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彼女が竜族の神子と呼ばれるまで  作者: にゃんたるとうふ
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第五節

彼女が幼馴染である瑠子との再会を喜んだのも束の間、謁見の間へと続々と姿を現すクラスメイト達に彼女は一歩後退る。


『何、こいつら?主君の知り合い、にしては向ける視線が腹立たしいわね』


「んっ」

エレナの言葉に同意するように頷いて答えるトウカ、彼女はそのことに返事をしようと口を開くがふとラメが口にしていたことを思い出す。

「(そういえば、竜族と意思疎通できることを知られたらダメなんだっけ?瑠子と璃玖ならともかく他の人は、なんかヤダな・・・)」

キュッと口を固く結ぶ彼女に疑問符を浮かべるトウカとエレナ、トウカはなんとなく察したのだが宿屋でのやり取りを知らないエレナは思考を巡らせて一つの考えに至る。


『(そっか、そうよね・・・主君もこいつらの視線が気に入らないよね、だから言葉を交わすのも嫌だから黙ってる・・・つまりっ)――この下等生物を全て潰せば、主君も安心できるわよねっ!!』


エレナの言葉に彼女は驚きの表情を浮かべながら視線を向ける、瑠子を始めとしたクラスメイト達も驚きの表情を浮かべて耳を塞ぐ。

「うおっ・・・!?なんだ、いきなり!?」

「くっ・・・!寧々っ!!早くこっちに―――」

瑠子が彼女に手を伸ばしながら言葉を言い切る前に、首根っこを掴まれて後ろに引き戻される。

「―――なっ」

苛立ちを含んだ声色で引き戻した人物に視線を向けた瑠子、その瞬間に先程までいた場所に眩い光と轟音を響かせながら雷が降り注いだ。

「勝手な行動は慎めと、廃城に入る前に告げていたはずだがな」

持ち上げていた瑠子を床に下ろした槍を携えた青年は、竜族の側に立つ彼女へと視線を向けて口を開く。

「まさかラメたち冒険者が言っていた仲間が貴様だとはな、少しばかり驚いたぞ」

青年こと王立聖騎士団団長・ルアクはそう口にしてから視線をエレナへと向ける、エレナは見下すような視線を返しながら口を開く。


『ふんっ・・・聖槍使いの騎士団長ね、少しは骨がありそうだけど。所詮は下等生物よ』


さすがにその言い方はどうなんだと思いながらも反応できない彼女は、内心でハラハラしながら事の成り行きを見守っていた。



鋭い視線を向けながら手に持つ聖槍を構え直したルアクを見据えつつ、エレナは呆れたように息を吐く。


『まさかアタシに真っ向から挑もうっていうの?随分と舐められたものねっ・・・!』


そう口にして槌になった尻尾を床に打ち付けると、無数の雷がルアクの頭上から降り注ぐ。

「ふっ・・・!」

ルアクは慌てることなく手に持っている輝きを放つ聖槍を''二本,,携えると雷を斬り裂き、その内の一本を投げ槍の要領で投擲する。

エレナはそれが見えているにも拘らず避ける素振りを見せず、そのことに彼女が慌てた様子で視線をエレナに向けると聖槍は音を立てて砕け散って光の粒子となる。

「なるほど、最強と言われるだけはある。自身にも結界を張っているとは、やはりあの白銀の竜族は手負いだったか?」

ルアクの言葉に視線だけをトウカへと向けたエレナ、彼女は初めてトウカと会った時に刺さっていた槍のことを思い出して声を漏らす。

「あっ・・・!(たしかトウカに刺さっていた槍も光り輝いてた、っということはトウカを傷付けたのはこの人・・・!?)むむっ・・・」

「・・・っ?」

傷付いたトウカの姿を思い出した彼女はムッと頬を膨らませてルアクを睨む、しかしまるで気迫のない視線のためにルアクは睨まれていると思わずに見られていることに疑問符を浮かべていた。

