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ゆるかわハクスラダンジョン!  作者: たまろん
1/1

一話

四人の少女がドラゴンと戦っていた。

「ユウカ!無茶しないでよ!」

西洋騎士のような鎧と剣を身につけた少女、ユウカがドラゴンと肉薄する。

その体躯の差は圧倒的だった。ユウカの剣による攻撃はほとんどダメージを与えられず、逆にドラゴンの一撃は致命傷となることだろう。

それを理解してか、ユウカはあまり踏み込み過ぎず、むしろ回避にその意識を集中させていた。

「メイさん!頼みます!」

「おっけー!」

ユウカに呼ばれた黒いローブを纏った少女、メイは掌を掲げ、黒いオーラを球状に成型していく。

そしてそれをドラゴンに向けて放った!

剛速球で放たれたそれは見事ドラゴンに命中、姿勢を崩すことに成功した。

「チャンスだ!リース、援護頼む!」

「はい、センさん!」

赤く長い髪が特徴的な少女、センは大きく飛び上がり、その身体に似つかわしくないほどの巨大な斧を振りかぶる。

「センさんに力を!」

修道士のようなフードを被った少女、リースは祈りを捧げるような姿勢で、センの力を強化する魔法をかける。

「おりゃあああああああああああああ!!」

強化されたその斧による一撃は、見事ドラゴンの頭を打ち砕いた。



「やったな……」

センは額から流れる汗を拭い、ふぅと一息ついた。

「うん……なんとか勝てたね」

メイが安堵のため息をつく。

「みんな……お疲れ様!」

ユウカはいつものように明るい笑顔を振りまく。

「うん!よくがんばった!」

センは笑顔でガッツポーズし、ユウカの頭をぽんぽんと叩く。

「えへへ……えへへ……」

ユウカは少し照れるように笑った。

その様子をメイとリースが「むー……」と睨む。

「リースちゃんもメイさんも……ありがとね」

ユウカは二人にも笑顔を向けた。

「まったく……ユウカは心配ばかりさせるんだから!」

メイがそういうと、リースもこくこくと頷いた。


もはや当たり前になった日常。スリリングな冒険と、頼れる仲間との楽しい日々。

でも……。

「なんでこんなことに……?」

ユウカは全ての始まりとなったあの日を回想するのであった。


ユウカはこんな剣と魔法の世界に生まれたわけではない。

科学が幅を利かせている世界だ。

彼女はそこで生まれ、育ち、成長していた。

そこで過ごす日々は楽しかったけれど、でも――

ユウカは自分の平凡さが嫌になることもあった。

何をやっても一番にはなれない、そんな自分に。

誰もが思い当たる普遍的な悩み。少し先の未来で受け入れ、そして成長する、そんな悩みだ。

しかしその日は少し考え込み過ぎていたのかもしれない。横断歩道を渡っていた彼女は突っ込んでくるトラックに気づかず……。


そして気づいた時には異世界へと転生していた。


「ここは……どこ……?」

コンクリートの地面と家々が立ち並ぶ街。さっきまでユウカがいたのはそんなところだった。しかしここは……。

うす暗い森の中、ユウカは一人だった。

きょろきょろと辺りを見渡す。誰もいない。

「誰か……いませんか~?」

ユウカは今度は少し大きい声で叫んでみた。

すると森の奥から影が現れた。獣……?

