昔結婚を誓った幼馴染が義妹になった。激重ヤンデレ化してえっちなお願いをされてマズいのに、背徳感で理性崩壊待ったなし
「史郎。いわなきゃいかんことがある」
「なんだい父さん」
父と僕、ふたりの夕飯。
いつもと違い、黙りこくっていた父さんは。
タイミングを見計らい、おもむろに切り出した。
「……史郎に、新しい母さんができる」
「えっ、いよいよ父さん再婚するの?」
我が家、つまり冴木家はふたり暮らし。
母さんは存命だ。ピンピンしている。しかし、父の性格に痺れを切らし、僕が幼い頃に離婚した。
しばらくフリーだっだが、この様子だと復縁はなかったらしい。
「そうだ。もう、籍も入れてある」
「つまり、事後報告ってことだよね」
「すまない。なかなか切り出しづらくてな」
「いいよ。父さんの決断なんだから」
僕は現在高校二年生。いろいろ難しい時期だと、父さんは思っているのだろう。
仮に僕が親父でも、同じ判断をしていたはずだ。
「それで、婚約相手なんだが……」
「問題でもあるの?」
「いいか、史郎。落ち着いて聞いてくれ」
「うん」
「相手は水瀬さんだ。水瀬凛さんだ」
「水瀬って、あの水瀬!?」
僕には幼馴染がいる。それも、異性の幼馴染である。
……というのは、日本全国を見渡せば、よくある話に過ぎない。自分だけが特別なのではない。案外、みんな似たような学生生活を送っている。
しかし、僕の場合。
これまでの幼馴染ライフに、とんでもないイレギュラーが発生したのである。
幼馴染の名前を、水瀬華奈という。
つまり、幼馴染に義妹属性が追加されたのだ!
「そうだ。小さい頃仲良くしてた、華奈ちゃんのお母さんだ」
「マジかよ。ちょっと気持ちの整理がつきそうにない」
華奈とは、幼稚園からの付き合いだ。
純粋無垢な僕らは、異性同性という枠に縛られず、良き友だった。
お遊びで「いっしょにけっこんしよーね!」と語ったこともある。よくある話だ。僕らはとっても仲良しこよしだった。
しかし、小さい頃は仲が良くても。いつの間にか疎遠になる、ということは往々にしてある。
例に漏れず、僕らは次第に距離感が変化していく。
小学生の頃。
それぞれ同性のグループに所属し、一緒にいるのがためらわれるようになった。
中学生の頃。
華奈は持ち前の性格でクラスの中心、対して僕は空気。
釣り合わない。
そんな劣等感から、さらに距離は空いてしまった。否、僕の方から遠ざかった。
高校生の頃、つまり現在。
学力が同じくらいだったこともあり、同じ高校にたまたま進学した。
いまも距離感遠めに変わりはない。
そんな状況で、幼馴染が義妹になるというのだ。
意味がわからない。僕はどうすればいいのだろう?
「いろいろ思うところはあるだろう。ゆっくり消化してくれ」
「わかった」
「あと、あしたから華奈ちゃんも凛さんも同棲だ。ちょっと手狭になる」
「ゆっくり消化とは? いや報連相のほの字もなさすぎでは? いや鬼畜の所業すぎやしません?」
「まあまあ、許してくれ。凛さんのことはよく知っているだろう?」
「知ってはいるけど」
結構ガツガツくるタイプ。そして、フットワークがめっちゃ軽い。
父さんも押しに押されたのだろう。
「急ピッチで申し訳ないが、よろしく頼むな」
「うん」
諦めたので試合は終了してもらって結構だ。
いずれにしても、親父が結婚するならこうなることは決定事項だったはず。
早いか遅いかの違いだ。
近いうちに来るわけだ。心の準備をしておこう。
***
「お邪魔します!」
華奈の声が、家中に響く。
Xデーは、あっという間にやってきた。
我が家に、水瀬ファミリー二名が入る。懐かしいものだ。
あの頃はまだ、親父は離婚していなかった。そんなことはいま思い出すべきではないが。
「お久しぶり、史郎くん」
「こちらこそ、お久しぶりです」
仕事バリバリできる系ウーマン、という風貌。相変わらずだ。
「これからよろしくね。私も、華奈も」
「もちろんです」
食卓を前に、四人は座っている。
それぞれのファミリーが隣り合い、親は親、子は子同士が向かい合うように。
「シロー、改めてよろしく」
「う、うん」
気恥ずかしい。華奈も同様らしい。
