第65章 マリ・キュリーとニューロン
陽希と莉桜が降り立ったのは、19世紀末のフランス・パリだった。
街にはレンガ造りの建物が並び、道を歩く紳士淑女たちが馬車の行き交う大通りを優雅に歩いている。
「おおおお!!! これが19世紀末のパリか!!」
陽希は興奮しながら街並みを見渡した。
「そして今回の相手はマリ・キュリーですね」
莉桜が手元の記録を見ながら言う。
「えぇぇ!? あのラジウム発見の!??」
「はい。女性科学者として初めてノーベル賞を受賞し、放射線研究の第一人者になった方です。とても真面目で努力家、研究に没頭するあまり周りが見えなくなることもあります。」
「うわぁ……またしてもクセが強そうな相手だな……」
陽希はため息をつきながら、鞄の中を確認した。
「で、今回売るのは……ニューロン!?」
「……え?」
莉桜も目を丸くする。
「いやいやいや!!! なんで19世紀の科学者に“ニューロン”を売るんだよ!!!」
「そもそも、ニューロンって……神経細胞ですよね!? どうやって売るんですか!?」
「知らねぇぇぇぇぇ!!! 俺も分からん!!!」
陽希は頭を抱えながら、マリ・キュリーの研究室へと向かった――。
天才科学者との対面、しかしまさかの……!?
研究所の扉をノックすると、中から何やら激しい物音が聞こえてきた。
「くっ……また実験失敗か……!!」
(うわぁぁ……めちゃくちゃ悔しがってる声だ……!!!)
「失礼しまーす!! 商談に来た者ですが!!」
扉を開けると――
机の上には実験器具が山積みになり、中央では白衣を着た女性が難しい顔をして試験管を眺めていた。
マリ・キュリー――放射線研究の先駆者。
小柄ながらも鋭い眼光、知的な雰囲気をまといながらも、めちゃくちゃ寝不足な顔をしている。
(お、おおおお……これがマリ・キュリーか……想像以上に忙しそうだぞ!?)
マリは目の前の試験管を振りながら、ぼそっと言った。
「君は……誰?」
陽希は慌てて一礼した。
「私は陽希!! 旅の商人です!! マリ・キュリー先生に、特別な商品をお届けに参りました!!」
「……商人?」
マリは怪訝そうな顔をする。
「私は今、研究で忙しい!! 無駄な時間を割く気はない!!!」
(い、いきなり拒絶されたぁぁぁ!!!)
莉桜が小声で囁く。
「陽希さん、キュリー夫人はとにかく研究に没頭しすぎて、食事や睡眠を忘れることがある人ですよ……!」
(まじかよぉぉぉ!!! こんな人に“ニューロン”を売れってどういうことぉぉぉ!!!)
陽希は気を取り直して、売り込みを開始する。
「ですが!! こちらの“ニューロン”は、キュリー先生にとって必ず役に立つものです!!!」
マリは眉をひそめる。
「……にゅーろん? 何だ、それは?」
(そりゃそうだ!!! 19世紀にニューロンの概念はまだ広まってねぇぇぇ!!!)
陽希は必死に説明を試みる。
「これはですね!! 人間の脳を司る、最も重要な細胞なのです!! これが活発に動けば、思考力が向上し、研究がより効率的になります!!」
マリ:「……くだらん」
(ぎゃあああああ!!! 即却下されたぁぁぁ!!!)
マリは冷めた目で陽希を見つめる。
「私は今、放射線の研究をしている。そんな神経細胞に興味はない!!」
(ぐぬぬぬぬ!!! 完全に論破されてる!!!)
マリはさらに続ける。
「それに、私は“思考力”ならば既に鍛えられている!! 研究に必要なのは、神経細胞ではなく、新たな発見と証明だ!!」
(な、なるほど……!!! って、それじゃあ俺の商品が売れねぇぇぇ!!!)
莉桜が耳元で囁く。
「陽希さん……これはかなり手強いですね」
(分かってるよぉぉぉ!!!)
陽希は必死に考えた。
(このままじゃ絶対売れない……何か、何か突破口は……!!)
すると――
ゴォォォォォォン!!!
突然、外で大きな鐘の音が鳴り響いた。
「……?」
マリが顔を上げた瞬間――
バシャァァァァン!!!!
実験机の上のフラスコがひっくり返り、謎の化学反応が起き始めた!!!
陽希:「(な、なんだ!?)」
莉桜:「えええ!? なんかヤバそうな煙が!!?」
マリ:「くっ……!! 反応が止まらない!!」
シュゴゴゴゴゴ……!!
突如として、室内に謎のガスが充満し始める。
(やばいやばいやばい!!! これ絶対吸っちゃダメなやつ!!!)
マリは慌てて煙をかき分けながら叫ぶ。
「くっ……このままでは研究所が……!!!」
(どうする!? どうするぅぅぅ!?)
