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chapter1 第三浄化部隊 初陣

 

 私の記憶は白衣を着た数人に囲まれ目が覚めたところから始まる。


【おはよう。どうだい新人類になった気分は?】


【適正判定A⁺。その他脳などにも異常ありません】


【そうか、では試してみよう】


 何もわからないままに私の視界が回る。声を挙げる間もなく私の頬は床に叩きつけられた。起き上がりたい。無理だ。なぜ? 目に映ったのは血飛沫を上げる首無しの体。それが己の体だと認識する前に、私の意識は無くなり世界は暗転したのだった。



 chapter1 第三浄化部隊 初陣



 誰もが平凡な明日を信じて疑わなかった日、突如として世界は壊れた。人が長い時間をかけて作り上げてきた建物も、歴史も、何もかもをガラクタに変えた謎の植物。誰も予想していなかった前代未聞の自然災害は地球全土で一斉に起こった。建物を飲み込み、人を押しつぶし、悲鳴さえもかき消すように一気に成長したのだ。そして同時にどこからか発生した人間を食らう生き物。なんの抵抗も出来ないまま無残に食い殺され人間という生き物は、わずか3日でもといた人口の10分の1になってしまった。


 しかし人類もただやられっぱなしだったわけではない。地下に隠れ潜み、今や無いに等しかった国境を越えて結束し、堕獣(ドロップ)と名付けられた奴らに対抗すべく5年という歳月をかけて新人類を生み出した。脳さえ無事ならば何度でも蘇る。そして見た目は人間と変わらないが奴らと同等の戦う力を持った、人の形をした()()()たちを。


 化け物たちはこう呼ばれる。


復活者(リザル)】と……。


 これは、リザルが生み出されてからさらに20年後の話。




「初めまして、本日付で第3浄化部隊に配属になりました四月一日(ワタヌキ) 春音(ハルネ)です。これからよろしくお願いします」


 肩口で切りそろえられた赤い髪を揺らし、15,6歳程度の少女は頭を下げた。


「彼女が元居た部隊が解散となったためうちで引き取ることになった。皆、面倒を見てやってくれ」


 第3浄化部隊のリーダーである男は春音の緊張をほぐす為だろう、春音の肩を叩き部隊のメンバー2人へと紹介した。


(アザミ) 孝臣(タカオミ)。主に使う武器はショットガン。よろしくね」


 オレンジ色の整えられた髪に優しそうな顔をした男は、射撃担当とは言いつつも鍛え上げられた体から近接攻撃も出来そうな様子がうかがえる。


「援護射撃担当、真桜(マオ)です。久しぶりの女の子で嬉しい! 仲良くしましょうね!」


 桃色の髪を後ろで高く一つに結わえた女性は、両手で春音に握手を求めた。キャー、と効果音の付きそうな明るい真桜の様子に、春音は緊張のほぐれた様子でよろしくお願いします。と真桜の手を握った。


「そして俺が第3浄化部隊隊長、突撃担当、露草(ツユクサ) ルカ。これからの活躍を期待してるからな、春音!」


 鴉のような黒髪に同じく黒い瞳。人の好さそうな笑みは、春音を安心させた。


 ここでなら、もう同じような失敗はしないかもしれない。





 side 春音


 ルカさんから説明された任務は、まずは肩慣らしにとルカさんと真桜さんと私の三人で十数体のスコルの討伐。スコルは狼のような姿をしたドロップで、高さは四足歩行の状態で私たちより低く体格もそこまでは大きくない。しかし、主な攻撃である突進はその体格からは考えられないほど重く、そして面倒な群れる習性がある。知能は低くとも数の暴力には注意しなくてはならない。


