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第二十二話 内通者の存在

 俺はそのまま自分の部屋に戻り、ベッドに寝転んだ。


 目を閉じて少しすると、電話が鳴る音が聞こえる。その相手は、市川だった。


「どうした?」

『いや、その……あれ、わかっててやったの? 早見』

「……まあ、そうだろうな。七条には申し訳ないが、誰が仕掛けて来るのか見ておきたかった」

『全部見てたんだ』

「じゃないと、あんなタイミングで出て行かないだろ」

『そっか……まあ、そっちにも考えがあるんだろうから、それが悪いとは思わない』

「お前も結構狂ってるな、感覚が」

『キミがそれ言う?』

「それもそうだな」


 市川には起こるかもしれないことは言っておいていた。そもそも、そのために市川に接触してもらうように頼んだ。


 FクラスがEクラスのクラスポイントを抜いた。そうなったとき、Eクラスは何をしてくるだろうか。そう考えた時、EクラスはFクラスの誰かを潰してくるだろうと思った。


 これは四月の針事件とも繋がっているが、Fクラスには内通者がいる。針もその内通者が仕掛けたものだと、しっかりした証拠も合わせてわかっている。もしそいつが繋がっている相手がEクラスならば、テストのクラス順位は筒抜け状態だ。


 順位を知った上で誰を潰してくるかと考えた時、その内通者の証言も合わせて一番得点を稼いでいるであろう人物を狙ってくると思った。


 今回クラス順位で一位だったのは七条で、運動神経もいいことは見ていればわかる程度だった。そうなれば当然、スポーツでも勉強でも点数が取れる七条を狙うだろう。


 俺は元々七条を守る約束をしていたし、俺がいれば大丈夫だろうと思っていた。だが、Eクラスの内情、特に誰がリーダーで誰が中心人物なのか、それを確認しておくことによって今後上手くことを進められるとも思った。


 そのために、顔を出してくれそうなチャンスがあれば一歩踏み込んでみてもいいと、俺は最終的にそう判断した。


 七条を一人にし、襲って来るのを待つ。前の俺なら平気でできていたかもしれない。でも、今の俺にそれはできなかった。七条が協力者にいることによってもたらされる利益と天秤にかけ、かなり悩んでいた。


 そんな時、市川がそういう世界で育ってきたことを知った。


 暴力でも言葉でも、並みの人間より勝てる可能性が高い。そんな人物がそばにいれば、七条のメンタルを極限まで傷つけることはないだろうと思っていた。しかも市川が女だということもあって、俺が隣にいる時よりも顔を出してくる可能性が高くなると思った。


 だから俺は、あの時七条から離れた。


 だが、事はそう上手くいかなかった。


 市川が負った、本人も気付かない些細な傷。それのおかげで、人ひとり守ることができないだなんて。予想通りEクラスは襲ってきたのに。


 これは市川の問題だが、これでは復讐もできない可能性があることがわかっただけでもよしとしておいた方がいいと、頭を切り替える。



『そういえば、何で優里愛が狙われたの? 一位だったからって言っても、あんなのクラスの人たちしか知らないし……』

「ああ。Fクラスしか知らない」

『……え……? そういうこと……?』

「そういうことだ」


 市川も気付いたようだった。


「お前には関係があるから言っておくが、さっき聞いた針事件の犯人は、七条が言っていた通り裏切った内通者。おそらく、七条が思い浮かべた怪しい人物というのがその内通者で合っていると思う」


 七条は犯人を見事に当てていたと俺は思う。普通に見ればそういうことをする人物には見えない、すごく大人しくてコミュニケーションが苦手そうな女子生徒だ。違うと切り捨ててしまうのも無理はない。


