リチャード第一王子
2話
「え、ここどこ?」
知らない部屋で目を覚ました男は自分が大勢の人に囲まれている理由が分からず不安になる。何か悪いことをしたのだろうかと考えるが特にそんな記憶は無い、、、というか
「記憶が、、、、、ぇ、、、、、」
周りが何かを言ってくる。知らない言葉だということしか分からない。寝る前までの記憶がない。昨日の記憶どころか今までの記憶がない。どんな人生だったのか、家族は、年齢は、彼女はいたのか、はたまた結婚していたのかすら分からない。
分かることは1つだけ、
「黒石彗太、、、」
ボソッと口から出た名前が偶然周囲の人たちが名前を尋ねていたのにタイミングが重なった。
「クロイシケイタ、、、」
誰かが呟いた。また何かよく分からないことを話し始めた。すると帯剣した騎士みたいな格好のヤツらが続々と部屋に入ってきた。その先頭にいるおっさんがツバを飛ばしながら何かを言ってきている。言葉が分からないが態度からしてあまり良い印象を持つことができない。後ろにいた若い男が何かを渡してきた。腕輪のようでとりあえず身につける。
「これで多分会話できますよ。ね?」
若い男の言葉が理解できて驚く。腕輪を観察するが特に何か特徴的な所は無かった。
「これ、凄いな。」
こちら側からも通じるのか分からないが一応話しかけてみた。すると周りにいた人が全員ザワッとした。
「うん、それ貴重な物だから。」
「なるほど。」
「まぁ、それでこのおっさん話聞いてあげてよ。これでも一応隊長なんだ。」
そこでさっきまでうるさかったおっさんがまた騒ぎ出す。
「誰がおっさんだ!おい!クロイシケイタって名前だな?お前には来てもらわなければならない。今すぐだ!」
「いいけど。どこに?」
「聞いて驚け!第一王子殿下だ!本来なら一生話すことすら許されない相手だ。泣いて喜べよ!」
「僕、知らないんだけど。」
「貴様!殿下を知らないだと!それでも国民か!」
「隊長、クロイシケイタは国民ではありません。あと、名前長いからクロでいいか?」
「あぁ、自由に呼んでくれ。」
「いいからさっさと準備しろ!」
「はーいはい。」
周りを囲んでいた人たちを退かし服を着替える。といっても、用意された服は全身真っ黒で周りにいる人達とあまりに違いすぎていて浮いていた。
「まぁ、割と好きな感じだしいいか。」
ボソッと呟いて騎士のあとについていく。彗太が知らないだけだが、この服は彗太が空から降ってきた時に来ていた物である。
◇
アタマント王国 首都リーガイア クランダン宮殿
15時過ぎ、1つの会議室で彗太とリチャード第一王子の会話が始まった。長い机を挟んでの対面で、間の席には多くの人が座っていた。部屋の端に騎士達が並び、侍女が給仕のために動き回る。とても広い部屋なのに何故だか圧迫感を感じる。
会話はリチャード第一王子から始まった。
「名前から聞いてもいいかい?」
「黒石彗太です。」
「クロイシケイタ?長い名前だな。」
「あ、名前は彗太です。黒石は姓です。」
「なるほど。ならケイタと呼ばせてもらうよ。」
「クロイシケイタじゃなくてクロイシ=ケイタだったのか、、、」
ちょうどケイタの後ろにいた騎士からボソッとそんな声が聞こえた。
「君はどこの人間だ?」
「分かりません。名前以外は分かりません。」
「年齢は?」
「分かりません。」
「マジか、、、」
「すみませんね、僕も困ってるんです。」
「だろうな、、、なぁ君は何か不思議な力を持っていないか?」
「不思議な力ですか?」
「あぁ、ドラゴンを従えたり、街を一瞬で火の海にしたり、光の速さで動いたり出来ないのか?」
なんだか興奮した王子様に少し引いている自分がいる。しかし自分はそんな力を持っていない。強いて言えば、空から降っても壊れない体の頑丈さだろうか。
「特には、、、体の頑丈さとかですかね?」
「、、、なんとも地味だな、、、」
「、、、すみません。」
「まぁいい。早速見せてくれ!」
、、、なにを⁉︎