第十六節
騎士団や救援で集まった冒険者が慌ただしく荒れ果てた王都を駆け回って復興作業に勤しんでいる間、彼女はまだ被害の少ない建物内で人間の姿へと変化した二体の竜族に挟まれる形でソファに座っていた。
「こんなにのんびりしてていいの、かな?たしかに私じゃ役には立たないと思うけど、じっとしてるだけっていうのは・・・」
ソワソワした様子で声を漏らしながら窓の外へと視線を向ける彼女、その姿を見つめていたトウカは彼女の太腿に身体を乗せて立ち上がれないようにして、エレナは横から彼女の首に腕を回して抱き締める。
「んっ、んっ」
「トウカの言う通りよ、主君。紛い物とはいえ竜族の力を抑えるために頑張ったんだから、休まないとさっきみたいにまた倒れちゃうわよ?」
「あぅっ・・・そっ、それはそうだけど」
トウカとエレナの自身を気遣うような言葉にバツが悪そうな表情を浮かべながら未だ食い下がるように声を漏らす彼女に、二体の竜族とは別の声がかけられる。
「周りが働いているから自分も、と考えるのは偉いことだけれど・・・ネネはこの国を救う大役をこなした後なんだから、休んでもらわないと私たちの立つ瀬がないわ」
「・・・え?あっ、ラメさん!」
第三者の声を耳にして不思議そうな表情を浮かべた彼女だが、部屋の出入り口に立つラメの姿を確認すると微笑みを浮かべて名を口にする。
「いつ見てもネネは可愛いわね、っとそんな分かり切ったことは置いておくとして・・・ちゃんと休んでね、また目の前でネネが倒れるのは見たくないから」
「うぅ・・・それを言われちゃうと、申し訳ない気持ちでいっぱいです」
ラメの言葉にしゅんと落ち込んだ様子で声を漏らす彼女は、黒い竜族の力を抑え込んでルアクがこの国の王を抱えて歩き去った後、消し飛んだ王城から無事に脱出したラメが彼女を見つけて少し話をしてる最中にその場に倒れ込んだ。
初めて力を行使したことと緊張が解けたことによるものでケガをしたというわけではないのだが、彼女を大事に思う者たちは酷く狼狽して大変だったという。
結果的にはすぐ目を覚ましたのだが、こうして被害の少なかった元宿屋に運び込まれて休むようにと言い付けられたのだった。
「でもいいんですか?私たちだけで一部屋全部使っちゃっても、他の人たちは一部屋に何人も集まってるのに・・・」
彼女の言葉を受けたラメは謙虚な姿勢を示す様子に自然と口元を緩ませ、だからこそ休める時はしっかり休んでもらおうと口を開く。
「問題ないわよ、貴女たちの功績を知っているからこそ・・・そんな不満は出ないでしょうから(廃城での一件もあるから、ネネの実力は良い意味で誤解されているのよね。それをネネに伝えたら・・・)やっぱり、ネネは可愛いわね」
ちなみに彼女たちが寝泊まりしている元宿屋には女性冒険者が集められており、一部屋に三人か四人が寝食を共にしている。
っと言っても救援や復興作業などで疲れている女性冒険者ばかりなので、基本的には就寝にしか使われていない様子であったが・・・
「え、えぇっ・・・!?い、いきなりなんですか!?」
突然脈絡もなく褒め言葉を口にするラメに驚いた表情を浮かべる彼女を見つめ、やはり可愛いと再確認するように頷いたラメは一つ咳払いを挟んでからズレた話を元に戻す。
「ともかく心配はいらないわ、それに何かあれば私か・・・不本意だけどオードに伝えてくれれば解決すると思うから、遠慮せず言ってね?」
「は、はいっ・・・!ありがとうございます、ラメさん!」
お礼を口にして頭を下げる彼女の様子を微笑みを浮かべながら眺めていたラメは、またねと次に会うのを楽しみにしつつ手を振りながら部屋を後にする。
「結局、あの人間は何をしに来たの?」
