やっぱり酒は災いの元 その6
クローディアが扉を開けると
まず目に入ったのは大きな書斎机
その椅子に座ってこちらを見てきたのはあの老紳士とは明らかに違っていた
年齢はあの老紳士よりは明らかに若い、だけど、手入れをしている様子のない乱れた金の髪に顔色は不健康に青黒く、机に突っ伏しそうなほど背中は曲がっていた
それよりもこの部屋の雰囲気だった
あちこちから黒い手が四方八方からユラユラと伸びている
男の背後の本棚からは何冊もの本が勝手に落ちてはまた元の場所に戻っていき、そしてまた本棚から落ちるという現象まで起こっていた
「本当に来て、くれたんだな。私は、この屋敷の主のソリス·ディグニダ·コーブレ伯爵だ」
弱々しく、病的な眼差しがクローディアに向けられた
クローディアはやや苛立った様子で、頭をかくと
「伯爵、少しいいですか?」
クローディアは小瓶を取り出し蓋を開くとその中の物を自分の足元に撒き始めた
瓶の中身は白い砂のような物だった
自分の足元に2重の円を描くと
『煌めく流星の聖幕(ブリエ·メテオール·ヴェール)』
クローディアの声と共に左人差し指の指輪が煌めき、部屋に光が広がって行った
すると
部屋の壁から床から伸びていた無数の手は、部屋に広がっていく、その光に触れただけで、燃え尽きた木屑の灰のようになって崩れ落ちた
本棚の元の場所へと戻ろうと空中にあった本はそのまま床に落下したままになった
「これは、すごいっ、すまない、なんとお礼を言っていぃか…ぁ…ぁ…っあ!」
伯爵が目の前に起こった事に驚き、喜びながら席を立ち、クローディアに駆け寄ろうとして、床に崩れ落ちて呻き始めた
クローディアは驚く様子も見せずただ静かに佇んでいた
伯爵は床でのたうちながら激しく嘔吐を始めた
2度、3度と床に吐瀉物が巻き散らかされ、そして、伯爵の口から明らかな異物が顔を出していた
黒い塊だった
例えるなら黒い、真っ黒い、髯のないナマズのような物だった
それが伯爵の口からクローディアを紅い眼で見つめていた
そしてクローディアを睨みながら不快な怪鳥音のような声で叫んでいた
クローディアを嫌っているのは確かなようだった
伯爵はその異物が自分から生まれていることに、更に悶え、それを遂には吐き出した
かと思ったら、続けて、もう2匹?の黒いナマズを吐き出していた
そのナマズは床に吐き出されるとトカゲのような手足を生やして床を這い回り家具の影に隠れようとした
クローディアは黒いナマズを指さすと音もなく現れた3本の細身の短剣が黒いナマズを床に串刺しにしていた
1匹がやられて、他の2匹は大慌てで逃げようとしたが、隠れる事は出来ず、同じように床に串刺しになった
串刺しになった黒いナマズ達?は拘束から逃れようと、何度がもがいては見たものの、やがて力尽き、壁の手と同じように木屑の灰のようになって崩れ落ちた
全て吐き出し終わったのか床にうずくまったままではあったが、伯爵は弱々しく呻きながらも呼吸を取り戻しつつあった
クローディアは軽々と伯爵を抱きかかえるとソファに寝かせ、持って来ていた小瓶の薬品をそっと飲ませた
「これだけでは足りないでしょうからもっと持って来ますね」
「君は…一体…?」
「…臨時の雇われメイド、といったところでしょうか?」




