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そして再び君に出会えたなら

 達也の話をすべて信じたわけじゃない。

 自分が特別な存在だなんて、大それたことも思っちゃいない。

 人は誰だって自分は特別な存在だって信じたいもんなんだ。

 役者やってた頃は天才だなんだとおだてられ、ある種の万能感に酔いしれたこともあるが、今のアタシはただの人でしかない。

 

 それでも、もし本当に、自分に妙な力があるというなら。関わった人に幸運をもたらす座敷童みたいな力があるんだったら、いつまでも恵太のそばにいたって構わない。


 ミカに連絡して、いつでも面会させてもらえる許可はもらえた。

 恵太の意識はまだ戻っていないが、身体に深刻な異常はないらしい。

 意識が戻る時期は神のみぞ知るということだ。


 いずれ目を覚ますと信じて待ち続けた。

 年を越し新年を迎えても、恵太は目覚めない。


 何度か病室に通ううち、恵太のお母さんにも「付き合ってたんでしょう?」とバレてしまった。

 特に怒られることもなく、悲しそうな顔で「いつもありがとうね」とお礼を言われただけだった。

 その時のお母さんの気持ちを想うと、アタシには返す言葉が思い浮かばなかった。


 もしかしたら恵太はこのまま目覚めないんじゃないか。

 いつまでも外されない器官チューブだけが作動し続けて、恵太の心が帰ってこなかったら……?


 不安だけが膨らみ、時が流れていった。

 あれからちょうど一ヶ月。

 恵太はまだ目覚めていない。


 病室の引き戸を開けるとすでにミカと穂高さんが来ていた。

 恵太のベッドのそばの椅子に座っていたミカが声をかけてくれた。


「リア、いらっしゃい」

「こんにちは」

 

 ちなみに恵太の病室は個人用だ。病室というか特別室? 天井にはモニター、入り口近くにはユニットバスとキッチン、部屋の中央には高そうなソファやテーブルまで据え付けられて、高級ホテル顔負け。やらかした政治家が雲隠れ用に滞在しそうな部屋だ。

 ソファに座っていた穂高さんが不満そうな顔でいった。


「美夏ちーってば、妙成寺さんは歓迎するのに、あたしは歓迎してくれないの?」

「いや、だって、穂高は呼んでないし」

「あーら、そんなこといっていいのかな~。恵太くんの治療費・入院費・個室費用その他諸々のお金がどこから出てるかおわかり~?」

「ぐぐっ……!」

「このあたしが、我が水城舟グループの代表取締役社長であるお父様に頭を下げてお願いしたからでしょう。うちの社員の家族を命懸けで護ったための負傷なんだから、アフターケアはあたしたちの役目でしょ! って懇切丁寧に力説してみせたからでしょう」

「ぐぅっ……きたない! きたなすぎるわ! お金の力を振りかざしてわたしたち弟を意のままに操ろうって魂胆ね!」

「勝手に悪者フィルター通さないでくれる? あたしはいくら邪険にされようとも、恵太くんが完治するまで治療費は受け持つし、最後まで責任も持つ。だから感謝してね、とはいわないけど、それでも礼儀としてお茶のひとつくらい出してもバチは当たんないわよ~」

「言ったわね。じゃあ最高のお茶をお出しして、とっととお帰り願おうかな!」


 ミカが立ち上がってキッチンに向かう。


「ウソ! こんだけ豪華な部屋なのにキッチンにポットないなんてありえる?」

「ないなら借りるしかないねー。滝沢って患者様は今超VIP扱いだから、呼びつければ喜んで持ってくると思うよー」

「そんな横柄な振舞いするもんですか。自分で借りに行くわよ」


 穂高さんに逆らう形で、ミカは部屋を出て行った。


 ちらりと覗いた恵太の姿はこの一ヶ月の間ちっとも変わらない。

 相変わらず器官チューブを付けられた痛々しい姿……。


 アタシはなんとなく居心地の悪さを察し、入り口で立ち尽くしてたら。


「妙成寺さんもこっちに来て座ったら?」


 穂高さんがそう言って手招きする。

 言葉とは裏腹に棘を感じた。

 理由はまちがいなく恵太絡みだろうな。


 穂高さんとは一ヶ月前、あの火事の日に会って以来で顔を合わすのは久しぶりだ。

 ミカがいうにはちょくちょく来てたそうで、今日までアタシと鉢合わせることはなかった。

 個人的には彼女のことはよく知らない。

 大企業のご令嬢であるとしか、ミカからは聞いてない。

 ミカはあんまり穂高さんについて話したがらないし、友人だけれど折り合いが悪い?

