第49章 ライト兄弟とトラベルポーチ
陽希と莉桜が降り立ったのは、20世紀初頭のアメリカ、ノースカロライナ州キティホークだった。
広大な草原の向こうに砂丘が広がり、風が強く吹き抜ける。
遠くには、何やら木と布で作られた飛行機のようなものが、試験場に置かれていた。
「……ここがライト兄弟の時代か」
陽希は、強風に煽られながら、周囲の様子を確認した。
「ええ、そして今回の相手はオーヴィル&ウィルバー・ライトですね」
莉桜が地図を確認しながら言う。
「ライト兄弟って、あの飛行機を発明した?」
「はい。人類初の動力飛行に成功した二人です」
「……うわぁ、またとんでもない相手だな」
陽希はため息をつきながら、鞄の中を確認した。
「で、今回売るのは……トラベルポーチ!?」
「……旅行用の小物入れですね?」
莉桜も困惑している。
「いやいやいや!! なんで航空の父たちに“トラベルポーチ”なんだよ!!」
「彼らは実験のために移動が多かったそうですが……」
「それをどう納得させるかが問題だな……」
陽希は頭を抱えながら、ライト兄弟のいる場所へ向かった。
飛行実験場へ
情報を集めると、ライト兄弟は現在飛行実験の準備中で、誰にも話しかけられない状態とのことだった。
「ライト兄弟に会いたい? それは難しいぞ」
「彼らは今、世界初の動力飛行の実験を控えていて、話を聞く余裕などない」
「商人の話なんて、絶対に相手にされないぞ」
(また“会うのが大変なパターン”か!)
陽希はげんなりしながらも、実験場へと向かった。
そこでは、風に揺れる飛行機の帆布を押さえながら、ライト兄弟が作業をしているのが見えた。
(おぉぉ……まさに人類の歴史が動く瞬間って感じだな……!)
しかし、彼らは真剣な表情で機体を調整しており、とても話しかけられる雰囲気ではない。
その時――
ゴォォォォォォ!!!
突風が吹き荒れ、機体の一部が大きく揺れた。
「ウィルバー!! ロープが絡まった!!」
「くそっ!! すぐに直さないと!!」
陽希は、とっさに鞄の中にある何かを使えないか考えた。
(……待てよ!?)
陽希はライト兄弟のもとへ駆け寄り――
「これを使ってください!!」
と、トラベルポーチの中に入っていた丈夫な紐を差し出した!
ウィルバーが驚きながらも、それを受け取り、即座にロープの修復にかかった。
オーヴィルが陽希を見つめながら、興味を示した。
「君は……?」
「私は商人の陽希! 実はあなた方にお売りしたいものがありまして!」
(さて、ここからどうやってトラベルポーチを売るか……!)
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陽希がトラベルポーチの紐を渡し、ウィルバーが機体のロープを修復している間、オーヴィルが陽希をじっと見つめていた。
「君、なかなか気が利くな。ところで、何を売りたいと言っていた?」
(よし、チャンスだ!)
陽希は、満を持してトラベルポーチを取り出し――
ビュオオオオオオッ!!!
突風が吹き荒れた。
「えっ!?」
陽希が掲げた瞬間、トラベルポーチが強風に煽られ、あっという間に空へと舞い上がった!!
「うわああああ!!?」
「おい、飛んでいったぞ!!」
「待て待て待て待てぇぇぇ!!!」
陽希は慌ててポーチを追いかけるも、ポーチはライト兄弟の飛行機の帆布に絡まり、そのまま機体の上に乗っかってしまった!
オーヴィル:「……なるほど、飛行テストの一部か?」
ウィルバー:「いや、どう見てもただのポーチだろ」
莉桜:「陽希さん、どうするんですか!?」
(やべぇぇぇぇ!! このままだとポーチが人類初の飛行機とともに飛んでいっちまう!!)
陽希は即座に決断した。
「ウィルバーさん! オーヴィルさん!! すみません、そのポーチを回収しないといけないんですが……」
「いや、もうすぐ試験飛行の時間だぞ?」
「でも、あれがそのまま乗っていたらバランスが崩れる可能性があるのでは!?」
ウィルバーとオーヴィルは顔を見合わせた。
「……確かに、風の抵抗で影響を受けるかもしれないな」
「君、飛行機に乗って取ってくれるか?」
「えっ!? 俺が!??」
陽希の目が点になった。
(いやいやいや!! そんな軽いノリで俺を人類初の飛行機に乗せるなぁぁぁ!!)
