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独走する女優

 遊園地デートでそれなりの手応えを得たアタシは調子に乗った。

 夏休みの課題をやるというリッパな名目のもと、町の図書館で恵太との密会を重ねた。


 なかなか首尾は順調じゃないかなと思っていた。

 恵太はしょっちゅう勉強そっちのけでアタシの好みを知ろうと質問してくるし、少なくとも無関心ではない。

 一から十まで答えずに、ちょっとミステリアスな女を意識したほうが恵太には効果ありそうだ。

 なんにせよふたりで勉強ミッションは良いアイデアだった!


 欲を言えば恵太かアタシの家でふたりっきりが良かったが、アタシの家に男子を連れてくとお父さんが渋い顔しそうだし、恵太も「本当にごめん。うちは母親が厳しくて……女子を連れてくと地獄の磔刑が……」とめちゃくちゃ不穏なことをいっていた。

 それはそれで超気になるし……チャンスがあれば恵太のお母さんもぜひ見てみたい。


 このところ恵太と会っているときに気づいたことがあった。

 誰かに見張られてるような……遊園地デートのときも感じていたが、ただの自意識過剰だと思って放置していた。

 恵太はそういう気配に気づかなかったみたいだ。


 しかし、図書館で恵太の隣に座って勉強してるときにはっきり確信した。

 本棚の陰から帽子にサングラスをかけた長身の女性がジィーっとこっちを凝視……本を開きつつも明らかに読んでない。

 うまいこと帽子に押し込められた髪の毛は、恵太と同じ鮮やかなブラウンヘアだ。


 あの人……恵太のお姉さんじゃね?

 サングラスかけてても顔の輪郭までは隠せないしぜったいそうだ。


 え、なんで? アタシたちを見張ってんの? 恵太のお母さんが異性交遊に厳しい人だとは聞いてるけど、お姉さんまでそうなの?

 もしお姉さんに難色を示されるようだとマズいかも……早いうちに手を打つべきか?


 九月末になり学校の放課後、武村恵麻から経過報告を求められた。

 恵太と一緒に帰るという至福の時をジャマされた……でもエマにはたびたび相談に乗ってもらってるのでここはぐっとガマン。


 ニマニマ顔でエマが尋ねた。


「もう滝沢くんとはキスした~?」

「キ、キス!? ちょ、やめてよ、キスとかそんなん……。アタシらはもっとプラトニックなやつで……」

「おーっとなにやらディープなやつを想像してるようですが、キスといってもほっぺにチューとかもありますぜ~?」

「……と、とにかく! そんなんしてないし! しなくたって気持ちが通じてればそれで……」

「甘い、甘すぎるよアッシー。気持ちだけで男子が満足すると思ったら大間違いや~。あんまり呑気なこと言ってると万が一ということも……」


 やけに煽ってくるエマの言葉に聞き耳を立てていたらしい人物がいた。


「あの……妙成寺さんと滝沢くんって、そうなんですか?」


 窓際の席で帰り支度をしていた宝多仁美が割って入ってきた。


「お、仁美もキョーミありますか? 実はそうなんだよね~」

「ちょ、あんま言いふらすのヤメて……」


 アタシはエマの口を塞ぎにかかったがもう遅い。

 ぶっちゃけアタシは、この宝多仁美を警戒している。


 薄幸の美少女というカンジで儚げな雰囲気をもつ要注意人物……。

 以前席順が近くなって世間話程度はしたことあるし、決して嫌いな子じゃない。

 恵太の笑顔カテゴリーがアタシと同じというところに勝手ながらライバル意識を持ってるだけだ。


 性格が大人しそうに見える子ほど本音が過激というジンクスを信じてるのもあるし、ふだん仁美が視線を向けている先が恵太であることも多い。

 明らかに彼に気があるのがバレバレなのだ。


 ついでに達也が懸想してるのが仁美であることもバレバレ。

 仁美に対してだけ真珠を愛でるかのような態度なのですごくわかりやすい。

 ま、アイツに関してはご愁傷様としか。


「あの……お付き合いしてどのくらいなんですか?」


 恋敵への対抗心なのか単なる興味なのかわからない調子でアタシに問う。


「……そろそろ四ヶ月くらい……かな?」

「そうですか……」


 仁美はそういうとアタシをまじまじと見つめて頭を下げると教室を出て行った。

 結局……なんだった?

 やっぱり恵太に気があるから現彼女のアタシに敵対心でもあるのかな。


「仁美にしてみたらフクザツかもね~。小中ずっと滝沢くんと一緒だったみたいだし~」

「……な、なるほど。たしかに思うところはありそうなカンジ」


 恵太と付き合ってると潜在的なライバルが多いという事実を改めて確認。

 気持ちだけ通じてればなんて甘いこと言ってたら横から持ってかれかねないなコレ……。

 キスをするとか、恵太の気持ちをソッチ方向に持っていくのも悪い考えではないかも。

 アタシにできるかどうかはこの際置いといて。


 よ~し、じゃあキスするぞ! と意気込んだところでアタシにそんなことできたら今まで苦労してないのだ。

 なにせデート一つするのにエマへ泣きついたからね……キスするにはいったい何人に泣きつけばいいんだってカンジだ。

 というわけで十一月に入ってもアタシと恵太の関係は相変わらず。


 向こうもアタシに積極的に話しかけてくれるようになったし、休日にはちょっとしたお買い物デートもするようになった。

 順調順調! ……でもそれだけなんだよね。

 今より次の段階へ行こうと思ったらどうしたらいいんだ?


