第15話:霜は降り立つ
…雪が舞っている。
木々の枝についてた
緑葉はいまや雪の下だ。
前まで頭の上に
あったものが今じゃ
足で踏みつけられる、
なんか可笑しいよな。
…今更かもしれないけど
俺は、この町が好きだ。
好きだった。
何もかもが
移り変わってく、
それは仕方のない
ことだって頭の中
じゃわかってたさ。
わかってた…
つもりだった。
漉音:
「もう、冬か‥」
俺はいま…何をしてる?
Ι
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《霜は降り立つ》
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季節の変わり目は
体調を崩しやすいなんて
昔からよく聞いてたけど
いざ渚が体調を崩すと
俺は何も出来やしない。
毎日家に寄って、
夜になるまで横にいて、
ひとり家に帰る。
この繰り返し。
俺にはこれしか
出来ないんだ。
渚は
「それだけでも嬉しい」
とは言ってくれるが
俺が納得できない。
俺はもっと、もっと、
渚や罹依や河南や
知美や古今や仙里や
他のやつらと
楽しく残った学園生活を
過ごしたかった‥
古今:
「なーに、らしくない
顔してんだよ!」
罹依:
「渚のためにも、
あんたがそんなんじゃ
きっと悲しむわよ〜」
漉音:
「……」
前みたいに、
いつも通りに
話がしたかった。
でも俺の喉が声を
つぶしていた。
俺は何も言えなかった。
ただ、机に伏せていた。
古今:
「…なあ由来、
ちょっと立てよ」
迷わず俺は立てた。
次に起こることなんて
わかりきってたさ。
ボガッ!!
顔をおもいっきり
殴られた。
古今:
「そんな顔じゃねえよ
お前の顔はぁぁ!!
お前いまの顔見ろよ、
そんな顔で渚ちゃんは
喜ぶと思ってんのか!」
俺はもうな、
疲れたんだよ古今。
こんな学校、
もう価値なんて
俺にとってないんだよ。
罹依:
「…漉‥‥」
でも俺は卒業するまで
ここの生徒だ。
渚もここの生徒だ。
時間がたてば
渚だって良くなる。
また、学校で
演劇でもなんでも
出来るようになるんだ。
それまでだ…それまで、
今は我慢するしかない‥
Ι
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環那:
「…そうですか、はい。
お手数おかけします」
受話器を置く手は
少なからず震えていた。
学校からの電話だ。
そこに野球から
帰ってきた定食屋店主、
玖珠が現れた。
玖珠:
「…ん?
どうした環那、
顔がうかねえぞ」
環那:
「…玖珠さん
…実はですね…
さっき学校から
直に連絡があって‥」
玖珠:
「え‥」
その意を察してか、
手からするりと
缶ビールが滑り落ちる。
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放課後、
誰とも話さず
真っ直ぐ渚ん家に来た。
漉音:
「ちわっす‥?」
レジでくわえ煙草してる
馬鹿面おっさんを
発見した。
目が遠い…
黄色のネズミがいたなら
鋼鉄の尻尾で
殴りつけたいくらいだ。
漉音:
「どうしたよおっさん」
反応がない。
ただのおっさんだ。
玖珠:
「反応しなかったら
ただのおっさんて
どういうことだよ。
おっさんじゃねえ、
玖珠様と呼べ。
…冗談はいい、
さっさと来い。
お前にひとつ
話しておきたい
ことがある」
漉音:
「はぁ‥」
‖
漉音:
「……は?
冗談はなしだろ?」
玖珠:
「冗談じゃねえよ。
現実問題だ」
テーブル挟んで
俺、玖珠環那さん。
出された話題は、
《渚はもう1年、
最悪学校に
いなきゃならねえ》
環那:
「先程、学校から
連絡があったんです。
「このまま休み続けると
出席日数が
足らなくなって、
留年しますよ」って」
環那さんの口、
いや世界がとても
スローモーションに
感じられた。
漉音:
「お、俺はイヤだ」
玖珠:
「イヤだ言うな。
もう大人だろうが」
渚が留年すれば
俺は少なくとも渚と
一緒にいられる時間が
減ることになる。
渚からしてもそうだ、
きっと自惚れじゃない。
玖珠:
「まあ、
まだ決定した
わけじゃないから、
修正は何度でもつく。
あと2週間、
それがあいつの
卒業への道だ」
漉音:
「2週間‥」
‖
渚:
「はい、2週間です。
さっきお母さんから
聞きました」
見た目はいつもと
変わんないのに‥
渚:
「まだ卒業式まで
3、4ヶ月ありますし、
きっと大丈夫です!
治しますから!」
努力家で元気で
しっかり話せるのに‥
渚:
「また、明日です」
どうしてお前は
俺たちが大好きな学校に
行けないんだよ‥‥
部屋に帰ってからも、
それしか
考えれなかった。
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謎の者:
「まずは如月渚…
そしてこの子‥。」
一面白い景色に
小さな光が漂う所に
"者"と子がいた。
子の方は今も目を閉じて
開ける気配はない。
そして横たわっている。
謎の者:
「選択肢はもうない。
運命は決まったんだよ、
由来漉音‥。」
言い得ぬ旋律が歌った。