 任務の説明をしてくれているオペレーターさん、ハクさんのいってらっしゃい、の声と共に私たちは出撃した。




「今回は春音の戦い方を見たいから、俺たちのことは気にせずやってくれ」


 一人で殲滅してしまっても構わないぞ? なんて言うルカさん。


「いくらスコルとは言え十数体もいますからね。そんな簡単には出来ませんよー」


 油断は大きな隙を生んでしまう。一度の失敗で多くのものが失われるこの戦いにおいて、常に集中し真摯に向き合わなくてはならない。


 私はよく整備された両手剣を持ち、シャリリと一度鳴らした。武器に異常はなし。大丈夫、今日も行ける。


「援護は任せてくださいね! 私も頑張りますっ」


 片手の親指を立て前に突き出す真桜さんの反対の手には、見た目の可愛さからは想像できない通常の銃とはまた違う両手で構えて持つタイプのゴツい銃が握られている。


「そんじゃ、今日も()()()に行くか」


 日本刀を模した武器を手に構えたルカさんが前方へと移動してきたスコルの群れを見てそう言った。


 私たち3人は一度目を閉じる。次に目を開いた時には、怪しげにゆらりと光る青色へと瞳の色が変わっていた。




 私たちリザルは、脳さえ破壊されなければ何度でもその場で蘇ることができる。たとえ四肢をもがれようと、首をはねられようと。人間にとって死になりうることが、私たちにとっての復活。ただし、リザルとて万能ではない。条件だってある。


 その条件は、敵であるドロップを()()()こと。そのままの意味、食べるのだ。食べる部位は後程説明するので省かせていただこう。リザルは、大まかに言えばドロップの細胞を埋め込まれ作られた新人類だ。しかし重大な欠陥を持った者たちでもある。ドロップの細胞を埋め込まれたはいい物の、その後自分でその細胞を増やしたり作ったりすることができない。体内に保存できるドロップの細胞には限りがある。そのため定期的に外部から摂取しなくてはならない。私たちにとって戦うこと=生きることなのだ。


 戦うこともできず、喰らうこともできないリザルはどうなってしまうのか。ドロップの細胞が体から完全に消えた時、人間にもドロップにもなれない半端者は消滅する。ドロップの細胞を使って人の形を保っていたにすぎないため、霧散してしまうのだ。まるで煙の様に。霧散したものは誰にも集められない。事実上のリザルの死を意味する。


 それは脳を破壊されたときも同様。すべての指令は脳から下される。その指令が途絶えた時、同じように霧散してしまうのだ。




 私の戦い方を見たい、と言ったルカさんはその場を動かず、真桜さんは援護射撃のために同様にその場にとどまり私のみ前進した。スコルは視認できる範囲で15体。突撃してきた私に気づいたスコルたちは瞬時に戦闘態勢へと入った。私は両手剣を構え跳躍。群れのほぼ真ん中へと着地と同時に2体の首を切り落とす。スコルの特性として後退ができないことが挙げられる。跳躍力もない、交代も出来ないスコルは突進しか攻撃手段がない。故に次の軌道が分かりやすくもある。


 群れの真ん中に着地した私に一斉に向かってくるスコルをまた飛んで回避。スコル同士をぶつけ怯ませた後に怯んだ数体を撃破。後ろから突っ込んできていたスコルは真桜さんが討伐してくれた。私は両手剣の柄頭を合わせ2本ではなく両端に刃のついた1本の武器に変形させる。振り回すようにして攻撃。突進してきた1体の喉に刃を突き立てて引き抜いた。


 残るは3体。分が悪いと思ったのか逃げの構えに入ったスコル。それを逃がすわけもなく、正面に回り込みまた両手剣の形に戻して片手1体ずつで2体を撃破。最後の1体はがむしゃらにこちらへ突進してきたのでさっと首を切り落とし、スコルの群れは沈黙した。


 返り血すら避け戦闘前とほぼ変わらない状態で、私はスコルの死骸たちの中心に立っていた。落ち着くためにほう、と息を一つ吐いた所で後ろから声がかかった。


「息一つ乱れていないとはさすが! 期待の新入りだな!」


「すごい鮮やかでした! 援護するところなんてほとんどありませんでしたよ!!」


「ありがとうございます。実はスコルは前にいた部隊で慣れているんです。なので攻撃パターンとかもわかってて……。楽にできました」


「お、そうだったか。任務の受注ミスっちまったかなぁ」


 やらかしたなー、と武器をしまったルカさんに対し、真桜さんがしっかりしてくださいよ、隊長。と声をかけた。


 そんな二人に私は言った。


「とりあえず食べませんか? 私こんなにはいらないので」


「そうだなぁ。おこぼれを貰うみたいでちと恥ずかしいが、俺も真桜もそろそろ無くなりそうだしありがたくいただくとするか」


「私もいただきます」


 私たち3人の目は青く光ったまま。その状態でスコルの死骸の腹辺りに手を突っ込んだ。グチャリと水音がして赤い飛沫が上がるが気にせず奥へと手を突っ込む。ふと、コツンと硬いものに指先が当たる感覚がした。それを掴み一気に引き抜く。手のひらに収まるほどのガラス玉のようなもの。中にはドロドロとうごめく蟲のようなものが入っている。


