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過去から来た女優

 アタシの名前は妙成寺アシリアという。東京都を中心に活動してた元子役タレントだったけど、十六歳になった今、お茶の間からはすっかり忘れられた存在だ。


 もともとあれは好きでやっていた仕事じゃなかった。

 すべてお母さんのいうとおりにしていただけだ。


 お母さんには、女優になる夢があった。でもお祖母ちゃんの強い反対にあって夢は叶えられずじまい。自分が叶えられなかった夢を娘のアタシにやらせることで果たそうとしたらしい。


 お母さんは綺麗な人だったのでアタシも容姿だけは恵まれた。見た目が良いことが優れた女優になれる条件ではないとはいえ有利なのはたしかだ。


 アタシは、三歳になる前から同世代の子供たちを集めたアクターズスクールに通い始めた。

 お父さんが言うには、アタシが一歳になる頃には女優になる天賦の才を実感したという。


 芸能の世界、俳優や女優を目指すのであればスタートは早ければ早いほど有利だ。

 なぜならオーディションに受からなければ仕事は入ってこない。オーディションに受かるには審査員に選ばれなければならない。審査員に選ばれるためには、なにかしらの点で突出していなきゃいけない。


 そのために必要とされるスキルはあまりに多い。


 演技力、歌唱力、ダンス力、表現力、客観力、言語力、コミュニケーション力、スピーチ力、行動力……。

 当時のスクールのテキストにはまだまだ載っている。


 表現方法として使えるものは、女優に関係なさそうなことでも早いうちから学んでおく必要がある。

 全ては無理でも弱み以上の圧倒的な個性さえあれば目立ちやすい。


 アタシの場合は、お母さんに三つの事柄だけ徹底的に仕込まれた。

 演技力、発声力、そして審査員の目を引く魅力的な笑顔。


 とくに笑顔の訓練……思い出したら吐き気を催しそうだった。

 お母さんはアタシを思いつくまま口汚く罵倒して、あげつらい、時には頬までぶって。それでも笑顔を維持してなさいと言った。

 それは表情筋を鍛えるとか、口角をベストの位置で維持しろとかの問題ではなく、精神と肉体を切り離す作業でもあった。


 本音を顔に出さないように……痛くて苦しくて泣きたいときにも笑えるように。たとえ目の前で人が死んだとしても、唯一人笑えるようになれという狂った方法。


 その頃のアタシはまだ三歳だった。三歳だったころのアタシに強烈に印象付いた記憶は、罵倒してくるお母さんの怒りに歪んだ醜い表情だ。

 お母さんはアタシが泣くたびにこう説いた。才能のないものに英才教育するほど不幸なことはない、英才教育に応えられる才能を持つあなたは幸福なのよと。


 スクールに通いながらいくつかのオーディションを受ける日々を送って三年ほど経ったころ、出演が決まったのがニチアサのヒーロー番組「特警装着ソルスペクター」だった。

 『ヒーローが護っている笑顔が印象的な女児』という役柄でアタシにチャンスが巡ってきた。。


 この作品は二〇〇〇年から続くリブートメタルヒーローシリーズの第十二弾にあたる。基本的に悪の怪人を正義のヒーローが倒す勧善懲悪もの。子供向けの作品ではあるが、人命救助や刑事ものの側面もあったり一般ドラマとしての作風も取り入れられていた。

 制作側としては、父と子の二世代が一緒に楽しめるようにしたいという意図があったらしい。


 出演が決まったとき、お母さんは飛び上がる勢いで喜んでいた。待ちに待ったチャンスが来たのだ。きっとこう思い描いていたに違いない。まずは子役としてのキャリアを積ませ、知名度を上げて女優業へ転身させるのだと。アタシ自身のモチベーションなんかは完全に無視されていた。


 アタシは早いうちに辞めたかった。女優になりたいなんて一度も思ったことがなかったし、本当は学校に通って友達をつくりたかった。番組出演が決まってからは、小学校に通えたのは数えるほどしかない。学習はほとんどホームスクーリングのみだ。


