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chapter4 薊孝臣

 side 孝臣


 最初隊長から紹介されたとき、真っ先に「この子だ」と思った。あの時、俺を助けてくれたのが。


 昼間、晴れているのに雨が降った日だった。「狐の嫁入りだな」と隊長が言っていたが、昔の極東の話とのことだったが、あいにく俺はその話を知ってはいなかった。その雨も一瞬で止み、昼間の任務を終えた俺たちは夜もある任務のために野営をしていたのだ。


 腹ごしらえをし、武器の整備も終えて火を消し暗闇へ向かった時だった。馬の走るような音が聞こえたのは。


 即座に全員臨戦態勢に入る。大量が簡易ライトを周辺にばらまき明かりを作る。ボヤボヤとした光の中浮かび上がったのは、赤い炎。否、漆黒の体に埋め込まれた赤く光る目だった。


 馬のような体、浮かび上がる炎のような目。だがしかし普通の馬とは明らかに違う筋肉量。カツカツと蹄を鳴らし、ブルルンと鼻を鳴らしてこちらを見ている。間違いない。プッカだ。


 隊長が対ドロップ弾を投げ怯ませた後攻撃するも、簡単に弾かれてしまう。次にプッカが狙いを定めたのは、俺だった。


 ショットガンを放つも硬い筋肉の壁を打ち破ることは出来ない。そのまま体当たりで弾き飛ばされてしまった。


 まずい! 後ろは崖……!?


「孝臣!!!!」


「孝臣さん!!」


 真桜から伸ばされた手を掴もうとしたものの、その手はすり抜け俺は重力に従って落ちていった。


 バキバキと木の枝をへし折りながら落下していく。まともに受け身も取れないまま地面へ叩きつけられた。


「……ハァ、ハァ……止まった……? うぐっっ!!」


 ちょうど近くに落ちていたらしい武器を手に取り立ち上がろうとしたところで、右足に鋭い痛みが走った。目を向ければ、本来であれば曲がらない方向に曲がってしまっていることがわかる。


「くっそ、これじゃ動けない……か」


 色付きの弾丸を真上に上げ、二人に無事を知らせる。近くにリザルはいないようなので、安楽死薬を飲んで復活しようとした時だった。あの子に会ったのは……。


「それ、なに?」


「え、安楽死薬だけど……て、え!?」


 燃えるような赤いく長い髪をサイドで一つにまとめ、吸い込まれそうな青い瞳をした幼いその子は、いつの間にかライトを持って俺の隣にいた。12、3歳程だろうか。きっと別部隊の子だろう。


