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彼女が竜族の神子と呼ばれるまで  作者: にゃんたるとうふ
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第十八節

ルアクに案内されて歩くこと少し・・・周りに立つ建物より少しばかり大きな建物へと辿り着き、入り口の左右に立つ騎士に声をかけてから扉を開いて振り返る。

「問題ないとは思うが相手は一国の王だ、失礼のないようにな・・・とは言ったが、そこまで緊張しなくてもいいぞ。ネネ」

「へっ・・・!?ははっ、はい・・・っ!」

「なんでそんなに緊張してんだよ・・・」

カチコチに身体を強張らせる彼女に匠は呆れた声を漏らし、対照的に左右に立つ二体の竜族は気負うことなく堂々としている。

「王だか何だか知らないけど、主君に無礼を働くなら叩き潰すまでよ」

「ん、んーっ」

そもそも人間の王など竜族である二体には取るに足らない存在であり、敬意と愛情を向ける対象は彼女だけなので当然の反応ではある。

「ふ、二人とも危ないことしないでね?」

慌てた様子で二体の竜族に声をかける彼女に、エレナはわかっているとばかりに笑みを浮かべて頷きを返す。

「んーっ・・・んっ!」

手を握るだけではあまり温もりを感じられないと考えたトウカは彼女の身体に抱き着き、膨らみに顔を埋めて頬擦りする。

「と、トウカ・・・?ひゃっ、ちょっとくすぐったいよぉ・・・」

トウカが頬擦りする度に髪が肌に触れることによって、こそばゆく感じた彼女は身動ぎしながらトウカに声をかける。

「むーっ、アタシも主君に頬擦りするっ!」

「エレナまで・・・っ!?――わぷっ」

彼女の首に腕を回して抱き着くとそのままの勢いで頬を押し当て、力強く抱き着いて来たエレナに彼女は驚きの声を上げながらも抵抗せずに受け入れる。

「なかなか進まねぇな、こいつら・・・」

「ふむ・・・だが王を待たせるわけにはいかないからな、ネネ」

「あっ、はい!トウカ、エレナも・・・っ」

ルアクに諭された彼女は二体の竜族へと声をかけ、それに渋々で従った二体は彼女の片手ずつを握って不満気な視線をルアクへと向ける。

「王への謁見が済めばあとは好きにすればいい、だが今はこちらを優先してもらう」

そう告げて建物へと足を踏み入れたルアクに続く形で、彼女たちも建物の中へと入っていくのだった。



入ってすぐに広々としたリビングがあり、その一角では王立騎士団の副団長であるラナと老齢の男性が何やら話をしている。

「あまり無理をなさらないでください、まだ完全に体力が戻ったわけではないのですから」

「この程度の疲労で根を上げていられまい、それにワシを助けてくれた少女に早く会いたかったのでな」

ですが・・・とまだ引くわけにはいかないとばかりに声を漏らすラナだが、ルアクと件の少女が訪れていることに気付いてどうするかと思考を巡らせる。

「うぬ?――おぉっ!戻ったか、ルアクよ。そして、そなたがワシを救ってくれた少女じゃな?・・・ふむっ、すまぬが名を聞いてもよいかな?」

「は、はい!えっと、竜胆 寧々です・・・っ」

上擦った声で自身の名を口にする彼女に、老齢の男性は朗らかに笑みを浮かべて声を漏らす。

「そうか、やはりそなたは・・・」

どこか納得した様子で彼女に視線を向ける老齢の男性は、自身の名を告げていないことに気付いて考えを巡らせるのをやめて口を開く。

「すまぬな、名乗るのを忘れておった・・・ワシの名は『ズムロ・ルード・サフォット』、この国の王をしておる者じゃ。そなたの側におる二人が魔族を退けてくれた竜族じゃな、国を救ってくれたこと感謝する・・・っと言っても、その少女の意思を汲んで動いたんじゃろう?」

