第21章 ピタゴラスと手作りの木製の調味料ラック
「次は……ピタゴラス?」
「数学者ですね!」
「……俺、数学者に調味料ラック売るの?」
「がんばってください♪」
「おい!!!」
陽希の叫びが響く中、二人は次の時代へと向かっていった――。
陽希と莉桜が降り立ったのは、ギリシャの哲学と数学の聖地・クロトンだった。
周囲には荘厳な神殿や学堂が立ち並び、白い大理石の回廊が整然と並んでいる。
「……数学者の街って、なんか整然としてるな」
陽希は辺りを見回しながら呟いた。
「ピタゴラスといえば、“ピタゴラスの定理”で有名ですよね」
莉桜が微笑みながら言う。
「そうそう、三平方の定理……a² + b² = c² ってやつな」
「陽希さん、知ってるんですね!」
「そりゃあ、学生時代に嫌というほど習ったからな……」
陽希は苦笑しながら鞄を開き、中身を確認した。
「さて、今回売るのは……手作りの木製の調味料ラックか」
「数学者に調味料ラックを売るのって、なんだか難しそうですね……」
莉桜は首をかしげた。
「うーん……確かにな。でも、どんな相手でも、価値を見出すのが商人の仕事だ!」
陽希は気を引き締めながら、学堂へと向かった。
ピタゴラス学派との出会い
陽希と莉桜が学堂に足を踏み入れると、そこには静寂と厳格な空気が満ちていた。
白いローブをまとった学者たちが静かに議論を交わし、数学的な図形を描きながら思索を深めている。
(……なんか、他のギリシャの町と比べても、ここは異質な雰囲気だな)
陽希は周囲を警戒しながら、奥へと進んだ。
すると、中央の円形講堂には、一人の男が座していた。
ピタゴラス――数学と哲学を融合させた天才思想家。
彼は長い髭を湛え、静かな目で幾何学図形を描いていた。
周囲には弟子たちが控えめに座り、彼の言葉を待っている。
陽希は深呼吸し、一歩前に進み出た。
「ピタゴラス先生ですか?」
ピタゴラスは静かに目を上げた。
「客人か。何用だ?」
「私は商人の陽希と申します。本日、先生にご紹介したい品をお持ちしました!」
ピタゴラスは陽希をじっと見つめた。
「商人か……」
その一言に、弟子たちの間にわずかなざわめきが走った。
(……あれ? なんか、歓迎されてない感じ?)
陽希は、周囲の空気が少し張り詰めるのを感じた。
ピタゴラスはゆっくりと口を開いた。
「この学堂では、物質的なものは軽んじられる。ここでは“数”が世界の本質”なのだ」
(うわぁ……めちゃくちゃ理屈っぽい人だ)
「商人よ、お前の持ってきた品が、この学問に何の価値をもたらすというのだ?」
陽希は一瞬、言葉に詰まった。
(……いきなりめっちゃハードル高いぞ!?)
莉桜は、小声で囁いた。
「陽希さん、数学的な価値を見出せば、先生も納得するんじゃないでしょうか?」
(……なるほど!)
陽希は微笑み、堂々と調味料ラックを取り出した。
「では、先生! これをご覧ください!」
ピタゴラス:「…………」
弟子たち:「…………」
「……これは何だ?」
「これは、調味料ラックです!」
「……」
ピタゴラスは、じっと木製のラックを見つめた。
「商人よ、私は“数”を信奉する者だ。なぜこれが、我が学問に必要だと?」
陽希は、ゆっくりと調味料ラックを掲げた。
「先生! この調味料ラックこそ、まさに数学の精神を体現したものなのです!!」
ピタゴラスの目がわずかに動いた。
「……どういうことだ?」
(よし、食いついた!!)
陽希はすかさず、調味料ラックを示しながら説明を始めた。
「このラックは、完璧な“対称性”を持っています!」
「対称性……?」
「そうです! 先生の数学における基本概念、“調和”と同じです!」
ピタゴラスは、少し興味を持ったようにラックを眺めた。
陽希は続ける。
「例えば、ここに並ぶ仕切り! 均等に分割された空間は、まるで幾何学的な秩序を象徴しています!!」
「……ふむ」
「そして、調味料を配置することで、完璧な“数の秩序”が生まれる!」
ピタゴラスは、じっと考え込んだ。
「……確かに、調和と秩序は、我々の学問において最も重要な概念だ」
「でしょう!? つまり、この調味料ラックこそが、数学の理念を体現した最高の道具なのです!!!」
(……いや、完全にこじつけだけどな!!)
弟子たちも、ざわざわと話し始める。
「確かに、対称性がある……」
「これは、理想的な幾何学かもしれない!」
ピタゴラスは、静かにラックに手を伸ばした。
「……面白い」
「おお……!!」
陽希は心の中でガッツポーズをした。
「では、これを買おう」
ピタゴラスは銀貨を差し出し、陽希に手渡した。
「商人よ……お前は、単なる物売りではないな」
「いえ、私はただの商人です!」
陽希は銀貨を受け取りながら微笑んだ。
「しかし、数の力を理解しようとする者ならば、歓迎しよう」
「ありがとうございます!」
こうして、陽希は“数学の理念”を体現する調味料ラックをピタゴラスに売ることに成功したのだった――。
第21章 ピタゴラスと手作りの木製の調味料ラック 終




