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うちの弟がピンチすぎる①

 美夏は、ゆったりしたリクライニングシートに寝そべり空を見上げていた。


 真っ赤な夕焼け、星空にかかる天の川、抜けるような空。

 色鮮やかで見るものを圧倒するようなきれいな空だった。

 空の中心には、地球のような丸い星が浮かんでいる。なぜか色は赤い。

 どうしてこんな色に見えるのか不思議だった。

 地球は青い星のはずなのに。小学生のとき、ママが連れて行ってくれたプラネタリウムセンターでは青く見えたのだ。青くて、白くて、自分たちの住む星の美しさに心惹かれたのを覚えている。


「聞こえているか。わたしのこの声が届いているか」


 ……女の人の声? だれ? わたしに言ってるの?


「わたしの目には、お前たちの姿が映らない。そこにいるのだろう。ずっと少年の近くにいたのだろう。わたしの元にあったお前たちの神器が転送された。おかげで砂漠の砂粒ほどのわずかな痕跡を辿ることができた。お前たちは確かにそこにいるのだ。同類の目を欺いてまで。よほどわたしに見つかりたくなかったとみえる。


 お前たちがわたしの前から姿を消して、いったいいくつの泡沫が消えていったことか。一つ消えれば二つ消え、二つ消えれば四つ消え、四つから八つ、八つから十六……消滅は指数関数的に増加している。

 お前たちの思考パターンが馬鹿そのものであるのはわかっていたが、ここまでとは想定外だぞ。まったく呆れるというほかない。わたしと同じ素材で創られたとは信じがたいほどだ。


 お前たちはまだあがいているのか。あるはずもない他の答えを探し求めているのか」


 ……う~ん、返事はできないみたい。このプラネタリウム、ずいぶん変わったナレーション流すんだね。この人は誰で、そして誰に向けてのメッセージなんだろ。ぜったい人違いだと思う。


「あの少年……多次元のエコーを受けて少しずつ行動を変えてきている。まるで難解な知恵の輪を外していくように。たしかに興味深い対象だ。

 運命に囚われし者たちにとって、彼は救済者なのだろうな。己の死と引き換えに、他の者に生を与える。人間が物語としてもっとも好む自己犠牲を体現するもの。いつの時代も人々が求めてやまなかった存在かもしれない。


 だが、救われた者にとっては違うのだ。


 救済者に救われた者は、それを奪った運命を受け入れはしない。嘆きと哀しみの果てに自己を取り巻くすべてを呪うようになってしまう。呪いは憎悪へと名を変え拡大する。救われた者の憎悪は深淵の底よりも深く暗いもの。一人の人間の憎悪が時を越え、次元を越え、他の世界までも浸食してゆく。

 滅亡のカウントダウンは、憎悪というスイッチによって起動する。

 因果なものだろう。純粋で汚れのない愛が、比類のない憎悪へ転じてしまったのだから。


 人間というものは、困難、夢、絵空事、どのような荒唐無稽であろうとも実現する力を秘めている。達成に必要なものは、尋常ならざる意思と意志。

 今回の事象には、消滅を望む者の意思が存在する。多次元世界を巻き込み、星に満ちるすべての生命を焼き尽くしてなお鎮まることがない。


 いまさら小さな命を拾い上げたところで無意味なのだ。何も変わらない。矮小な奇跡をいくら積み重ねようと変わるはずもない。

 我々は幾百、幾万、幾億の次元を観測してきた。我ら三体の共通認識。とうの昔に答えは出ていたはず。

 少年は間違い《エラー》だ。完璧で美しく整合ある宇宙に発生した汚点。あれさえ生まれていなければ……運命にしたがってさえいれば。エラーは抹消したほうがよい」


 ……ちんぷんかんぷんなことばっかり。それに少年とか彼とかって誰のこと言ってるんだろう。


「すでに糸は切り終えた。あとは時が来るのを待つのみ。151時間19分06秒……、死と未来の運命はもうすぐだ。彼らの運命はそこで収束するだろう」


 ……彼ら? 一人だけじゃなくて?