 一年間の番組出演が終了しても状況は変わらず、むしろ悪化した。

 ソルスペクターの大人視点を取り込んだ目論見は大当たりして、作品自体に根強い人気が出てしまった。必然的にメインキャストであるアタシの名前は世間に広く知られることになった。


 バカみたいな訓練で習得したアタシの笑顔を絶賛する人もいた。母に叩き込まれた舞台演技向けの発声も珍しいといわれた。ともすればわざとらしいといえる大げさな演技が子役の中では一味違うと評価もされた。


 熱意もないのに名が売れてしまう。それが不幸の始まりだった。

 運命はなにもかもアタシの望まない方向へ転んでいった。


「あなたは天才なのよ。女優になるべくして生まれてきたの。他の誰も持ってない恵まれた才能をもってね」


 アタシが八歳のころ、お母さんはそういった。

 お母さんにはマネジメントの才能があったらしく、所属事務所のマネージャーよりも仕事を取ってくるようになった。ドラマ、バラエティ、コマーシャル……いつ終わるとも知れない仕事をアタシは粛々とこなしていった。

 語り合う友人もなく、仕事をさせるしか頭にないお母さんとの生活は牢獄みたいだった。


 いつになったらアタシは自由になれるんだろう。

 普通に学校に通えるようになるんだろう。


 十一歳になったころ、お父さんが地元の知り合いの大学教員に娘の勉強をみてほしいと頼んだ。一年後には中学生になるという時期に、ホームスクーリングだけでは学力維持に不安があったのだ。

 お母さんは、くだらない勉強させるヒマがあったら仕事をさせろと難色を示したが、学生時代は一度しかないのだからとお父さんが説得して承諾させた。


 お父さんが紹介してくれた大学教員は遠山と名乗った。はじめに実力を知るためのテストを受けると彼はいった。


「筋は悪くない。学校に通わず役者業しながらこの点数なら大したもんだ。次からはもっと適任者を連れてこよう。きみと同い年の僕の息子だが、人に教えられる程度の水準はある。仲良くしてやってほしい」


 そうして遠山が連れてきた彼の息子、達也と出会った。


 見た目こそ切れ長の目でシャープそうな印象があり勉強の教え方も文句なかったが、こいつは見た目に反して口が悪かった。

 嫌々ながらという態度を隠そうともしないし、ちょっとでも簡単な計算ミスをしようものなら「クソバカ」「脳ミソ詰まってんのか」と悪口の嵐。

 この頃のアタシは子役としてある程度の成功を収め、望んでいないといってもプライドはあった。

 激可愛スマイルキャラで通ってる身なのに、テレビで見せられないくらい態度はデカかったと思う。


 だからなのかアタシの鼻っ柱をへし折ろうとする達也とはよく喧嘩になった。


「お前のアシリアって名前本名? 芸名じゃなくて?」


 社会のテキストをやるアタシの後ろで、達也が工作関係の専門書に目を通しながら、そう聞いてきたことがあった。

 もちろん本名だ。芸名でいったら漢字読みの芦莉愛がそれにあたる(もち当て字)。名前がおもしろいとアクターズスクールに通ってた同期からも言われた。お母さんが好きな海外歌手の名前をもじったものだ。日本人なのに日本人名じゃないとかバカの証明みたいであんま好きじゃない。


「ところでお前、中学どうすんの? 今のまま仕事してたらたぶん通えないんじゃね?」


 それはアタシ自身危惧していることだ。でもどうしようもない。お母さんが学校に通うのを望んでないから。


「自分のことは自分で決めろよ。俺ならそうするね。自分で考えた結果、小学校なんて最初の一日しか行かなかったぜ」


 あ、やっぱ不登校児なんだ……休職期間でお父さんの地元に帰ってきてるアタシと違って、連日昼間の間勉強みてくれる達也はいつ学校行ってるんだと思ってた。


「だって初等教育なんてムダムダ。たぶん中学も高校もムダだぜ。同級生なんてバカばっかだし、俺は生まれながらの天才で完璧過ぎるから学校なんか行ったって退屈なだけだろ?」


 うーわスゴっ。呆れた選民思想の持ち主じゃん。本物のアホともいう。達也のお父さん、なんで息子をこんなになるまで放っといたんだろう。


「とはいっても、俺は来年から中学通おうと思ってるけどよ」


 手のひら返し早くない?


