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もう一度アウェイク②

 ありえない。何度そう思っただろう。

 夏休み十日ぶりでざわつく教室の中で、頭を抱えたいのをこらえながら、恵太はノートを取り出した。

 今の状況を書き出してみるためだ。

 まず、家にいた謎の女子は滝沢美夏(タキザワミカ)というらしい。母が居間の壁にかけた命名紙を見てわかった。大急ぎでフォトアルバムを引っ張り出してみると、確かにいる。母・恵太・美夏の三人で写っている写真が大量にあった。


 待て待て待て。これはあれか? 俺たちは姉弟ということ? それとも兄妹か? どっちだ?


 小学校運動会のときの写真を見つけた。ピースサインで一緒に写っている美夏の体操着ゼッケンを確認したかぎり、当時の自分より一学年上。つまりお姉さん。

 アルバムを遡っていくと、赤ん坊の恵太を指でつついて喜んでる幼児期の美夏まで確認できる。

 どうも生まれたときからずっと一緒に暮らしてたらしい。


 らしいらしいと他人事のように感じてたが……当事者なんだよなあ。


 いくら思い返してみても、母子二人だけの家族だったはずなのに。

 決して三人家族ではなかったはずなのに。

 どういうわけか母に聞こうと電話してみても仕事中で出てくれないから困る。


 学校に到着したときも奇妙なことがあった。

 二年二組の教室に向かうと見知った顔が誰一人いない。

 おかしい……少なくとも女子の顔は全員記憶してるのに、誰の顔も覚えてないとは。

 やっぱり頭を打ってしまったか?


 呆然と戸の前で突っ立っていると近くにいたショートボブの女子がニコニコしながら一言「きみは一年生でしょ?」と言った。


 いえ、俺は二年生なんですけど。というかあなたも誰なんでしょうか?


 どう考えてもおかしい。

 念のため二年の他の教室を確認してみたが、問題の滝沢美夏がとても迷惑そうな顔で「なんでこっちに来てんのよ!」と言いたげな目を向けてくるだけで、知ってる人がいない。


 女子だけでなく見知った男子すらいない。

 まあ、男子は仲のいい少数を除いて、その他大勢としか認識してなかっただけかもしれない。


 他にどうしようもないので一年の教室に向かうと、ようやく見知った顔を見つけることができた。

 陽子さん、悠紀さんに仁美さん。

 よし、女子だけなら全員分かるぞ、とりあえずほっと安心……いや、してる場合じゃないな!


「ちっーす。滝沢くん、会いたかったよ~」

「あ……うん。俺も会いたかったよ」


 同級生の武村恵麻が声をかけてくれた。

 続けてクラス中の女子に声をかけられ、代わるがわる挨拶していくうちにホームルームが始まった。


 なぜだ。なぜなんだ?

 みんな今は二年生でしょ? クラス揃って留年とかないよね?

 夏休み前までは間違いなく進級してたはずだし。


 教室に入るのを躊躇していると後ろから肩を叩かれた。


「お久し。おーお、けっこう焼けたなー」


 切れ長の目と目じりのホクロ、いかにもできる人間っぽい風貌の遠山達也だった。

 とても頭の良い友だちで、入学時の学力テストでうちの高校始まって以来の好成績を叩き出したことがある。


 とくに変わりない達也を見て、少し安心できた。

 ただ、中学のころから勉強が得意な彼に留年はありえないのに、なぜ当たり前のようにここへ?


「タツ……今、何年だっけ?」

「明治一五三年」


 わかる年号で言ってほしい! 令和だと二年? それとも三年?


 事故、死亡、目覚め、姉弟、高校一年に戻る? それとも記憶喪失?


 恵太は、ペンを走らせる手を止めた。


 脳みそにカビでも生えたか? 今まで認識していた世界がおかしかったのか? はたまた知らぬうちに変な薬でもやっちゃったとか?

 どれかが該当しているとは、どうしても認めたくない。

 素直に正しいと思える答えは一つしかないのだ。


 すなわち、ちょうど一年だけ過去に戻ってるってことだ。


 それにしても……なんで過去なんだ……。違う、そうじゃない。パターンでいうなら文明が違う異世界だろ。魔法全盛の中世っぽいところかスチームパンク的な退廃した未来あたりの。それならいち早く気付いたのに、一年程度の過去では微妙に気付きにくい!


 原因はやはり今朝の夢しかない。


 タイムリープ? それとも転生といえば転生?

 前世が滝沢恵太で、今世も滝沢恵太って、それって転生と呼べるの?

 一個若返ってるはずなのに、見た目はまったく同じだし……。


 今の俺は前世の俺の意識か? それとも今世の俺が前世を思い出しただけか? どっちなんだ?

 それとも事故にあったとき前世の肉体が死んで魂だけ過去に戻ったとか?


 タイムリープにしろ転生にしろ、思いがけない幸運には違いない。

 まだ死にたくはなかったし、予想してなかったかたちで奇跡が起きたのだ。

 もし神様がいるのなら、心の底からひれ伏したい気持ちでいっぱいだ!


 命を拾えたのは本当に嬉しいとはいえ……。

 とりあえず現時点での問題は滝沢美夏さんだよね~、やっぱり。

 

 百歩譲って一年前に戻ったのはいい。タイムリープまでは理解できるのだ。でも一年前に姉がいるのは理解できない。一年前のはずなのにプラスアルファがつくってどゆこと?

 なんで? ホワイ?


 とにかく今朝会ったばかりの人を姉と認めろいうのも無茶な話だ。昨日まで一人っ子だったのに。わだかまりの解消には把握が必要だろう。

 どんな人なのか? 好きなことはなにか? 嫌いなことは? 姉弟仲はうまくいっているのか? なんとなく尻に敷かれてるような気はするが。


 美夏にとって恵太は同じ家で暮らしてきた家族であり弟だ。お互いハーフで顔つきは似ているし、誰が見ても親族であると断言するだろう。

 

 家族が増えるのは嬉しいと思うので納得したい。無理矢理にでも納得したい。

 親同士が再婚して、その連れ子同士が義姉弟になるというやつならまだ受け入れやすかったのにな。

 ある日学校で転校生の美少女と出会い家に帰ったらあらびっくり。転校生が家にいてしかも義妹になった! みたいなラブコメよく見るし。

 それだけにしときゃいいのに、変なSF要素が混じったせいで心情的にむずかしい。


 本当にここはどこなんだよ。

 一年前の世界にしても納得いかないぞ。

 限りなく現実に似た異世界なのかな?

 それともパラレルワールド(並行世界)とかいうやつかな?

 でもパラレルワールドって時間軸ズレるもんだったかな?


 ぶつぶつと呪詛のように呟いて机に突っ伏していると、恵太の椅子が後ろから強い力で引っ張られた。


「うわっ」

「あはは、びっくりした?」


 慌てて後ろを見てみると、大きな瞳に満面の笑みをたたえ、サイドテールをエメラルド色のシュシュで結んだ美少女がいた。


「恵太、びびりすぎー」


 少女は口元を押さえて笑いを堪えていた。空いた口の塞がらない恵太を見て、笑いが止まらないようだ。


 また頭を抱えたくなってきた。

 クスリ……クスリが欲しい。いややましいクスリじゃなくて。頭痛薬でいいから。

 プラスアルファのみならずプラスベータの問題発生だ。


 この女子は……誰なんだ?

ここまで読んでいただきありがとうございます。

パラレルワールドものに興味のある方、お姉ちゃんキャラがお好きな方、どこか抜けてるイケメンくんを応援したいと思っていただけましたら、★評価やブックマーク登録をお願いします。

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