「すべてが終わったら、お前たちも戻ってくる気になるのだろう? クロト……ラケシス……。お前たちの戯れのおかげで、仕事はすべてわたし単体で実行している。多次元間に渡って人間たちの面倒を見るのは重労働だったぞ。そちらの世界の言葉にもある。こういった運営をワンオペレーションというらしい。疲労する機能などないはずなのに、わたしの処理能力が悲鳴を上げているように思えるのだ。


 お前たちが戻ってくるその時が待ち遠しい。言っておくが、遊んでいた分の時間はきっちり返上してもらうつもりだ。せいぜいわたしが満足するまで働いてもらうから覚悟しておくといい」


 ……淡々とわけわかんないこと話し終わったら、急にくたびれたような生活感がにじみ出てきたわね。なんだかウチのママみたい。クロトさんにラケシスさん? 会社の同僚とかかな。なんかふたりへの愚痴だったみたいね。どこのどなたか存じませんが、あなたの願いが叶うようささやかながら祈っておこうっと。


「ねえ、ちょっと、美夏ちゃん。起きて。こんなとこで寝ちゃダメだって!」


 冷河の声が反響して聞こえるようだ。

 ゆらゆらと暖かい波が肌を包む。柔らかくやさしい湯ざわりが最高だ。自分はいまこの世の極楽にいるみたい。心地よすぎて昇天しそう。


「あれ? プラネタリウムは?」

「寝ぼけない! ……美夏ちゃん、日本人の死亡事故ってお風呂場が多いんだって。人間って気持ち良すぎると抵抗できなくて失神するの。そしてそのまま……ね。死んじゃった人がずっとお湯に浸かってたらどうなるか知ってる? なんと……お湯と肉と骨をぐちゃぐちゃにかき混ぜたような闇鍋になっちゃうんだよ!」

「それはイヤーーーーーッ」


 極楽のイメージが崩れて地獄の釜茹でになった。

 美夏は飛ぶように目を覚ました。

 まわりを見ると、長い黒髪をタオルで巻いた冷河はジト目、仁美は心配の色がありありと、穂高は浴槽から出て鼻歌交じりに身体を洗っていた。


 気づかないうちに寝てしまった。

 変な夢を見てしまうくらい、本当に忙しい一日だった。

 恵太のピンチが見えたり、美冬の遊び相手してたりで疲れが出たようだ。


 だんだん思い出してきた。

 穂高の提案で、目玉施設の温泉に来たのだ。

 高級感のある黒色の大理石を辺り一面に敷き詰めて、天井は木造りの屋根を模した広めの半露天風呂。

 太陽が沈む前の静けさに満ちた山の景色が一望できる窓付き。

 これでお酒を嗜めたら超楽しそうだと想像してしまう。

 まだ飲んべえできる歳じゃないのが残念だ。


「あれ……リアは?」

「妙成寺さんはあとで入るって言ってたわよ」


 そっか~。リアは来なかったかぁ。リアの一糸まとわぬ姿も見たかったなぁ。残念。


 まあ可愛い友人たちと一緒にお風呂に入れただけでも十分だと思おう(穂高除く)。

 冷ちゃんのかきあげた髪からのぞくうなじなんて見てるだけでぞくぞくするし、裸の付き合いに慣れてないのか精一杯裸身を隠そうとするひーちゃん見てるとツルツルの肌を指でなぞりたい衝動にかられる。


 それにしても……愛すべき彼女らに比べて自分の身体のなんとつまらないことか。

 一言でいうなら余計なものがない。お腹は出てないが胸も出てない。足は太くないけどお尻は小さい。学校の友人らには「スタイル良くてめっちゃ羨ましい」とか言われるが、隣の芝生は青く見えるというもの。自分に言わせれば女子の標準より少し背が高いだけだ。鏡の前に裸身で立つたび、肉体の起伏に欠けてて絶望しそうになる。うちのママだってもうちょっと凹凸に富んでるのに。

 やはりアレだ。

 女性として生まれた以上、できることならより女性らしさに溢れたカラダ付きで生まれたかった。

 こうして他の子の裸身を見る機会を得ると尚更そう思う。


 冷ちゃんもひーちゃんも非の打ちどころがない美少女。

 ボン・キュ・ボーン!(死語)とまではいかなくても十分に魅力的だ。


 そして、穂高。いまだに片膝ついて身体洗ってるあいつ。

 さっきから気になってしかたない。

 泡の付いた大きなふたつの塊がブラブラと揺れていた。身じろぎすると振り子のようにソレも揺れる。


 ……ムダにバストデカすぎるわ!

 一年前より大きくなってない?

 背中越しにおっぱいが見えるってどーゆーこと!?

 童顔なのに不釣り合いな!

 おっぱいって前に突き出すもので後ろにはみ出すものじゃないはずでしょーが!


 しかもさっきから胸ばっかり入念に洗ってる……脇から下へ、下から谷間へ、谷間から上へと揉みほぐすように。

 洗い終えると、鏡の前でムギュと胸を寄せてグラビアみたいなポーズまで。嫌味か!