「こないだスゲーやつ見かけてよ。たぶん俺らと同い年くらいだと思うが、女十人くらい侍らせて小学校通ってる奴がいたんだ。どう見ても大名行列。野郎の髪なんて完璧茶髪だったし、人生楽しんでる感溢れまくってたね。俺もマネしたい」


 聞いて損した。ハーレム願望ありとか最悪だ。


「むしろ最高といえや。学校なんか退屈だと思ってたが、たまに突き抜けた奴がいて面白そうだ。案外ムダじゃないかもしれねーって思ってよ」

「……さっきから何が言いたいの?」

「だから、お前も、自分のことは自分で決めろってこったよ。いちいち母親なんか引き合いに出すんじゃねえよ」


 偉そうに何様だし。アタシのがチョットだけ年上なんだからな。


 きっかけといえばこれがきっかけだったんだろう。

 人生においていつかは考え方に変化が訪れる。

 それは誰かの入れ知恵かもしれないし、自然にそうしたいという欲求が出るものなのかもしれない。

 一度思い描いた夢を見ないふりはできても、消し去ることはできやしない。


 アタシは学校に行きたい。

 友だちも作りたいし、一緒に登下校もしてみたい。

 友だちと一緒に色んなお店だって見て回りたい。


 お母さんにそう言ったら猛反対された。「だから勉強させるなんて反対だったの」「誰につまんないこと吹き込まれたの」と激昂された。

 お父さんに話したら、アタシの味方をしてくれた。「お前がそうしたいというならそれがいいんだろう」と理解を示してくれた。

 こうなったら徹底抗戦するしかない。

 賽は投げられたのだ。もう後戻りはできない。


 そこからは泥沼だった。

 アタシは保護者であるお父さんに頼んで事務所を退所し、芸能界から離れた。

 数か月後には中学校に入学できるところまでこぎつけた。

 アタシのわがままから始まった両親間の争いは夫婦の亀裂を生み、お母さんとお父さんは籍は入れたまま別々に暮らすことになった。


 アタシはお父さんに着いていった。

 お母さんに着いていったらきっとまた役者に復帰させられるからだ。


 お父さんの地元の家に住むことになったアタシは、中高一貫の女子校に通った。

 友だちもできたし、思い描いていたことの大半はできたと思う。

 時には元役者だということがバレて少しだけ騒ぎになったりもした。

 まあそれもわずかなの間だけで済んだ。

 芸能人なんて三ヶ月メディアに出なければ失踪者、一年消えてれば立派な死亡者扱いだ。


 それからは失われた時間を十分埋められるだけの充実した日々を送った。

 ほとんど遊べなかった小学生時代を取り戻せるくらい、とても幸せだったのだ。

 中学三年の三学期になって、お母さんとお父さんが正式に離婚するまでは……。


 いつかはこうなると最初からわかっていた。

 わかっていたはずだったのに……アタシの心はひどく荒んだ。


 自分の世界が音を立てて崩れていくようで、気持ちが塞ぎ込む日々が続いた。

 なにをするにも億劫になり、親しい人たちとも距離を置きたくなって、友だちが進学する中高一貫女子校から別の県立高校に進路変更した。

 本当は高校に通うのも止めようかと思ったが、アタシのために何でもしてくれたお父さんを裏切るようなことはできなかった。

 誰もいない、誰も知らない、独りになれる所ならどこでも良い。

 そう思った。


「妙成寺アシリア……です。よろしくお願いします」


