やっぱり酒は災いの元 その1
クローディアは馬車に揺られながら
何日も胸の中に残り続けるわだかまりのようなものを
どう処理すればいいかで頭を悩ませていた
その原因は「カード勝負に大負けしたこと」だった
ルールはこの国では一般的な「10と10(ディエス·イ·ディエス)」
1から10までの数字が書かれた
赤い太陽
赤い月
黒い王
黒い剣
4種類10枚、合計40枚のカードを使用し
対戦者に10枚ずつ配り
2枚のひとセットを5個作り
2枚のカードの合計が高い方が1ポイント
3ポイント先取で勝利となる
地方によっては多少ルールに違いはあるけれど
昔から行われているシンプルにも思えるが奥深い勝負方法だった
クローディアはこの勝負で負けたことなどまず記憶になかった
相手の戦法、傾向を読む為、敢えて負けてみせる
そういった物ではなかった
ただひたすらに負けた、それも大負けしたのだ
その日、その夜は
クローディア自身が所属している冒険者ギルドの会合があった
過去の経歴等を明かしたくないクローディアではあったが
周辺国などの状況などの情報を入手するには
何らかの組織に所属する事が避けられず
近隣で一番大きなギルドに参加することにしたのだった
かつては名の知れた傭兵だったというギルドマスターは
クローディアの過去を一切詮索しない代わりに
月に一度は会合に顔を出す事を条件にギルドの参加を許可したのだった
「お前さんは、なんかその
他の傭兵あがりとはなんか違うんだよ
顔色を一切変えずに街ひとつくらい簡単に灰にしちまいそうだからよ
目の届くようにしとかねぇとおっかねぇんだよ」
よく見えている、分かっている
顔にいくつもの古い戦傷のあるギルドマスターの言葉を聞き
この人物なら信用出来ると思っていた
そして、その会合の夜
ギルドマスターの経営する酒場に有力メンバーが集まり
食事や情報交換をしているのを横目に
軽くマスターに挨拶をして
目立たない場所でチビチビと酒を口にし
会合が本格的に盛り上がる前に
早々に退席してひとり夜の街に足を進めたのだった
普段は外出せず、家に引き篭もり
ひたすらに研究と、依頼のあった素材、薬品の作製ばかりの日々を過ごすクローディアにとっては
たまにの外出の楽しみは酒であった
街の裏路地
こんな所で商売は成り立つのか?
というような薄暗く狭い通りを抜けた場所で
細々と開いている店ではあるが
そこは東西の珍しい酒を仕入れてくる事で知る人ぞ知る名店がそこにあった
すらりとした長身に、漆黒の長い黒髪、冷たさと神秘さを感じさせる切れ長な茶色の瞳
そんな人の目を引く容姿を持つクローディアを
この店の常連は声を掛けるような真似はしない
ひと癖もふた癖もありそうな強面の店の主が常々
「外でやれ」
「ここは酒を楽しむ店だ」
そう口にするからだった
ただ賭け事、勝負事は別だった
対戦が盛り上がれば店主自ら、対戦者や観戦者に1杯奢る事もあった
そしてそれはそんな店でのありふれた出来事だった
「ひと勝負いかがですかな?」
クローディアが店に来て
何杯かのお酒を口にしながら小一時間程の時間が経過した頃
クローディアの座る席の向かいに老紳士風の男が座った
服装、口調、身体が自然と発する雰囲気からは
こんな怪しい店に出入りするタイプの人間ではないのは確かだった
何処かの貴族、何代にも渡る豪商
そんな風格を漂わせていた
ただその老紳士は仮面をして目元から鼻筋あたりまでを隠していた
白い下地に金、銀に煌めく唐草模様のような紋様を凝らしたデザインの物で
店の明かりの少なさもあって
紳士の目線が何かを見ているかまではわからなかった
随分前から
この店でクローディアに勝負を挑む者は居なくなっていた
クローディアの強運と勝負勘を常連は知ってしまったからだった
クローディアは
クイ、と軽く今手元にある自分のグラスを空にするとじっと老紳士を見つめた
老紳士もまた
クローディアの様子を見ていた
ただ穏やかに
「レートはどうする?」
クローディアが口を開いた
「今夜は長く楽しみたく思うので
まずは低目
から始めませんか?」
強面の店主が気をきかせてカードとグラスをふたつと
まだ封をしたままの新しいワインを持ってきた
それがその夜の始まりだった