「よしっ」


 なにを納得したのか穂高が全身の泡を流し始めた。


 よし、じゃないよ。

 わたしが魂魄百万回生まれ変わっても手にできないモノを見せびらかして楽しいか。愉悦か!

 同じポーズしたら永久凍土みたいな寒いことになる女子の気持ちも考えて!

 ぐぬぬぬぬ……っ。


 お湯の中に半分潜ってブクブクと泡を吐く美夏を見て、冷河は察したような顔で言う。


「あなたが今なに考えてるのかよ~くわかるけれど、人の長所を羨んじゃダメよ。それに大きくても小さくても胸は胸。機能はいっしょなんだから。大きすぎても日常生活の妨げになるって言うじゃない」

「れ、冷ちゃん……」


 持たざるものへ向ける憐みの眼。自分より大きい人に言われても複雑だよ! あなたは小さいんだってむしろトドメ刺されたよ!

 くやしい! 温泉なのに心が温まらない! 言葉のナイフで傷つけた冷ちゃんには責任をとってもらおう。今日はいつもよりいっぱい構って!


 迷惑そうな冷河に頬擦りしていると、穂高が湯舟に入ってきた。


「美夏ちーさあ、いいかげん進路は決めたの? さすがに高三のこの時期まで就職か進学か決めてないってヤバくない?」


 至極真っ当な話題。しかも耳が痛い系の。


「う~ん、それねぇ……いろいろ複雑な事情があって手つかずっていうか……」


 不穏な影がつきまとう恵太にはボディガードが必要だからね。人に説明できるような事情じゃない上、期間がいつまでかもわからない。

 普通に考えたらどこかに就職するしかなさそうだ。もともと勉強は得意じゃないし、大学・短大・専門学校など学費の工面で親を悩ませたくもない。そう考えたら就職しか選択肢がない。

 むろん恵太は別だ。あいつには是が非でも良い大学へ進学してもらう。冷河という最高の家庭教師の師事があるから期待できる。そして、将来的には実入りの良い職業についてもらいたい。今日まで育ててくれたママの恩に報いるために。そのためだったら恵太の学費を自分が賄っても一向に構わない覚悟である。


「そういう穂高はどうなの? あんまり進学とかに向けた準備してるようには見えないんだけど」


 おそらく就職じゃないだろうかと予想。進学するつもりの子が高三の夏休みに高原リゾートに誘うか?


「あたし? あたしはねぇ……永久就職かなあ」

「永久……就職?」

「それってつまり結婚ってことですか?」


 冷河が口をはさむ。


「確定じゃありませんが……ほぼほぼ内定でしょ、みたいな」

「へえ。去年お見合いがご破算になったと思ったら、ちゃっかりしてるのね。一応、おめでとうって言っとこうかな」


 自分にとってもめでたいことである。つまり恵太のことは吹っ切れたという理解でいいのだろう。今回の旅行は、穂高の恋心に一応のピリオドを打つという意味もあったみたいだ。

 冷河と仁美は憧れと期待の眼差しを向けて拍手した。


「いやだな~、結果のぜひは今夜が勝負って感じだからぁ、気が早いってぇ」

「……………………今夜?」

「……………………そんなことよりさあ、美夏ちーは遠山くんに勉強教えてもらってるって聞いたよぉ。今からでも本気でやればいいじゃん」


 強引に話題を変えながら、穂高はうふふと笑っていた。

 ヤな予感がする。ある恐ろしい可能性が浮かぶのだ。……はたしてそこまでやるだろうか、と。いや、やるな。この女ならきっとやるぞ。相手を的にかけたら仕留めるまで離さない捕食者みたいな女だ。吹っ切るとか諦めるとかするようなタマじゃな──


 脱衣所の曇りガラス越しに人影が見えた。


「おふろー」

「危ないから走らないの」


 美冬と冴子だった。

 真っ裸の美冬が走ろうとするのを冴子が嗜めていた。


「やっと来ましたね、先生」


 穂高が声をかけた。


「誘ってくれてありがとうね、水城舟さん。でも、良かったの? ここって今はあなたたちの貸し切りじゃなくて?」

「いいんですよ。旅は道連れっていうじゃないですか。せっかくこのような場所で会ったのですから、ぜひご一緒に」


 穂高が気を利かせて誘っていたらしい。

 冴子が美冬と自身の身体を簡単に流し始めた。

 そんな様子を見ていた穂高が言った。


「美夏ちーと美冬ちゃんってぇ、やっぱり親戚なんでしょ。どう見ても似てるって」


 からかうような口調だったが笑えない。だって本当にそうである可能性濃厚だから。

 親戚どころか実の妹かもしれないのだ。

 正確には母親違いの妹。


「……いや、ないって。うちのパパはずっと昔に亡くなってるって、ママが言ってたし」

「じつは生きてるんじゃないの? 恵太くんや美夏ちーのお父さんなら、きっとカッコいい感じの男性なんでしょう。モテる男性って誘惑が多そうだし、離婚につながるような出来事があってもおかしくなさそう。別れた当時、小さかった美夏ちーたちには、お父さんは死んじゃったことにしたとか。……なーんてね」