「何ちんたらしてんだよ、さっさと終わらせろよ」

エレナに視線を向けながら再び槍を構えるルアクに、匠は痺れをきらせたようにそう口にして前に出る。

「何をしている、俺の忠告を忘れたか?」

「お前の攻撃が通らないんじゃ何時まで経っても帰れねぇじゃねか、だがよ・・・俺の才能『竜炎』なら、同じ竜同士攻撃が通るだろ」

ルアクの鋭い視線に退くことなく大剣を構えた匠の身体から炎が立ち昇り、それを大剣に纏わせて全力で振るうと火球がエレナ目掛けて放たれる。

「――っ!ちょっと、近くには寧々がいるのよっ!!」

「これで死んだらそこまでだろ、元々そこまで無事を祈ってたわけじゃねぇしな」

瑠子の叫びに間髪入れずにそう返した匠、遅れて轟音と共に熱風と衝撃が謁見の間を吹き抜け・・・エレナたちを飲み込む大きな煙が立ち上る。

「(・・・あのネネという名の少女は色々と抱えているようだな、転移される前から何かあったか?しかし、一瞬だがネネとやらの近くにいた白銀の少女の殺気は・・・)むっ?」

自身目掛けて跳んできた破片を打ち払うと同時に煙が吹き飛び、身体から雷を迸らせるエレナと無傷の彼女とトウカの姿が露わになる。


『主君を狙うとは、いい度胸だなっ!!下等生物の分際で、身の程を知るがいいっ・・・!!』


「マズいか・・・」

ルアクの呟きが合図かのように帯電を強めるエレナの姿を見て、匠も焦りを感じたのかエレナの気迫を受けて後退る。

「なっ、なんだよ・・・!急に大声で''吠えやがって,,!や、やろうってのかよ!?」

匠の言葉に違和感を覚えた彼女が頭から腕を退けて周りを確認すると、自身の立つ数センチ先の床が黒く焼け焦げていることに気付く。

「(これ、当たってたら無事じゃすまないよ・・・!ってそれよりも、今彼は吠えてるって言ってた。つまりエレナの言葉は理解できてないってこと、だよね?もしかして勇者だから理解できるんじゃなくて、本当に私だけが分かる?)」

他のクラスメイトやそんな彼ら彼女らを守る騎士たちに視線を向けても理解しているようには見えず、彼女は少なからず優越感を味わったのも束の間・・・後方から眩い光が発せられたことで咄嗟に振り返る。

彼女の視線に気付いたエレナは自然と笑みを浮かべ、優しい口調で話しかける。


『安心して、主君。あそこに居る下等生物も、隠せてコソコソしている下等生物も・・・ぜーんぶっ、アタシが蹴散らしてあげるからっ!!』


「へっ!?ちょっ、ちょっと待っ――――」

彼女が言葉を言い終える前に視界が真っ白に塗り潰され、遅れて轟音と衝撃が廃城全体を揺るがした――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






「―――んっ、んぅ・・・?えっ・・・!?」

あまりの眩しさに目を閉じていた彼女が瞼を開くと、エレナの側に居た彼女とトウカ・・・そして片膝をついて荒い息を吐くルアクと、その後ろで怯えた表情を浮かべるクラスメイトと深刻そうな表情をしている騎士たちの姿があった。

さらに彼女が共に来たラメたち冒険者の姿もあり、謁見の間の裏手から急襲しようとしていたことが窺える。

しかし今は隠れられる物陰は一つもなく、あるのは彼女たちが立つ床のみとなっていた。

「(もしかしてエレナのさっきの一撃で・・・?)ぁっ・・・!瑠子、璃玖はっ・・・!?」

視線を彷徨わせた先には咳ごみながらもしっかり立つ瑠子と、そんな妹を心配して支える璃玖の姿があったことにホッと安堵の息を吐く。

「(よかった・・・二人とも無事みたい)けどこの状況、どうしよう・・・」

さすがにこれ以上エレナに暴れてほしくない彼女は、安全にこの場を切り抜ける方法を模索する。

「ん・・・」

「? トウカ?」

握っている手を引いて彼女の視線を自身に向けさせた彼女は、声を漏らして自身の考えを彼女に伝える。

「(エレナの攻撃で廃城を崩してその隙に・・・けどそんなことしたら、瑠子と璃玖がっ・・・え?私たちが立っている場所だけを崩すの?たしかにそれなら・・・)ちゃ、着地はお願いね?」

「んっ!・・・んん、んーっ・・・ん!」

彼女のお願いに大きく頷いたトウカは、背後で佇むエレナへと視線を向けて声をかける。


『ふーん、トウカにしてはいい考えね。下等生物の相手も面倒だから、ちょうどよかったわ・・・主君は衝撃に備えてね?せー、のっ!!』


「え、ちょっ・・・ひぁっ・・・!?」

掛け声を上げて帯電させた槌の尻尾を床に叩きつけると、彼女の周りの床だけヒビが広がっていき崩れ落ちる。

「っ・・・!寧々っ!!」

「くっ・・・!」

瑠子と璃玖がその場から駆け出すもすぐに騎士たちに止められ、落下していく彼女の手を握ることはできなかった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