視線を合わせるのも、やけに難しかった。
「じゃあ、父さんが今後のことを話していく」
いって、父さんは切り出した。
新たな家族としてのルールが伝えられる。ときおり質問が飛んだ。
まとめると、互いの家の在り方を尊重する方針だ、のひと言になる。そうはいっても、ある程度の変化は受け入れる必要があるだろう。
「……という感じだな。以上だ。あとは適宜やっていこう」
「わかったよ、父さん」
「私も、大丈夫」
僕と華奈はこたえ、凛さんは静かに頷いた。
「よし、あとはお若いのでやってくれ」
「凛さんといちゃつきたいだけでしょ」
親父の顔が歪む。
「鋭いじゃないか」
「息子歴イコール年齢ですから。ご自由にどうぞ」
「理解が早くて助かるぞ!」
そういうわけで、僕と華奈さんは二階へと追いやられた。
「もしかしたら史郎に弟が……」
「新婚早々、我が家でおっぱじめないでよ。というか、息子の前でいうことじゃないでしょ……」
呆れつつ、二階へと歩いていく。むろん、華奈と一緒だ。
「懐かしいね、シローの家」
「何年振りかな」
僕の部屋のベッドに、華奈は腰掛けている。僕と隣り合うように。
昔と変わらない、定位置だ。
家に呼んだのは、もう記憶が薄れつつある頃。遠い昔だ。
「最近、あんま関わってなかったよね、私たち」
「最近どころか、小学校以来かもしれない」
「寂しかったんだよ? 私はウェルカムだったけどなぁ」
そうだったのか。
やはり、僕が勝手に壁を作って、距離を取っていただけなのか。
「なんだか、華奈がどんどん遠くの存在になっていったからね」
「そうなのかな? 私はずっと私だと思ってたんだけどなぁ」
自分とは違うな、と思わざるをえない。
リラックスして正面を眺めている華奈に、僕は目をやる。
快活そうな容姿はそのままに、日に日に大人っぽさが増している。
理想的なプロポーションに、ややもすると異性として強烈に意識しそうになる。
「どーしたどーした、私のカラダが肉感的だって顔してるよ?」
「肉感的なんて、女子高生の口から出すもんじゃないよ」
「否定はしないんだね? うんうん、いい訳はご無用。目は口ほどに物をいうからね」
邪な考えは、すっかりバレていたらしい。反論しても徒労にしかならないだろう。
なんだかやられっぱなしだ。ちょっと反撃を加えてやりたい。
そこで僕は、華奈の過去発言を掘り返すことにした。我ながらちょっと意地悪だ。
「そういえばさ」
「はいはい」
「幼稚園の卒園式のこと、覚えてる?」
「おおよそなら」
「『いっしょにけっこんしよー』って、ニコニコしながらいってたよな、華奈」
からかいや、冷やかしのつもりでいった。
しかし。
華奈は。
「そうだね。私、いってたよ。ちゃんと約束したよね」
「あれ?」
なんだか予想外の反応だ。恥じらいを見せることはない。ボケたのにツッコミがこなかったような拍子抜け感がある。
「続きはこう。『おとなになって、できるとしになったらぜったいだからね!』って」
記憶にない。そこまで強い言葉だったのか。
「まだ私たちは、結婚できる年齢でもなければさ」
「うん」
「しかも、私はシローの義妹。シローは私のお義兄ちゃん。話がぜーんぜん違うよね」
「そりゃそうだな」
「もう結婚、できなくなっちゃった……」
ここにきて、僕はなにやら様子がおかしいことに気づいた。
もしや、華奈はまだ脈アリなのかもしれない、と。
思い込みも甚だしい? いや、待て待て。
ただの思わせぶりな態度、揶揄いたいだけ?
違うんだ。濃い薄いはあっても、長年の付き合いだ。見ればわかる。マジのやつだ。
「血が繋がってなくとも、親父と凛さんで再婚したわけだしな」
「その通り。結婚からは一気に遠かったわけだよ。でも、これはこれでよかったのかもしれないよ」
「よかった、というと?」
「背徳感だよ」
大真面目に、華奈は告げた。
「背徳感?」
「そう。幼馴染は恋愛対象にしてもいいけど、義妹は血が繋がってなくても、妹。恋なんてしちゃいけない」
「うん」
「ということはだよ? きのうまで幼馴染だった相手に抱いていた感情が、きょうからはイケないことになりかねないということだよね」
おっと? 話がこじれてきたぞ?
