騎士になる
3話
リチャード王子と彗太が向かったのは騎士団の訓練場だった。何故か騎士が横1列に並んでいる。僕はそこに剣だけ渡されて対面している。
「王子様、これは戦えということですか?」
「あぁそうだ。」
「ですよね。」
「あぁ!」
「ちなみに鎧は?」
「え?頑丈なんだろ?」
「、、、やりましょう。」
空から落ちて大丈夫なんだ、なんとかなるだろ。
「じゃあまずは1対1で、はいよーい始め!」
「は?」
「ゥオオオオオオオオオオ‼︎‼︎」
ほとんど不意打ちのような開始の合図から騎士が雄叫びを上げて迫ってくる。剣の使い方は知らないが、なんとなく相手の剣にぶつける感じで、丁度しのぎを削る感じになれば最高だと思っていた。
相手が剣を振り下ろす。
それを自分の剣で迎え打つ。
結果から言えば彗太が騎士の剣を受け止めることはなかった。騎士の剣は「く」の字に曲がり、受け止めきれなかった騎士が吹き飛ばされることになった。
「ここまで!」
リチャード王子は嬉しそうに言った。彗太は吹き飛ばされた騎士に近づく。
「おい、大丈夫か?」
「あぁ、あぁいてぇ、、、」
「ごめんな。ここまで馬鹿力が出ると思ってなくて。」
「あぁ今度する時は手加減してくれ。」
そこにリチャード王子が近づいてくる。
「見事だったな。」
「えぇ、ありがとうございます。」
「今日から君は私の騎士だ。私を守り、私のために剣を使え。」
「はぁ、はい。」
「なんだそのパッとしない返事は?まぁしょうがないか。これから頼むぞ、相棒。」
「はいはい、相棒さん。」
◇
王族の護衛を務めることができるのは騎士団の中でも実力と教養のある一握りの人たちだけで、騎士だけでなく全国民の憧れの的である。
青と白の騎士の制服を着てリチャード王子のところに向かう。落ちてきた時に着ていた黒い服は大事に保管している。もしかしたら凄い物かもしれないしね。
「リチャード様、遅くなりました黒石です。」
「何してたんだ、もう昼だぞ?」
「寝てました。」
「は?おいおい、夜更かしでもしたのか?」
「なれてないからですかね?」
「あーそうだな。まぁそこまで気にしてないさ。君の仕事は私の近くにいることだけだからね。」
「何もしなくていいんですか?」
「まぁしたいことがあるならやってもいいけど、基本は僕の近くに居てね。」
なるほど、やることないのか。リチャード様はなんか忙しそうだし、周りに騎士メッチャいるし、俺いらないでしょ。
「じゃあちょっと訓練場行ってきます。」
「はいはーい。」
◇
訓練場に来た。
どこの誰か分からない俺を騎士にしてくれたんだ。意味のわからない力があるとはいえ、自分が誰か分かるまでは役に立つと思わせないとな。
とりあえず訓練場にある刃を潰された剣を持ち、なんとなくで構えてみる。
「ふんっ」
振ってみる。
「ダメだな。ダメダメだ、ど素人じゃねぇか。」
振り返ると、絵の具に塗れた爺さんがいた。
「ダメだぞ、爺さん。ここは城だ。勝手に入ったら怒られるぞー?」
「なにが爺さんだ、ここが俺の仕事場だ。」
「なーに言ってんの。そんな絵の具まみれの服で騎士になったつもり?剣は筆と違って重いんだよ。」
「俺は元騎士だ。今は宮廷画家として余生を過ごしてんだ。だからお前の素人丸出しの素振りが気持ち悪くて思わずダメ出ししただけだ。」
俺はガサガサと頭をかいた。
「名前以外忘れてるからな。しょうがないんだよ。」
「関係ねぇよ。体に染み付いているのが本物ってヤツだ。お前は、少なくとも剣に関しては、本物じゃあなかった。断言してやる。」
「、、、そうかよ。」
俺はまた剣を振る。
「ダメだ。お前は今何を斬ろうとして振っている?ただ闇雲に振るな。お前が今手にしている物は容易に人を殺せる物だということを自覚しろ。」
俺は爺さんをイメージした。そしてまた振る。
「お前がイメージしたものは一撃で倒せるのか?その体勢で次どうやって振るんだ?」
俺はまた初めからやり直す。
剣を振る。ダメ出しが飛んでくる。またやり直す。ずっとこれの繰り返しだった。
夕方の鐘が鳴る。17時になった。
「時間だな。剣に慣れるために毎日素振りをしろ。対人戦など話にならん。」
「分かったよ、やっとくやっとく。」
「ふんっ」
爺さんはどっかに行った。俺はその場に崩れ落ちた。遠くから騎士達が駆け寄ってくる。大丈夫じゃねぇんだよ騎士さん。まず水をくれ。