第7話:君と紡ぐ世界
罹依:「今日ね!」
漉音:「いや、何がだよ」
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《君と紡ぐ世界》
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今俺は、
部員が各々の事情で
部室に来られない
ということだったが、
特に行くあてもなかった
から部室に来ていた。
すると、
どこからともなく
まるでずっと監視でも
していたのかのように
罹依が部屋に続いて
入ってきた。
途端これだ…
意味がわからん。
罹依:
「何がじゃないでしょ。
雲英君よ、雲・英!」
漉音:「ん、もうそんな
退院の頃だったか」
罹依:「あんたね〜、
部員仲間のことくらい
覚えときなさいよ」
漉音:
「わかったわかった…
じゃあ雲英を出迎える
準備でもするか?」
罹依:「しない!」
きっぱり拒否した!
仲間って
言ったの誰だよ!
罹依:
「行くのよ、今から」
漉音:「…へ?」
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漉音:
「夏も
終わりだというのに
何故お前はそんなにも
元気なんだ太陽。
でもきっとお前だって
罹依に付き合ったら
元気じゃなくなる。
そんな自信が
俺にはある!!」
罹依:「黙れ!」
グーで殴られた‥
罹依:
「何よその
誰に言ってるのかも
どう答えたらいいのかも
意味不明な文章は!」
漉音:
「暑さで壊れそうな上に
お前のせいで精神崩壊
しそうなん‥‥」
…グーで殴られました。
罹依:
「ふぅ……ねぇ」
漉音:「あ?」
罹依:
「あんた…
渚とうまくやってる?」
漉音:「なっ!!」
何でそんな話に
いきなり持って行く!?
漉音:「…ま、まあな」
まず平静を保とう…
そうすればこんなの‥
罹依:「キスは?」
漉音:「なっっ!!」
直球すぎるだろ!!
一体どうしたんだよ!?
漉音:
「…ま、まだだが?」
罹依:「ふーん…そう」
簡単に納得するなあ!
お前は何がしたい!!
‖
罹依:「あ、着いたわよ」
しばらく無言だった
罹依が喋りだす。
こいつの無言ほど
耐えられないものはない
そして病院の
涼しい冷気に当たる。
これをどれほど
待ち望んだか。
罹依の姿がいつの間にか
見えなかったから、
捜したくはなかったが
後々面倒に
なりそうなので捜すと、
罹依はナースさんに
雲英の室番号を
聞いているところだった
つくづくテレビを
見ていて思うのだが、
本当にナースさんは
室番号など
覚えているのだろうか。
あとで罹依にでも
聞いてみるとしよう。
罹依:
「5階の502号室よ。
早く行きましょ」
‖
罹依:「雲英君いるー?」
病室の扉開けて
大声で言うなよ。
そこの爺さん
びっくりして喉
詰まらしちまったろうが
仙里:「Zzz‥」
罹依:「あ、寝てたか」
漉音:
「…叩き起こすなよ?」
罹依:
「しないわよ!
…まあいいわ。
ちょっとお見舞いの品を
そこまで買ってくるわ」
そう言うと罹依は
速歩きで病室を出て行く
漉音:
「……仙里、
起きてんだろ?」
仙里の体は
すっと起き上がり、
眼がゆっくり開く。
仙里:
「…バレましたか。
流石は由来さんです」
漉音:
「ああ。
今日退院なんだってな」
仙里:
「はい、おかげさまで」
変わらない…
事故前と態度も。
でも…
漉音:
「仙里、お前もう
あの能力使えないよな」
仙里:「……」
黙ってしまった。
図星みたいだな。
仙里:
「…はい。
いえ、元々あれは
僕自身に使う予定は
さらさらなかった
ですから」
漉音:「そうか…」
仙里の能力。
正確には能力じゃなくて
あいつが持ってる
袋の中にある《何か》。
それは仙里いわく、
《願いが叶う》もので、
あいつは罹依のために
使った。
《いつまでも一緒に》と
罹依:「漉ー?
あんたソーダで…って
あんた雲英君を
叩き起こしたわね!?」
漉音:
「あ?
違う、こいつは‥っ!!」
ドガ!!‥‥
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仙里:
「すみません罹依さん。
わざわざ
来ていただいて‥」
罹依:
「構わない構わない(笑)
雲英君が元気なら
問題ないわ」
俺には問題
大ありだけどな。
仙里:
「……2回目ですね」
罹依:「え?」
仙里:
「昔にも僕は罹依さんに
病院にお見舞いに
来てもらったことが
あるんですよ。
やっぱり…
覚えてませんか?」
罹依:「あー‥‥」
記憶をひねり出すように
頭をフル回転させる。
だが多分
思い出せないはずだ。
罹依の
欠けた記憶だからな。
現に前にも仙里は
同じ質問をしたが
知らない、と
あいつは答えた。
罹依:「…っ!!」
漉音:
「っ!どうした罹依!」
頭を抱えて
しゃがみ込む。
しだいに
息も荒くなって‥‥
仙里:
「ナ、
ナースコールを……!」
罹依が仙里の腕を掴み、
ゆっくりと立ち上がる。
罹依:
「っ……大丈夫だから…
大丈夫……」
仙里:「罹依…さん?」
心配そうに罹依を
じっと見つめる。
その時、
罹依の口が開いた。
罹依:「思い……た」
漉音:
「?……まさか!」
罹依:「思い…出した」