の瞬間——
バキッ!!!
「え?」
バッハの手元で、ハサミが突然爆発的に震えだした。
♪バリバリバリバリバリバリバリィィィィン!!!!♪
「ぎゃあああ!? なにこれ!!?」
「な、なんだこれは!!?」
ハサミが勝手に楽譜を切り刻み、その度に爆音が鳴り響く。
「陽希! これ、ヤバい!!!」
「ちょ、ちょっと待って!? こんな機能あるなんて聞いてないぞ!!?」
「どういうことだ!?」
「俺が聞きたい!!」
バッハは慌ててハサミを止めようとするが、すでに暴走モードに突入。
バリバリバリバリバリィィィン!!!
楽譜は無残にも細かく裁断され、教会中に音楽のカオスが広がる。
「こ、これは……悪魔のハサミか!!?」
「違う違う違う!!! たぶん、ハサミのリズムと楽譜の波長が合っちゃったんですよ!!!」
「つまり……どうすれば?」
「楽譜を元に戻すしかない!!」
「はぁぁぁ!??」
陽希と莉桜は必死で裁断された楽譜を元に戻そうとする。しかし、バッハは突然、真剣な顔で叫んだ。
「待て!!! これは新たな発想のチャンスかもしれん!!」
「えっ?」
バッハは細切れになった楽譜をじっと見つめる。
「……断片的なメロディが、まるで即興のように並んでいる……!! これはまさに、新たな音楽の可能性!!!」
「えぇぇぇ!? なんかプラスに捉えてる!!?」
「これを活かせば、ハサミで作曲という新たなジャンルが生まれる!!!」
「そ、そうなんですか!?」
「うむ!!」
バッハは興奮気味にハサミを握り、今度は意図的に楽譜をカットし始める。
「バリバリバリバリ!!」
♪ジャジャジャーン♪
「おお!!!」
「な、なんか……形になってる!!?」
「これは革命だ!!」
「マジかよ……!?」
結局、陽希はハサミを正式に納品することになったが、その後、バッハが「ハサミ作曲法」を提唱し、音楽界に衝撃を与えたとか、与えなかったとか——。
こうして、また一つ、歴史に謎の商品が刻まれたのだった。
第71章 「バッハとハサミの交響曲」 終




