8
2日後の月曜日。今日は出勤日だ。いつものように昭二は車で勤務先の中学校に向かう。いつもの日常だ。だが、何かが物足りないと感じる。今までそんな事はなかったのに。まさか、渚といる時間がいいと思っているんだろうか? こんな気持ちは感じたことがない。何だろう。自分にもわからない。
昭二は中学校にやって来た。中学校の校庭には、朝練習をしている中学生がいる。朝から元気だな。自分も負けないように元気を出さないと。
昭二は車から降りて、職員室の下駄箱に向かう。だが、いつもと様子が違う。どこか優しい。どうしたんだろう。昭二は気が付いていなかった。だが、周りにいる生徒や、教員は気づいている。いつもの昭二じゃないと。
「おはよう」
「おはよう」
昭二は気になった。いつもと表情が違う。何かあったんだろうか?
「どうしたんだ?」
「最近、中村先生、変わり始めたなって」
その教員は気が付いていた。昭二の様子が変わったと。怖くないし、話しかけても聞き入れようとしないのに。何かあったんだろうか?
「どうして?」
「なんか優しくなった」
昭二は少し照れた。照れるような表情も見た事がない。こんな昭二は初めて見る。
「そう、かな?」
「気づいてないの?」
だが、昭二はいつもと変わらないと思っている。ただ、渚と会っただけだが、こんなに変化があったのかな?
「うん」
「まぁいいか。直にわかるさ」
教員は思っていた。直にわかってくるから、これ以上は何も言わないようにしよう。
「うーん・・・」
昭二は考えていた。ひょっとして、渚に会った事で、自分は変わり始めたんだろうか? 誰かと話す事で、こんなに変わるんだろうか?
その夜の事。ある教員は夜の道を歩いていた。夜の道はとても静かだ。心が落ち着く。だが、誰かが襲い掛かってこないか不安だ。気を付けて歩かないと。
と、教員はある人を見つけた。昭二だ。まさか、ここにいるとは。でも、その隣にいる女は誰だろう。
「あの人、誰だろう」
「わからない」
隣にいた友人は首をかしげた。まさか、恋人だろうか? 交際しているんだろうか?
「まさか、恋人?」
「まさか。恋に全く興味がないんだよ」
2人は信じられなかった。昭二は恋に興味などなかったのに。どうしたんだろう。
と、教員は思った。最近、性格に変化が出たのは、あの女と付き合い始めたからだろうか?
「でも、最近おかしいでしょ?」
「そうだな。ひょっとしたら、あの人と付き合い始めて変わったのかな?」
友人も気づいた。確かにそうかもしれない。人と付き合う事で、人は変わる事ができると思う。昭二にもそれが現れているんだろう。
「そうかもしれない」
「なんだか気になるね」
「うん」
昭二と渚は昭二のアパートに入っていった。だが、2人がいる事に気が付いていない。入るのを見て、2人は去っていった。いつかこの2人が結婚するといいな。
昭二と渚は昭二のアパートに入った。最初は抵抗していたが、今ではすんなりと入れる。そう思うと、昭二は変わったなと思う。
「今日は十五夜だね」
そういえば今日は十五夜だ。今日は満月を見ながら、2人で過ごそうかな? 昭二はそう思っていたが、なかなか話せなかった。
「うん」
渚はベッドに座っている。一緒に入れて、とても嬉しいな。もっとそんな時間を増やせたらいいな。
「どうしたの?」
「一緒に月を見ようかなと思って」
昭二は勇気を出してやりたい事を話した。渚は受け入れてくれるんだろうか?
「いいよ」
昭二はほっとした。渚は受け入れたようだ。
「急にどうしたの?」
「いや、話したいと思ってね」
「ふーん」
話すだけでもいいじゃないか。一緒にいられる時間があるだけで、とても幸せなのだから。
「やっと自分を取り戻せたかなと思って」
「本当?」
「うん。あんな事があって、誰も信じられないと思っていたけど、君と出会っていろんな意味で変わったよ。ありがとう」
ようやく昭二は気づいた。渚と出会って、自分は変わり始めた。自分を見つめなおし、もっと自分を見つめて生きていこう。人にやさしく、自分に厳しく生きよう。
「これからも仲良くしようね」
2人は満月を見ている。とても美しい。今日の疲れが吹っ飛ぶようだ。
「月がきれいだね」
「うん」
ふと、昭二は思った。これからも一緒にいてくれるんだろうか? ならば、とても嬉しいな。
「なぁ渚ちゃん」
「どうしたの?」
渚は振り向いた。何か言いたい事があるんだろうか? ならば、素直に話してほしいな。
「一緒に、なってくれないか?」
渚は少し戸惑った。だが、迷いはない。あなたが好きなのだから。
「いいけど」
「ありがとう」
そして、2人で歩む道が始まった。昭二は初めて恋を知った。そして、昭二は元の昭二になった。恋って、こんな力があるんだろうか? 自分にはわからない。