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先送る女優

 それからというもの、案の定、恵太はアタシを露骨に避けるようになった。

 教室で目を合わせようものならソッコーで逸らされてしまう。


 ……しかたないっちゃしかたないか。

 アタシも入学当初は人を避けたいと思ってたし。

 その気持ちはよっくわかるし。


 必要以上に脅したりするつもりは毛頭ないけれど、恵太にとってアタシは本音を悟られた人間なんだから警戒するのも当然。

 アタシがお姉さんにヒミツをバラしやしないかと不安なんだろう。


 まずは恵太の警戒心を和らげようと思いLINEでの会話を増やした。

 恵太のためにできることはわからないが、以前のように楽しく話せるくらいには関係を改善すべきだ。

 彼のマネして毎週観てるドラマとかの雑談をどんどん送った。


 考えてみたら、アタシ恵太の趣味って知らないんだよね。

 多くの女子と話を合わせられるから多趣味だとは思うが、特にコレってのは知らない。

 LINEで聞いても「あえていうならいかにお金を節約するか考えることかな」とイマイチわからないことを言っていた。


 お金の節約? それは単なる生活の知恵なんじゃないかな?

 アタシは子役時代の稼ぎがあって使う機会もなかったから預金には困ってない。

 恵太がお金に困ってるならいくらか渡してあげれば良いかもしれない。


 ってなことを恵太の友だちである達也に相談してみたものの。


「完全にダメ女の思考じゃねえか。金を貢ぐなんざ却下だ却下。つーか滝沢の趣味が知りたいって流れでなんで金渡すになんだよ」

「そういやそうだった……。それで、恵太の趣味って?」

「改めて聞かれると俺も知らねえな。強いて言えば女と遊ぶのが趣味なんじゃね?」

「遊ぶって……それヤラしいことするって意味?」

「ちげーよ。どっかでお茶するとかゲーセンいくとか色々あんだろ。アイツと付き合いはじめたんなら、誘われたりしてねーのか?」

「あー、うん。今のところはまだ……」


 どっちかというとアタシが付きまといはじめたとは言いにくい。


「滝沢にしちゃ珍しいな。ならお前から誘えば?」

「ア、アタシから? でも、そっか。付き合ってるんだからそれが自然だよね」


 簡単に誘えたら苦労しないんだよなあ。

 アタシは小学生経験ほぼ無し、中学は女子校で男子との接点は皆無だった。

 そういやアタシにぐいぐい向かってきた同い年の男子って恵太がはじめてだったな。

 男子との付き合い方とか知らないし……達也は家庭教師兼悪友ってカンジで参考にならないし。


 でもビクついててもしかたない!

 無理矢理とはいえ今は彼氏彼女の関係だ。

 どこで道をまちがえたか知らないが、お姉さんに向いた異常性癖をまっすぐに導くんだ。

 一番手っ取り早いのは恵太にお姉さん以外の好きな人ができること……。

 

 恵太がまっすぐになるんなら相手は誰でもいい。誰でもいいとはいえ、アタシも恵太のことが好きだから……。

 なんとかしてアタシを好きになってくれればいうことナシだけど、そう簡単にいくかどうか。


 男子の心の掴み方とかマジでわかんないからな~。

 審査員の心を掴むのとはたぶん違うだろうし。

 しかもただでさえ恵太はアタシに対して疑心暗鬼。

 嫌いこそすれ好きにさせるのは相当キビしいな。


 まずはやれるだけやってみよう。

 とりあえずまずは遊びに誘ってみよう。


 というようなことを考えてたら、なんにもできないうちにいつの間にか六月が終わろうとしていた。

 最近は時間が経つのが信じられないくらい早い気がする。

 両親が離婚した直後はありえないくらい遅く感じてたのに。

 恵太に関わってからはまるっきり逆になった。


 恵太とLINE上でのやり取りは普段と変わりないといっていい。

 教室で必要以上にビクつかれたり、目を逸らされることもなくなった(警戒自体はされてるっぽい)。

 問題なのは恵太を誘って遊びにいくという最初の難題がクリアできてないことだ。

 恵太から誘ってくれるワケないし、アタシは恋愛初心者でハードルが高すぎる。


 クラスメイトの武村恵麻には、アタシと恵太が付き合い始めたことを早いうちに話した。

 恵麻とはすっかり気が合って、今では良い友だちになれたし、彼女は中学時代恵太と付き合っていたこともある。

 一人でうだうだ悩むより、よっぽど有益なアドバイスがもらえるかもしれない。


「そんなの簡単じゃん。ヒマだったら遊びいこーでいいって」

「超シンプルだけど、マジでそんなんでいいの? エマんときはそんなカンジだった?」

「そうだね~。滝沢くんからだったり、あたしからだったり。アッシーは難しく考えすぎだな~。こういうのは勢いに任せて行動あるのみよ。仮にも付き合ってんだから、誘われて悪い気がするはずないじゃん」

「あー……そだね……」


 普通ならそう思うだろうね。アタシが誘ったら恵太が警戒するんだよね!