「ひ、やっ・・・ああぁぁぁっ・・・!?」

エレナの一撃により廃城を崩した彼女だったが、廃城が建つ小山すら雪崩のように崩れ落ちているとは思わずに声をあげる。

「ん・・・!」

自然落下する彼女の元へと崩れ落ちる瓦礫を足場にしながら向かっていたトウカは、お姫様抱っこで彼女を受け止めると竜人状態となって残った小山を蹴って近くの森へと着地する。

思いの外強く蹴った影響で小山が少し揺れたが、トウカに抱っこされている彼女には知る由もなかった。



フィクションでしか見ないような挙動で空中を移動して自身を助けてくれたトウカの頭を優しく撫でながらお礼を口にした彼女は、周りに視線を向けた後に木々の間から見える半壊した廃城を確認する。

「瑠子と璃玖・・・大丈夫かな?いつも助けられてたのは私の方だけど、もしかして二人離れする機会?うぅ、でもな・・・」

うんうんと唸る彼女を不思議そうに見上げていたトウカは、不意に後方へと振り返って彼女の手を引っ張る。

「? トウカ、どうしっ―――」

「何か困りごと?だったらアタシが全てどうにかしてあげるわよ、いっぱい頼ってよね!」

彼女も振り返って後方を確認すると、腰まで伸びた黄金の髪を後ろでお団子にしてまとめた黄色を主体にしたドレスを着た彼女と同い年くらいの少女が立っていた。

「・・・もしかして、エレナ?」

「そうよ、主君!この姿の方が近く感じられていいわねっ!」

そう口にして彼女の側に駆け寄ったエレナはギュッと空いた片手を握って笑みを浮かべる、その表情に胸が高鳴った彼女は咄嗟に顔を背ける。

「主君?どうかしっ――ぃたっ!?何するのよ、トウカ!」

握った手を叩き落とされたエレナは、やった張本人へと鋭い視線を向けながら抗議する。

「んーっ!」

「はぁ?主君に気安く触るなぁ?何でアンタに指図されないといけないのよ、アタシは主君のモノになったんだから・・・側に寄り添っても許されるの!」

トウカの不満気な声に自信満々に返事をしたエレナが首筋を晒すと、そこには心臓(ハート)を模した紋章が刻まれていた。

「ん・・・んっ!」

「アンタもそうだってことはわかってるわよ、いつも一人で行動するアンタが主君の側から離れないことがその証明よ」

エレナの主張に対抗するように自身の首筋を晒すトウカに、呆れた声と表情で返すエレナにカチンときたトウカはさらに彼女の手を握ろうとするエレナの手を叩き落とす。

「・・・っ!」

「・・・んっ!」

目の前で行われる高速の叩き合いに彼女は目を白黒させながら困惑する、がすぐに気を取り直して声をかける。

「喧嘩はダメっ・・・!って廃城でも言ったよね、仲良くしなきゃメッだよ!」

プンプンッという擬音が付きそうな可愛らしい怒り方だったが、二体の竜族はシュンと落ち込んだ様子で彼女に向き直る。

「ごめんなさい、主君・・・喧嘩はしないから怒らないで?」

「ん、んんっ・・・ん」

先程までの勢いが嘘のように落ち込んだトウカとエレナに、むしろ彼女の方が慌てた様子で口を開く。

「わ、わかってくれたらいいんだよ・・・!?だからそんなに落ち込まないで、ね?」

彼女の言葉に表情を明るくしたトウカとエレナは、仲良く彼女の片手ずつを握って微笑みを浮かべる。

「主君優しい、好きっ・・・早く番になろっ?」

「んんーっ・・・」

白銀と黄金の少女に挟まれる彼女は、二体から向けられる感情に戸惑いながらも自然と頬は緩んでいた。



トウカとエレナが競い合うように身体の密着度を上げていくことに苦笑を浮かべながら、彼女は周りに視線を向けてから口を開く。

「えっと、これからどうしようか?」

「んっ」

彼女の疑問の声にいち早く声をあげたトウカ、それを聞いたエレナは彼女の方に頬擦りするのをやめて口を開く。

「『スロー』からあの廃城まで来たの?だったら歩くよりも飛んで帰った方が早いわね、主君。アタシの背に乗っていく?」

