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次の週末の休み、昭二は考えていた。あの女の子にまた会いたいな。そして、今度こそ真剣に話したいな。昭二はまったく気づいていないが、少しずつ自分が変わり始めていた。そして、今までの人生を見つめなおしたいと思っていた。自分は弱さを見せまいと思って、なんて破天荒な人生を送ってきたんだろう。もっと自分と向かい合わないと。昭二はだんだん、自分のじんせうぃお反省したいと思い始めていた。こんな気持ちになったのは、初めてだ。やり直したいと思っても、後戻りできない。これからでもいい。自分を見つめなおしてみよう。
突然、インターホンが鳴った。またあの女だろうか? よほど真剣なんだな。昭二は扉を開けた。そこにはあの女がいる。また来たようだ。
「ねぇ、昭二くん」
「どうした?」
「今夜、一緒に飲まない?」
昭二は少し戸惑ったが、すんなり受け入れた。いつも1人で飲んでいる。たまには誰かと飲むのもいいな。ぜひ、行きつけの居酒屋で飲みたいな。
「いいけど」
それを聞いて、渚はほっとした。断れないか心配だったが、誘いに乗ってくれた。
「突然ごめんね。一緒に飲みたいと思って」
だが、昭二は思った。どうして居酒屋に誘ったんだろうか? 2人で気ままに話したいんだろうか?
「いいよ。でも、どうして?」
「いろいろ話したいなと思って」
やはりそうだった。あの時は暴れていて、なかなか真剣に話す事ができなかったな。そんなに暴れなくなった今だからこそ、もっと2人でいろいろと話したいな。
「ふーん」
「ありがとう」
渚は部屋を後にした。昭二はその後姿を見ている。昭二は徐々に思っていた。この人となら、一緒になりたいな。
その夜、渚は約束の居酒屋で待っていた。今日は街を歩き回って、多少疲れた。だけど、いい気分転換に慣れた。そして、今日は昭二と飲み会だ。どんな話が飛び出すんだろう。わからないけど、楽しみだな。
「お待たせ」
渚はその声に反応した右に向いた。昭二だ。いつも通り、昭二はラフな服装をしている。
「よぉ!」
と、そこにはかつてのいじめグループがいる。昭二は少し戸惑った。まさか、渚が呼んだんだろうか? どうしてそんな奴らを呼ぶんだ。
「なんでお前らがいるんだよ!」
昭二は怒り、暴れようとした。だが、渚は昭二を抑えた。
「まぁまぁいいから」
「話そうよ」
村井は優しそうな表情だ。あのころとはまるで別人だ。とても優しそうに見える。それを見て、昭二は少し優しい表情になった。もう何もしないのなら、自分も何もやらないようにしよう。いつも通りに接すればいいだろう。
「い、いいよ・・・」
「どうしたの?」
村井は思った。今までの怖い表情とは全く違っている。どういう事だろう。やはり、渚に会ったからだろうか?
「この人といると、なぜか優しくなれて」
昭二もどうしてかはわからない。今までに味わった事のない感覚だ。
「そうなんだ。どうしてかな?」
「わからない」
おしゃべりばかりで居酒屋に入らなければ、飲み会は始まらない。早く行こう。
「行こうか?」
「うん」
4人は店に入った。店には何組かの人がいる。彼らのほとんどは仕事帰りの一杯で来ている。
「すいません、4名様で」
「はい」
すると、店員はテーブル席に案内した。そのテーブル席は木目調で、落ち着く空間だ。
「こちらへどうぞ」
4人はテーブル席に座った。
「いらっしゃいませ、お飲み物はどうなさいますか?」
「生中で」
「僕も!」
「俺は焼酎で」
「僕は日本酒で」
すると、店員は厨房の中に入った。注文の品を伝えに行ったようだ。昭二はその様子をじっと見ている。
「でも今日はどうして呼んだの?」
「許してくれるのかなと思って」
村井は下を向いていた。あの時の事を、許してくれないんだろうか? だとしたら、自分は一生、その重荷を負う事になってしまう。どうにか、あの時の過ちを許してほしいな。
「うーん・・・」
昭二は何かを考えていた。何を考えているんだろう。素直に話してほしいな。
「どうしたの?」
「もう許してくれないなと思って。だってあれだけ暴れてんだもん」
昭二は泣きそうになった。弱さを隠すために、あんなに暴れてきた。もう誰も近づいてくれないだろう。それでもいい。それが自分の人生なんだ。だけど、その人生は間違っていた。もっと自分と向き合う人生でなければ。
「それは・・・」
と、渚は昭二の肩を叩いた。昭二は驚いた。
「もう暴れないでよ!」
「うーん・・・」
昭二は言葉が詰まってしまった。自分はどうしてこんなに暴れてしまったんだろう。今までの人生って、悔いばかりだ。
「今までごめんな。俺、自分を見失っていた。誰も信じられなくなった。だけど、あの女と会う事で優しさを取り戻せが気がする」
「本当? 私の名前、渚って言うの」
初めてあの子の名前を知った。渚というのか。いい名前だな。昭二はもっとあの子が好きになった。
「そうか。これからもよろしくね」
「ああ」
村井はその様子を、温かい目で見ていた。ようやく優しい心を取り戻したようだ。村井はほっとした。