第13話 ブラダマンテと鉄製の釘
「私がこれを何に使う」
「ですよね!」
ブラダマンテは、陽希の掌の鉄製の釘を見た。
隣では生産技術の柏木が静かに立っている。
店舗什器の補修用に大量購入した釘。
什器自体が別工法へ変わり、規格の合う釘だけ大量に残った。
営業企画の理由書は、
『鎧や城のある物語なら木工もあるだろう』
「今、本人を前にすると雑さがすごい!」
「釘自体は正常です」
「柏木さん、商品だけ守らないで!」
陽希は鎧にも馬具にも寄せなかった。
「失礼しました。ブラダマンテさんご本人向けは撤回します」
「早いな」
「無理に用途を生やさないことを学びました!」
◇ ◇ ◇
砦の中を歩く。
門番。
倉庫係。
補修担当。
「釘を使う場所、ありませんか!」
「商談相手を商品から探してる……」
柏木が呟く。
「順番が逆なんですよ!」
ようやく、木箱の留め直しをしている職人へ行き当たった。
「木へ打つ釘だろう?」
「はい!」
「なら使える」
「営業が一周して普通へ戻った!」
一本。
こん。
こん。
木箱が留まる。
「問題ないな」
柏木が確認する。
「寸法も、この用途なら問題ありません」
「ありがとうございます!」
職人は小箱一つ分を購入すると言った。
「売れた!」
陽希は気が緩んだ。
「では、分かりやすくもう一つ実演します!」
自分の見本箱を持ってくる。
「この蓋を閉じて――」
一本。
こん。
二本。
こん。
三本。
こん。
「はい! しっかり閉じました!」
柏木が箱を見る。
「佐野さん」
「はい?」
「予備の釘は?」
「箱の中です」
「商品資料は?」
「箱の中です」
「次の訪問資料は?」
「箱の中です」
「釘抜きは?」
「……箱の中です」
沈黙。
ブラダマンテが言った。
「よく閉じたな」
「自分の業務まで封印しました!」
職人が釘抜きを貸してくれた。
ぎっ。
「固い!」
修理係が一本受け取る。
「この程度なら使える」
「ありがとうございます!」
その横で陽希は、閉じた見本箱の蓋を両手で引いた。
開かない。
「……柏木さん」
「はい」
「開きません」
「釘で留めましたから」
「誰が?」
「佐野さんが」
「知ってます!」
釘抜きを探す。
ない。
柏木が箱を見る。
「中ですね」
「分かってます!」
修理係が自分の道具を差し出した。
「使うか」
「客から道具借りて自社商品の梱包を開ける営業って何!?」
一本抜く。
まだ開かない。
「三本打ちました」
「何で念入りなんだ、数分前の俺!」
修理係は、商品より陽希の箱を直す時間の方が長くなっていた。
修理係が買う分を数える横で、陽希はまだ自分の箱と格闘していた。
「一本抜けた!」
「あと二本です」
「柏木さん、実況しなくていい!」
二本目。
「開く?」
「まだです」
「何で三本も打ったんだ俺!」
修理係が笑う。
「丈夫にしたかったのだろう」
「売り物じゃなく自分の箱だけ強化しました!」
三本目。
蓋が開く。
中から釘抜き。
「いた!」
柏木が言う。
「最初から中にありました」
「分かってます!」
客先で商品の価値を示したのは一本の釘。
商品の必要性を一番痛感したのは、三本打った陽希本人だった。
柏木が箱を支える。
「釘は正常です」
「はい!」
「閉じた箱の選択が異常です」
「製品検査のついでに俺を不良判定しないで!」
小箱一つ分は無事成約。
陽希は売れた喜びより先に、自分の見本箱から三本の釘を抜き続けた。
「成功した営業が、最後に自分の梱包だけ元へ戻してるー!」