しかし、選択肢はなかった。
「分かりました!! 俺が行きます!!」
(こうなったら、飛ぶしかない!!)
陽希、まさかの人類初の動力飛行に巻き込まれる――!!
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「おい、本当に乗るのか? これはまだテスト段階の飛行機だぞ?」
ウィルバーが慎重な口調で確認してくる。
「でも、あのままポーチが飛んでいったら回収できませんよね?」
「まぁ……そうだが、君、飛行機に乗ったことは?」
「……ないですけど!」
(というか、この時代の人間で飛行機に乗ったことがあるやつなんていないだろ!!)
「仕方ない、時間がないぞ」
オーヴィルが陽希の背中を押し、手早く機体の中へと誘導した。
「ここに座れ。しっかり掴まってろ!」
(え、まじで!? こんなノリで飛ぶの!?)
陽希は座席らしき場所に身を沈め、ロープをしっかり握る。
ウィルバーがプロペラを回し始めた。
「準備はいいか!?」
オーヴィル:「風は良し!」
ウィルバー:「エンジン、始動!!」
ゴオオオオオオ!!!
機体が震え、陽希の体に衝撃が走る。
「うわぁぁぁぁ!!?」
飛行機は砂地を滑るように進み――
ふわっ……!!
「……飛んだ!? 飛んだぁぁぁ!!?」
陽希の頭上に、青い空が広がる。
初めての浮遊感、そして強烈な風圧。
(やべぇぇぇぇ!! これが世界初の動力飛行かぁぁぁぁ!!)
しかし――
「……あれ? ポーチ、どこ行った?」
陽希は飛行機の帆布の上を見回す。
「まさか……」
次の瞬間――
ポーチが風を受けて、さらに遠くへ飛んでいった!!
「おぉぉぉぉぉぉい!!! どこまで飛ぶんだよぉぉぉ!!?」
ウィルバー:「……トラベルポーチ、確かに“旅する”ポーチだな」
オーヴィル:「いや、感心してる場合じゃないだろ!」
陽希:「どうするんですかぁぁぁぁ!?」
トラベルポーチ、歴史的な飛行機とともに空を舞い、どこかへ消える――!!
(こうなったら、あれを取り戻すしかない!!)
陽希は再び意を決し、空飛ぶポーチを追いかけることを決意した――!!
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「やばい、ポーチが飛んでいく!!」
陽希は、飛行機の振動に耐えながら、風に流されるトラベルポーチを必死に目で追った。
ポーチはぐんぐんと上昇し、まるで生き物のように風に乗って舞い上がっていく。
「これ、もう無理なんじゃないか?」
ウィルバーが冷静に言う。
「いやいやいや! あれを取らないと俺の商談が成立しないんですよ!!」
「でも、空を飛んでるんだぞ?」
「飛んでるからって諦められるかぁぁぁ!!!」
陽希は、咄嗟に周囲を見回し、何か策がないか探した。
すると、機体の後方にあったワイヤーのようなものが目に入る。
(……これ、飛行機のバランスを取るためのロープじゃないか!?)
「俺、あれを使います!!」
「何をするつもりだ?」
「飛んでるポーチを、こっちに引き寄せます!!」
ウィルバーとオーヴィルは目を丸くした。
「……君、それ、できるのか?」
「やるしかないでしょ!!!」
空中キャッチ作戦!
陽希は、ワイヤーをしっかりと握りしめ、機体の上へと慎重に立ち上がった。
強風が吹き荒れ、全身を煽る。
(やべぇ、めちゃくちゃ怖い!! でも、ポーチを取り戻すんだ!!)
莉桜が地上で必死に叫ぶ。
「陽希さん!! 気をつけてください!!」
「俺だって落ちたくないわ!!!」
ポーチは、機体の横をフワフワと漂っていた。
(もう少し……あと少し……!)
陽希は慎重にワイヤーを投げ――
ヒュンッ!!
「……っしゃあああ!! 捕まえた!!」
ワイヤーの先端がポーチのストラップに引っかかった!!
オーヴィル:「すごい、あんな状況で……!」
ウィルバー:「でも、問題はここからだぞ!!」
「えっ?」
次の瞬間――
突風が吹いた!!
「うわぁぁぁぁ!!!」
陽希はバランスを崩し、飛行機の上で大きくよろめく!!
(まずい!! このままだと落ちる!!)
ポーチは取り戻したが……!?