「安楽死……? 死ぬなら首を飛ばした方が早いんじゃないの?」


「首っ!? 怖くてできないよそんなの! 君だって安楽死薬くらい配布されているだろう?」


 そう聞けば、赤い髪の子は首をかしげた。


「春たちにそんなのは配布されてない。死ぬのを待っている時間が惜しいから、さっさと首を切る」


 それがさも同然かのように言う姿にあっけにとられてしまった。


「でも、あるなら使った方がいいと思う。痛いの嫌だもんね。うん。ここは春が見ていてあげる」


 ストン、と隣に座った子を見て、一瞬動けなかった。飲まないの? と聞かれてようやく動き出せたくらいだ。


「え、あ、の、飲むけど……なんで見ず知らずの俺にそこまで?」


「安楽死薬を使っているのを見たことがないから知りたいっていうのと、道に迷ったから帰り道を教えてほしい」


 純粋なまでの興味と困りごと。同じリザルってだけでこんなに信用されていいものか。同族殺しだって世の中にたくさんいるというのに。


「俺が同族殺しだったらどうするんだい?」


「殺すよ。頭を潰して殺す」


 キュ、と猫のように細まった瞳と、青から赤に変わる目。武器を握る手にも力がこもっている。


「物騒だなぁ。そんなことないから安心してくれよ。……それじゃ、他のドロップが寄ってくる前にさっさと飲んで仲間のところに戻らなきゃな」


 腰に入れていた薬を取り出す。よかった、あれだけの衝撃にもかかわらず割れていなかったようだ。一気に飲み干し、来る眠気に身をゆだねた。


 今思えば、この子が同族殺しだとしてもおかしくなかったのに、信用して目の前で飲んでしまったのはなぜだったんだろうか。




 目が覚めた時、真っ先に目に入ったのはあの子の顔だった。そして後頭部には柔らかい感触。一気に覚醒した。


「うえ、ええ!? お、女の子がそんな簡単に膝枕なんかするもんじゃないの!」


「え? でも秋はよくやってくれる」


「その子は良く知った仲だろ? 見ず知らずの俺になんてするんじゃない」


 よくわからない、納得できない、といった顔をしつつも、無理やり納得はさせる。


「ドロップは来なかった? 大丈夫?」


「うん。来たけど……大丈夫だったよ」


 その子の武器をよく見れば、ドロップの血らしきものがしたたり落ちている。そして後ろには、スコルの山……山!? 軽く10体はいるだろう。


「そ、そのスコル……全部君がやったの? この短時間で?」


「うん。襲ってきて邪魔だったから」


 これもあげるね、とカラカラと音を立てて渡されたのはたくさんの獣核。本当にこの子は……。規格外なんだろう。そう思わなくてはやってられない。


「復活した後、食べないとだめだよ?」


 さすがにすべては受け取れないので、2つだけいただいた。その際の不満げな顔は無視した。


「とりあえず、守ってくれてありがとう。本当に助かったよ。この辺の森は知っているつもりだし、大通りまで案内しよう。俺も早く仲間と合流したいしね」


「どういたしまして……? ていうのかな? あと、案内、お願いします」


 ある程度開けたところに出るまで、ドロップを狩りつつこの子と話をした。名前(本名かはわからないけれど)は春ちゃん。年は12歳らしい。まだまだ子供と言っても過言ではないこの年であれだけの戦闘能力を持っていることには大層驚いた。


 どこの部隊に所属しているのか……と聞きかけたところで無言で瞳を赤くされたので、野暮なことは聞かないことにした。


 世間話をしていたところで、ようやく大通りに出ることができた。俺は上空にまた色付き弾を放ち、二人に居場所を知らせる。もうすぐ来てくれることだろう。あの二人ならプッカくらいならば余裕ではないが倒せるだろう。俺が飛ばされたのは油断してしまったせいだと言い訳をしたい……。いや、戦場で油断する方が悪いか。


「あ、いた。春の仲間」


 春ちゃんが指をさした方向を見れば、4人の男女がいた。手を振っていることから、間違いなく春ちゃんの仲間とみていいだろう。


「ありがとう、案内してくれて。野営するしかなかった」


「いや、こちらこそありがとう。君がスコルを倒してくれていなかったら復活と死を繰り返していたことだろう。礼を言うよ」


 バイバイ、オレンジのおにーさん。と手を振り仲間の元へ走っていった春ちゃんを見て俺も振り返ると、隊長と真桜が手を振っていた。


「もう! 急に落ちるからびっくりしちゃいましたよぅ! ちゃぁんとプッカは倒しましたからね! 帰りますよー!」


「油断したな孝臣。次気ぃ付けろよ」


 二人との会話に夢中になり、俺は気づかなかった。





 後ろで春ちゃんが首をはねられていることに。








 side 春音



 薊さんを紹介されたときに、あ、あの時の人だ。と真っ先に思った。あの時足を折ってスコルの群れに狙われていた人。もう3年も前の話だ。忘れていてもおかしくはないだろう。と思っていたのに。


