第四話 バール、勘づく
バールも今日は更新しちゃうぞ('ω')!
「なんてこった。まだ解決してなかったのか……」
てっきり、あれで終いかと思っていた。
いや、白い者の出現とて相当な危機であったのは間違いないのだが。
「バール、ロニ殿を責めるでないぞ?」
「馬鹿を言うな。謝るのは俺の方だ。すまなかったな、ロニ」
俺がこんな状態なのだ。
違和感や危機を感じていても言い出しにくかったのだろう。
「ううん。わたし……」
「気にするなって」
ロニの肩を抱いてさする。
この半年間、その不安を常に感じながらも俺の為に黙っていてくれたのだ。
我慢させてしまっていたのは、俺の事情でありロニが謝る必要などない。
とはいえ、ロニにそのような思いをさせた原因を放っておくわけにもいかない。
俺とロニの生活を脅かすのであれば、何であれ戦うのみだ。
さっさと原因とやらを突き止めて叩き潰し、すっきりさせてもらおう。
「それで? デクスロー? 話の続きを聞こうじゃないか」
この老獪な魔術師が、ただ王の手紙を携えてきただけのメッセンジャーとは思えない。
しかも、ロニにいらぬ圧までかけて、せっかく隠していた秘密を暴露させたのだ。
これで何もないという話ではあるまい。
「これ、いたいけな老人に殺気を撒き散らすものではない。それに、勘のいいお主なら……薄々は感じているんじゃろう?」
「トラヴィの森か?」
俺の言葉に、デクスローが頷く。
「このバーグナー領スレクト地方は魔物の脅威が常にあったが、ここのところ増しておる」
「……確かに、妙な動きが多いな」
ベールノル湖畔集落の襲撃、モルクの故郷『タルザック』に押し寄せたボルグル達。
途切れぬ討伐依頼に、ウーツ・スライムの出現。
この周辺の異常性に関しては俺も不思議に感じていた。
未踏破地域が近く、未発見ではあるが大型の迷宮が存在すると謂われのある場所であるため、魔物が多いのは仕方ないとは思っていたが……さすがに最近は多すぎる。
北やフィニスからの冒険者流入があってもまだ人手が足りないというのだから、この魔物の発生規模は相当なものだ。
「その調査を手伝ってほしいのじゃよ」
「調査? 王の命令か?」
「いいや、サルヴァンの名前でじゃ。内々には王の意図も入っておるじゃろうがな」
サルヴァン師が噛んでいるなら、やはり『淘汰』関連か。
「ここに来たのは、ロニ殿の力を借りられないかと思うてな。サルヴァンの奴、気配はわかるが、確認は〝聖女〟でないとわからぬというのじゃ」
「それが〝聖女〟の能力だから仕方ないよ」
「そうなのか?」
ロニが頷く。
「『淘汰』の気配を感じられる人は、わたしの他にもきっと何人かいる。虫の知らせとか悪い予感とか……。でも、その現象や対象が『淘汰』かどうかは〝聖女〟しか判断できないってサルヴァン様は言ってた」
「ふむ。〝聖女〟が観測して初めて『淘汰』と判明するのじゃろう。それで、どうかの?」
俺と老魔術師の間に視線を彷徨わせるロニ。
「迷うな。行こう」
「でも、バールはまだ……!」
「デクスロー、調査ってのはトラヴィの森に入るんだろう?」
「うむ。奥地まで足を運ぶ」
ロニの肩を抱き寄せる。細っこくて、小さい肩。
それが、細かに震えている。
〝聖女〟が『淘汰』に立ち向かおうってのに、暫定とはいえ〝勇者〟がのんびりしているわけにはいくまい。
「ロニ、俺なら大丈夫だ。そろそろ体を動かさないと鈍っちまうしな」
「でも……まだ、完全じゃないでしょ?」
「なに、足は引っ張らないさ」
デクスローに向き合う。
「いいよな?」
「いいとも。儂は最初からお主ら二人をあてにしておる」
「食えねぇ爺さんだ」
「ほっほ。伊達や酔狂で長く生きてるわけではないのでな」
資料らしきものを、机に並べるデクスロー。
「他にミスメラというエルフの【精霊剣士】が同行する予定じゃ」
「四人パーティか。大規模な調査じゃないんだな」
パーティと一口に言っても、人数は様々だ。
身軽に動ける条件としてこの人数は妥当だろう。
ちなみにパーティ同士で協力するときは、アライアンスと呼ばれる。
大規模な討伐作戦や調査では、多数のアライアンスが動くこともあるが、今回は一つのパーティによる偵察調査とでもいうべき規模だ。
「うむ。あまり大規模にやると情報が洩れる上に、森を騒がせるのでな」
森を騒がせる?
よくわからない表現だ。
この爺、まだ何か隠してるな?
「予定と行程に関してはこれに書いてある。依頼については、儂からの直契で構わんかの?」
「『モルガン冒険社』じゃないのか? まだ籍を置いてるから、内部依頼として回してくれていいぞ?」
「今回の件はクライスの坊主にも秘密じゃ。漏らしてはならぬぞ? お主を連れだしたなどとバレたら、『モルガン冒険社』をクビになってしまうでの」
カラカラと笑って、デクスローが立ち上がる。
「では、三日後に」
「了解した」
小屋敷を出るデクスローを見送って、俺達は朝食のテーブルにつく。
……その前に、お説教があるようだが。
「もう、バールったら。万全じゃないのに」
「たとえそれでも、ロニを一人で送り出せるわけないだろ」
「でも、『魔神の金梃』だってないんだよ?」
あのフィニスでのリードとの決戦の後……『魔神の金梃』は行方知れずになってしまっていた。
気配も感じられなくなっており、呼んでも来ない。
それもあって、俺はてっきり〝勇者〟としての役割が終わったのだと思い込んでいたのだ。
「鎧と一緒にボッグさんに頼んでる武器があるから問題ない」
「む、いつの間に! ダメだよ?」
……藪蛇だった。
「ま、備えあれば何とやらってやつだ。それに、これでお前を守ってやれる」
「もう。絶対、無理しちゃだめだよ?」
ロニが諦めたように苦笑する。
「おう。それよりも久々の冒険稼業だ。いろいろ準備しないとな」
「そうだね。でも……」
胸を張った太陽の娘が、春の陽光のようにふわりと笑う。
「まずは、朝ごはんにしよう」
いかがでしたでしょうか('ω')