 

 穂高さんの優雅な微笑みの中には険があって、腹に一物隠すタイプなのはまちがいない。

 アタシにとってもとにかく微妙な人なのだ。


「お久しぶりです」


 穂高さんに勧められ座ってみたが、彼女の微笑の圧に耐えられずにアタシから口を開いた。


「あの、ミカとはその、ケンカでも?」

「ケンカ? そんなんじゃないよぉ。ただのじゃれ合い。美夏ちーとはいつもあんな感じだしねぇ」

「はあ」

「だいぶ調子も戻ってきたようだしいいことよ。いつまでも落ち込んでたって、事態は変わらないんだから」

「ああそうだったんですか」


 思ったよりいい人そうでよかった。


「困っちゃうわよねぇ。あたしが恵太くんに近づこうとするとすごい勢いでガードしてくるんだから。美夏ちー的にあたしはふさわしくないって思われてるみたい」

「そ、そうなんですか……」


 笑っていいものかめっちゃ困る。


「でさあ、どうして妙成寺さんならいいって思われてるのか、そこのところ知りたいわけよー」


 いきなりにきた!

 まるで感情切り替えスイッチでも入れたみたいに、穂高の穏やかな笑顔は引っ込んだ!

 親の仇のような凄みで睨まれてアタシはたじろいだ。


「あたしはねぇ。男の子にはルックスの良さを求めてるの。顔が良いってすごく重要だと思わない? 昔、人は見た目が九割ってロングセラー本があったらしいけど、あたしは十割だと思うくらい。だって内面って見えないし、人と比べることもできないじゃない? 中身が大事なのは当然にしても、それを最初から見極めたりはできない。そんな不確かなもので悩んでモタモタしてるより、まず顔で選んですべてはそれからってね」


 穂高さんのぶっちゃけトークに熱が入っていく。


「自分の中に基準があると、物事ってスムーズよぉ。別れ道になったら右を選ぶって決めてれば、答えの無い問題に答えが出せるもの。あたしの場合はさ、家の都合もあって自由に恋愛できそうなのは高校生の間がせいぜい。迷ってる時間も惜しいってやつね。ろくに恋愛経験積まないまま親に相手選ばれるのもイヤだったし、せめて今だけは好き勝手やってやろうと思ってねぇ。でも、そうして何人かとお付き合いしてはみても、なんか違うなってなっちゃう。だって、みんな幼稚なんだもん。下心みえみえなのはまだ我慢できても、基本的なエスコートがなってないのがもうダメダメ。階段降りるときは手を差し伸べるとか、歩道は車道側を歩くとか、超簡単なことでいいのにそれすらできないってなんなの? あげくデートしてて歩調合わせずどんどん先へ行っちゃうとかありえないでしょ~。そう思わない?」

「思います。たしかにいますよね。いっしょに行動しててモタついたら遅いって文句いう人」


 実際そういう目に合ったことがないが(恵太だとそのへん気を遣うから)、シチュエーションは理解できそうだ。

 達也に勉強を見てもらうときなんかは常に時間との勝負で、回答が遅いと正解でも文句が飛んできたもんだ。


「んっふっふ。そこいくと恵太くんって理想的だったわけよー。ルックスだけじゃなくてぇ、常に女子の所作に気を配って、細かく手を差し伸べるなんて当たり前になっちゃってる。どんなキザな仕草も見事にサマになるの。他の男の子が恵太くんを見たら、きっと大笑いするでしょうね。男らしさのカケラもない、女子にへりくだって恥ずかしいマネばかりしてるって。わかってないわよねぇ、女子のためなら恥を掻くのもいとわないその姿にグッとクるのにさぁ」