ギリギリのところで陽希は踏みとどまり、何とか機体の中へと戻ることができた。
「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」
ポーチは無事に陽希の手の中にある。
オーヴィル:「……君、すごいな」
ウィルバー:「普通なら諦めるぞ?」
「いや、俺にとってこのポーチは、ただのポーチじゃないんで!!」
陽希は満面の笑みを浮かべ、ようやく一息ついた。
しかし――
「あっ!!」
ウィルバーが指を差した先を見て、陽希の顔が真っ青になった。
ポーチの中身が全部、空中に舞い上がっていく――!!!
「おぉぉぉぉぉぉい!!! なんでええええええ!!?」
まさかの事態に、陽希は再び絶叫するのだった――。
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「おぉぉぉぉぉい!! なんで中身が飛んでいくんだよぉぉぉ!!」
陽希の悲鳴が空にこだまする。
手元にポーチは戻ってきたが、中に入っていたものがすべて飛行機の周りを漂いながら散乱している!!
「やっべえええええ!!」
ウィルバー:「……まるで風に舞う紙飛行機みたいだな」
オーヴィル:「いや、感心してる場合じゃないぞ!!」
莉桜(地上):「陽希さん、何をやってるんですかぁぁ!!」
陽希は、風に流されるアイテムたちを目で追いながら、飛行機の上で必死に策を考えた。
(くそっ、ここで諦めるわけにはいかねぇ!! せっかく取り戻したポーチ、空っぽのままじゃ意味がない!!)
「ウィルバーさん、オーヴィルさん、あと一回だけ協力してください!!」
「……君、まさか?」
「はい!! 飛行中に落ちてくるアイテムを全部キャッチします!!」
ウィルバー:「……正気か?」
オーヴィル:「これは新たな飛行テストか?」
「いや、ただのポーチの中身回収です!!!」
空中キャッチ大作戦!!
飛行機が旋回を始める。
ウィルバーが慎重に操縦し、オーヴィルが横で陽希の動きを見守る。
陽希は、風に流されるアイテムたちに狙いを定め――
「……今だ!!」
バッ!!
最初のアイテム、懐中時計をキャッチ!!
「よっしゃ!!」
次に小型のメモ帳がゆっくり落ちてくる。
「絶対逃がさねぇ!!」
バシッ!!
「ナイスキャッチ!!」
オーヴィルも思わず興奮し始める。
「次だ!! あれは何だ!?」
陽希が目を向けると、最後のアイテム――ナイチンゲールからもらった看護の心得が、風に流されながら遠くへ飛ばされていこうとしていた。
「それだけはダメだ!!!」
陽希はとっさに飛行機の縁を掴み、身を乗り出して手を伸ばす!!
(届けぇぇぇぇぇぇ!!!)
バシィッ!!!
「……取った!!」
莉桜(地上):「やりましたね陽希さん!!」
オーヴィル:「すげぇ!!」
ウィルバー:「お前、本当に商人か?」
陽希は息を切らしながら、ポーチの中にすべてのアイテムを戻した。
「ふぅぅぅ……これでポーチの完全回収完了!!!」
交渉成立!? でも……
飛行機は無事に地上へと降りた。
陽希はヘトヘトになりながらも、ライト兄弟に向き直る。
「はぁ……はぁ……これが……俺が売りたいトラベルポーチです!!」
ウィルバーとオーヴィルは、まだ息を切らしている陽希を見つめながら、無言でポーチを手に取った。
オーヴィル:「……なんか、普通のポーチに見えるけど?」
ウィルバー:「いや、これは……“飛ぶポーチ”だ」
陽希:「そんな商品じゃないです!!」
二人は笑いながら、ポーチをじっくりと眺めた。
オーヴィル:「確かに、移動の多い俺たちには便利かもしれないな」
ウィルバー:「飛行機に乗る時、細かい道具をまとめるのにも使えそうだ」
「ってことは……!?」
二人は顔を見合わせ――
「買おう!!」
(やったあああああ!!!)
こうして、陽希はついにライト兄弟にトラベルポーチを売ることに成功した!!
しかし――
オーヴィル:「でも、このポーチにはひとつ欠点があるな」
「えっ?」
ウィルバー:「風に飛ばされやすい」
「それは俺のせいじゃないですよぉぉぉ!!!」
こうして、空飛ぶトラブルを乗り越えながらも、陽希は再び交渉を成功させたのだった――。
第49章 ライト兄弟とトラベルポーチ 終