「ねぇ、春音ちゃんってさ、“春ちゃん”でしょ?」


 私の歓迎会が終わり、いいから座ってて! と言われたはいいものの何もすることがなかったので大量の洗い物をしていた時、ふと隣に薊さんが立った。


 薊さんは私から洗い終わり濡れたお皿を受け取り、ふきんで拭き上げ重ねていった。


「覚えていたんですか」


「そりゃぁ忘れないよ。あんなダサいところ見られちゃったわけだし。現に春ちゃんも覚えてたでしょ?」


「道案内もしていただきましたしね。“オレンジのおにーさん”に」


 あの時は礼儀知らずで敬語も使えずすみませんでした。と謝ると、薊さんはなぜか笑った。


「なんで笑うんですか?」


「いや、今の方がすごい違和感あるからさ。自分の事、春って呼ばないの?」


「もう呼びませんよ!! あー恥ずかしい!!」


 顔が熱くなってきた。あの時は完全に自分を道具としか認識していなかったのだ。(今もだが)そんな状態のを見られていたわけで。恥ずかしくもなるだろう。


「けどよかったよほんと。あの時会えて。春ちゃんも無事仲間の部隊に会えたわけだし」


 ね? と言葉と共に笑いかけられたが、私は答えることができなかった。


 実はあの後、私は3度の“罰”を受けたのだ。


 1度目、勝手に攻撃され離れた罰


 2度目、探す手間をかけさせた罰


 3度目、一緒にいた男を殺さなかった罰


 正直3度目が一番つらかった。まるで動物の血抜きの様に逆さまに吊るされ、手足を切られたまま復活するまで放置されたのだ。


 あの時はまだ隊長ではなくただの戦闘道具だったため、あの時の隊長にはひどくいたぶられた。けどなぜ、私はあの時薊さんを殺さなかったのだろうか。道案内だけさせて頭を潰してしまえば証拠も何も残らなかったのに。殺さない理由なんてなかったのに。


「春ちゃん?」


 おっと、考え込んでぼうっとしていたようだ。すぐ止まるのが私の悪い癖だ。


「あ、すみません、なんでもないです」


 胡乱げな顔をしながらもなんとか納得してくれた薊さんは、急に言った。


「ありがとう。あのとき助けてくれて。そして、殺さないでくれて」


「えっ……」


「部隊名を聞いた時、春ちゃんはただ目を赤くする威嚇にとどめてくれてただろ? てことは実はあの時合った時点で俺のことを殺さなきゃならなかったのかなって。今思った」


 この人の洞察力には驚いた。それなのに、どうして私とこんな風に普通に話ができるんだ。


「なんで……それなのに普通に私と話ができるんですか。普通は気まずくて離れてしまうものなのではないですか」


 自分を殺そうとしてたと知ってもなおこの気楽さ。


 最後のお皿を拭き終わった薊さんはこちらを向いた。


「俺さ、死ぬのがめちゃめちゃ怖いんだよ。安楽死薬でさえ飲むのをためらうくらいだし。できれば時間かけても自分の治癒力で治したい。けど戦場じゃそうもいかないじゃん。あの時もそうだった」


「あの時も言ったけど、あそこじゃスコルにやられて死と復活を繰り返してたわけ。だから、んーと、命の恩人……はちがうか。復活の恩人ってやつ? そんな人によそよそしい態度とったりなんかしないって」


 その時に撫でられた手がなんとなく温かくて、思わず少しだけうるっときてしまった。あのとき、殺さなくてよかった。殺していたら、この温かい手はなかったんだ。命令違反した自分だけど、あの時の選択は間違いではなかったんだ。


「あーー!! 薊さん春音ちゃん泣かしてます! 一体何したんですかー!」


 洗い場に入ってきた真桜さんは、第一声薊さんを指さしてそう言った。


「え!? 春ちゃん泣いてんの!? なんで!?」


「しかも春ちゃんだなんて馴れ馴れしそうに! たーいちょー! 薊さんが抜け駆けしてますぅー!」


 おろおろしながらも私の頭を撫でる手を止めない薊さん。それに混ざって抱き着いてくる真桜さん。入り口で呆れたような顔をしつつも笑みを浮かべたルカさん。


 前の部隊ではありえなかったこの光景に、なんだか胸の内がぽかぽかしてきた気がしてた。


 本当、ここにきてよかった。






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