「あら、よくわかってるじゃない。アンタ・・・他の竜族に会ったことがあるわね?」

エレナの見下ろすような視線と言葉を受けたズムロは、特に気にした様子もなく笑いを上げながら返事をする。

「ほっほっほっ・・・昔の話じゃよ、先代の勇者がその少女と同じく竜族と親しくての。共に旅をした時に接したことがあっただけじゃよ、その過程があって竜族の血を譲り受けたのじゃが・・・呆れられてしまっているかのぉ」

懐かしむように目を細めたズムロの放つ哀愁に何と言っていいかわからず言葉を詰まらせる彼女、それに気付いたルアクは一つ咳払いを挟んでから空気を変える。

「王よ、ネネが困っています。本来の目的に移って頂きたく思います」

「おぉ、そうじゃったな・・・何か欲しいものがあれば可能な限り用意しよう、何か欲しているものはあるかの?」

「えっ・・・?えぇっと・・・」

ルアクに促されたズムロは本来の目的を彼女に告げ、それを耳にした彼女は困惑した様子で左右の竜族へと視線を向ける。

「別に主君が望むものを言えばいいのよ?」

「んーんっ」

二体の竜族の言葉に彼女は考える素振りを見せてから、意を決したように俯かせていた顔を勢いよく上げて口を開く。

「あ、あの・・・っ!特にない場合は、どうすればいいですか!?」

彼女の返事を聞いたズムロは目を大きく見開いて驚愕の表情を浮かべるが、すぐに声を上げて笑いを漏らす。

「ふふふっ・・・!なるほど、彼女を思い出すわけじゃ。ここまで似ているとは、やはりそなたは・・・」

「え、えっ?」

孫に向けるような優しい眼差しを向けるズムロに困惑した声を漏らす彼女、そんな彼女から視線を外してラナへと目を向ける。

「我が国の危機を救ってくださった方に払うにはあまりにも少ないですが、国の復興を果たした暁には必ずこれ以上を支払うことを約束しましょう」

そう口にして彼女の手に革袋を握らせたラナに、彼女は慌てた様子で革袋を押し返す。

「さっ、さすがに貰えません!これは国の復興に役立ててください、あっ!寄付、寄付します!」

グイグイと革袋を押し返す彼女にラナは苦笑を浮かべてズムロへと視線を向け、向けられた本人は微笑を浮かべて頷きを返す。

「さすがに恩人を困らせるわけにはいかんからなぁ・・・しかしそうなると、こちらのお願いを通し辛くなるわけじゃが・・・」

「? お願い、ですか?」

彼女の疑問の声に頷きを返したズムロは、今までのやり取りを黙って近くの椅子に座って眺めていた匠へと視線を向ける。

「ワシらが勇者を呼び出す本当の理由は知っておるじゃろう?魔族の策に嵌まって多くの勇者を危険に晒してしまったが、本当の理由・・・つまり魔王の討伐を果たさなければならぬのもまた事実、それを現状で三人の勇者に託すことになってしまった。もちろん我が国も最大限サポートをするが、それにも限界がある・・・そこでどうじゃろうか?彼らと共に、魔王討伐の旅に同行してはもらえぬか?」