「とにかく夏休みも近いんだし、思い切って誘ってみなって。滝沢くん、断ったりする人じゃないからさ~」

「わ、わかった。やってみる」


 意気込んだだけで勇気が湧かず、時間だけが過ぎていき、とうとう夏休みに入ってしまった。


 ぜったいヤバい。この一ヶ月あまりの成果がLINEと学校でのおしゃべりだけとかマジヤバい。

 恵太は短期間の付き合いしかしない人らしいし、夏休みで貴重な時間を消費しては、夏休み明けに「ごめんなさいさようなら」言われる可能性が高い。


 目的を果たさないうちに別れるわけにはいかないから、別れを切り出されたらアタシはお姉さんネタで脅すしかなくなるし、脅したりしたら恵太に信頼されなくなるし。


 ……あれ? これ完全に手詰まりじゃね? どうしたらいいんだ?


 あーだこーだ悩んだ夏休み初日が終わり、次の日に中学時代の友だちに遊びに誘われた。突然べつの高校に進学して以来疎遠になっちゃったから心配してくれたらしい。

 ユッキーにアキポン(雪江に明乃)……なんていい子たちなんだ……アタシみたいな薄情者を覚えててくれたなんて。


 久しぶりに彼女たちに会いたくなって、一日くらいはいいだろうと呼び出しに応じた。


 ところで人間って怠惰な生き物だよね~。寝起きのあと五分だけとか、この曲聞き終わったら宿題しようとか、明日になったら筋トレしようとか、心ではやりたくないことを先送りにしようとするとどうなるか。

 断言しよう。そんなもの絶対やらないって。やろうと思ったときに即動かなければ時間に置いてかれるし。


 アタシもまさにこのパターンで、中学時代の友だちと遊ぶのが楽しかった。それはもう楽しすぎた。

 遊園地いったりカラオケいったりユッキーん家でスマブラしたり。

 両親の離婚という転機がなければ、こんなに楽しい毎日が続いていたのかなと未練がましいことを考えるくらいには。


 はやく恵太を誘わなきゃダメなのにって焦る気持ちをよそに、あんまりにも友だちと遊ぶのが楽しすぎたんで、アタシらは一日置きに会って遊んでばっかりだった。

 気づけば明日は八月一日の登校日という事態になっていた。


 おかしい。時間が経つのが早すぎるし。ナンデ……? 誰だよ時計の針バカみたいに早回ししてるの。時間の神様仕事テキトーすぎだし。

 ぜったいヤバい。十日前もまったく同じこと言ってたし。ここ数日の成果が旧交を温めただけとかマジヤバい。

 明日こそは! 明日こそは恵太を誘わなくては!!


 その日の深夜、アキポンからLINEが届いた。


『今日も楽しかったよね~♪ リア明日学校終わったらどうする? また遊ぶ?』

『ゴメン! 明日は予定あるの』

『そっか~残念 もしかして・・・学校でカレシできたとか?』

『うん・・・実はそう』

『マ!? どうりで前より明るくなったと思った! じゃあここ最近カレシと遊べなかったっしょ 早く言ってよ~知ってたらユキエもあたしも遠慮したのに』

『といっても付き合い始めたばっかでさ~ どうやって遊びに誘おうか迷ってたとこにアキポンたちが誘ってくれたからつい』

『ういね~青春や~ん こっちは女子高だから出会い自体がないぜ~ じゃあ明日は愛しのカレに会えるじゃん ニクいね~かつての天才子役のハートを射止めるとかどんなラッキーボーイなんだいチクショ~ 写真見せろ~』

『写真は本人に聞かないとかな~ どんなっていうとおもしろい人 すごく優しいし わけわかんないトコもあるけど そんなトコも含めて好きかな?』

『ひえ~絶賛だ~アツすぎるぜ アツすぎなんで、あたしは水風呂入って寝る! 次会ったらとことん聞いてやるから覚悟しとけ~』

『おやすみ~てか水風呂とか(笑)』

『おやすみぃ☆』


 なんだか旧友たちから元気をもらった気がした。

 よし! 明日こそは恵太を誘うぞと決意を新たにアタシはベッドに入った。

 眠りに落ちる直前までアタシは恵太のことを考えていた。


 女子に優しくて、おせっかいで、笑顔を封じられたらウソひとつつけなくて。

 本当に面白い人だ。どう育ったらこんな人になるんだろうってすごく思う。


 あのお姉さんがいたからなのかな?

 それとも恵太自身の個性なのかな?

 もし恵太にお姉さんがいなかったら、ちがっていたのかな?

 やっぱり相変わらず女子を元気にさせたいって思うのかな?


 もし……、恵太にお姉さんがいなかったら……、まっすぐな人になってたのかな……。


 アタシはそんなことを考えながら、心地よい眠りに落ちていった。

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