第18話:忠告の標
仙里:
「今の生活どうです?」
漉音:
「ん?どうって‥」
洗い場で仙里と一緒に
皿洗いをしていたとき
ふいに訊かれた。
漉音:
「満足…じゃ駄目か?」
仙里:
「くすっ、
由来君らしくない」
漉音:
「なにを!?」
久しぶりに会って
会話した末が
らしくない言われて
俺はなんなんだよ!
漉音:
「…そういうお前は」
仙里:
「……」
漉音:
「なにもかも、
変わっちゃいないな」
仙里:
「僕が変わり始める時、
それは終焉ですから」
難しい言葉をさらっと‥
漉音:
「終焉て?」
仙里:
「…秘密ですよ」
玖珠:
「へー、秘密かぁ」
何か後方に
黒い殺気を感じるぞ。
仙里:
「はい。……ん?」
漉音:
「あ、おっさん」
玖珠:
「あ、おっさん…
じゃねえぞゴラァ!!
お前ら…
俺様の裏の秘密を
知りたくなかったら
手ェ動かせー!」
仙里&漉音:
「は、はい‥」
Ι
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《忠告の標》
Ι
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仙里:
「じゃあ僕は
失礼しますね」
夕焼けの陽が
入り口に差し込む頃、
客も少なくなって
仙里が解放される。
玖珠:
「あ、おい
ちょっと待て小僧二号」
二号ってなんだ。
俺が一号か?
おっさんは
レジまで歩くと
千円札を二枚くらい
取り出して
仙里に差し出す。
玖珠:
「ん、ほらよ。
今日のバイト代だ」
仙里:
「あ、別に
そんな結構ですよっ」
玖珠:
「いいから受け取れ!
受け取らなかったら
環那といちゃつくぞ」
環那:
「まあ♪」
漉音:
「勝手にやってろ…
じゃあまたな仙里」
仙里:
「由来君もお元気で」
‖
それから数分後、
渚:
「ただいま
帰りました〜」
環那:
「お帰りなさい、渚」
2階にいた俺だが
どうやら渚が
帰ってきたらしい。
漉音:
「おっさん、たんま」
玖珠:
「なんだと?
男が目の前の勝負から
逃げ出していいのか?」
漉音:
「…ゲームだろ」
玖珠:
「…大乱闘だろ?」
某永遠の二番手と
称される緑の人気者に
やられておけ。
そうしておっさんを
無視しつつ下に向かう。
漉音:
「おかえり、渚。
学校どうだった?」
渚:
「はい!なんとか
クラスのみんなと
打ち解けれそうです。
河南さんとは…
違うクラスでしたけど」
漉音:
「そっか‥」
ちょっと悲しくなる。
去年まで渚と一緒に
登校していた俺は
今じゃアルバイト。
まるで俺が残された
みたいじゃないか。
渚:
「…漉君?
涙…出てますよ。
どこか悪いんですか?」
それでも今も
渚の暖かな優しさを
俺は感じれる。
それだけで十分だ。
玖珠:
「こいつ、
頭が悪いんじゃねえの」
渚:
「お父さん!」
おお、ちゃんと
ボケずに怒ってく‥
渚:
「そうなんですか?
漉君は頭が
悪いんですか!」
漉音:
「なんでそう
つながるんだよ!?」
環那:
「まあ!漉さんは
頭が悪いんですか。
薬…薬…」
馬鹿に効く薬は
ありませんよ環那さん。
真面目に
考えないでください。
しいて言うなら
馬鹿はこの一家だ。
Ι
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それからのこと、
風の強い日、
雨の強い日。
渚は行き際に
笑顔だけ見せて
家をあとにする。
でもその背中は
どこか切なくて、
昔のように
変わらなく振る舞うのは
嘘な気がしてならない。
漉音:
「俺も人のことばっか
心配してなんないな」
手に取ってみるのは
コンビニにあった
求人情報誌。
俺だっていつまでも
ここにやっかいになる
わけにもいかない。
次へ次へと、
進んでみなくちゃ
わからないんだ。
漉音:
「…そういえば渚今日、
部活説明会が
あるからって
盛り上がってたな。
誰か入ってくれると
嬉しいんだけどな」
…不安の種は部長か。
ちゃんと説明出来るか?