 進学した県立高校入学初日、全員がやる自己紹介、アタシは誰とも目を合わせない。

 まったくの偶然だったが、同じクラスには中学時代も何度か力を貸してくれた達也がいた。

 アタシの存在には気付いてると思うが、表立って挨拶はしてない。

 向こうも学校では干渉するつもりがないらしく、特に声をかけてはこなかった。


 にしても達也ってなんでこの高校に来たんだろう? 普通の県立高校なのに。アイツの学力は全国模試の上位に名を連ねるレベルで偏差値も高い。もっと上目指せたろうに。

 アイツのことだから、学校なんて家に近ければどこでもいいのかもしれない。


 達也がこの高校を選んだ理由はすぐにわかった。


 入学初日の席は五十音順だ。遠山達也の席の前は滝沢という姓の男子だった。光の加減でブロンドのようにも見えるサラサラなブラウンヘア。日本人離れした端正な顔立ち。文句なく美少年といっていいだろう。

 滝沢という男子が如才ない笑顔で自己紹介の挨拶したときだけ、クラス中の女子が「ヨロシクー」と黄色い歓声を上げていた。たぶんとっくに知り合いだろう。


 達也と滝沢も友だちのようで「また奇跡を見せてくれよ。目指せ必殺百人斬り」「なにを期待してんだよ」と席の前後でからかいあっていた。

 その様子はとても楽しそうで、昔は舐めた態度とってた達也もずいぶん丸くなったなと思った。


 もしかしてそいつが理由? 友だちがいたからここに来たの?


 三年間で大きな差ができた。達也はムダといって憚らなかった学校生活を満喫してるように見えたし、アタシはお母さんの期待を裏切ってまで欲しがってたものが今は煩わしいと感じている。


 アタシはお母さんのいう通りにすべきだったのかもしれない。一時の感情に任せて学校に行きたいなんて言わずお母さんのいう通り役者として生きていたほうが……。

 そうしていれば今頃両親は離婚なんてしなかっただろうし、滓のように溜まった後悔に心が荒むこともなかった。


 達也が眩しくて見てるのもきつい。アタシは窓の外の綿菓子のような雲を眺めながら、あの時ああしていたら今は違ったんだろうかと無意味な想いを巡らせていた。


 滝沢恵太に声をかけられたのは、高校初日の昼休みのことだ。


「妙成寺さん、なに聞いてるの?」

「…………………」


 アタシの耳のイヤホンからは適当に選曲した流行り曲が流れている。聞きたいわけじゃなくて人避けのバリア。

 アタシは滝沢の声を無視した。


「よし、当ててみるね。……いま聞いてるのは『闇に駆ける』! どう?」


 たしかそのタイトルで当たりだったと思う。


「スゴいでしょ。実は超能力! ……なわけではなくて、本当はメロディーがちょっとだけ聞こえたんだ」

「…………………」

「その曲いいよね。俺も好き。歌詞が深いというか。ネット小説を原作にしてるらしいけど、読んだことある? 俺、読んだことないんだよね」


 なんなのコイツ。一度も返事をしてないのにまるで会話してるかのように。


「もし知ってたら教えてほしいなあ」


 うるさい。あっちいけ。ネット小説とか知ったこっちゃないし、この曲も好きで聞いてるわけじゃない。


 何の悩みもないですって感じの滝沢の声が癇に障る。普段から女子にちやほやされてるタイプの男なんて興味なかった。どうせ今まで顔の良さにかまけてトロフィー感覚で女子と仲良くしてこれただけでしょ。調子こいた陽キャイケメンとか、今のアタシには嫌悪の対象でしかない。