陽希は咄嗟にバッグの中から巻物を取り出し、必死に仰ぎ始めた。
「ニューロンパワーでぇぇぇ!!! 煙を吹き飛ばすぅぅぅ!!!?」
(いや、絶対関係ないだろこれ!!!)
莉桜:「陽希さん!? それどういう理屈なんですか!!?」
陽希:「分からん!!! でも何とかしないとぉぉぉ!!!」
こうして、陽希の“ニューロン(風を送るだけの紙)”作戦が決行された――!!!
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シュゴゴゴゴゴ……!!!
研究室内に充満する謎のガス。
陽希は必死に巻物を扇ぎ、なんとか換気を試みる。
(くそぉぉぉ!!! ただの紙なのに、これが俺の売り物ってどういうことだよ!!!)
莉桜:「陽希さん、もっと頑張ってください!! 先生も巻き込まれそうです!!!」
マリ:「くっ……! こんな実験で失敗するなんて!!」
しかし、煙はなかなか晴れない。
そのとき――
ガシャアァァン!!!!
突然、実験器具が崩れ落ち、棚に置かれていた試験管が次々と転がり落ちる!!!
陽希:「わああああ!!! これ絶対ヤバいやつだぁぁぁ!!!」
マリ:「待て! その中には貴重な放射性物質が!!!」
(うおおおお!!! そんなの落ちたら大惨事だろぉぉぉ!!!)
陽希はすかさず飛び込み、両手を広げて受け止める。
カシャッ!!
(セーフ!!!)
陽希は必死に試験管を抱えながら息をつく。
「ふ、ふぅ……なんとかキャッチ……」
しかし――
「……あれ?」
陽希の手元を見ると、試験管がほんのりと発光していた。
陽希:「えっ……これ、まさか……!!!」
莉桜:「陽希さん!!! それ、めっちゃ危険なやつです!!!」
マリ:「おぉぉぉ!!! それはラジウムの試薬ではないか!!」
(ぎゃぁぁぁぁ!!! 俺、今めちゃくちゃヤバいもん掴んでるぅぅぅ!!!!)
マリ:「それは放射線を発する貴重な物質だ!! まさかここでお目にかかれるとは……!!!」
陽希:「ええええ!? ってことは、俺、今歴史的発見を抱えてるってこと!?」
マリは興奮しながら陽希の手元を覗き込む。
「この発光こそが、私が求めていたもの……!! すぐにデータを記録しなければ!!」
(うおおお!!! なんか知らんが、俺の手の中で歴史が動いてるぅぅぅ!!!)
マリは急いで実験ノートを開き、記録を始めた。
「陽希!! そのままじっとしていろ!!!」
「えぇぇぇぇ!? そんな無茶な!!!?」
まさかの“ニューロン”売り込みチャンス!?
陽希は震えながら試験管を持っていたが、ふと気づく。
(待てよ……これ、俺の売り物と関係あるんじゃね?)
「マリ先生!! これこそ、ニューロンの働きと似ていると思いませんか!!?」
マリ:「……??」
「ほら、ニューロンは脳の情報を伝える細胞です!! そして、このラジウムの放射線も、ある意味でエネルギーを伝えている!!!」
マリ:「……なるほど!?」
(えっ!? マジで納得してくれた!?)
陽希は勢いに乗って続ける。
「つまり、ニューロンは人間の思考を司るものであり、ラジウムのようにエネルギーを放って情報をつなげる役割を持っているんです!!!」
マリ:「……!!!」
マリは目を輝かせながら陽希を見つめた。
「おぬし、なかなか面白いことを言うな……!!」
(よっしゃぁぁぁぁ!!!)
マリはさらに考え込みながら、陽希の「ニューロン巻物」を手に取った。
「この“ニューロン”とやら……研究に役立つかもしれないな……」
(うおおおお!!! まさかの購入フラグ!?)
マリは頷き、陽希に向かってこう言った。
「よし、その“ニューロン”とやらを買おう!!」
(きたぁぁぁぁ!!!!)
まさかの科学革命の一部に……?
こうして陽希は、「ニューロン」という謎の概念をマリ・キュリーに売ることに成功した。
(でも、マリ先生って……このあと本当に放射線を発見するんだよな……?)
莉桜:「陽希さん、もしかしたら……あなたが売った“ニューロン”が、未来の科学研究に影響を与えたかもしれませんよ!?」
陽希:「えぇぇぇぇ!? 俺の適当なトークが、歴史を動かしたかもしれないの!??」
マリは満足そうに微笑み、陽希に向かってこう言った。
「科学の発展には、時に突飛な発想が必要なのかもしれないな」
(やっべぇぇぇ!!! 俺、マジで歴史に爪痕残しちまったかもぉぉぉ!!!!)
こうして陽希は、またしても歴史の偉人に奇妙な発想を植え付けながら、次の交渉へと向かうのだった――。
第65章 マリ・キュリーとニューロン 終




