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chapter2 霊番浄化部隊



 dside ルカ


 カン、カンと足元の鉄板が鳴り響く。普段はあまり鳴らして歩いたりなどしないのだが、今日は少し気が立っていた。上長室の戸を少し強めに叩く。中からどうぞの声がして乱暴にその戸を開けた。


「どういうことだ」


 中には笑みを浮かべた上長、麝香(ジャコウ) 撫子(ナデシコ)が書類を机に広げ椅子に座っていた。


「どういうこと、とはなんのことかしら? 最近の配給のこと? それとも」


 四月一日春音のこと?


 亜麻色の髪の毛を指で遊び、まるで俺が今からいうこと全てをわかっているかのように上長は楽しそうに笑った。


「春音のあの異常性はなんだ。まるで自分を()()としか思っていないような戦い方。そして不便だからと言って欠損した手足を治すために何の躊躇もなく自分の首を掻き切った。普通は少しでもためらうものだ。俺たちは安楽死薬をのんで蘇るだろう。どうしたらあんなのが出来上がる」


 首を掻き切り血飛沫をあげ倒れた春音を慌てて抱き起し、暴れる心臓を抑えつつ真桜と二人で復活を待った。そして綺麗になった春音が目覚めた時最初に言った言葉。


「お待たせしました。時間を無駄にしてすみません。早く帰りましょう」


 驚くより先に、理解ができなかった。こいつは何を言っているんだ? 復活するとはいえたった今自分の首を掻き切ったんだぞ? どうしてそんな平然としていられる? そんな、()()()()()()()のように。黙っていた俺が怒っていると思ったのか、また春音は訳の分からないことを言い出した。


「すみません、そのまま先に帰っていても大丈夫でしたよ? 私、復活の時間だけは速いのですぐ追いつけます」


 春音に少しの恐怖心を覚えてしまった。それは隣の真桜も同じだったらしく、つばを飲み込む音がやけに響いた。とりあえず帰るぞ、と俺はいつものように言えていただろうか。恐怖心を隠せていただろうか。


 手足が吹っ飛んだのだ。いくら復活したとはいえ何かあってはいけない。不思議がる春音を医務室へ押し込むと、真桜が「私がついています」と言い一緒に入っていった。そして今ここにきたわけだ。


 上長はふぅ、と一つため息をこぼし、笑みを消して話し出した。


「霊番浄化部隊。そこが四月一日春音のいたところよ。あなたも噂程度には聞いたことあるでしょう?」


「霊……!? 本当に存在したのか……」


「“霊の様に不確かな部隊” “死んでも死なない部隊” いろいろなあだ名はあれども、あなたの考えている部隊で間違いないかと思うわよ。霊番は確かに存在する。いや、した……とでも言うべきかしら」


「それじゃぁ……」


「言ったでしょ、元居た部隊が解散となった、と」


 解散、ということは部隊の全員が死んだか、部隊として成り立たなくなってしまったか。


 上長は片肘を机につき手元の資料を読み上げ始めた。


「西暦3755年、11月某日。特殊人型ドロップα(アルファ)と接触、対話を試みるも失敗。部隊長を除き部隊員全員が頭部を破壊され即死。なぜ部隊長のみが無傷だったのかは不明。12月より部隊長は研究所預かり。メディカルチェックやカウンセリングを受け、今にいたる……と。要約するとこんな感じね」


「部隊長のみ……? って部隊長!? それって春音のことなのか!?」


 春音が部隊長!? しかもあやふやな存在だったあの霊番浄化部隊の!?


 一気に来る情報があまりにも多すぎて頭が痛くなってきた。頭を軽く抑えた俺の様子を見て上長はクスクスと笑った。


「まぁあなたのこれからの行動は特に変わらないわね。あなたのところは()()()が多いから」


「だからと言ってこんな驚きは求めていなかったよ本当……どこからそんな情報もってきたんだ……」


「私も調べるの頑張ったのよ? なんせ閲覧権限があまりにも厳しすぎるんだもの。急に預けられて何の情報もないままよろしくだなんてできないものねぇ。馬鹿にされてるとしか思えないわよねぇ? なめられてるのかしら、私。それに、四月一日春音はもううちの者よ。コバエは払い取ってあげたいでしょう?」


 手が滑って色んなもの見ちゃったわ、だなんて言う上長は本当に凄い(ヤバい)人だと思う。怪しげな雰囲気を醸し出しているため色々と誤解されやすい人だが、やることはやるしいかに死人を出さずに作戦を遂行させるかを常に考えている情に厚い人だ。だから皆下につくことを良しとしている。俺も例外ではない。


 ただたまに遊び心からこういったように大事なことを隠して相手の反応を楽しむ悪い癖はあるが……。


「あの子についてはこれを見れば大体わかるはずよ」


 そう言って渡された紙の束。表紙である一番上には“出現ドロップ一覧”と書かれている。これはもう既に拠点に居る全員に配られ把握しているはずだが……。


 真ん中の方にある紙をランダムに一枚抜いてみた。“霊番”の文字が見えた時点で察し、そっと髪の束の中へと戻した。


「あらぁ? 必要資料のなかに()()()()重要書類が紛れ込んでしまったみたいだだわぁ。いったいどの資料に混ざってしまったのかしら」


 困ったわぁ、だなんてあまりにも棒読み過ぎる上長の声に、思わずクスリと笑いがこぼれた。


「いやぁ一体どこにいったんかねぇ。俺にもさっぱり……。そんじゃ、疑問も解けたことだし今日はこれでお暇させていただきましょーかね」


「分からないなら仕方がないわね。今日はもう任務がないから休んでていいわよ。また明日からよろしく頼むわね。部隊長さん」


 上長室を後にし自分にあてがわれた部屋へ戻る。鍵をきちんと閉めたことを確認し、政府から配給された飲み物を冷蔵庫からとってソファへ腰かけた。


「“霊番浄化部隊調査報告書”……一体誰が調べたのかねぇ」


 調べた本人はもしかしたらこの世にいないかもしれない。






 ――霊番浄化部隊報告書――


 ※閲覧権限のない方は即刻破棄してください。


 ・霊番浄化部隊(以下霊番)部隊構成


 隊長:四月一日(ワタヌキ) 春音(ハルネ)