 十一月末頃、恵太からクリスマスは空いてるかと尋ねられた。

 もちろん空いててヒマしてたが、できるだけもったいぶってオーケーしておく。

 ふだんデート誘導するのはアタシからだったので、彼から誘われるのは何気にはじめて。

 これはひょっとするとひょっとするかも。


 もしかすると起爆剤になりうるかもしれない。

 ややマンネリ気味だった恵太との交際に一石を投じそうだ。

 漠然と考えていたキス事案をクリスマスイベントに起こす……まさに理想のシチュエーション。このときをおいて他にない。

 ウキウキ気分でクリスマスについてエマに相談しておこうかと思ったらいつものニマニマ顔で。


「もう滝沢くんとはエッチした~?」

「……うぇええ!? ちょっとマジでやめろし! なんでそうなんの!」


 このところ思うんだよね。もしかして相談する相手まちがえてんのかなって……。


「うん、その反応でよっくわかったよ~」

「……つまんないギャグは置いといて! 来月のクリスマスにデートしよって恵太から誘われてさ……」

「ワーオ完璧! どう考えたってヤるチャンスじゃん!」

「もおぉぉぉぉ! 下ネタから離れろし!」

「いや~。反応が理想的すぎてつい。……んで、クリスマスだっけ?」

「そう。上手く言えないけど……そろそろ次の段階に行きたいとは思ってて、どうすればいいのかわからない的な?」

「次の段階ってやっぱエッチ……」

「だ・か・ら!!」

「わかったわかった。ようするに、仲が良くなっただけじゃ物足りないってことでしょ?」

「そうそう。だから、その……キスとかする時期なのかな~って」

「ていうかまだだったんだ……。まあ、それはいいとして、非常に残念なお知らせがあります。実はあたしにできるアドバイスは、もうほとんどないんだよね~」

「そ、そうなの?」

「滝沢くんは短い付き合いばかり繰り返してる人だからね~。半年近く付き合ってる子ってアッシー以外知らないんだわ~。まさに未知の領域ってやつだね~」

「……そっか。もうエマにとってもわかんない次元なんだ。わかった、あとはアタシだけでなんとかしてみる!」

「その意気だよ~。応援するだけもなんだし、最後にひとつだけ忠告しておきましょう」


 恵麻が教え子に諭すようにいう。


「思うに滝沢くんははじめてマジになってるんじゃないかな~。付き合い長いわりに進展が少ないってコトはそうでしょ? その彼がクリスマスに誘うってのは、相当覚悟きめてると思うわけ」


 うんうんとアタシはうなづく。


「よってあたしからはこれを進呈してしんぜよう。さ、手を出して」


 アタシは言われるまま手を出して、エマに何かを握らされる。

 ……中身はゴムだった。五月初め女子だけ教室に集めて、養護教諭に配られたアレだ。

 カレシなんか作らんと思ってソッコーで捨ててしまったヤツだ。

 この学校、なぜか性教育にマジメで忌避しがちなアレやコレも海外みたいに教えてたからな。

 そういうコトすんなと禁止するより、するならするでリスク回避しろの方向性か。


「だから下ネターっ!」

「ちょい待ち、これ大マジなやつだから! 今回のアッシーの最終目標って滝沢くんとキスするまででしょ? でも男子がそれだけで満足するわけないから! ぜったいそれ以上求めてくっから!」

「んぐ……。け、恵太に限ってそんなことありえないし! 今までだってヤらしいことなんてちっとも!」

「わかってない、わかってないな~。オトコってものがわかってない~。滝沢くんに白馬に乗った王子様を期待したくなるのはわかるけどそうじゃないわけよ。もし仮にだよ? もし仮に滝沢くんにキス以上のコト求められたとして、アッシーちゃんと断れる?」

「うぅ…………それはぁ……」

「断りにくいでしょ? これで嫌われたらって思うと迷うでしょ~? 俺のこと好きじゃないの? 好きならいいよね? 一回だけだから。なーんてよく聞く話だよ~。身を守るためにもっとくべきだから。なにもないならそれでいいんだしさ~」


 うまい具合に乗せられてる気はするものの、エマのいうことももっともだと思い、アタシはゴムを受け取った。

 いや、恵太を信じてるし、アイツはお姉さんラブだからあり得ないとは思ってるよ!


「あのさ……知ってたら教えてほしいんだけど、その……恵太ってこういうの、経験あったりすんのかな?」

「さあ? あってもおかしくはないかな~。キスまでならあたしもしたよ」

「ちょっと待って。キスって恵太と? キスって口と口で唾液交換するやつ? ……したのっ!?」

「中三のとき、一緒の塾に通ってた帰り道に、まあ、なんかノリで。いや、ディープでねちっこいやつじゃないよ? こう、ちょっとだけ唇当てただけみたいな。あたしははじめてでガチガチに緊張してたのに滝沢くんは慣れてる感じで、けっこう悔しかったな~」


 ヤバイ。エマのカミングアウトと恵太の行動の意味不明さに頭が追いつかなくなってきた。

 あいつお姉さんラブのクセに他の女子と簡単にキスやっちゃうような人だったわけ?


「だからさ~。滝沢くんってキスするのに慣れてるんだから、アッシー相手だともっと進む可能性高いじゃん? だからゴムくらい持っとくべきじゃん」


 エマの声が遠い異世界から聞こえてくるようだ。高一でゴムだのエッチだの早すぎない? これって普通なの? アタシが世間知らずなだけ?


「大丈夫! 心配しなくても一回分あれば平気だよ~。賢者タイム? とかで連続は無理らしいね~」

「もう、しつこい!」

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