「さっ、さすがにそんなことしたら街がパニックになると思うよ?だからここは地道に歩いて帰るしか、ないかな・・・?」

エレナの言葉に戸惑いながらも返事をする彼女は、一瞬背中に乗ってみたいと思ったが廃城での出来事を考えて大騒ぎになると確信して自重する。

「なら、アタシが主君を背負って走るわ!その方が早く着くし主君も疲れない、一石二鳥ねっ!」

「んっ!」

エレナの提案にそのドレスで走れるのかという疑問を彼女が抱いている間に、トウカが抗議の声を上げる。

「何よ、自分の体躯を見てから言いなさい。アンタの背丈じゃ主君が足を地面にすることになるわ、だから同じ背丈のアタシが背負うのが当然!わかる?」

「んーっ・・・!」

「そんなに唸っても結果は変わらないわよ、さぁ主君!アタシの背に乗って―――むっ?」

彼女に背を向けてしゃがもうとした瞬間、エレナの耳に駆け寄ってくる足音が聞こえたのでそちらに視線を向ける。

「? エレナ?―――ひゃ」

ただの人間である彼女には聞こえないほど遠くの音だったらしく、不思議そうに首を傾げる彼女をエレナは引き寄せて護るように抱き締める。

「ええっ、エレナ!?急にどうしっ―――」

エレナの豊満な膨らみに顔をうずめる形で抱き締められた彼女は慌てた様子で口を開くが、さらに強く抱き締められて口を塞がれた影響で言葉を遮られる。

「馬が走っている音が聞こえるわ、さっきの下等生物共が来たのかも・・・」

返事を返そうとする彼女だが膨らみから顔を出すことができず、耳まで赤く染めながらどうにか抜け出そうともがく。

「んゃっ、主君・・・そんなに動いちゃ、くすぐったい・・・ぁんっ・・・」

「んーっ・・・ん?」

彼女が抜け出そうと必死にもがき、エレナが艶めかしい声を漏らす中・・・トウカは身動ぎする度に揺れるエレナの膨らみと自身のものを見比べて唸り声を上げる。

しかし視界の端に黒い影が写り込んだことで視線を動かし、影の正体を捉えたトウカは未だ喘ぐエレナの脇に拳を叩き込む・・・決して私怨があったわけではない、はず。

「――ぁいたっ!?ちょっと、トウカ!いきなり何するのっ・・・よ?」

突然の衝撃に驚いて抱き締めていた彼女を離してトウカに抗議の視線と言葉を発したエレナだが、間近まで迫っていた黒い影を確認して声を漏らす。

「ぷはぁ・・・!いっ、息が出来なくてびっくりしたぁ・・・ひゃっ」

肩越しに顔を出した黒い影が自身の頬を撫でるように頬擦りしたことに驚きの声をあげる彼女だが、視線を向けた先の黒い影の正体を視認するとホッと安堵の息を吐く。

「廃城にいたお馬さんだ、どうしてこんなところに?わっ、よしよし・・・」

黒い影は彼女がトウカにお願いして解放した大きな体躯を持つ馬で、彼女に気付いてもらえたことが嬉しいのかさらに頬擦りを繰り返す。

魔鬼馬(まきば)じゃない、誰も乗せてないなんて珍しいわね・・・あと、主君に引っ付き過ぎじゃない?」

「(まきば?牧馬のことかな?)もしかして飼い主の元へ帰れないの?」

彼女の問い掛けに首を傾げる仕草をした魔鬼馬は、一鳴きすると自身の背中へと視線を向ける。

「? えっと、ひょっとして乗せてくれるの?」

そう尋ねると魔鬼馬は首を縦に振って肯定の意志を示す。

「むっ・・・たしかに魔鬼馬の足と体力があればある程度の距離は余裕だけど、アタシが主君に触れ合えない・・・げふんげふんっ――あぃたっ!?」

「んっ」

エレナの不満にトウカが拳を叩き込んで黙らせ、そのやり取りを苦笑を浮かべながら眺めていた彼女は魔鬼馬に向き直る。

「それじゃあ、えっと・・・『スロー』っていう街まで行きたいんだけど、大丈夫かな?」

「ブルルッ・・・ヒヒィッン!!」

魔鬼馬は自身の力強さを証明するように前足を上げて地面に叩きつける、ズンッという重い音と共に深く息を吐く魔鬼馬に彼女は感嘆の声を漏らす。

「わぁっ・・・!すごいんだね、お馬さんって!あっ、でも三人で乗れるかな?」

