第10話:修羅の極み
…こっそり
あとをつけた。
だけど
勘違いしないでほしい。
俺は河南がまた
倒れたりしないかを
見守るだけなんだ。
本当だ。
本当に本当なんだ‥‥
あれ、誰に
訴えかけてるんだ俺は?
Ι
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《修羅の極み》
Ι
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とまあ古今みたく
心を荒読みしてくる
やつもいないから
その話はおいといて…
漉音:
「夏も終わったよな。
もうこんなに
暗いなんて‥‥っ?」
前を歩いていた
河南の様子がおかしい。
急に立ち止まっちまった
神妙に身を凝らす。
河南:
「……誰だ
そこにいるのは!」
いきなりバレたかっ!?
……ていうわけ
でもないらしいな。
河南より数m先、
3人組の輩が明らかに
河南に
メンチをきっていた。
河南:「…しつこいな」
輩A:
「いつかの借りがまだ
返せてないからなあ!」
何で
逃げないんだ河南は!?
女1人で男3人を
相手にできるわけ
普通は無理だろ!
河南:
「…今日はもう暗い。
生徒も
通行人もいないか‥」
輩B:
「あぁ?
何言ってんだ?」
河南:
「つまり、
今まで私は逃げる
ばかりだったが、
今日なら相手できる
ということだ」
それを聞いた途端、
奴らが後退りする。
河南:
「どうした、
来ないのか?
なら今すぐ
私の目の前から
消え失せてほしい」
輩A:
「ち、畜生!
なめんなよーーっ!!」
男の1人が河南に
向かって走り出す。
それを素早く
かわしたかと思うと、
男を容易く壁に
ひれ伏さしてしまった。
輩A:「ぐっ、ぐぅ‥」
河南は立ち尽くしている
男たちを一瞥して、
河南:
「貴様らも
まだやる気か?」
輩B:
「ちぃ!
きょ、今日のところは
引き上げるぞっ!!」
そそくさとカッコ悪く
退散していく。
何だったんだ
あいつらは?
河南:
「はあ‥‥
お前もさっきから
何してるんだ、由来」
……やっぱりバレてたか
漉音:
「お前を心配して
ついてきたんだよ」
河南:「……ストーカー」
漉音:「あああああっ!!
それだけは言うなぁ!!」
屈辱とかそんな言葉に
できるような
レベルじゃなかった。
漉音:
「…そんなことよりもだ
河南、
何なんだあいつらは」
河南の口は
微かに開いたまま
微動だにしなかった。
河南:「…言いたくない」
漉音:
「言いたくないって…
河南、俺にもそんな
話せないことなのか?」
河南:
「言ったら
由来の中にある
私の印象が180度
変わってしまうぞ?」
漉音:
「それでもいいさ。
お前の全てを
俺は受け止めてやる」
目が見開く。
予想外の回答
だったらしい。
河南:
「…私は以前、
この学校に転校してくる
前の学校で、
俗世間でいうところの
不良グループの
1人だったんだ」
漉音:「不良グループ‥」
河南:
「そんなある日、
私の家は貧乏でな、
夜逃げしたんだ。
……親だけ」
漉音:「……親だけ?」
河南:
「私と弟を養える
自信がなかったんだろう
それから私は働きにでた
そして少しでも
家計の苦しみを
減らそうと、
公立である今の学校に
転校もしたんだ」
漉音:
「何かと
大変だったんだな」
河南:
「だがそこに現れたのが
さっきの奴らだ。
あまりに
しつこいものだから、
もう辞めても
いいと思って
奴らの頭を叩き潰した」
漉音:「………」
…なにを、叩き潰した?
聞き間違えか?
河南:
「そしたら、
そのグループから
派生した別のグループが
こんなところまで
私をしつこく
追いかけてきたわけだ」
漉音:
「じゃあ
その腕の包帯も‥」
河南:
「ああ、
不意をつかれてしまった
追っ払ったがな」
漉音:
「……今家には
弟と2人暮らしか?」
河南:
「いや、
弟は入院中で
今は独りだ」
漉音:
「まさか弟までも‥」
河南:
「ああいや、
これはまた別件だ。
気にするな」
漉音:
「…なあ、
それなら俺ん家に
来ないか?」
河南:「…なに?」
漉音:
「古今とかも呼んでさ。
あと、
罹依とか結依とか、
あいつらも呼んで‥」
河南:
「私のためだけにそんな
彼らを巻き込む
わけにはいかない!」
漉音:
「お前のため
だけじゃない、
お前がこれ以上
怪我とかしたら
俺たちがひやひやして
心臓にわりいよ。
もうお前だけの
問題じゃないんだ」
河南:
「…もう私だけの
問題じゃない、か‥」
河南は
しばらく黙ったあと、
小さく頷いて、
河南:
「なら、
頼んでみようかな、
お前に。
私の運命を委ねるよ」
漉音:
「ああ、まかせとけ!」
そして俺たちは
暗い夜道を街灯を頼りに
俺の家に向かった。
河南:
「ボソッ…
ありがとな、漉音」