「彼らってことは・・・瑠子と璃玖も旅に出るんですよね?」

「うむ、そうじゃな。しかしこちらは別に無理強いする気はない、そなたの気持ちを優先してもらいたい」

ズムロの言葉を耳にして左右の竜族へと視線を向けた彼女に、トウカとエレナは彼女の判断に従うと言わんばかりに微笑みと頷きを返す。

「私が役に立てるかわかりませんけど、一緒に行ってもいいですか?」

「それはこちらとしても願ったり叶ったりじゃよ、そうと決まれば色々と準備をせねばな」

ズムロがそう告げるとラナは頷きを返してから建物から出て行き、ルアクは視線を匠へと向けてから口を開く。

「では訓練の続きをするぞ、出発までの時間は少ないからな」

「あぁ、わかってるよ。そんじゃあ竜胆、また後でな」

「あっ、うん・・・また、ね?」

匠を連れて建物を後にするルアクの二人の背を見送った彼女は、自分たちはどうすればいいのかという疑問をはらんだ視線をズムロへと向ける。

「この建物の近くに勇者が泊まる建物がある、今日からはそこで寝泊まりをしてくれるかの?部屋に余裕はあったはずじゃから、そこは他の勇者たちと話し合ってくれると助かる。旅への出発は早くて一週間後くらいになるとは思うが、それは勇者たちの訓練の進み具合で前後するはずじゃ」

「訓練、さっき翁草君と騎士団長さんがしていたことですよね?」

彼女の言葉に頷きを返すと出入り口の扉が開かれ、自身の馬とクロを連れて厩舎に向かっていたラメの姿があった。

「おぉ、ラメ。ちょうどよい所に、彼女たちを勇者が休む建物へと案内してはもらえぬか?」

「つまりネネと毎日会いやすくなるわね!・・・っとわかりました、王様。それじゃあ案内するわね、ついてきてくれる?」

「あ、はい!えっと、王様・・・失礼いたしますっ」

深く頭を下げた彼女はラメの後ろをついていくように建物を後にし、二体の竜族は彼女に密着していたのでそのまま一緒に去っていく。


「ふぅむ・・・やはり血筋なのかのぉ、彼女あってのあの娘ありといった感じじゃな」

昔を懐かしむように目を細めて扉へと視線を向けていたズムロだが、すぐに気を取り直して隣国への連絡をするために席を立つ。

「とりあえずあやつに連絡してから、復興も進めていかんとな・・・そういえば娘が出かけてから戻っておらんが、何もしておらんといいがのぉ・・・昔のワシと同じでやんちゃ盛りじゃから、迷惑をかけてないとよいが」

これからのことを考えながら現在の自室へと移動していたズムロは、自身の娘の所在を考えて少し不安を覚えるのだった。






―――――〇▲▲▲〇―――――






建物を出たラメは続いて出てきた彼女と二体の竜族へと向き直ると、柔和な笑みを浮かべると彼女たちに声をかける。

「それじゃあ案内するわね、っと言ってもすぐ近くだけれど」

「はっ、はい!よろしくお願いしますっ」

彼女の元気な返事を聞いてさらに頬を緩ませるラメは、目的地へと向かうために足を動かそうとしたが第三者に呼び止められたことで歩みを止める。

「見つけました・・・っ!」

突如建物の影から滑り込むようにして道を阻むように姿を現した女性に、身構えたラメだったが相手の正体を確認すると驚いた表情を浮かべる。

「――っ、姫・・・っ!?」

ラメに姫と呼ばれた女性は視線を彼女から外すことなく、詰め寄るような勢いで側まで歩み寄る。

「貴女がこの国を救ってくださった竜族を従える少女ですね?わたくしはこの国の姫であるクムナ・ルード・サフォットと申します、まずはこの国を救ってくださったことに感謝をお伝えします。本当にありがとうございます―――ですがっ!」

クムナと名乗った女性は深々と頭を下げて感謝の言葉を口にする、そのことに彼女が返事をするよりも先に顔を上げたクムナはズイッと身を乗り出して声を上げる。

「貴女にルアク様は渡しませんっ!この短い時間でルアク様に名を呼んでもらえて嬉しく思うのもわかります、しかし・・・っ!あの方と結ばれるのはわたくしなのです、これは天命で決められた運命なのですっ!ですので、潔く身を引いていただけますか?」

最後にニコリと花が咲くような笑みを浮かべて締め括ったクムナに、彼女は困惑した様子で額を押さえるラメへと顔を向ける。

「え、えぇーっと・・・?」

「そんな顔をしないで、ネネ。姫はその・・・少し思い込みの激しい娘でね、彼の側にいたり会話をしているのを見つけるといつもこうやって牽制しているの。もっとも彼に色恋沙汰なんて、縁がないものだから気付いていないようだけど」