彼女を強く抱き締めて髪に顔を埋めていたエレナの言葉に、トウカは寝息を返して彼女はそんな白銀の竜族の頭を優しく撫でながら口を開く。
「私が心配で見に来てくれたのかも・・・ラメさんやエレナたちが言うように、今はゆっくりしておこうかな」
「それがいいわ、っというわけで・・・」
彼女の言葉を聞いたエレナの瞳が怪しく光り、そのことにキョトンとした表情を浮かべていた彼女を抱きかかえるとそのままベッドへと運んでいく。
「―――ん・・・?」
それにより彼女の太ももを枕にして寝息を漏らしていたトウカがソファに緩やかに落下し、心地良い匂いと体温を失ったことで目を覚まして身体を起こすと首を左右に動かして周りを確認する。
「? え、エレナ?急にどうした、の・・・わぷっ」
その問い掛けに返答することなく彼女をベッドに寝かせたエレナは、そのまま覆い被さるようにして彼女との距離を詰める。
「ひゃ・・・エレナ、何だか近い・・・よ?」
「むふふーっ。どうせゆっくりするなら愛を確かめ合うのも、良いと思わない?」
エレナの言葉の真意を読み取った彼女は頬だけでなく耳まで赤く染め、言葉にならない声を漏らしながらどうすればいいのか分からずにワタワタしている。
「それじゃあさっそくっ「んんーっ!」――あたっ!?」
慌てる彼女の愛おしい姿に我慢できずに口付けを交わそうと顔を近付けるエレナだったが、二人の間に滑り込むようにして割って入ったトウカの頭突きを顎に受けて顔を仰け反らせる。
「わわわっ!え、エレナ大丈夫っ!?」
「大丈夫よ、主君・・・トウカが割り込んでくるのは想定内だからっ・・・む?」
彼女の心配する声に顎を擦りながらそう答えたエレナは鋭い視線をトウカに向ける、がすぐに疑問符を浮かべてトウカの顔を覗き込む。
「んふー・・・」
エレナが目にしたのは彼女の膨らみに顔を挟まれながら満足げな表情を浮かべて寝息を漏らすトウカの姿で、そのことに気付いた彼女はふにゃっと頬を緩ませてトウカの頭を撫でる。
「・・・寝てるわね」
「私を護るために頑張ってくれたから、疲れちゃったのかも」
あの程度で疲れるとは思えないエレナが怪訝そうな表情を浮かべていると、自身と彼女の間で身動ぎしたトウカは頬擦りするようにして彼女の膨らみの間に沈んでいく。
「(疲れているというより甘えてるだけ・・・あっ)主君っ!アタシも疲れたから主君を抱き締めて寝てもいい?」
「ふぇ・・・?う、うん。大丈夫、だよ?」
彼女の返事を耳にしたエレナは嬉しそうな笑みを浮かべると彼女(とがっちり抱き着いたトウカ)を持ち上げると、自身がベッドに仰向けに寝転がると彼女を上に乗せてソファに座っていた時と同じように抱き締める。
「これなら主君を感じられてトウカの邪魔も入らない、完璧ね!じゃあ主君、おやすみ」
「う、うんっ・・・おやすみなさい」
彼女の言葉を聞いたエレナが瞼を閉じてすぐに寝息を漏らし始めるのを耳にした彼女は、二体の竜族の寝顔を交互に見つめてから内心で言葉を漏らす。
「(二人とも、とっても気持ちよさそうに寝てる・・・そういえば二人ともよく私の匂いを嗅いでるけど、そんなに臭うかな?)トウカは、なんだか甘くていい匂いがする・・・エレナ、は何だか落ち着く匂いがする・・・って!私今すごく恥ずかしいことをっ・・・!?うぅっ、これもトウカとエレナのせいだもん・・・っ」
二体の竜族の側で鼻を動かしていた彼女は自身の行動を客観的に考えて羞恥心で頬を朱に染め、トウカの腰に腕を回して抱き締めると言い訳するように呟く。
「こうなったのも、二人のせいなんだから・・・起きたら、ガツン・・・と・・・」
意気込むように息を吸い込んだ彼女は心地よい匂いと温もりに包まれて、ゆっくりと訪れた睡魔に負ける形でそのまま眠りにつき・・・起きた時には寝る直前の決意は霧散していたのだった――――