 穂高さんが柔和な笑みで同意を求めてそうだったのでアタシは反射的に笑顔で返す。


「わかります! 女子が求める理想のセリフがオートで出ちゃってるっていうか!」

「妙成寺さん、あなたは笑ってる場合じゃなくない?」


 空気が張り詰めたように感じた。

 マジギレオーラというのはこういう何気ないセリフがもっとも感知しやすい。


「あたしさぁ、はっきりいってあなたのこと嫌いなのよ。恵太くんの彼女のくせに信じてないよねぇ。恵太くんの意識が戻らないかもって、半ばあきらめてるでしょう?」


 この際、実は嫌われてたのはどうでもいい。

 そんなのは慣れっこだ。

 そんなことより後半のセリフは聞き捨てならない。


「そんなことありません! ちゃんと信じてます。だからこうやって、いつ気がついてもいいよに、穂高さんみたいに通い詰めて──」

「ウソばっかり。ここに来てからろくに恵太くんを見てないんじゃ説得力なし。さしづめもう見てられなくて、本当はお見舞いにも来たくなくなってる。あなたの顔見てればわかるのよ」

「…アンタにアタシの何がわかるんだよ!」

「わかるわよぉ。だってあたし、あなたのこと嫌いだからね。もー嫌いで嫌いで嫌いすぎて。かーなーり調べちゃったし。ほとんどストーカーかもねぇ」


 穂高が自らのスマホの画面を見せてきた。

 映っていたのは……アタシの初主演作の『ソルスペクター』の映像だ。


「なんでそんなもの……」

「これがあなたの初めての映像作品でしょ? あたしはあなたが出てる作品ほぼ全てに目を通したの。とっても可愛い笑顔が大人気で、ぱっとみさっきのあなたの笑顔とまったく同じ。でもねぇ、何度も何度も映像見てると、あなたが本気かどうかなんとなくわかるのよ」


 気に入らないな。

 アタシの映像を見ただけで、アタシの心の内がわかるもんか。

 でも……「恵太を信じきれてない」という穂高の言葉は当たっているかもしれなくて。


「べつにムリしなくていいんじゃない? お医者様じゃないんだし、回復の手助けができないのは仕方ないよ。でもね、だからって恵太くんを信じることすらできなくなったなら、彼女なんてやめちゃえば? そのほうがせいせいするわよ。あなただってお見舞い来る必要なくなるし、恵太くんの姿も見なくて済む」


 穂高が立ち上がって、恵太のベッドのそばに寄った。


「あたしはねぇ、これから先の人生で、恵太くん以上の男の子に出会える可能性がないって、本当に心からそう思うのよ。ええ、顔がいいとかエスコートができるとかそんなんじゃなくて、彼の考え方っていうのかなぁ。男の子なら持ってるはずのプライド……意地……自尊心。恵太くんにもぜったいにあるはずなのに。プライドも意地も、自分すらも捨てて誰かのために動こうとするの。どうしてそこまでできるんだろうって。そんな人、めったにいないよ」

「言われなくたって……知ってる。十分すぎるくらい」


 恵太以上の人に出会いそうにない?

 そんなのアタシだってそうだ。

 プライドも意地も、自分すらも捨てられる?

 付け加えるなら、恵太の諦めの悪さだって知ってるよ。


 アタシだって諦めないと躍起になりもした。

 少しでも恵太の力になりたくて、ほとんど毎日のように病室に通い詰めた。

 彼の手を取って早く目覚めるように願い続けたんだ。


 けれど、何も変わらなかった。

 恵太は決して目覚めることはなかった。

 心臓が動いてるだけで。

 人工呼吸器を止めてしまったら本当に死んでしまうような状態。

 これで生きているといえるのか。

 そんな姿を一ヶ月も見ていれば、希望が萎えてしまっても仕方ないじゃないか。


「お医者様がいうにはね。脳波は出てるらしいのよ」

「脳波って……? 心臓だけじゃないってこと?」

「そう。つまり夢を見てるのに近いらしいのよね。目覚めてもおかしくないはずなのに、なんで起きないのかって聞いてみたら、ヘンな答えが返ってきてさ」

「……どんな?」

「夢の中で道に迷ってるんじゃないかって。お医者様なのに、ずいぶんスピリチュアルなこというのねって思ったけど、そういうのじゃないの。くわしく聞いてみたら全然科学的なお話。脳の神経細胞はいくつもネットワークを作ってて、大きな事故に遭ったり生死にかかわるような体験をするとネットワークに乱れが生じるらしいの」


 穂高は恵太の頭に手をやって撫でた。


「想像してみて。ネットワークが乱れたまま意識を失って、わたしたちの今いる現実へ戻るための道がわからなくなったとしたら。正解はたった一本の道しかないのに、すごく細かい迷路に迷い込んだようなもの。心が帰るためには、案内が必要だと思うでしょう?」