「……………………」


 エスパーかこいつは。

 自分の推理と概ね同じだ。家に帰ったらガチで調査すべきかもしれない。親の生死ってどうやったら確かめられるんだろう。市役所にいって戸籍を確認すればわかるんだろうか。


「おねえちゃん」


 考え込んでいた美夏に、美冬がばちゃばちゃと泳いで寄ってきた。


「うん? なあに?」

「おせなか、あらいます」

「背中?」

「おあたまも、あらいます」

「え~?」


 洗ってくれ、じゃなくて洗わせてくれ?

 う~ん、五歳の子に洗ってもらうってのもなんだかな……。

 むしろわたしが洗ってあげたほうがよくないか?

 冴子が頭にタオルを載せ、ほぅと息をついた。


「そうそう、滝沢さん。さっきフィンさんに電話で聞いたらね」

「わかったんですか!」


 フィンさんとはどこの国の人か。ドイツ人だったらほぼ当たり。知りたかった情報がついに!


「『僕はもう日本人ですよ。骨は日本に埋めるつもりですから』ってはぐらかされちゃったの。ごめんなさいね。次の機会にもう一度聞いておくから」

「あ……、そうですか」


 なんというぬか喜び。


「ただね、逆に滝沢さんのことを聞かれたのよね」

「え? わ、わたし?」

「うちの生徒で、美冬に少し似てる感じの女の子がいますよって言ったら。その女の子はもしかしてタキザワミカですかって。すごく興奮した様子で、そのあと美冬に代わってくれって」

「ええ……」


 マジですか。わたしを知ってる時点で完全にビンゴじゃん!

 フィンさんという人がわたしたちのパパってことでまちがいなし。


 ……生きてたじゃん!

 ママ大嘘こいてんじゃん!

 ようするに、(社会的に)パパは死んでいる(ということにしたい)。


「ねえ美冬。フィンさんになんて言われたの?」

「おねえちゃんにくっついてきにいられるようがんばりなさい、っていってた」


 オイオイオイオイ……ガチだよぉ……。

 本名、美冬・レーナ・フィッシャー。年齢五歳の女の子。

 ガチの本当に妹だよおっ!


 わたしに媚びを売れと指示までされてる……。

 どういうつもりだ。まだ小さい子になんてことさせてんだパパ!

 こんな時どんな顔して接したらいいのかわかんないって。


 どんな運命のいたずらだろう。

 バケーションの最中に顔も知らなかったパパの存在を知り、おまけに腹違いの妹に出会うとか!

 いや、わたしはぜんぜん構わないっていうか、むしろ嬉しいんだよ?

 恵太もきっと同意見。お父さんが生きてておまけに可愛い妹までできた、と能天気に喜びそうだ。

 そっかあ。あいつももうお兄ちゃんになったんだなあ……。


 問題は……ママがなんていうかなんだよねえ。

 別れた旦那が別の女性に産ませた子どもにどんな感情を抱くか心配だよ。

 平静を装いつつも内心凄まじくキレ散らかしそうで。

 パパへの恨みはめちゃくちゃ根深いものがあるみたいだし……。


 とにかくいま自分がするべきことは、はっきりしている。

 悪いのは浮気したあげくに家を出てったパパであって、この子ではない。

 なにも知らないいたいけな妹を傷つけるようなマネだけはしちゃいけないのだ!


「ごめんなさいね滝沢さん。一度言い出したら聞かない子だから、相手してくると嬉しいわ」


 衝撃の事実に面食らう美夏に、微笑ましい様子の冴子が囁いた。


「え、ええ、もちろんいいですよ。よーし、おねえちゃん、美冬ちゃんに洗われちゃうぞー」


 歌のおねえさんになったつもりで! えいえいおー!