―――――〇▲▲▲〇―――――
日が傾き始めた夕方、その日の復興作業を終えた女性冒険者たちが続々と元宿屋へと帰路に着く。
「んっ・・・っ、ふあぁ・・・?」
一斉に戻ってきたことで慌ただしくなった元宿屋の喧騒で目が覚めた彼女は、ぼうっとする意識の中で身体を起こすと周りに視線を向ける。
「・・・ぁっ、そっか・・・トウカとエレナの三人で、お昼寝したんだっけ・・・」
自身の膨らみに顔を挟むようにして眠るトウカの寝顔を確認した彼女はそう呟き、落ちないようにトウカを抱きかかえながらベッドに腰掛ける。
「む、うっ・・・?主君・・・?」
最愛の温もりが遠ざかったことで微睡みから覚醒したエレナは自身の主を探すように腕を動かし、それに気付いた彼女はエレナの身体を叩いて自身の存在を教える。
「おはよう、エレナ。私はここっ「主君っ!!」わっ・・・!?」
彼女に気付いたエレナは身体を勢いよく起こすと背後から強く抱き締め、彼女の髪に顔を埋めるようにして頬擦りしながら鼻を動かす。
「むふーっ・・・やっぱり主君の匂いと温もりは落ち着くわ、ずっと感じていたい」
そんなエレナの感想に頬を朱に染めて恥ずかしそうに視線を下げる、がすぐにハッとしたように視線を上げてエレナに問いを投げる。
「わ、私ってそんなに臭う・・・かな?ちゃんとシャワーも浴びてるんだけど、もう少し念入りに洗った方がいいのかな?」
彼女の言葉にがバッと髪から顔を離したエレナは、彼女に詰め寄るように顔を近づける。
「この匂いを消すなんてとんでもないわっ!・・・ってそうじゃなくて、別に主君が臭うってわけじゃないわよ。アタシたち竜族しかわからない匂いだから、深く考える必要はないから・・・主君はそのままが一番っ!だから変に何かしようとしなくても大丈夫、いい?」
「え、えぇっと・・・う、ん?わかった、かも・・・?」
疑問符を浮かべながら曖昧な返事をする彼女の顔を覗き込みながら満足そうに頷いたエレナは、再び彼女の髪に顔を埋めて匂いを堪能し始める。
しかしすぐにくぅ~っという可愛らしい音が聞こえ、エレナが顔を髪から話して彼女へと視線を向けると恥ずかしそうにお腹を押さえる自身の主の姿を目にする。
「ぁ、うぅ・・・っ」
「え、可愛すぎない?どうせなら主君を今すぐに食べたいけど、先にご飯を食べなきゃね」
優しく彼女の頬を撫でながらのエレナからの提案に、彼女は気恥ずかしさで身を丸めるように小さくしながら頷きを返す。
「そうと決まれば食堂を行きましょう、ちょうど夕食の時間だしね」
「そっ、そうだね・・・!えと、トウカ起きて」
「んー・・・?」
身体を揺らされたトウカはぼんやりとした表情を浮かべながら身を起こし、最初に目についた彼女の首筋に顔を近づけて舌を這わす。
「ひゃんっ・・・!と、トウカっ!寝ぼけてそんなところ舐めちゃだっ―――んゃっ」
「むむむっ・・・はーっむ」
「ひやぁっ!?え、エレナまで・・・っ!?ぁうっ・・・!」
トウカと彼女のやり取りを見て面白くなさそうな顔をしたエレナは、背後から彼女の首に嚙みついて甘噛みする。
そんな二体の竜族の求愛行動に困惑する彼女だが決して振り払おうとはせず、むしろ心の奥で喜びを感じている自身に驚きを覚えながらトウカとエレナの気が済むまで受け止めるのだった。
―――――〇▲▲▲〇―――――
求愛行動を受けている最中にもう一度可愛らしい主張が響いたことで一旦中断し、元宿屋の一階にある食堂へと足を運ぼうと部屋を後にする。
元宿屋の二階にある一番奥の部屋で休んでいることを部屋を出て知った彼女は、一階にある食堂を目指して階段を降りると受付で積み上がった紙を整理する獣人の女性・ルースナがいることに気付く。
「こんばんは、で合ってますよね?ルースナさんもこっちに来てたんですね」