 これがドロップのいわば心臓である。私たちはこれ――獣核(ジュウカク)――を求めて戦う。見た目は少々……いやかなりグロッキーだが、私たちの命の源なのだ。


 獣核を取り出されたドロップはリザルと同じように細胞がなくなったため霧散する。煙の様に消えてしまい残るのは血の跡のみだった。


 ガラスを軽く指で叩くとヒビが入り、そこから中の液体が漏れ出てくる。唇をつけ吸い付き、舌で舐り飲み込んだ。うごめく感触をしばし楽しんですすり、空になった入れ物を地面へ投げ捨てた。


「春音は()()に対してあんまり抵抗を持たないんだな」


 未だガラス玉を持ったまま食べていないルカさんにしみじみと言われた。


「抵抗を持ったところで食べなければ死ぬことには変わりませんから。慣れるとこの口の中で踊る感触も癖になりませんか?」


 無味無臭、という点についてはいいのだが、細胞がうごめく感じが苦手だ、というリザルも少なくはない。かといって食べないわけにもいかないので、結局は慣れるしかないのだ。


 私は初めてこれを食べた時からこの感触に関しては好印象を抱いている。昔人類が()()()()というのを行っていたのも納得だ。


「私は持ち帰らせていただきますね! 牛乳に入れるとなかなかイケますよ?」


「牛乳は試したことないですね、残りを持ち帰って早速やってみます」


「おすすめですよ! 基本飲み物に混ぜるのもいいですけど、ご飯にかけるのもアリです!」


「おい、変なことを新入りに教えんな。お前の味覚はどこかずれてるんだから」


「なんてこと言うんですか!!」


 ガーン、と口に出していう真桜さんが面白くてクスリと笑った。


 しかし、緩んだ口元もルカさんの次の言葉でまた元に戻った。


「俺はもう5年間食ってるがまだ慣れねぇなぁ。嫌でも化け物だってことを認識させられちまう」


 眉を下げて言うルカさんに、私は何も言えなかった。だって事実なのだから。私はそれを当たり前として受け止めている。私たちリザルは化け物だ。その事実は変わらないし、化け物として生み出されたのだ。ただほんの少し人間としての心も持ってしまっただけで。


 人間と見た目は変わらない。けれど本質は全く違うものだ。


「……一度認めてしまえば、あとは楽になるものです」


 ぽつりと出てしまった言葉を、ルカさんは拾った。


「おおっと、俺より年下の奴に心配させちまったか。わりぃわりぃ。とりあえず今日の任務はこれだけだから、後は帰って軽く他の奴らと話でもしてみたらどうだ?」


 ぐいっと一気に獣核を飲み干したルカさんに軽く肩を叩かれた。私ともお話してくださいねー! と言う真桜さんに軽く頷き、余った獣核を鞄に入れ、私たち3人は拠点へと歩き出した。


 私の初陣は、これであっさりと終わった。




 はずだった。




 地を揺らすような咆哮、一瞬固まってしまった体。遅れて吹き飛ばされる感覚。


「うがっ!!」


 上下感覚が一瞬狂ってしまうも、なんとか地面を視認。体をひねり地面をえぐりながらも着地した。


「春音!?」


「春音ちゃん!?」


「問題ありません! それより相手を!」


 時には剣にもなりうる特徴的な長く赤い髪。2mを超える身長ながらも女の体のような形。足はひざから下が合体し魚の尾のような形になっている。周りにふよふよと舞う水の玉たち。間違いない、メリウと呼ばれるドロップだ。きっと先ほどの私に対しての攻撃は髪を固め伸ばし吹き飛ばしたのだろう。


「くそっ! なんでこんなところに! 活動範囲外のはずだろうが!!」


 ルカさんがしまった武器を改めて構える。


「恐らく餌になる下位種のドロップがいなくなったんでしょうね。本来であれば3人で相手するような奴ではないのですが……」


「救援を要請しましたが通信が不安定です! 繋がるまでどこか隠れられますか!?」


 真桜さんが耳につけたイヤホンに手を当て焦った様子でこちらを見てくる。周りを見渡すもここは平野になっており、隠れるところを探している間にやられるだろう。それにもう既に奴さんはこちらを食べる気になっているらしい。ニタリと笑う大きな口元が妙に気持ち悪い。