「それなら大丈夫よ、魔鬼馬は主君よりも遥かに重い奴を乗せてるから」

エレナの言葉に少し遠い目をする魔鬼馬に首を傾げながらも、乗れるのなら問題ないかなと考えて深く追及することはなかった。



魔鬼馬の背が高かったことで乗るのに一悶着あったが、近くの岩を足場にして乗り込むことに成功する。

「アタシが前で手綱を握るわ、主君はアタシの後ろでトウカはその後ろね。しっかり主君を支えるのよ、トウカ?主君はアタシにしっかり掴まっておいて」

「う、うんっ・・・!」

「んっ」

エレナの言葉に頷いてから腰に手を回して身体を密着させる彼女、トウカはエレナのドレスを掴んで彼女が落ちないように挟み込む。

「方角はあっちよ、アンタの足なら半日もかからずに到着できるわ・・・さぁ、行くわよっ!」

「ヒヒィーッン!!」

高らかに鳴き声を上げた魔鬼馬がその場から駆け出すと、その蹄で地面を抉りながら通常の馬の倍以上の速さで森を駆け抜ける。

「わっ、わわ・・・!は、はやっ・・・いぃ!」

「そりゃ、魔鬼馬だもの。通常は魔族を乗せるっ「ひゃあっ!?」――すぅー・・・」

彼女の驚きの声に平然とした様子で返したエレナだが、大きく揺れて彼女がさらに身体を密着させるように抱き着いてきたことで本能が理性を押し倒しそうになったので咄嗟に息を吐いた。

「・・・ん」

トウカはトウカで彼女の背に頬擦りしながら匂いを堪能していた、そんな一幕が起こっていることなど知る由もない魔鬼馬は彼女の期待に応えようと森を全力で駆け抜けて目的地を目指すのだった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






予想以上の脚力を発揮した魔鬼馬によって目的地に早く着いた彼女たちは、門の前で止まる馬車から顔を覗かせたラメたち冒険者と再会した。

「ネネっ!よかった、無事だったのねっ!崩れた小山付近を探しても見つからないから心配したのよっ、これからギルドに報告して人手を集めようとっ―――なんか、色々増えてない?」

馬車から飛び出して彼女の元へと駆け寄ったラメは、無事を確認できて安堵したのも束の間で色々な変化があることに疑問の声を漏らす。

「主君、なにコイツ・・・?馴れ馴れしいわね、ころっ――」

「知り合いだから大丈夫だよ!?エレナに会いに行くきっかけを作ってくれた人だから!」

ふーんっと品定めするような視線をラメに向けるエレナ、ラメは何かに気付いたようにハッとして彼女に視線を向ける。

「・・・?」

彼女は視線の意図が分からずにキョトンとしていたが、エレナが視線を遮るように身体を滑り込ませる。

「主君に、何か用?」

「っ・・・!いいえ、なんでもないわよ。ネネの無事が確認できただけで嬉しいもの、それで後ろの馬は・・・魔鬼馬ね」

エレナの細めた視線を受けて身体を震わせたラメは、彼女の後ろでジッと成り行きを見守る大きな黒い馬へと視線を向けてそう口にする。

「この子は廃城に繋ぎ止められてたみたいで、飼い主の元へ帰れなくなったみたいなんです。どうにかできませんか?」

「どうにか・・・ねぇ」

彼女の言葉にショックを受けたようにオロオロする魔鬼馬の姿に、ラメは珍しいものを見たとばかりに目を見開く。

「(魔鬼馬って魔族を乗せる獰猛な馬だったはずだけど、ずいぶん彼女に懐いているみたいね・・・竜族といい、彼女の魅力は底なしってことかしら?)ギルドに話を通しておくわ、飼い主が見つからなければネネに面倒を見てもらうことになるけどいい?」

「がっ、頑張ります・・・!」

ラメの提案と彼女の返事に瞳をキラキラと輝かせる魔鬼馬、ラメはそれを確認して表情豊かだなと考えるのだった。



ギルドの職員に魔鬼馬を預けた彼女は、ラメに続く形でギルドに戻ってきた。

「あっ!テメェら、無事だったのか!?竜族は消えるわ、廃城は竜族の攻撃の余波で瓦礫の山になるわで散々だったが・・・よくあの状況で生還で来たな、おい・・・なんか増えてねぇか?」