彼女の言葉を耳にしたルースナは勢いよく顔を上げると、紙を見ていた時の真剣な表情を崩して満面の笑みを浮かべて尻尾を大きく振り乱す。
「あっ・・・!ネネさん!もう体調は大丈夫なんですか!?倒れたって聞いた時は生きた心地がしませんでしたけど、今こうしてまたネネさんの顔を見ることが出来てとっても幸せですっ!それでどうかしっ・・・あぁっ!夕食の時間ですから食堂に行かれるんですね!私はまだ書類の整理とかがあるのでご一緒できませんけど、しっかり食べてしっかり休んでくださいねっ!ネネさんの元気な姿が見れるだけで私も嬉しくなっちゃいますから、って引き留めてすみません。ゆっくりしてくださいね、ネネさんっ!」
受付台から身を乗り出して矢継ぎ早にそう口にするルースナに、彼女は目をパチクリとしながらも自身を心配してくれているのを感じて微笑みを浮かべる。
「えっと、ありがとうございます。ルースナさん、また暇な時にでもお話ししましょうね?」
「っ!はいっ!こんなお仕事、すぐに終わらせて時間を作りますねっ!」
ピンっと獣耳を立てたルースナの言葉に苦笑しながらも、その時を楽しみに思いながら手を振ってルースナとは別れて食堂へと足を向ける。
「まぁ、主君と話をするのはいいけど・・・アタシたちがいるのに普通に話せるのかしら?」
「んー・・・んんっ?」
「あ、あはは・・・た、たぶん大丈夫じゃない・・・かな?」
二体の竜族の言葉を聞いて内心で怯えてうまく口が回らないルースナの姿を幻視した彼女は、どうにかして落ち着かせてあげようと思考を巡らせるのだった。
食堂へと辿り着いた彼女たちは空いている席を探して視線を動かし、それを見つけると二体の竜族は視線で合図を送り合うとトウカが彼女の手を引いて席を確保して、エレナは食堂の受付に向かうと食事を三人分頼んで席へと向かう。
「もう少し混んでると思ってたんだけど、わりと席が空いてるね」
食事を行う数人の冒険者を眺めながら思ったことを口にした彼女に答えたのは、トウカとエレナではなく背後からの第三者の声だった。
「殆どの人は復興作業で疲れてそのまま寝ちゃってるのよ、だから朝のほうが賑わっているわね。冒険者は体力仕事だから、しっかり食べないと力が出ないもの」
「――ひゃあっ!?あ、あれ・・・?ラメ、さん?」
肩を震わせるほどに驚愕した彼女が顔を背後へと向けると、微笑を浮かべるラメの姿を確認してキョトンとした表情に変わる。
「えぇ、数時間ぶりね。ネネは今から夕食?相席してもいいかしら?」
「え、あっ・・・はい!あ、食事ももう一人分注文しないと・・・!」
ラメの言葉を受けた彼女は慌てて返事すると食堂の受付へと視線を向けて立ち上がろうとするが、ラメはそれを制してから口を開く。
「それなら大丈夫よ、ここに来る前に食事は済ませてあるから。それにここへはネネとお話したくてきたんだから」
そう口にするラメに促されるまま腰を下ろした彼女は、何かを思い出したかのような声を上げて少しだけ身を乗り出す。
「あの、ラメさん・・・私が倒れる少し前に再会したクロは、今どこにいるか分かりますか?泥だらけだったから洗ってあげないと・・・」
自身が倒れて今いる建物に運ばれる直前、ラメと共に姿を見せた全身泥に汚れた魔鬼馬のクロを思い浮かべながら問い掛ける。
「彼ならこの宿屋の隣に小さな厩舎があるから、そこで休んでいるわよ?心配しなくてもしっかり泥は落としてあるわ、だから落ち着いて。あと、怪我もしていないことは確認してあるわ」
ラメの返事を聞いてホッと胸を撫で下ろした彼女は浮かしかけていた腰を下ろす、そんな彼女の微笑ましい様子を見つめつつ咳払いを一つ挟んで口を開く。
