くらやみ
暗い…
暗い……
とても暗い…
そんな場所。
そんな場所に「彼」は居た。
見た感じ小学生くらいであろう男の子。
「…うぇ?」
「彼」は不思議そうに声を漏らした。
それはそうだろうさっき迄の「彼」は最近許されたばかりの一人部屋で明日に備えて寝ようとしていたのだから。
寧ろ「彼」の反応は見事と言っていいだろう。
こんな訳の判らない場所に突然放り出たにも関わらず冷静に周辺を確認しているのだから。
驚嘆に値するとでも言えよう。
「彼」は訝しげにきょろきょろと辺りを見回した。
だが見渡す限りの周りには何も無い。
いや、此の言い方は正確じゃ無い、正しくは何も無いのでは無く全てが真っ黒いと表すべきだろう。
黒、黒、黒…
全てが真っ黒い世界。
まるで白紙のキャンバスに黒いインクを塗った様な…
光一つ無い場所…
此処はそんな世界だった。
此の世界で「彼」だけが唯一黒以外の色を持っていた。
そうで無ければ暗闇から「彼」を見分ける事も不可能だっただろう。
暫くして周辺には何も無いと確信した「彼」はふと、自分の事を見て…
「…?」
不思議そうに首を傾げた。
それはそうだろう、彼の着ている服は夜寝る前に着ていたパジャマでは無く、彼のお気に入りの扉の絵が一つ大きく真ん中に書かれた今日着ていた服だったのだから。
「彼」はまた暫く考えて此の世界を夢か何かだと思ったらしく、夢ならこんな事も有るかと気にしない事にしたみたいだった。
「…あっち」
考えるのを終えた「彼」は此の暗闇の世界を何となく歩き出した。
どうせ夢なのだから細かい事を気にするだけ無駄だろうと思ったらしく。
暇つぶしに周囲を散策する事にしたらしい。
方向すら曖昧な暗闇の中をテクテクと前に進み出した。