ラメの説明を聞いて何故か胸を張っているクムナに、エレナは苛立った視線と口調で口を開く。

「そもそも主君はアタシたちの番なんだから、あの人間に恋情なんて抱くわけないでしょう・・・ふざけてるのっ?」

「んっ、んっ!んーっ!」

エレナの主張に同意するように声を上げてから冷めた瞳をクムナへと向けるトウカ、二体の竜族の怒気を受けたクムナは怯えた表情を・・・浮かべることはなく、むしろ花が咲く笑顔をさらに輝かせて口を開く。

「お三方はすでに夫婦だったのですね!これはとんだ勘違いをしていました、たしかにお似合いですものね・・・すぐに気付けず失礼な態度を取ってしまいました、申し訳ありません―――ところで!お三方はどうやって知り合い、どうやって愛を深め合ったのですか!?参考までにお聞きしたいのですが、お似合いのお三方にっ!」

「お似合いなのは当然として、アンタなかなか見る目があるわね」

「んんーっ?」

逆に二体の竜族をおだてることで機嫌を上方修正したクムナに、彼女は目をパチクリとさせながらラメへと視線を向ける。

「とりあえず話をするにしても、まずはゆっくりできる場所へと移動しましょうか?姫が外で居続けるのも危ないから、いいかしら?」

「そうですねっ、ではまいりましょうか!」

ラメの言葉に強く頷きながら賛同したクムナを加えた五人は、目的地である勇者の泊まる建物へと歩みを再開するのだった―――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