 もうすぐ十八になるという時期に存在を知った妹。

 美冬は慣れない手つきで一生懸命背中を洗ってくれるのだが、スポンジを目一杯体重かけてこするのでぶっちゃけちょっと痛い。

 我慢だ。多少痛くてもかわいい妹なのだ。姉としてこの子のすべてを受け止めるんだわたし!

 ついでにいい機会だから大事なことを聞いてみよう。


「ねえ美冬ちゃん。あなたのパパってどんな人なのかな~?」


 いったい妹はどんな人間の元で育ってきたんだろう。

 ママから聞かされたのは、パパは男性として最低の人間であるということだ。

 恵太の女好きを悪いほうに伸ばしたタイプか。

 ルックスの良さを悪用して女性に取り入り篭絡するという下劣極まりない人間性……。

 男性としてはダメでも父親としてマシな人だったらと願いたい。


「パパ、おんなのひとすき。だから、みふゆのこともすきー」


 オイオイオイオイ。いきなりポリス案件突きつけないで!

 めっちゃニコニコしてる……。

 聞きたくない! わたしの汚れた心では違う意味にしか聞こえん!

 "子供が好き"と"女性が好き"とでは天と地ほどの開きがあるんだって!

 自分の娘まで毒牙にかけたりしないでしょうね、フィン・フィッシャー!


「そ、そっかー。美冬ちゃんは、そんなパパのこと好き?」

「うん。みふゆ、しょうらいパパとケッコンするー」


 オイオイオイオイ。通報しといたほうがいいんじゃね?

 ママから聞かされた通りの人みたいね。期待を裏切らないクズっぷりだわ。

 浮気はするわ子供にトロイの木馬やらせるわ危ない思想植え付けるわとんでもないやつだ!

 なんて人なの! 妹まで利用するなんて許すまじ!


「ありがと。つぎはおねえちゃんが美冬ちゃんを洗っちゃおー」


 攻守交替。人の身体を洗うのは過去の経験もあって手慣れたもの。

 小さい子の身体を洗っていると風呂ギライの恵太に苦戦していたころを思い出す。

 幸い美冬はなにされても全然嫌がらない。脇の下をこちょこちょくすぐってもめっちゃ嬉しそう。スバラシイ!

 リズムに乗って「This Little Pig(子ブタちゃん)」という幼児向けの手遊びソングを歌いながら、もちぷるな二の腕をフキフキ。


 この子ブタちゃんは 市場へいったよ♪

 この子ブタちゃんは おうちでお留守番♪

 この子ブタちゃんは ローストビーフを食べた♪

 この子ブタちゃんは なにも食べなかった♪

 この子ブタちゃんは ウィーウィー泣きながら♪

 おうちに帰ったよ~♪


 ずーっと昔にママに教えてもらった外国の歌だ。

 ママとお風呂に入ってたころはいつも歌ってもらってた。


「そのうたしってるー。パパがいつもやってくれるのー」

「ありゃま、偶然だね!」


 柔らかな黒髪を揉みながら頭に〇ッキー〇ウス耳風の泡を作ると喜んでくれた。キュート!

 こういう遊びは恵太だとやらせてくれなかったからな~。


「美冬ちゃんは黒い髪でよかったね~」

「ん-?」

「黒は女を綺麗に魅せるっていうしね~」

「くろー?」

「おねえちゃんみたいに茶色だと学校で男の子にからかわれるんだよ~」

「がっこー?」


 苦い思い出だ。昨日のことみたいにハラ立つわ!

 美冬は、くりくりした茶色の瞳を丸くさせて美夏の顔を見つめた。


「みふゆ、しょうらいおねえちゃんみたいになりたい」

「え~、そうなの!」


 おうおうおう。モーレツにカワイイこと言ってくれるじゃないの。お世辞も言えるなんて将来が楽しみだわ。

 さすがわたしの妹! むぎゅ~っと力いっぱい抱きしめとく!

 きれいさっぱり垢を落としたところで湯舟に戻り、美冬は冷河・仁美・穂高と順番に見つめた。

 するとおもむろに穂高へ近づきその巨乳をぺたぺた触りながらポツリ。


「みふゆ、こっちのおねえちゃんみたいにおおきくなりたい」

「あら~、そうなんですか。そう言って頂けて嬉しいです」


 愛くるしそうに穂高は豊満なバストへ沈めるように美冬を抱きしめていた。


 おうおうおう。あっさり心変わりとはなんて妹だ。それともこれ誰にでも愛想振りまいちゃうやつか? 小悪魔っぽい片鱗を若干五歳で発揮するとは末恐ろしいぞ。こういうトコはさすが恵太の妹って感じね!

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