第17話:澄み渡る一歩
明くる朝、
俺はいつもの通り
店の掃除を済ませてから
朝食を食べていた。
渚:
「あ、漉君。
おはようございます」
漉音:
「ん、おはよう。
学校頑張れよ、
今日始業式だろ?」
渚:
「はい!
だから河南さんたちと
一緒のクラスに
なれたらいいな〜って
思ってますっ」
漉音:
「よし、その意気だ!
頑張れ、渚」
渚:
「はい、
行ってきます、漉君」
渚はドアを出るとき
少し微笑みながら
家をあとにした。
そう、
俺の卒業式から
早1ヶ月。
渚は留年はしたものの
せめて卒業はしたいと
そう決心し、
河南と同じ学年で
今年を過ごすみたいだ。
俺はというと
高校を卒業したあと
進学する気などなく、
渚の家で泊まり込みの
バイトをしていた。
でもそれだけじゃ
申し分ないのも
わかってたし、
家事なども手伝ってる。
あの2人は
相も変わらずあの調子。
食卓から笑い声は
絶えることがない。
漉音:
「お!」
玖珠:
「ち…渚に会うこと
出来なかったか」
そこに今目覚めたらしい
サボり店主が来た。
渚に会いたかったのか、
惜しかったな。
漉音:
「渚なら今行ったぞ」
玖珠:
「お前は会えたのかよ。
…渚なんか俺に
言ってなかったか?」
漉音:
「ふつつか者ですが
よろしくお願いします、
お父さん!ってな」
玖珠:
「なんで俺が娘に
よろしく言われないと
だめなんだよッ!!
しかも何だ?
言ったのかそれ!?」
そこを信じるなよ‥
漉音:
「ほら、そろそろ
店開けるぞ。
着替えてこいよ」
玖珠:
「ああ、すまねえ…
…って立場の逆転!!」
渚…俺も頑張るからな。
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《澄み渡る一歩》
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ー学校ー
渚:
「クラス…クラス…
あ、ありました!」
カ行も見てみましょう。
河南さんが
いるかもしれません。
河南:
「!渚さん、
お久しぶりだ」
河南さんが
向こうからこちらに
呼びかけながら
近づいてきました。
渚:
「河南さん!
今年ももう1年
よろしくお願いします」
河南:
「ああ…だが
クラスは違ったようだ」
クラスが…違うのか‥
河南:
「でも
困ったことがあったら
何でも言ってくれ。
私は渚さんの
隣のクラスだ」
渚:
「はい、勉強
頑張りましょうね♪」
‖
ガラッ‥‥
教室のドアを開ける。
そこには暖かな
陽射しが射していて
ぽかぽか陽気。
渚:
「もう…
いないんですよね」
部屋を眺めるだけで
心に思い出される
みんなとの日々。
漉君がボケて、
知美ちゃんがつたない
ツッコミをして、
古今君が冗談を言ったら
罹依さんが古今君を……
これ以上は
言わないでおきます。
言い難いのもありますが
思い出せば
思い出すほどに、
みんなが、恋しくて。
渚:
「私、頑張ります!」
まだ時間はあります、
頑張らないと!
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「焼肉定食ひとつ〜」
漉音:
「はーい!
おっさん、焼1っ」
玖珠:
「おっさん言うな!」
環那:
「はい、どうぞ
お召し上がりください」
昼頃になると
会社の合間や
トラックの運転手が
主な相手となる。
もう食べるのなんの‥
玖珠:
「手ェ休めんじゃねえ、
ほら、焼1一丁」
漉音:
「わかってる。
んと、よっと!」
この需要に対して
3人はキツいな、
猫の手でも
借りたいぐらいだ。
?:
「貸しましょうか?
猫の手」
漉音:
「あ?……お前‥」
仙里:
「お久しぶりです、
由来君」
最後に会ったのが
いつだったか。
相当前だったはずだ。
漉音:
「お前学校は?」
仙里:
「僕はそれどころ
じゃないので。
色々と忙しいですよ」
仙里は幽霊
みたいなもんだ。
彩音と一緒で
もうホントは死んでる。
玖珠:
「おい小僧!
客と喋ってる暇…あん?
てめえのダチか?」
仙里:
「あ、はい。
僕、仙里と‥」
玖珠:
「ちょうどいい。
猫の手でも
借りたかったとこだ。
よし、手伝え」
仙里:
「へ?あの‥」
玖珠:
「環那!
お前は裏の花しとけ!
皿洗いは小僧の
ダチがしてくれるっ」
環那:
「あら、本当ですか?
では私は花屋の方に‥」
仙里:
「いやあのだから‥」
玖珠:
「エプロンは
そこにあるから
早くやっといてくれ」
仙里:
「……はい」