ギルドに顔を出した彼女を確認したオードが駆け寄ってすぐにそう口にする、彼女は迷惑と心配をかけたことに謝りながら頭を下げる。

「ごっ、ご迷惑とご心配をおかけしました・・・!こっちの人はその、落ちた後で助けてくれた方で・・・」

紹介されたエレナはオードに視線を向けるとふんっと鼻を鳴らしてからそっぽを向く、オードがそのことを追求する前にラメが口を開く。

「それよりネネ、受付に行って自身の無事と報酬を受け取ってきたら?状況がどうであれ、竜族を撃退したってことに変わりはないから・・・それとカードの更新もしておくといいわ、その娘のことも記載されるでしょうからね」

受付で今か今かと待ちわびているルースナを指差してそう口にし、後半は小声で彼女の耳元で囁いたラメは薄く笑みを浮かべる。

「あっ、ありがとうございます・・・!ラメさん」

「ふふっ、どういたしまして。あと詳しい話は宿屋で聞くから、そのつもりでいてね?」

ラメの言葉に頷きで返した彼女は、ソワソワと落ち着きのないルースナの下へとトウカとエレナを連れて歩み寄る。


「えっと、カードの更新をしたいんですけど・・・」

受付に辿り着いた彼女がそう口にすると、ルースナは待ってましたとばかりに意気揚々と口を開く。

「おかえりなさい、ネネさん!オードさんたちしか帰って来なくて、さらに崩れ落ちた廃城に巻き込まれたと聞いて気が気じゃなかったんですけど・・・こうして元気な姿で戻ってきてくれて、私はとっても嬉しいです!ネネさんの身に何かあったと思うだけで胸が張り裂けそうで、無理だと分かっていてもネネさんに危害を加えた人を根絶やしにしたいと思っちゃって・・・えへへっ、けどこうしてまたネネさんのお顔を眺めることができて私は幸せですっ!冒険者ですから危険なことも多いと思いますけど、これからも怪我をしないように頑張ってくださいね?私はネネさんの帰りをずっとずっと待っていますからっ!っと、カードの更新でしたよね?すぐに済ませちゃいますねっ!」

ルースナの矢継ぎ早に繰り出される言葉に目を白黒させて反応ができなかった彼女に変わり、エレナが呆れた視線を向けながら口を開く。

「大丈夫なの、主君?あれ、関わっちゃいけない類のものじゃない?」

「さっ、さすがに大丈夫だと思うよ?心配かけちゃったから、少し喜びが爆発したのかも・・・たぶん」

「顔引き攣ってるわよ、主君」

エレナの指摘にハッとした様子で頬に手を当てる彼女、そうこうしている間にカードの更新が終わったようで自身の尻尾を左右に揺らすルースナが戻ってきた。

「カードの更新、無事に終わりましたよ!しかも今回の功績を称えて、昇格試験無しでDランクに昇格です!さすがです、ネネさん!」

キラキラと輝く瞳と満面の笑みを浮かべながらカードを手渡してくるルースナに、苦笑を浮かべつつカードを受け取った彼女が視線を落とすと、トウカとエレナも覗き込むようにしてカードへと視線を向ける。

「(ランクがDになった以外、特に変わったものは・・・エレナの名前が加わったぐらいかな?)あっ、たしかにEからDになってる」

「まぁ、主君なら当然ね」

「んっ」

まるで我が事のように自慢気なエレナとトウカ、その姿に思わず笑みが溢れる彼女だがすぐに首を横に振って口を開く。

「二人がいてくれるからこそだよ、私一人じゃ何も出来ないから(本当に、こっちに来た瞬間にあのウサギに襲われて)・・・ありがとうね?トウカ、エレナ」

トウカとエレナの手を取って微笑みを浮かべる彼女に、二体はキュンッと胸を高鳴らせて感情の赴くままに彼女に抱き着く。

「ひぁっ・・・!?ふっ、二人とも!?どうか、したのっ?」

「主君が可愛すぎてつい・・・」

「んっ・・・」

二体の突然の行動に困惑しながらもしっかり抱き締め返す彼女であった、ちなみに近くで見ていたラメが羨ましそうな視線を向けていたとか。

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