 ネットワークだ迷路だのってどうしろっていうんだ。


「案内はあなたがやってみるべきだと思うのよ。少なくとも彼女なんだから」

「いや……アタシは……」


 アタシは無理やりその枠に滑り込んだだけなんだ。

 相手の弱みを握って。

 穂高がぐずるアタシの手を引いて、恵太のそばに立たせた。


「呼びかけてみてよ……何度でも。こっちの声は、恵太くんにも届いてるはずなの。人を信じるっていうのは、ただ思ってるだけじゃ届かないんだよ」

「知ったふうなこといって。今までもずっと変わらなかったのに……」


 なにをやっても無駄だったと思い知らされるのが怖い。


「アンタがやればいいじゃん……」


 パン、と穂高がアタシの頬を一回張った。


「あたしがやらなかったと思ってる? ここに来るたび、ずっと話しかけたわよ! だけど、ダメ。あたしと恵太くんじゃ過ごした時間が短すぎるの。いい? 呼びかけるってことは、呼びかけた人との思い出を相手に想起させることなの。あたしよりも、妙成寺さんのほうが過ごした時間が長かったはず。恵太くんにとっても、暖かい思い出に溢れてたはず」

「アタシが呼びかけて、本当に効果あるの?」

「そんなのわかんないわよ。でも、できることがあるんなら、可能性がわずかでもあるんなら、とにかくやってみなきゃ。さあ」


 穂高に場所を譲られて、人形のように白い恵太の顔に近づいた。


「ねえ恵太。聞こえてる?」


 キミはアタシのこと、どう思ってたの?

 初めて出会った学校の教室で、元気をなくしてたアタシのところにキミは来てくれた。

 アタシがどんなに煙たがっても、嫌な顔ひとつしないで辛抱強く接してくれた。


 アタシに言わせれば、キミのほうこそ超能力者だよ。

 いつの間にかアタシの心に元気を戻してたんだから。


 キミはいま暗闇の中で迷ってるの?

 出口がわからないのなら、こっちのほうへ来てほしい。

 アタシにとってキミが光だったように、アタシもキミの光になってあげたいんだ。


 キミにとって、アタシは元気づけた女子の中の一人でしかないのかもしれない。

 この八ヶ月あまりの付き合いもキミにとってはありふれた日常でしかなかったのかもしれない。


「アタシはキミに出会えて、本当に良かったと思ってる。アタシにとっては、キミとの思い出は全部が輝いてて、他のなににも代えがたいくらい大切なもの。……それでね、アタシたちの思い出でキミにとって一番印象強いのってコレしか思いつかないんだ。だからゴメン。先に謝っとく」


 恵太にとってもっとも印象強い思い出。

 それは彼のヒミツに根差したものだろう。

 聞こえているのなら、決して黙っていられないはずだ。


「早く起きて。キミに拒否権はないから。カレシ続けないんならあの人にヒミツバラすよ」

「……あの人? ヒミツ?」


 穂高のつぶやきの後、病室の戸が開いた。


「ただいま~。どこでポッド借りればいいかわかんなくて、結局食堂でお茶入れてもらったわ」


 ミカが盆に三人分の湯飲みを載せて入ってきた。


 誰の声に反応したのかわからない。

 朝、自然に目覚めるみたいに、恵太の目が少しだけ開いた。


「やったよ!」


 その様子を目の端でとらえたミカが盆を落として湯飲みがひとつ割れた。


「恵太。聞こえる? 恵太!」


 届いてる。アタシたちの声にまぶたで反応してる!