歩き始めてすぐに辿り着いた建物は大きな三階建ての建物で、ラメが扉をノックすると中から彼女の見知った幼馴染の一人が姿を見せる。

「あれ、ラメさん・・・それに寧々!倒れたって聞いたけど元気そうだね、よかった・・・」

「璃玖、心配かけちゃってゴメンね?でもこの通り身体は何ともないから、問題ないよ」

璃玖の言葉に笑顔を浮かべながら返事をした彼女に安堵の息を吐いていると、背後から慌てたような大きな音が響いたと思った瞬間に璃玖の身体がブレる。

「――寧々っ!!」

「――ぅおっ!!?」

「璃玖っ!?――ひゃっ、瑠子!?」

璃玖に代わる形で目の前に現れたもう一人の幼馴染は勢いを殺すことなく彼女へと抱き着き、突然の出来事に彼女は驚いた表情を浮かべて動けずにいた。

「何してんのよ、この下等っ――人間っ!主君から、離れろ・・・っ!」

そう声を上げたエレナは固まっている自身の主から瑠子を引き剥がすと、彼女を護るように瑠子の前に立ちはだかる。

「くっ・・・!邪魔しないでよっ!」

「はぁ?アタシたちと主君の間に入ろうとする邪魔者に言われたくないわ、アンタはおとなしく指を咥えて見ておくことねっ」

瑠子の激情を含んだ言葉に落ち着いた声色で返したエレナは、ドレスを翻しながら振り返ると真正面から彼女を抱き締める。

「むふふーっ、主君あったかい・・・」

自身の頬を彼女の頬に擦り合わせながら満足気な息を吐くエレナに、彼女は疑問符を浮かべながらも当然のように優しく受け止める。

「? エレナ?どうしっ―――」

「あぁー--っ!!?寧々に何てことを・・・っ!羨ましいっ、私も寧々に頬擦りしたいのにぃ!!」

彼女の言葉を掻き消すほどの叫びにも似た声を上げる瑠子に、彼女は目を瞬かせて驚いた表情を浮かべる。

「瑠子、寧々がビックリしてるから一旦落ち着いて」

「――ハッ!?ゴメン、寧々!驚かせちゃったよね?」

「え、あっうん・・・大丈夫、だよ?」

璃玖に肩を叩かれて感情を落ち着かせた瑠子は彼女に謝罪を口にし、それを受けた本人はそういえば洞窟でも叫んでいたなとボンヤリと思い出す。

「とりあえず・・・中に入れてくれる?流石に外で立ち話は色々と、ね?」

「そうですね、早くお三方の馴れ初めもお聞きしたいですし・・・上がらせて頂いても宜しいですか?」

ラメの主張に賛同して声を上げたクムナを皮切りに、入り口で立ち往生していた面々はようやく建物内へと足を踏み入れるのだった。



建物へと入った一行は大きめなテーブルを囲うように各々好きなソファに腰を下ろし、彼女の対面に座った瑠子はテーブルに両手を強く叩き付けて前のめり気味に声を上げる。

「寧々の幼馴染として、寧々を独り占めすることに断固として抗議するっ!!」

目を吊り上げながら強い口調で言い放った瑠子に対して、二体の竜族は聞く耳を持っていない様子で見向きもせずに左右から彼女に身を寄せている。

「えっと・・・瑠子?落ち着いて、ねっ?」

興奮した様子でテーブルに何度も掌を打ち付ける瑠子を落ち着かせようと声をかけた彼女だが、むしろ二体の竜族を庇うような発言に瑠子の感情は爆発する。

「これが落ち着いていられないのっ!寧々と長い年月一緒にいた私や璃玖ならともかく、ぽっと出のよくわからない種族に寧々を取られるとか容認できない・・・っ!この際だからはっきり言うよ、寧々と添い遂げてくんずほぐれつするのは私の夢だったのっ!」

「えっ、えぇ・・・っ!?そそっ、そんなこと思ってたの!?」

瑠子の突然の暴露に驚いた声を上げて耳まで赤く染める彼女を護るようにさらに身体を密着させるトウカとエレナ、そんな光景を眺めていたラメは理解を示すような頷きを見せてクムナは瞳を輝かせながら嬉しそうに口元を緩ませている。

