第四十九話 バール、二度目の狂化をする
本日一回目の更新。
告知したとおり今日から12時/20時の二度更新です('ω')
ロニをめがけて大量の骸骨が押し寄せてくる。
「聖女ってなんスか！ おれッスか！？」
ふざけたことを言いながら、ダッカスは聖水を周囲に投擲する。
サポートパーティが盾と＜結界＞で防御幕巡らし、デクスローも＜防壁＞の魔法を展開する。
ロニがいまだに放つ『ターンアンデッド』の力で勢いは殺されているものの、この数は昇華しきれない。
「くぅ……！」
徐々に押されていく、『ターンアンデッド』の光と、苦し気なロニ。
そして、それを見た死者の王は骨の玉座に座ったまま、愉快そうに顎をカタカタと鳴らした。
くそったれ……！ 愉しんでやがる。
「みんな、ロニを頼む」
「【戦士】バール？ なんじゃ、お主……その様相は……」
聡く鋭い老練の魔法使いが、俺の気配の変化に気付いて目を丸くする。
「……アレを片付けてくる。それで終わりだ」
それだけ言って、＜結界＞の外へと一歩踏み出す。
それを察知した骸骨が俺に殺到してきたが、バールを軽く一振りして道を作る。
聖女を殺せといったか？
何故だ?
昔話の通りに、死者の王が、この世界の危機ってわけか？
バカバカしい。
お前のどこが、世界の危機だ。
「…… ……」
「何言ってんのかわからんな！」
バールを縦横に振るって、道を塞ぐ骸骨を残骸に変えながら進む。
この程度で世界の危機とはちゃんちゃらおかしい……脆弱な骸骨ごときが王様気取りか？
いや、やっぱり世界の危機だな。間違いない。
ロニが苦しむ世界はよくない。
ロニが悲しむ世界もよくない。
ロニが命を狙われる世界なんてもってのほかだ。
俺の知る世界は、ロニが太陽のように温かく笑う世界だ。
喜べ。
つまり、今しがたお前は世界の敵になった。
世界の危機だ。
「…… …… …」
「うるせぇ、うるせぇ、うるせぇ……ッ！」
声ならぬ声で俺を、ロニを嘲る死者の王に怒りをたぎらせて、殺到する骸骨を手当たり次第に吹き飛ばしながら、死者の王に向かう。
「オオオオオオオッッ！！」
咆哮を上げて、ひりつくような怒りを、破壊衝動を、体に満たしていく。
立ちふさがる困難の全てを薙ぎ払って、踏みつぶして、壊して、潰して……ロニを守る。
そう、俺は壊して守る。
ただ守るのは、俺の性質じゃない。
身体の奥底から湧き上がる破壊衝動が、殺戮衝動が、頭のてっぺんからつま先まで、俺を塗りつぶしていく。
「バール！ ダメ！」
「大丈夫、だ……！」
胸の奥にロニを感じる。
この温もりがあれば、俺は俺を手放さずに済む。
ああ、そうとも。……お前がいる限り、大丈夫だ。
そう、俺はロニの〝勇者〟なのだから。
「さぁ、行くぞ。もうとっくに死んでるんだろうが……今度は起き上がる気になんてならんように……念入りにぶっ殺してやる」
コントロールされた破壊衝動が、俺を速やかな行動へと移らせた。
『魔神の金梃』を振るうたび、周囲の骸骨がバラバラになって吹き飛ぶ。
触れるものすべてを砕きながら、死者の王の玉座へと突進する。
骸骨騎士が道を阻むが、所詮これらも骨だ。
俺の突進を止めるには至らない。
群がる全てを打ち砕いて前に出る。
「…… ……」
死者の王が俺に手を突き出す。
直後、強烈な衝撃波が俺を襲って、大きく吹き飛ばした。
「バール！」
「大丈夫だ」
膝立ちで着地してすぐに体勢を立て直す。
最高の鎧を着ているのに、肉が裂けてしまった。
骨野郎め、やってくれる。
「…… …… ……」
「うるせぇ。ロニはやらせねぇし、お前はここで殺す」
「…… ……」
「──お前が、死ね！」
いくつもの衝撃波が襲いくる中を駆け抜ける。
なに、痛みなど慣れてしまえばなんてことはない。
多少肉を裂かれはしたが、俺にとっては些細な問題だ。
「焦ってんのか？ 王サマ」
「…… …」
ロニに向かわせていた骸骨を俺にぶつける死者の王。
金梃を一振りしてそれを蹴散らし、死者の王に肉薄する。
「おらぁッ！！」
フルスイングを死者の王にぶつける。
粉々に砕け散った死者の王が……周囲の骨を取り込んで元通りに復元される。
面倒な奴。骨を全部壊してやるか？
「…… ……」
「うるせぇ！」
衝撃波を放ってくる死者の王に、再度一撃を叩きこむ。
結果は同じく。くそ、笑ってやがる。
「【戦士】バール！ この宵闇の中、死者の王は『聖剣』でなくては討てぬ！ 敵の数も減った、ここは退こうぞ！」
デクスローが声を張り上げている。
確かに、随分と骨どもは減った。
積み木のように脆いので、知らず知らずのうちに随分と壊してしまったらしい。
「…… ……」
死者の王が目のない眼窩でロニを見やり、指先を向ける。
衝撃波が放たれる前に、その腕を掴んでへし折る。
ああ、ダメだ。許されないな。
ロニの命を狙うやつが、まだここにいる。
これじゃあ、ロニが安心して眠れない。
まさに、世界の危機だ。
ならば……！
「……死ぬまで、殺すッ!!」
『魔神の金梃』に、目一杯の殺意を注ぎ込む。
必ず殺す。
必ず壊す。
俺の意思に反応して、『魔神の金梃』が紅く黒く輝き、紋様を浮かび上がらせる。
俺の殺意を、覚悟を、望みを体現するために、死者の王すら凌駕する死と破壊の気配を撒き散らし始める金梃。
物語の〝勇者〟は煌びやかな聖剣を振るって死者の王を滅したそうだが、そんなのは俺に似合わない。
この武骨で狂暴な鉄の塊こそが……
「……──俺の、聖剣だ！」
いかがでしたでしょうか('ω')
いいですか、感想でエクスカリバールと言ってはいけません。
言っていいのは評価とブクマをした勇者だけです('ω')b
日間総合ランキング1位からついに陥落してしまいました……
短い夢でしたが、皆さまのおかげでとてもいい思い出になりました('ω'*)
ありがとうございます。