「恵太!」

「恵太くん!」


 布団の端から恵太の右手が出ていた。精一杯腕を上げようとしているみたいで、アタシは恵太の手を取る。


「美夏ちー、そこのナースコール押して!」

「そそ、そうだ。そうよね」


 ミカが一度でいいのにボタンを連打していた。

 回りの慌ただしさに、恵太の目がせわしなく動く。

 人工呼吸器がついたままなので、喋れないのが辛そうだった。


 恵太がアタシの手のひらに、指でゆっくりなぞり始めた。


「なに?」


 き・こ・え・た


 たぶんそう書いたように思う。

 ムリして笑おうとしてる恵太がたまらなく可笑しい。

 恵太にとってはなによりも無視できない問題だもんね。


「安心していいから。起きてくれたんなら、契約は続行だし」


 安心したように、恵太は指でトントンと返事をした。




 次の日、恵太の病室に行くとなぜかミカと恵太が顔を突き合わせていた。

 ベッドから身体を起こした恵太の顔をミカが両手でがっちり固めて見つめ合っているのだ。

 見つめ合うというよりアレだ。どう見てもキスする一秒前って感じだ。

 ついにあってはいけない禁断のマチガイが起こってると思ってアタシは。


「待って待って待って! ダメですダメです、それだけはゼッタイダメです!!」


 病院であることも忘れて叫んでいた。


「……? ダメってなにが?」


 ミカが恵太を離して何のことかわからないという風な顔をする。

 恵太も特に動揺してるようには見えず、アタシが考えてたような禁断の行為ではなかったらしい。

 冷静に考えたらミカが恵太にキス迫るってありえないんだった。


「ああ、ゴメンなさい。つい早とちりを……」

「早とちり? よくわかんないけど、リアちゃんいらっしゃい」


 ミカが手招きして、ベッド脇の椅子を勧めてくれた。


「お二人さん、つもる話もあるでしょうし、邪魔者はしばらく席を外すわね~」

「いいよ、そんなに気を使わなくて」


 恵太が恥ずかしそうにいった。

 ミカはうふふと微笑みながら病室を静かに出て行った。


 改めて二人きりになるとどう話していいものか悩む。

 この一ヶ月色々話したいことがあったはずなのに、いざ恵太本人を前にすると言葉が出てこないんだ。


「アシリア、元気だった?」

「いやそれアタシのセリフだし。病人が見舞い人の気遣いっておかしくない?」

「自分自身、病人って感じがしないんだよね。寝過ごしまくって、体がずっしり重いくらいで」


 恵太が肩を大げさにぐるぐる回す。


「とにかく良かった。すぐ退院できるんでしょ?」

「先生の話では明日あたりに。色々検査があるらしくて」

「そう。あの、良かったらこれ」


 アタシはバッグから売店で購入したお見舞いの品を取り出した。


「フルーツゼリー? 本当にありがとう」


 恵太が深々と頭を下げてきた。


「お礼とかいいから。そんな大したもんじゃないし」

「ううん、それだけじゃなくて。姉さんから聞いたんだけど、アシリアが何度もお見舞い来てくれたっていうから」


 非常に小恥ずかしくなってきた。

 うう、恵太の顔が正面から見れない……。


「もう、そんなのどうでもいいから! べつに大したことしてないし!」

「十分良くしてくれたよ。だから俺も目覚めることができたって、今はそんな気がしてる」


 恵太がアタシの手を取った。


「アシリア、俺は俺にできることならなんでもするつもり。本当に感謝もしてる。ただ……一つだけお願いを聞いてほしいんだ」

「お、お願い?」


 恵太がクリスマスデートのときみたいな真剣な眼差しを向けた。

 唇を噛みしめ、心なしか手に力も入ってて……まさか! え、ここでしたいの!?


「ちょちょ、ちょっと待って! 心の準備が! さすがに病院でなんて」

「……どうか俺とは別れてください」


 アタシの手を優しく包んで、恵太はいった。


 言葉が脳に届いたとき、世界が凍りついた気がした。

 待って。おかしい。ぜったいにおかしい。


 いや、恵太がおかしいのは大体ノーマルなんでそこはいいとして。


 ヤバイ。意味わかんない。アタシのなにが悪かった?

 最初からとか言われたらチーンなんだけど、どしたらいいの?

 これって修復可能なのか。それとも難破する豪華客船みたいに決定事項でもうどうにもならないのかな。

 いよいよもってお姉さんネタで脅して考え直させるほかないのか。


 それ以前にこのタイミングで別れを切り出すってどうなん?

 どう考えたって、今はそんなタイミングじゃなかったよね?

 これからもヨロシクねって流れだと思ってたのに!


 あれ、アレ、アレ……?

 とにかく何かいわなきゃ……!


「……ナンデ?」


 絞り出したセリフは、自動音声案内のようなトーンになった。

第二章終了になります。

ここまで読んでくださった方には感謝しかありません。

三章からは巻きに入ってそのまま終章の予定です。

ここから少しお休みをいただきます。

過去やら現在やら未来やら別次元やら運命やら色々交差し始めるので頭の中で整理する時間が欲しいです。

あとクロノクロスやる時間も欲しいです(本音)。

毎日更新は想像よりもしんどいですね~。長い間欠かさずやっている方は本当に尊敬します。

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