「わかるっ、ネネには数えきれないほどの魅力があるわよね」

「これが修羅場というものなのですねっ!それが生で拝見できるなんて・・・っ!」

ラメとクムナの反応に恥ずかしさで慌てていた彼女は、唯一何も発していない璃玖へと顔を向けて助けを求める。

「りっ、璃玖!なんとかして・・・っ!」

「あぁ、俺のことは気にしないで。ここで置物に徹して、尊い有様を眺めているから」

璃玖はそれだけ告げると優しい眼差しを向けながら壁に溶け込むように気配が希薄になる、そのことに驚きながらも助けてくれないだろうことを察して頬を膨らませる。

「馬鹿みたいに騒いで、主君が困ってるじゃない」

周りの様子に呆れた声色で言葉を発したエレナに瑠子は敵意剥き出しの視線を向ける、トウカは彼女の懐に潜り込むと強く抱き着いて眠りの体勢に入っている。

「そもそも主君はもうアタシとトウカの番なんだから、見れない夢を語るだけ無駄よ」

ふんっと鼻を鳴らして言い切ったエレナに対して、瑠子は苛立ちを含んだ声色でエレナに食って掛かる。

「第一それがおかしいのよ、寧々が番認定させてるのがっ!たかが数日一緒に居ただけで自惚れて、そんな証拠ないでしょうがっ!」

瑠子の言葉に口角を吊り上げて笑みを浮かべたエレナは、彼女の着ている上着を捲りあげて腹部を露わにする。

「ひゃあっ!?えええっ、エレナ!?なにするのっ!?」

「この紋章が証拠よ、主君と交わした血の盟約のね」

彼女のへその周りに円を描くように刻まれた竜の紋章を指差して告げるエレナに、瑠子は顔を青褪めながら口元を押さえて絶句する。

「ねっ、寧々がお腹に入れ墨を・・・っ!寧々が、不良になっちゃった・・・っ!?」

「へっ!?ち、違うよっ!これは入れ墨みたいなものじゃなくて・・・なっ、何て言えばいいんだろ?」

錯乱する瑠子を宥めようと口を開いた彼女だが、上手い言い回しが浮かばずに左右の竜族へと視線を向ける。

「アタシとトウカとの契りの証って言えばいいのよ、もしくは愛の結晶?」

「そっ、その呼び方は・・・恥ずかしいよっ」

そう口にしながらも否定の言葉を告げない彼女に、エレナは頬を緩ませて彼女の腕に抱き着くと肩に頬擦りする。

「んっ!んんーん、んっ!」

「えぅっ・・・た、たしかにそうだけど」

トウカの声に頬を朱に染めて俯きながら肯定の言葉を口にする彼女に、トウカは瑠子へと視線を向けると勝ち誇ったように鼻を鳴らすと彼女の膨らみに顔を埋めて頬擦りする。

「はぁーっ!?くっ、この・・・っ!なんて羨まっ、羨ましいことをっ!!」

「結局言うのね」

「はぁ・・・!生修羅場、素晴らしいですね!ネネ様を巡っての四角関係・・・っ!これからの展開が楽しみですっ!」

そうツッコミを入れたラメの隣で瞳をこれでもかと輝かせるクムナの言葉に、ラメは一つ息を吐いてから顔を向ける。

「四角じゃないわ、五角関係よっ」

「まぁ・・・っ!」

ラメの言葉に口元を隠しながら驚きの声を漏らしたクムナは、更に瞳を輝かせながらラメの方へと身を乗り出す。

「貴女もネネ様をお慕いしていたのですねっ、それほど惹かれた理由は何なのでしょう?」

「そうね、私が惹かれたのはまず会ってすぐっ―――」

「むっ・・・!主君のことについて聞きたいのね?ならアタシが教えてあげる、主君はねっ―――」

「寧々のことなら私のほうが詳しいに決まってる!なんせ幼い時から・・・うぅん、物心付いた時から一緒なんだから!いい?まず寧々はっ―――」

ラメが彼女の魅力について語り始めたのを目敏く聞きつけて睨み合いを中断したエレナと瑠子は、すぐさま話に割って入るようにして自分が感じる彼女の魅力を力説する。

「え、えっ?あのっ、皆・・・?私のことは別に、恥ずかしいからやめてぇ!?」

「・・・んーっ」

茹で蛸のように顔を真っ赤に染める彼女の抗議の声も耳に入っている様子はなく、延々と自身の魅力とやらを語られた彼女は・・・恥ずかしさのあまり話に加わっていないトウカを抱き上げて、別の部屋に避難してトウカを撫でるなどして愛でることで気持ちを落ち着かせるのだった。



