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偉人相手に商談!?陽希がんばります!  作者: 乾為天女


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第19章 ヒポクラテスとアイスキュロスと柔らかい殻

「次の相手は……ヒポクラテスとアイスキュロス?」

 陽希はモニターを眺めながら呟いた。

「ヒポクラテスは医学の父で、アイスキュロスは悲劇作家ですね」

 莉桜が解説する。

「いや……待てよ? なんで医学者と劇作家がセットなんだ?」

「さぁ……でも、今回売るのは“柔らかい殻”みたいですよ?」

「柔らかい殻!? なんだそれ!??」

 陽希の絶叫が響く中、二人は次なる時代へと飛び込んでいった――。

 陽希と莉桜が降り立ったのは、ギリシャの学問と芸術の中心地、コス島だった。

  白い大理石の神殿が並び、澄んだ青空の下、市場では賑やかな商人たちが行き交っている。

「……今まで訪れたギリシャの都市の中でも、ここは特に穏やかですね」

 莉桜が周囲を見渡しながら呟いた。

「まあ、戦場じゃないってだけで、俺の心も穏やかだよ」

 陽希は軽く伸びをしながら答えた。

「今回の相手は……医学の父、ヒポクラテスと、悲劇作家アイスキュロス……」

 陽希は改めて名前を口にしながら、少し眉をひそめた。

「でもさ、なんで医者と劇作家がセットなんだ? 何の共通点があるんだ?」

「それは……彼らが“人間の本質”を追求しているからかもしれませんね」

 莉桜は微笑みながら答えた。

「ヒポクラテスは病を通じて人間の体を理解し、アイスキュロスは悲劇を通じて人間の心を描いた。つまり、二人とも“人間を知る”ことに尽力した人なんです」

「……なるほど」

 陽希は腕を組みながら考えた。

(人間の体と心、か……)

(そんな二人に“柔らかい殻”を売らなきゃいけないんだけど……そもそも柔らかい殻って何だ!?)

 陽希は鞄を開き、中を覗いた。

「えーっと、これか?」

 彼が取り出したのは、何とも言えない見た目の物体だった。

 表面は柔らかく、しかし芯はしっかりしている。触るとフニフニと弾力があり、まるで厚めの卵の殻のようなものだった。

「……これ、何に使うんだ?」

「うーん……卵の殻にしては大きすぎますし、装飾品でもなさそうですね」

 莉桜も覗き込みながら首を傾げた。

「食べられるのかな?」

「いや、ちょっと待てよ。まずはこれを、どうやって“売り物”にするか考えないと……」

 陽希はため息をつきながら、ヒポクラテスとアイスキュロスを探しに街を歩き出した。


 医学と悲劇の交差点

 二人が市場を抜け、少し奥へ進むと、広々とした庭園にたどり着いた。

 中央には薬草園が広がり、白衣を纏った学者たちが何やら研究に没頭している。

  その中でも、一人の男性が書物を広げながら、真剣な眼差しでメモを取っていた。

「……あの人が、ヒポクラテス?」

 陽希は慎重に近づき、声をかけた。

「すみません、あなたがヒポクラテス先生ですか?」

 男性は筆を止め、ゆっくりと顔を上げた。

「そうだ。お前たちは?」

「私は商人の陽希と申します! 先生にぜひ見ていただきたい品がありまして!」

 ヒポクラテスは陽希を一瞥すると、静かに言った。

「……商人か。お前は、この世界において、どのような“薬”を売るのだ?」

「え?」

「商人は、人の欲望を刺激し、必要のないものを売ることが多い。しかし、私は“人の病”を治す者だ」

「……なるほど」

 陽希は苦笑した。

(さっそく手厳しいな……)

「ですが、今回ご紹介する品は、医学にも関係があるかもしれません!」

 陽希はそう言いながら、鞄から柔らかい殻を取り出した。

 ヒポクラテスは、それをじっと見つめた。

「……これは?」

「これは、“柔らかい殻”です!」

「……だから、それは何だ?」

「えっと……その……」

(俺も、何なのか分かってないんだけど!?)

 その時――

「なんだなんだ? 面白そうな話をしているな!」

 朗々とした声が響き、庭園の奥から別の男が現れた。

 アイスキュロス――ギリシャ悲劇の巨匠。

 彼は劇場の演出家らしく、大仰な動作で手を広げ、陽希たちの前に立った。

「私はアイスキュロス! そしてお前は商人か!」

「は、はい……」

「その品、劇にも使えそうだな! だが、まずは“その本質”を語ってもらおう!」

(ちょっと待て、こっちも理屈っぽい人か!?)

 陽希は困惑しながら、再び柔らかい殻を見つめた。

(どうする……どう説明する!?)

「……この殻は、人間の本質を象徴するものです」

 陽希は、ふと口にした。

 ヒポクラテスとアイスキュロスが、じっと陽希を見つめる。

「人間の本質?」

「どういうことだ?」

 陽希は、深呼吸しながら説明を続けた。

「先生方は、“人間とは何か”を追求する方々です。ヒポクラテス先生は肉体を、アイスキュロス先生は心を探求されている」

 二人は静かに頷く。

「この殻は、まさに“人間そのもの”なんです!」

「……ふむ」

「外側はしっかりしているようで、実は柔らかい。でも、中には芯がある。これは、人間の“脆さ”と“強さ”を象徴しているんです!」

 アイスキュロスは、驚いたように目を見開いた。

「おお! まさに、悲劇の主人公のようではないか!!」

「……確かに、医学的にも、人間の体は脆いが、それでも生き延びる力を持つ」

 ヒポクラテスも興味を示し始めた。

 陽希はさらに続ける。

「先生方、これはただの殻ではありません。これは、“人間の本質を知るための教材”なんです!」

 アイスキュロスは、感動したように頷いた。

「素晴らしい! これを舞台の演出に取り入れるのも面白そうだ!」

 ヒポクラテスも、静かに微笑んだ。

「商人よ……お前は、なかなか興味深い発想を持つな」

「いえ、私はただの商人です。でも、どう売るかを考えるのが仕事なので!」

 ヒポクラテスは銀貨を取り出し、陽希に手渡した。

「では、その品を買おう」

「ありがとうございます!!」

 こうして、陽希は“柔らかい殻”を“人間の本質”として売ることに成功したのだった――。


 第19章 ヒポクラテスとアイスキュロスと柔らかい殻 終


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