「狼!?」

ユウカは血の気が引いていくのを感じた。正確には彼女の知る狼よりも数倍狂暴で殺傷能力も高い魔物なのだが、そんなことは彼女の知るところではない。

「ど、どうしよう……」

魔物がユウカに向かって飛びかかる。ユウカは恐怖で足がすくんで動けなかった。

しかし、ユウカに牙が届く寸前、魔物の体が宙に舞った。そしてそのまま地面に叩きつけられた。

「え……?」

一瞬の出来事に理解が追いつかない。しかし、すぐに何者かによって助けられたのだと理解した。

「大丈夫?」

声をかけたのは、黒い髪が美しい、ユウカと同じくらいの年齢の少女だった。黒いローブを纏っており、その姿はまるで……。

「魔女……さん?」

「魔女? 私はそんな大層なものじゃないよ。」

少女は苦笑しながら言った。そしてユウカに手を差し伸べる。

「立てる?」

「は、はい!」

ユウカは少女の手を取り立ち上がった。

「あ、ありがとうございます……」

「礼には及ばない。それよりも君、こんな森で何をしているの?」

「えっと……その……」

ユウカは口ごもった。そもそも自分の身に何が起きているかなど、自分でも理解していない。

「ふむ……どうやら訳ありのようね。」

「え? あ、はい……。」

「よかったら私の家に来る?」

「いいんですか!?」

ユウカは目を輝かせた。見ず知らずの自分を助けてくれるなんて、なんていい人なんだろう。

「もちろん。君みたいな可愛い子が困っているんだ、助けるに決まっているでしょ?」

そう言って少女はウィンクした。

ユウカは自分の頬が熱くなるのを感じる。

「あっ、あの!」

誤魔化すようにユウカは大きな声を出す。

「お名前……教えてください。」

「私はメイ。君は?」

「ユ、ユウカです!」

「ユウカか。いい名前だね。」

「あ、ありがとうございます……」

ユウカは照れたように俯いた。

メイはそんなユウカを微笑ましく見つめると、優しく頭を撫でた。

「よし、それじゃあ行こうか。」

「はい!」

こうして二人は森の奥へと向かったのだった。


「あ、そうだ。一応これ持っておいて」

メイは剣を取り出し、ユウカに手渡す。

「この森を手ぶらで歩くなんて、自殺行為もいいとこだからね~」

「え、でも……」

「いいからいいから。」

ユウカは渋々剣を受け取った。ずっしりとした重さを感じる。こんなもの、自分に扱えるだろうか……。

そこでユウカはふと気付く。

「でもそれじゃメイさんが……。」

「私は平気!だって私には……。」

突然、メイの掌に黒色のオーラが集まる。それはバチバチと音を立てながら凝縮され、バヒュン!と大きな音を立てて飛んで行った。

「魔法があるからね。」

突然の行動に驚いたユウカは、その魔法の行く末を見つめる。そこには、先ほどと同じような姿の魔物が転がっているではないか。

一体だけではない。その奥からぞろぞろと、魔物が姿を現した。

「え、ええ!?」

ユウカは驚きの声を上げる。

「この森には魔物がうじゃうじゃいるからなぁ。」

ため息をついたメイだが、すぐに真剣な表情となり

「ユウカ、私の傍を離れないで。」

と言った。ユウカはゴクリと唾を飲み込む。

「やあ!」

メイが手を振ると、黒色のオーラが飛び、魔物を吹き飛ばす。

「す、すごい……」

ユウカは感嘆の声を漏らす。

「まだまだ!それ!」

メイが手をかざすと、更に多くの魔物が薙ぎ払われていく。

しかし、一匹、ユウカの背後に忍び寄る魔物がいた。

「危ない!」

メイはとっさに叫ぶ。しかし、ユウカは気付かない。

「え?」

魔物がユウカに飛びかかる。その瞬間、ユウカの体がふわりと宙に浮いた。

「痛っ!」

メイに突き飛ばされた、と理解するよりも先に、ユウカは眼前の光景に息を吞む。

メイの腕に魔物の牙が深く食い込んでいた。彼女は苦痛に顔を歪めつつも

「このぉ!」と魔物の首から下を魔法で吹き飛ばした。

「メイさん!」

「逃げて!」

メイは必死の形相で叫ぶ。侮っていた。彼女の戦闘スタイルはヒット&アウェイ。元より誰かを守りながら戦うことは得意としていなかった。

それでも、一人の少女を見捨てることができず、格好をつけた結果がこのざまだ。

「時間稼ぎくらいならまだできる!だから逃げて!」

メイはユウカに逃げるように促す。しかし、ユウカは首を横に振ると、剣を構えた。

「嫌です!私も戦います!」

「でも……」

「私は……弱いけど……それでも誰かを守れる力がほしいんです!」

ユウカは叫ぶと同時に魔物に向かって駆け出す。そして剣を振り下ろす。その一撃は魔物の体に届いたが、致命傷には至らず、反撃を受けてしまった。

「うっ……!」

吹き飛ばされたユウカの体を、メイが受け止める。

「大丈夫!?」

「はい……なんとか……」

ユウカは痛みに耐えながら立ち上がる。しかし魔物の猛攻は止まらない。今度は一斉に飛びかかってくる。

「私が…私がメイさんを守るんだ!!」

立ち上がったユウカのその手に剣は握られていなかった。ただ体を大の字に広げ、魔物の牙を、爪を、その一身で受け止めたのだ。

「ぐうううううう!!!!」

あまりの痛みに絶叫する。メイは予想だにしていなかったその行動に一瞬、あっけに取られたが、その意図を理解し、即座に魔法を発動する。

ユウカに群がっていた魔物はすべて、消滅した。


「ユウカ!」

メイはユウカに駆け寄る。体中から血を流し、息も絶え絶えの状態だ。

「どうして……あんな無茶を……」

メイは涙ながらに尋ねる。しかし、その答えは返ってこなかった。



目が覚めるとそこはベッドの上だった。「あれ……ここは……」

ユウカは体を起こす。すると、隣で本を読んでいたメイと目が合った。

「あ、起きた?」

「あの……私……」

「森で気絶しちゃったんだよ。」

ユウカは徐々に記憶を取り戻していく。そうだ、自分は魔物に襲われて……それからどうなったんだろう?

「ユウカ、君のおかげで助かったよ。ありがとう。君が身を挺して守ってくれたおかげで、私は生き延びることができた。本当に感謝しているよ。」

そう言って微笑むメイを見て、ユウカも安心したように微笑んだ。

「ねえ、一つ提案があるんだけど……。」

メイはユウカに顔を近づけて、こういった。

「私とチームを組まない?」


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