 中々離れていかないので一言文句を言おうと滝沢に目を向けたとき、不覚にもドキっとしてしまった。

 彼はいつの間にかしゃがみ込んで、アタシの机にその端正な顔を乗せて微笑んでいた。


「あ、やっとこっち見てくれた」

「……べつに見たくて見たんじゃない」


 振り向かせたくて粘ってたか。

 思惑にハマったみたいでイラっとする。


「あのさ、アタシきみのこと全然知らないし。馴れ馴れしくされても困るんだけど」

「そうだったんだ。本当にごめんね。よく人にも図々しい奴って言われるんだ」


 ちっとも悪いと思ってなさそうだ。


「では改めまして。滝沢恵太です。妙成寺さん、ぜひ仲良くしてほしいです」

「嫌。アタシはきみと仲良くしたくない」

「お願いします」

「だから嫌だって。あっちいってよ」

「じゃあこうしよ。俺とゲームして、妙成寺さんが勝ったらこっちが言うことを聞きます。俺が勝ったら妙成寺さんとお話するってことで」

「それアタシになんのメリットあんの?」

「一回だけ。一回だけでいいから」


 まあ一回だけなら……とか思わされたらアタシの負けだ。押し売りの手口によく似ている。最初の一回は無料でとかなんとか契約させてあとは有料オプションをズルズルと……という詐欺パターン。

 滝沢はプライドも何もないように見えて自信に満ちている。態度に溢れるような余裕が感じられるのだ。たぶん今までこうやって女に取り入るのを何度も何度も繰り返してきてるのはまちがいない。ペースに飲まれたら負けだ。


 教室の入り口では、達也と数人の男子がヒソヒソ言いながらこっちを見て笑いを堪えていた。アイツまた突撃してるぜと誰かのつぶやきも聞こえる。まるで見世物扱いだ。

 コイツ、あんたらの友だちでしょうが! さっさと引き取れよ!


「いいかげんにして。アタシはキミとゲームはしないし、仲良くもしたくない。馴れ馴れしい人は嫌いだし」

「そうだよね。馴れ馴れしいのはダメだよね。じゃあまずはLINEからお願いします」


 コイツ無敵か。ストーカーの心理によく似ている。まずはお手紙からみたいなことじゃないんだよ。

 このテの人間は子役時代にも何度か見た。いかにも陽気な善人を装った風の異常者。彼らの行動にはパターンがある。最初にメールを送りつけ自分の存在を知らせる。次にあの手この手でアタシの所在を把握して撮影場所などにズケズケと押しかける。最後には自宅前にベッタリ張っていてこういうのだ。「リアちゃん、おつかれさま」と。

 背筋が凍るってのはこういう奴のことをいうんだ。


 昔のアタシだったら、ファンのやったことだからと耐えられただろう。

 でも、一般人である今同じことを許す気はまったくない。

 滝沢はのらりくらりと押していけばアタシが折れると思っている。

 捕まってないだけの異常者だという自覚がない。

 曖昧だったからいけないんだ。こっちがマジだってことを思い知らせてやれ。


「フレンド登録のやり方わかる? こうやってね……」

「いいかげんにしろ! LINEもしない! キミみたいに気持ち悪い人は嫌いなんだ!!」


 教室中に聞こえるくらい大きく言ってやった。

 教室は一瞬の沈黙に包まれ、女子グループの数組にも化け物を見るような目で見られた。

 体中の血が一気に冷えて、口の中が干上がってくみたいだ。


 これでアタシの評価は地に落ちるだろう。もう誰も相手にしなくなって高校生活は灰色決定。そのほうが静かに過ごせるからいっか。

 滝沢も呆気に取られた顔でアタシを見ていた……と思っていたら。


「よかった~。妙成寺さん、だいぶ元気になってきたね!」


 滝沢はそういってまた微笑んだだけだった。

 負け惜しみには見えない。

 苛立ちや復讐心でもない。

 まるで目的を達成したかのような清々しさが満面に出てる。


 まさか……ハッパかけたかっただけ? アタシと仲良くするとか二の次で、落ち込んで見えたからわざと?


 滝沢の短い言葉で教室の緊張は解けて、どっと安堵した空気が生まれていた。

 なんなのこれ? なんなのコイツ?

 わけがわからなくなり怒りと羞恥心とが入り混じった気持ちのまま、アタシは逃げるように教室から飛び出していた。

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