「彼に関してさらに言うなら、主を喪った魔鬼馬を数体連れていたという点くらいかしら?(もっともその主を喪った原因は、彼が才能を駆使して蹴り殺したからなんだけど・・・自身に付いた返り血を泥で隠したということは、ネネには知られたくないんだろうから口にはしないけど)」
「そうなん、ですか?戦場になっていたあそこから離れて人助け、ならぬ馬助けをしていたんですねっ」
うまいこと言ったと考えて少し得意げな表情を浮かべる彼女についつい笑みが溢れるラメ、二体の竜族は流石だと言わんばかりに自慢げな表情を浮かべている。
「それでその魔鬼馬たちだけど、こちらで引き取ることに勝手に決めてしまったの。大丈夫だった?」
「へ?あ、はいっ!私たちにはクロがいますから、ラメさんが引き取ってくれるなら安心ですね」
屈託のない笑みと信頼を向ける彼女に口元が緩むのを感じながら、お礼を口にすると同時に彼女たちが頼んだ料理が運ばれてきたので、自身に遠慮する彼女を促して食事風景を眺めながらラメは話を続けるのだった。
瑠子と璃玖と匠の三人以外の勇者候補者全員は魔物を呼ぶための魔力源として使われていたらしく、現在は近くの街の医療機関で治療を受けているが命に別状はないとラメに告げられる。
「・・・そう、ですか」
彼女が他の勇者候補から受けていた仕打ちを耳にしていたラメは、複雑な表情を浮かべてそれだけを口にする姿に胸を締め付けられる。
「そんなどうでもいいことなんて気にしなくていいわ、主君。何かしてこようものならアタシとトウカで退けるし、魔力欠乏で倒れたのならそうそう回復しないわよ」
「んーっ」
自身の主の様子を見て他者に心を揺らされるのが気に食わないエレナがそう口にすると、トウカも彼女を気遣うように声をかけながら手を握る。
「っ、うん・・・二人とも、ありがとう。ラメさんも何だか気を使わせてしまって、すみません」
ハッと俯きかけた顔を上げた彼女は柔和な笑みを浮かべてトウカとエレナにお礼を述べ、ラメにも暗い雰囲気にしてしまった謝罪を口にする。
「むしろ私が謝るべきだと思うけど・・・ともかくネネに知らせることはできたから良しとして、ちなみに別に会いに行けとかそういうのではないから安心してね?あくまで一応、知らせただけだから」
一応の部分を強調して告げるラメにまた気を使わせてしまったと感じる彼女だが、その気遣いに嬉しさを感じて自然と口元を緩ませる。
「やっぱりネネは笑っていた方がいいわね、可愛い」
素直な感想を口にするラメに彼女は一瞬面食らったように呆けていたが、すぐに言葉の意味を理解したのか頬を朱に染めて恥ずかしさから目を逸らすために料理に手を伸ばす。
「主君が可愛いのは元からじゃない、笑顔だけじゃなくて全ての表情が愛らしいのっ」
「それは確かにそうだけど、私は笑った顔が一番好きね」
「主君の笑顔って良いわよね、こうふにゃってなる感じが堪らないわ」
「わかるっ!そうなの、安心したように無防備な感じがもうねっ!」
「あら、話が分かるじゃない。けどアンタは知らないでしょ?ベッドに押し倒されて困惑しながらも、期待がこもった視線を向ける主君の表情をっ」
「何その話詳しく・・・っ!」
「いいわよ、主君の愛らしさを理解できるアンタだから特別に教えてあげるわっ」
エレナとラメの話が盛り上がりを見せるのとは対照的に、耳まで真っ赤に染めた彼女は話から目を逸らすために食事を摂りながらトウカを撫でることに集中している。
「うー、うぅーっ・・・!」
「ん、んんっ・・・んんーっ、んっ」
しかし完全に意識を逸らせずにいる彼女は声にならない唸り声を漏らす、トウカはそんな彼女に寄り添いながら自身だけに向けられている意識に嬉しそうな声を漏らすのだった。