「どうやら、それは相手さんが許してくれなさそうですね……」


「……ッチ、これが初陣たぁ、運がないなぁ春音」


「どうでしょう、産まれた時から運なんて信じちゃいないの……でっ!!」


 先ほどの戦闘状態のままの武器を両手剣一本にし跳躍。メリウへと両手で叩きつける。案の定硬化した髪に防がれ弾かれる。周りに浮かぶ水の玉たちが一斉に私へ向かってくるのを確認しバク転の要領でそれらを避けた。


「ルカさん! 指示を!!」


「真桜は散会! 安定した足場を見つけ援護射撃!! 春音は近接、メリウ相手ならどこまでいける!?」


「了解! 援護しつつ救援要請をつなぎ続けます!」


 真桜さんが高く飛び上がりその場から消える。


「メリウなら間合いより内側に入ってしまえばなんとかなります!」


「……内側ぁ!? まぁいい、命令は一つ。死ぬな!!」


「死にたくても……死ねませんけどね! 了解しました!」


 ルカさんと同時に攻撃を仕掛けるも硬化した髪を壊すことができない。真桜さんが援護射撃でメリウの気を逸らしてくれているうちにポケットから対ドロップ弾を取り出し、メリウの首近辺を目掛けて投げる。メリウは真桜さんの弾丸に気を取られていたため慌てて硬化した髪で弾こうとするも遅い。


 爆破の煙で一瞬でもメリウの視界を奪い接近する。メリウの厄介な髪の毛の弱点は根本。顔が目の前にあるくらい接近しなくてはならないのでそこまでがかなり大変なのだが、一度入ってしまえばこっちのもの。硬化した髪よりは柔らかいが決して柔らかいわけではないメリウの髪の毛を半ば強引に切り落とした。


 その時にメリウが悲鳴を上げた。思ったより間近で聞いてしまったため耳がやられる。


 そのせいで反応が遅れたらしい。メリウの周りに浮かぶ水の玉を左の肘辺りにくらってしまった。この水の玉は敵に当たると爆発する習性がある。もちろん、今私の手に当たったこいつも例外ではない。


「……っっ!!!!」


 吹き飛んだ肘から先。吹き出す血液は鮮やかな赤色。ケタケタ、と不気味に笑うメリウの顔が目に入った。あぁ、腹立つなあ。初任務だからって浮かれちゃったか自分。


 ルカさんが何かを叫んでいる気がするがまだ耳がやられていて聞き取りづらい。こんなんじゃダメだ。使えない奴だって思われてしまう。3人で相手するような奴じゃない。それがなんだ。早く、早く殺して喰ってあげなきゃ。


 耳がだんだんと回復してきてルカさんの声が聞こえてくる。止まれ! の声が聞こえたが聞こえないふりをした。だって早く殺してあげなきゃ。初日から命令違反だなんてね……。


 でも、私は、私たちは、こいつらを殺して喰う義務がある。義務は……果たさなくては。


 よかった。もう痛みなんて感じなくなっていた体で。もう機能していないメリウの髪の毛なんて怖くない。水の玉はもう避ける必要がない。狙うはメリウの左の眼球。そこに獣核がいる。右足を水の玉で爆破されたと同時にメリウの首を掻き切った。怯んだ隙に武器を捨て残った右手でメリウの眼球をえぐり取った。ブチリ、と嫌な感触がしてメリウの左目、もとい獣核を摘出した。


 やっと回復した耳に入る断末魔。そして何度かの銃声。最後に断末魔は小さくなっていき、2m超えの長身が地面へと崩れ落ちた。霧散し一切の生気が消えたことを確認して、私も地面へ座り込んだ。無くなった左手と右足。水の玉が当たったところは見事にえぐられておりこれで死なないのはさすがリザルといったところか。開発者たちを軽く褒めていたところで、倒れそうになった体をいつの間にか戻ってきた真桜さんに支えられた。


 そこでルカさんも走ってきて合流する。


「春音……! お前なんて無茶な戦い方!!」


「こんな重症になる戦い方なんて!!」


「……? でも倒せましたよ? あ、ちょっとこれ持っててもらっていいですかね」


 無事だった右手に持っていた獣核をルカさんに渡す。食べちゃっていいですよ。との言葉も忘れずに。何か言いたげなルカさんと、悲しそうな顔をした真桜さんをよそに、私は投げ捨てた武器を拾い構えた。


「……え?」


「おい待て!!」


「これじゃ帰れないのでちょっくら生き返ってきますね。すみませんが少々お待ちを」


 刃を自分の首に当て、迷いなく掻き切った。




 暗転




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