第16話:君と紡ぐ世界
罹依:
「クッリスマス!
クッリスマス!!
古今の血が散る
赤色おじさん
サンタさん〜イェイ!」
古今:
「リアルに恐いわっ」
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《君と紡ぐ世界》
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今日は12月24日。
俗にいうイヴだ。
今はみんなで
渚ん家に上がり込んで
部屋やツリーに
装飾を施してる。
渚:
「私も手伝いますよ」
結依:
「大丈夫ですよ
渚ちゃん。
今はまだ体を
休めておいてください」
罹依:
「その通りよ渚。
あんたは今
体を治すことだけを
考えてなさい!」
渚:
「でもそしたら
サンタさんからの
プレゼントを
決めれませんよ?」
漉音:
「はあ?サンタさんなら
すぐそこで煙草吸っ!?」
突然おっさんに
口を抑えられ
部屋から出される。
玖珠:
「あいつはまだ
サンタを信じてんだよ。
おめえはあいつの
子ども心を
ぶち壊す気か?」
漉音:
「早く世間体的に
教えろよおっさん。
あいつ面接とかで
笑い者にされるぞ」
玖珠:
「そいつは
そうなんだがな‥」
頭を掻きながら
「うーん」と
考え込んでしまった。
玖珠:
「まあ、何というか。
とりあえずほっとけ」
スゥー‥
(襖を開ける音)
漉音:
「渚ー!
おっさんから
重大発表が
あるみてえだぞー」
玖珠:
「おめぇは…
コンニャローッ!!」
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環那:
「はーい、じゃあ
写真撮りますよー」
クリスマスツリーを
後ろに置いて
俺、渚、古今、罹依、
早瀬、河南、神崎、
知美が渚を中心に
屈んだりして
位置を整える。
環那:
「玖珠さんは
入らないでくださいね」
後ろを振り返ると
ばっちりピースしてた
おっさんがいた。
玖珠:
「べ、別にいいだろ?
な、渚?…渚?
なあ、お父さんを
無視しないでおくれ」
渚:
「んー、じゃあ
お父さんはサンタ役を
お願いしますね」
急遽おっさんに
白い髭、赤い帽子、
赤い服に大きな袋が
追加装備され、
端から見れば
誰だかわからない。
玖珠:
「俺は…
みんなに夢を運ぶ
サンタなんだよな。
よな?由来よ」
漉音:
「環那さん、
準備オーケーでーす」
華麗にスルー。
環那:
「はい、じゃあ、
撮りますよー」
環那さんもスルー。
環那:
「はい、チーズ!」
写真は無事撮られた。
みんなが意気揚々と
笑いあいながら
写真を彩っている。
みんなが楽しくて、
俺も楽しくて、
この先のことなんか
誰も考えやしなかった。
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何ヶ月かしたある日、
ホームルームが終了した
俺たちのクラスの
体育館への列は
きれいにできていた。
今日に限っては
珍しくはない、
なぜなら…
漉音:
「古今、
ちょっと付き合え」
古今:
「由来…僕と
そんな関係をお前は
築きたかったのか?」
漉音:
「今日はもう
ツッコまないからな、
ほら行くぞ」
古今:
「どこに」
漉音:
「適当にそこら
ぶっ潰せば
留年くらいなるだろ?」
古今:
「由来、お前」
漉音:
「そうでもしないとよ、
あいつが…渚がまた
ひとりぼっちに
なっちまうだろ」
これが俺の今の心境だ。
そう、こうでもして
俺が残らないと
渚はひとり残される。
渚は…留年した。
俺には耐えられない。
古今:
「馬鹿かお前はよぉ」
漉音:
「あ?」
古今:
「渚ちゃんは、
お前にはここに
残ってほしくないって
言ってんだよー!!」
漉音:
「古今!!
なんつった今ぁ!!」
古今の言葉が
俺の琴線にふれる。
古今:
「ここにはまだ
河南たちがいるだろ!
それに渚ちゃんは
お前に自分のために
立ち止まってほしく
ないんだよー!!」
漉音:
「っ!」
立ち止まって
ほしくないから
あいつは俺に
今日ただ
いってらっしゃい、と
言ったのはそのためか‥
先生:
「決心がついたな」
古今&漉音:
「!いつの間に‥」
一瞬逃げようかと
思ったがしなかった。
雰囲気がいつもとは
違っていたからだ。
先生:
「お前たちも
今日でここを卒業する。
思い出すなぁ、
あの日、私が
君たちを会わせたのを」
あの日、入学式か。
あの時から俺も古今も
不良に近い状態だった。
ただお互いを
知らなかった。
そこに何の偶然か
俺と古今が
お互いを知った。
別にそれは
ただの偶然だと
今まで思っていた。
まさか全部
仕組まれてた
ことなんてな。
先生:
「あの時の選択は
正しかったようだ。
君たちの巡り合わせは
互いを良い方向へと
導いたみたいじゃな」
古今&漉音:
「……」
俺は最初
こんなくだらない毎日が
のうのうとただ
過ぎていくだけの
この学校が嫌だった。
でも、今考えれば
そう悪いことじゃ
なかったみたいだな‥
先生:
「…っと、
もうこんな時間か。
私も今年で
定年をむかえる。
君たちと会うのも
きっと最後じゃな。
じゃ、君たちも
急ぐんじゃぞ」
漉音:
「…あ、あの」
先生:
「…そうそう。
さっきこの学校を、
なんじゃったかの。
ぶっ潰せば、か?
もう歳じゃの〜
忘れてしまったわい」
振り向くこともなく
体育館に歩きながら
そんなことを
先生は呟いた。
漉音:
「せ、先生!」
歩く足が止まり
ゆったりと振り返る。
古今&漉音:
「今まで、
ありがとう
ございましたっ!!」
深々と頭をさげる。
俺たちを巡り合わせた
この恩はこれでしか、
俺たちには
これくらいしか
出来なかった。
精一杯の感謝だった。
先生:
「うん、うん。
…さて、行こうかの」
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卒業式は無事に終わり、
俺も古今も罹依たちも
みんな卒業証書を
今手にしていた。
校門前では
卒業した生徒たちが
写真やらなんやらで
がやがやと騒いでいる。
罹依:
「ねえ漉、
これから二次会
やるんだけどさ、
あんたも」
漉音:
「いや、俺はいい」
罹依:
「…そうよね。
待ってるのよね。
早く行ってきなさい」
漉音:
「…すまねえ」
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久々の町は
明るく色鮮やかだった。
こんな昼間に
この道を通ったことは
一度もなかったな
そういや。
店の前では
まだ眠っているはずの
渚が立っていた。
漉音:
「まだ眠ってないと
駄目って言ったろ?」
渚:
「大丈夫ですよ。
それに、眠ってたら
漉君の制服姿が
もう見れませんし」
声が出ていない。
まだ無理をしてるんだ。
漉音:
「制服なんて
いつでも着てやる。
ほら、布団に」
渚:
「はい、でも
あの学校の生徒でいる
漉君を見たいんです。
…少し歩いても
いいですか?
漉君と手をつないで」
渚からそんなことを
言うなんて初めてだ。
なら俺は渚の意志を
尊重しなくちゃ…な。
漉音:
「ああ、じゃあ歩くか」
渚:
「はい」
渚の小さい手が
俺の手におさまって、
しっかりと握り合う。
渚:
「また、この町でいつか
歩きましょう」
渚の優しさ、
それだけが今
俺を満たしていた。