『ボクには言っておくって、もしかして……アイツなの……?』

「ああ。お前の復讐相手だ」

『噓だろ……何でアイツが……』


 市川の言葉には怒りが込められているように思えた。


 相棒を間接的に殺して、今度はクラスを裏切る内通者……だなんて知ったら、怒りが込み上げてくるのもわからなくはない。


「とにかく今は、七条が安心できるように助けてやってくれ」

『ボクじゃなくて、早見の方が優里愛は安心できると思うけど……』

「俺じゃ手が及ばないこともある。俺だって、ずっとそばにいてやれるわけじゃない」

『それはボクも同じ』

「お前と俺では訳が違う。それなりに戦える技術があって、俺の代わりに最低限七条を守っていられるのは市川だけだ」

『そんなこと言われても……結局今日は守れなかったし……』

「市川はよくやったよ」


 市川がどうであれ、それ以上のことができる人物は他にいない。


『二人でってことだよね、どうしたって』

「まあ……そういうことにはなる」

『……わかった』


 俺が相棒にでもなれば元に戻るのだろうか。それならそれで今はいいのだが……後からどうなるかはわからない。


 でも、とにかく今はそれでやっていくしかない。


「じゃあ、これからも頼む。復讐の件も、ちゃんと考えておく」

『よろしく』


 夕飯がまだなことに気付き、そろそろ話を引き上げる。何かあれば、また連絡してくるだろう。


「おやすみ」

『うん……明日、ちょっと早くロビー来れる?』

「ああ。七条待つのか?」

『そう』

「わかった」


 市川も、七条のために何かしたいという思いはあるんだと思う。やっぱり、失敗できないプレッシャーのようなものに弱いのかもしれない。


 だからこそ、頼れる相棒というのが必要なのだろうが……俺がそうなれるのかと言われれば、なり切れないと思う。市川が復讐したいと思えるまでに信頼していた人に比べれば、市川が思う相棒にはなり切れない。


 そんな関係だけど、市川が復讐したいその人は俺が排除したい裏切り者。つまり、俺と市川は同じ人物を潰すという目的を持った協力者だ。いくらベストとは言えなくても、諦めるつもりはない。


 おそらく、これからもっとEクラスが動く。


「よし……」


 策はもうある。相手の動きも想定済み。


 あとは上手くやるだけだ。



  ◇  ◇  ◇



「おはよう、早見」

「おう」


 翌朝、約束通りいつもより早くロビーで待っていると、市川がすぐにやって来た。


「そういえば、いつの間にか呼び捨てなんだな」

「え、あ……いつもの癖で。ごめん」

「いや、呼び捨ての方が気楽だからいい」

「そっか」


 それくらい俺のことを知り合い程度に思ってくれているのなら、それはそれでいい。そもそも俺は今まで敬称を付けて呼ばれたことがほとんどなかった。


「あれ、二人揃ってどうしたの?」


 そこにちょうどよく七条が現れた。


「一緒に行かない? 優里愛」

「うん。……ありがとう、音葉、早見くん」

「名前で呼んでくれた……」

「変かな……?」

「ううん。むしろその方がありがたいっていうか……ね、早見くん」


 やっぱり人前では敬称が付くのか。まあいいが。……って、そんな話じゃないよな。


「え、あ……市川がそれでいいなら」


 俺に聞かれても困るが、とりあえずそう答えておいた。


「あれから大丈夫だったか? 七条」

「うん。兄さんが来てくれて、ちょっと安心したっていうか……別に、早見くんじゃ不安だったってわけじゃないけど……」

「そうか。それならよかった」


 今の感じも、そこまで落ち込んだり病んでいる様子ではない。それだけでもまだよかった。


「音葉もありがとう。すごかったよ、アイツに蹴り入れるなんて」

「そうかな……でも、優里愛が元気そうでよかった」


 表だけ、と言う可能性もある。そもそも、完全に立ち直っているはずはない。だが、空元気だったとしても、そのテンションに持っていけるだけよかったと思う。


「何かあったら何でも相談して。早見くんでもいいし」

「うん。ありがとう」


 それから俺たちは三人で校舎に向かった。

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