第十二話 バール、古代都市ガデスに立つ。
火曜日も、乗り越えましたね('ω')
遺跡に入って数時間。
途中で食事休憩も取りつつ、ようやく俺達は大空洞の底にたどり着いた。
遺跡は全体的に保存状態がよく破損は少なかったが、底だけは様子が違っていた。
かなりひどく崩壊した後があり、床はひび割れ瓦礫に埋もれ、階段は途中で崩れ落ち、巨大な皿のようなものが斜めになって床に突き刺さっていた。
天井でも落ちたのだろうか?
「こんなに階段を下りたのって初めてかも」
「俺もだ。意外とくたびれるもんだな」
魔物もいなきゃ罠もない安全な道のりだったとはいえ、景色の変わらぬ暗闇の中を延々下り続けるのはなかなか辛いものがった。
「老骨には堪えるのう」
その老骨に見合わぬ身軽さで、デクスローが床に飛び降りる。
「よっと」
崩れた床にロニを抱えて飛び降りる。
「ありがと、バール」
「おう。足元気をつけろよ」
「うん」
冒険者でもあるロニにいうことではないかもしれないが、ここまでの道のりと違い足元は瓦礫だらけだ。
「二人とも、ここじゃ」
デクスローが灯りの付いた杖で示す先に、上で見たのと似た扉があった。
「この扉の先か?」
「まあ、見ておれ」
デクスローが、扉にそっと触れると扉に描かれた紋様が青白く光り……扉が左右の壁に吸い込まれるように開いた。
奇妙な扉だ。これでは閉めるときどうするのだろう?
「きれいな仕掛け扉だけど……なんだか不安になる」
「じゃろうな。あまりいい力で動いてはおらぬのでな」
引っかかる言い回しだが、この遺跡自体ロクでもないのだからそういうものなのだろう。
扉をくぐると、そこは小部屋のようになっており、一段高くなった場所にある台座が扉と同じ青白い光を放っていた。
「……デクスロー、これ、まさか……!」
「うむ、転移扉じゃ」
こともなげに言い放つ魔術師に、頭が痛くなる。
安定稼働中の転移扉など発見すれば、とんでもない功績になるのは間違いない。
研究者たちが殺到して、大変なことになるだろう。
「先に行くぞい」
慣れた様子でデクスローが青い光に消える。
「バール、どうしよう。ちょっと怖いかも」
「俺もだ。一緒に行こうぜ」
ロニと手を繋いで、おそるおそる転移扉の上に乗ると、そこはすでに空の下だった。
これはすごい、まったく違和感もタイムラグもなく……それこそ扉をくぐるくらいの気安さで俺達は外まで跳んだのだ。
「もう着いた? 大丈夫?」
隣を見ると、目をつぶったまま俺の手を握るロニが、髪の毛をひょこひょこさせている。
「ああ、大丈夫だ」
目を開けたロニが息をのむのがわかった。
俺もこの光景には驚いたし、仕方あるまい。
「ここが、ガデス?」
「左様。ここが古代都市ガデス。罪深き人の夢のあとじゃよ」
崩壊した真っ白な建造物が、並んで瓦礫の山となっている。
人の気配はなく、現実味の少ない景色の中デクスローがゆっくりと歩きだした。
「どこへ向かうんだ?」
「なに、観光と思ってついてくればよい」
危険な場所と聞いていたが、観光とは。
とはいえ、慣れた様子のデクスローについていくしかない。
「せっかくだから、この場所の話を少ししようかの」
歩きながら、老魔術師が口を開く。
「このガデスが作られた当時、人間は繁栄の極みにあった。高度に発達した魔法文明は、何もかもをコントロールし、世界は人間の支配下にあった。それこそ、竜であってもじゃ」
それは……すごいな。
生きる災害とまで言われる竜族をコントロールするなんて、想像もつかない。
「人々は増長し、高慢となった。己が支配者だ、神だと驕り……それを見せつけんがために技術の粋を凝らしてこの罪深き都市──『空中魔導都市ガデス』を建造したのじゃ」
「空中?」
ロニが首をひねる。
俺とて同じ感想だ。空中ってどういう意味なのだろうか。
「左様。かつてこの都市は空に浮いておったのよ」
「そんなことができるのか?」
「できぬことを……してしまったのだ」
いつの間にか俺達は大きな広場に到着していた。
建造物はなく、空が広く感じられる。
「無理をすれば世界のバランスは崩れる。『人間』は手を出してならぬものにまで、触れてしまった」
瓦礫に腰かけたデクスローが、空を見上げる。
「触れてはならぬもの?」
「この世界の命じゃよ」
デクスローの答えに、ここまで黙って話を聞いていたロニが口を開いた。
「もしかして……地脈を使ったの!?」
ロニにしては珍しい、責めるような声。
横にいる俺まで少し驚いてしまった。
「さすが、〝聖女〟ならば知っておったか。その通り、古代の民は地脈から世界の命を汲み上げて、好き勝手を始めたのじゃよ。大地は痩せ、森は枯れ、川は澱んだ」
「それはそうだよ……。地脈に触れるなんて。ましてや、そこから純魔力を汲み上げて何かするなんて、緩やかな自殺行為よ」
ロニに言葉に沈黙が訪れた時、急に日が陰った。
それと同時に、広場に何かが急降下で降り立った。
暴風の様な風からロニを守る。
「故に、『人間』は〝淘汰〟とされたのですよ」
広場に降り立った巨大な生き物が、諭すような……しかして優し気な口調でそう告げながら俺達を見据える。
「こんにちは、お名前を聞いてもいいかしら」
いかがでしたでしょうか('ω')
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