「だから」
いうと、僕は押し倒された。あまりにも自然に。
ベッドの上だったから、その体勢となるのは、そう難しいことではない。
「こんなことをしたらさ。もう私たち、おしまいってことだよね?」
「おい、落ち着け。華奈、冷静さを欠いている」
「私はいたって冷静だよ? いまもまだ、卒園の誓いは有効なんだよ?」
「……僕のことを、いまでも婚約対象と思っている、のか」
「うん。いろんな男の人と会ってきたけど、やっぱりシローが一番。なのに、距離を取られてさ。私、ずっと寂しかったんだよ」
「ご、ごめん。許してほしい。そして、跨るのはやめてくれ」
「……体は元気で正直みたいだけど?」
口では拒否しているが、ドキドキは止まらない。
背徳感、という言葉が、脳内で何度も繰り返される。
いけない、と思えば思うほど、この状況を楽しむ自分がいることに気がつく。
ツンとつく、甘い匂いが理性を揺さぶる。
「大丈夫。私は優しいから、まだ一線は越えないよ。まずはキスからね」
「キ、キスなんて」
「私、ちゃーんとファーストキスは残してあるの。シローのためにね」
もうおわかりの通り、ヤンデレだ。
それも、トッピング増し増しで胃もたれするレベルだ。
いずれそういう意味で食べられてしまいそうな予感さえする。
「やめろ、華奈! たとえ女子でも、無理やり及ぶのはよくない!」
「じゃあ、シローは一生女の子と無縁の人生を送るの?」
「うぐっ」
「私はシローに思いを寄せている。シローも、嫌いではないでしょう?」
「それは……」
「夏とか、私の方に視線釘付けだったもんね」
「……バレてたの?」
「チラ見のつもりだろうけど、めっちゃガン見だったよ?」
「ふがっ」
「図星だね」
華奈のことは、いまでも好きである。
自分と釣り合わないからと距離を取っていただけだ。
しかしどうだ? 突然、手の届くところに超ウェルカムな華奈が来た感想は?
ちょっとヤンデレ強すぎて怖……違う。
めっちゃうれしいのである。頭の中の悪魔、つまり本能が囁いている。
「で、結局シローは……」
「やっぱり僕、華奈のことを諦めきれてなかったみたいだ」
「いいね! その言葉、待ってたよ」
華奈の笑みがやや邪悪さを含むものになる。
「じゃあ、レッツ背徳感! 最初にめちゃ高いハードルを超える?」
「そういう線は越えたくない。軽い男女になるのは嫌だから」
「やっぱりそうだよね!」
「じゃあなぜ跨ったの」
「シローに私を強制的に意識させるためだよ」
よくわかっているじゃないか。
「じゃあ、選択肢はふたつ」
「どうぞ」
「軽いキスか、大人のキス!」
「キス確定なのかよ」
「だって、その先NGなら、ね?」
ただでさえ理性が吹っ飛びそうなので、選択肢はむろん。
「軽いキスで」
「だよね。ハードルは徐々に高めるのが楽しいもんね!」
跨るのを、華奈さんはやめない。
「このままやるの?」
「もちろん! だって、気持ちよくない?」
「だいぶストレートだね」
そういうわけで、緊張の初キス。
相手は、元幼馴染、現義妹。
「……じゃ、しよっか」
目と唇を細める華奈。
「シローから、しろよ?」
華奈は囁いた。
いよいよそのときが来る――。
刹那、下の階から足音が聞こえる。おそらく、父が様子を確認しに来たのだろう。
「どうする? いったんやめるか?」
「ばか。だからこそするんだよ? バレるか否かのギリギリを攻めるのが、背徳感を押し上げるコツなんだよ?」
「わかったよ!」
半ば投げやりの心情で、僕は唇を近づけて。
そして――。
「おーい、史郎に華奈。下で家事手伝ってくれ」
ノックすると、親父は部屋のドアを勢いよく開けた。
「うん! 了解だ!」
「私も向かいますね」
「いい返事だ。ところで史郎、頬が濡れているが、よだれでもたらしたか?」
「ちょっと昼寝をしてただけさ! なんてことはないよ」
「ならいいけどな。ふたりとも、すぐに来るように」
いって、親父は下の階へと戻った。
「……どうだった、初めてのキスは」
ペロリと、唇の周りを一周、扇的に舐め回す。
「めちゃくちゃ、気持ちよかった……」
「それはそうよ。義妹になった幼馴染と、ベッドの上で跨られながら、親フラの恐怖に怯えながらのキス。背徳感の凄さ、わかった?」
「新しい扉、開いちゃったかもしれないな……」
結果的には、やや不自然に思われたものの、成し遂げることができた。
親父と話すときには、跨る体勢を解除し、やらしい雰囲気を微塵も感じさせぬよう努めた。
「これから、もっともーっと、ドキドキする毎日が始まるんだよ? きょうはその、オリエンテーションくらいだからね」
「え、これでオリエンテーション!?」
「覚悟、しといてね?」
幼馴染が義妹になった日。
僕は、背徳感という、新たな扉をこじ開けられてしまったらしい――。
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