 副隊長:五月七日(ツユリ) 夏樹(ナツキ)


 援護射撃:八月一日(ホズミ) 秋歌(シュウカ)


 長距離射撃:十一月二十九日(ツメズメ) 冬人(フユト)


 回復担当:月夜見(ツキヨミ)



 ・結成日


 西暦■■■■(塗りつぶされている)年4月1日


 上部の隊員は最新のものである。



 ・結成目的


 対堕獣実験――成功


 ■■■の限界値の測定――成功


 ■■■の自我の形成――成功


 ■■■の……――成功


 ■■■を……――成功

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――失敗





 なんだこれは。1ページ目からのインパクトが強すぎる。


「日付の名字に春夏秋冬の名前……。明らかに何かありますって言っているようなもんだよなぁ」


 1ぺージ目の下部はほぼ黒く塗りつぶされており読むことが不可能だったため次のページへと進む。




 ・霊番における規則


 人間に逆らわないこと


 人間と間違えないこと


 人間だと思わないこと


 身体の異常、変化はすぐに申し出ること


 痛みを感じないこと


 四肢を1つでも欠損した場合、速やかに復活すること


 道具であることを自覚すること



 ・霊番の堕獣総討伐数


 スコル――1万2千体


 ショーク――5千体


 ――――――体


 ……




 バサ、と紙をテーブルに置く音が響く。あまりの胸糞の悪さに目を通すのが嫌になってきた。上長の言っていた言葉がよみがえる。あぁそうだ。確かにこれを読めばあの子の行動のすべての意味が分かる。こんな部隊に本当にいたのなら、自分が道具以外の何物でもないと信じ切ってしまうのも無理はない。


 死ぬのが当たり前、蘇るのだから。


 人間のために戦って当たり前、人間がリザルを作り出したのだから。


 心などいらない、道具なのだから。


 一体誰だこんな規則を作ったのは……。リザルは確かに人間ではない。けれども、考える頭があり心がある。決して道具なんかではない。こんな、心を潰すような……。


 おっと、思考がトリップしてしまっていたようだ。結露した飲み物を手に取り乾いた口内を潤す。落ち着け俺。まだ序盤だぞこれは。


 しばらく読み進め、時折飲み物を入れながら頭に情報を入れていった。


 ようやく終盤になり、先ほど上長の言っていた情報が出てくる。




 ・霊番の解散に至る経緯


 西暦3755年11月某日、特殊人型ドロップαと接触。対話を試みるも失敗。部隊長を除き部隊員全員が頭部を破壊され即死。なぜ部隊長のみが無傷だったのかは不明。


 12月より部隊長は研究所預かり、メディカルチェックを受け復帰予定。


 ・部隊長による報告


 特殊人型ドロップαと接触。攻撃行動は見受けられない。挨拶をしてみるが目線をこちらへ向けただけで会話は無し。直後αによる素手での攻撃で回復担当、月夜見が頭部を破壊され霧散。相当数の戦闘能力を有すると思われる。即座に臨戦態勢をとったものの、続けざまに十一月二十九日、五月七日が霧散。その後、一度攻撃を止めこちらを観察するような行動をとる。


 八月一日が対ドロップ弾を用いて攻撃するも一切の効果なし。即座に頭部を破壊され霧散した。


 残る私に対しαが“ひと、と、とり”と発声、意味話不明。発声器官はあるもよう。その後5分ほど同じような言葉を発し去っていった。


 被害数4人。部隊は解散となるだろう。


 以上


 春音は、これをどんな気持ちで書いたのだろうか。たった一日、一度同じ任務に赴いただけでこの思い入れ要はなんだろうかと自分を笑った。それほど強烈に印象に残っているのだ。あの戦い方が。確かに技術はある。あのメリウを補助があったとはいえほぼ一人で撃破したのだ。下級部隊一つ分ほどの戦闘能力は余裕であるだろう。けれど、だめだ。あの戦い方はだめだ。あってはならない。あんな、悲しい戦い方は。


 読み終えた紙の束にライターで火をつける。灰皿の上で燃えるそれを火種に、俺は普段あまり吸わない煙草に火をつけた。


 ふぅ、と口から吐き出される紫煙を見つめ、これからのことを考える。


「とりあえず、今日の夕飯は何がいいか聞かないとなぁ。歓迎会も含んでいるわけだし」


 何が好きで、何が嫌いなのか。彼女は何でもいいと答えるだろうが、そこから少しずつ始めていこう。


 吸い終わった煙草を燃えカスの上に押し付ける。ソファから腰を上げ、ずいぶんと前に飲み終わった飲み物の空き缶を握りゴミ箱へと放り投げた。綺麗に放射線を描いたそれは、ゴミ箱の中に入ると思われた。が、カツン、と軽い音がして空き缶はゴミ箱の角に弾かれた。キマんねぇな、と俺は笑い空き缶を拾って改めてゴミ箱へ入れた。


 とりあえず、春音は医務室にはもういないだろう。交流しろと言ったからロビーにでもいるだろうか。


 春音に会いに行くため、ドアのカギを開け俺は外へ出た。



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