一心不乱に食事へと意識を向けていた彼女が食べ終えてから少し経った頃に二体の竜族も食事を終え、エレナと彼女の素晴らしさについて語っていたラメは何かを思い出したかのような声を漏らす。
「そうだ、ネネ。明日は時間あるかしら?」
「? 別に用事はないですけど、私のことで話をするなら本人がいないところで・・・っ」
不貞腐れたように頬を膨らませて不満気な声を漏らす彼女の姿に頬が緩むのを感じながら、それも魅力的だけどと考えながら本来の用事を口にする。
「実はネネが助けてくれたこの国の王様がお礼をしたいと言っていてね、自分が訪ねるのが礼儀だと言っていたんだけど病み上がりだからうまく動けないようだったの。だから手間をかけさせて申し訳ないんだけど、明日一緒に王様が休んでいる建物まで来てくれないかしら?」
「は、はい・・・っ!で、でも私なんかが行ってもいいんでしょうか?頑張ってくれたのはトウカとエレナですし、私なんて実際何をしたのか分かってませんし・・・」
もごもごと口ごもる彼女に苦笑を浮かべるラメは、左右に座るトウカとエレナに視線を向けてから彼女に向き直る。
「それでもネネのおかげで王様の命は救われて、王都の被害も最小限に防げたの・・・だから自分のことをそんなに卑下しないで、ね?」
優しく微笑みかけられた彼女はぎこちなく頷き、その様子を見つめていたラメは左右の竜族にこの後可愛がられるんだろうなと考えて羨ましく思いながら席を立つ。
「それじゃあ私は戻るわね、明日の朝に迎えに来るから・・・今日はゆっくりと休んでね?その、休めたら・・・ね?」
「はっ、はい・・・ぇっ?それってどういう・・・?」
ラメの言葉に不思議そうに首を傾げる彼女は気付いていないが、二体の竜族が熱い視線を向けて身体を密着させようと擦り寄っているのを確認する。
「じゃあ頑張ってね、ネネ。また明日」
「がんばっ・・・え?えっと、はい・・・?」
疑問符を浮かべながら元宿屋を後にするラメの姿を見送った彼女は、いつの間にか片付けられている食器に気付いて二体の竜族にお礼を述べると部屋へと戻るために席を立った。
部屋に戻った彼女は無言のトウカとエレナに首を傾げていると、突然エレナに持ち上げられるように抱っこされるとベッドへと運ばれてそっと寝かされる。
「え、エレナ・・・?ひゃっ、トウカまで!?」
エレナの行動に困惑した様子で声を上げた彼女は飛びつくように抱き着いてきたことに驚き、それに続くように自身の隣に寝転がったトウカが抱き着いてきたことでさらに身動きを封じられる。
「ふ、二人とも?どうかした、の・・・?」
「何でもないわよ、主君。ただ主君を愛でたくなっただけだから、ねぇ?」
「んっ!」
動きを制限された彼女は先程ラメが激励の言葉を口にしていた意味を理解した時にはすでに逃げ場はなく、舌なめずりするエレナと自身の膨らみに顔を埋めるトウカの姿を目にして、期待に胸を膨らませていることに気付いて頬に朱が差す。
「こ、これも二人のせいだもん・・・っ」
彼女の呟きに二体の竜族は疑問符を浮かべるが、拒絶されていないことを肌で感じたのか口角を上げる。
「とりあえず主君が自分に自信が持てるようにしてあげる、だからうんと甘やかすわね?」
「んー?んんっ」
「アンタが甘えたがりなのは知ってるわよ、アンタはアンタで好きにするといいわ。甘やかすのも頼ってもらうのもアタシの役目なんだからっ」
「おっ、お手柔らかにお願いします・・・っ」
トウカとエレナの会話を聞いていた彼女がそう口にすると、エレナは満面の笑みを浮かべながら彼女の耳元に唇を寄せる。
「ダメよ、主君は今からうーんと甘やかされるんだから・・・中途半端で終わらせないわっ」
背筋を得も言われぬ感覚が走るのを感じて、彼女は抵抗する意思を削がれたようにおとなしく頷いて流れに身を任せるのだった。