自身の膨らみに顔を埋めるトウカを撫でたり頬擦りされたりを続けること数十分、部屋の扉がノックされたのちに開かれて璃玖が姿を見せる。

「あぁ、よかった。体調はもう大丈夫そうだね、寧々」

「え・・・?璃玖、一体何の話を・・・?」

疑問の声を漏らす彼女に対して口元に人差し指を当ててから目配せをする璃玖に、何かを察した彼女は話を合わせることにする。

「うん、もう平気だよ。トウカが側に居てくれたおかげで、安心できたから」

「んっ!」

彼女の言葉に胸を張る仕草をするトウカに口元を緩ませながら、立ち上がって皆がいる部屋へと移動する。

部屋から彼女が出てきたことに気付いた黄金の竜族は、一足先に彼女の側へと駆け寄って声をかける。

「あっ!主君っ!体調は大丈夫なの?ごめんなさい、主君の体調の変化に気付けないなんて番として不甲斐ないわ・・・トウカは気付いたのにっ」

「? んふーっ」

気落ちした様子で口を開くエレナに得意気な息を吐くトウカ、その様子に彼女は少し慌てた様子で声をかける。

「そっ、そこまで深刻じゃないから大丈夫だよ?(璃玖の考えに咄嗟に乗っちゃったけど、私が黙って部屋から抜け出したからだよね・・・うぅ、何だか罪悪感)」

「――主君っ!」

自身を気遣ってくれていると考えたエレナは彼女を正面から抱き締め、これでもかと強く抱き締めて彼女の存在を感じる。

「今度からは話に夢中になったとしても、主君から意識を逸らさないようにするわ・・・あっ!そうだ、主君を足の上に乗せながら話せばいいのね!そうすれば主君から意識が逸れることもないし、アタシが主君を感じていられるじゃない・・・っ!どうして気付かなかったのかしら?」

「んーっ!ん、ん!」

「むっ?そんなに突っかかってこなくても、アンタが増えたところで大したことないから・・・いつも通り主君に抱き着いていればいいわよ」

「んっ!」

「・・・えっと、私の意見は?」

自然な流れで今後の立ち位置が決められていることに困惑した表情を浮かべながら言葉を漏らすが、内心では嬉しさが勝っているのか口元は緩んでいる。

「寧々の話に夢中で居なくなってることに気付けなかったなんて、一生の不覚・・・っ!どうして教えてくれなかったの!?璃玖っ!」

「伝えたら誰が側にいるかで揉めてたろ?そうなったら寧々が安心して休めないから、伝えなかったんだよ」

璃玖の返事に反論できない瑠子は歯噛みしながらもそれ以上は口にせず、彼女と二体の竜族のやり取りを眺めながら璃玖の腕を抓るという八つ当たりをしていた。


一通り彼女の体調を気遣う会話が続いた後、建物の出入口である扉が開かれてルアクと匠が姿を見せる。

「まだ踏み込みが浅いが筋はいい、片腕というハンデはあるがそこは技量と才能でカバーするしかない」

「やっぱりか、さすがに義手を使おうにも時間がねぇしな・・・今の戦い方に慣れるしかねぇか」

先程までしていた訓練のおさらいを口にしていたルアクと匠は、彼女の周りに集まって気遣うように接していることに疑問符を浮かべる。

「貴様ら、一体何をしている」

「ネネの体調を気遣っているのよ、貴方こそっ「ルアク様っ!」―――あら?」

ラメがルアクの質問に答え切る前に大きな声を上げたクムナは、すぐさま立ち上がってトタトタと駆け寄る姿は小型犬のような愛らしさが溢れている。

「姫、此処に居られたのですか。護衛を付けずに出歩かれるのは危険です、騎士団員が巡回しているとはいえ何時危険が襲ってくるかわかりません」

「でっ、でしたら・・・ルアク様がわたくしのお側に居て頂ければ、そのっ・・・」

二体の竜族の気迫にも物怖じしなかった元気な姿はそこにはなく、何とか自身の願望を伝えようと頬を朱に染める姿はまさに恋する乙女のものだった。

「今度からは外出時にはラナに付き添うように告げておきますので、ラナに声をお掛けください」

「あっ、え・・・で、できればルアク様に・・・っ」

もにょもにょと小さな声で自身の意見を口にするクムナだが、ルアクの耳には届いていない様子で視線をラメへと向ける。

「それでラメ、ネネがこの建物で寝泊まりすることは告げているだろうが・・・どこまで説明してある?」

「え?あ、あーっ・・・!そうね、どこまでだったかしら・・・?」

呆れた視線をルアクに向けていたラメだが飛んできた問いに答えられずに視線を外し、その様子を見て何かを察したルアクはタメ息を吐く。

「貴様の態度で大体察しが付く、とりあえず・・・まずは今後の方針と情報を共有しよう、皆席に着け」

ルアクの言葉に彼女の側に集まっていた面々は渋々ながらテーブルを囲うように腰を落ち着け、クムナだけはルアクの発した命令口調を耳にして嬉しそうに口元を緩めながら素直に従うのだった。

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