第四十三話 バール、現況を確認する
本日一回目の更新です('ω')
皆様のおかげで日間総合1位になれました!
ありがとぉぉ!
なので、今日も頑張って三話更新です!
提示された情報を見るに、状況は惨憺たる有様だった。
まず、集落二つの壊滅、および生活圏の消滅。
大小さまざまな魔物の増加、凶暴化。
すでに、このフィニスの防壁にまで到達した魔物の群れもあるという。
「どう思う?」
「高ランクの依頼で片付いていないのが多いな。丘巨人の討伐なんて、何で残してある? 知恵を持つ魔物を放置しているなんてありえないだろ」
魔物の討伐にも優先順位というものがある。
例えば梟熊や陸鮫といった魔物の場合、生息域や被害にもよるがそれほど優先順位は高くない。
真に危険なのは、多少なりとも知恵を持ち、集団を形成する魔物だ。
あれらは、放っておくと人間の生活圏に集落や巣を築いてしまうことが多い。
ボルグルなどがよくある例だが、凶暴な巨人族もそれに当てはまる。
魔物として生まれながら、あれらは独自の文化や思考があるのだ。
獣系の魔物と違い、あれらは積極的に人を殺すし、その為に知恵を使う。
群れが大きくなれば討伐するのがさらに困難となる。
「ダッカス、何故だ?」
「リスクと冒険者信用度と報酬が釣り合わなかった為ッス」
クライスのやや責めるような質問に、『モルガン冒険社』のフィニス担当パーティのリーダーであるダッカスが、頭をかく。
「それ、よく見てくださいっす」
「……? 何だこれ……!」
思わず目を疑った。
『複数体の丘巨人の討伐』と書かれた依頼書にはBランク依頼のスタンプが押してある。
丘巨人一体ならともかく、複数体の丘巨人となれば、Aランクの依頼だ。
「社の規定に従って、リスク査定をしたらとてもじゃないけど受けられなかったッス」
「ダッカス、他にもそういうのがあるのか?」
クライスの鋭い質問に、何枚かの依頼書を抜き出すダッカス。
「ここらは、同じッスね。規定に満たない依頼ッス。理由は、ブルドアに聞いた方がいいッスよ」
俺も含めて、端の席に座るギルド支部長を睨みつけるようにして見る。
小さく悲鳴あげたブルドアが、小さな声でぼそぼそと事情を説明し始めた。
結果、わかったことと言えば、このギルド支部長が極めて無能だという、わかりきった事実だった。
こいつが支部長に就任してしばらく。
フィニスからは次々と高位冒険者が去ってしまったので、ギルドにはハイランクな依頼が浮き始めた。
他に任せようにも冒険者信用度やランクが足りずに、依頼を受けることができない中堅や駆け出しの冒険者が多く、緊急性の高いクエストすら完了できずに溢れ始めたのだという。
『モルガン冒険社』は独自の規定があり、依頼料が割高になりがちだし、条件が合わないと断られることもしばしば。
そこで、このブルドアは「ふむ、ならば依頼を受けれるように工夫すればいいのでは?」と愚かなことを思いつき、危険度を低く見積もった依頼書を出すようになった。
それを受けた実力を伴わない冒険者がどうなったかなど、聞かなくともわかる。
結果について、本人は気付いていない。
机の上で数字ばかりこねくり回して、貴族に尻尾を振っているだけの男に、それが理解できないのは仕方がないことかもしれない。
加えて、俺にやったような直契の拒否をしたり、保身のために故意に問題を報告しなかったりしたという。
ギルド職員は止めなかったのかと尋ねると、キャルを皮切りに次々とやめてしまったらしく、内部の自浄作用が働くことはなかったようだ。
「なぁ、バール……どうするべきだ?」
「周辺の魔物は対処できる冒険者にやってもらおう。これじゃあ情報が少なすぎる」
「ダッカス、ウチの情報はどうなってる」
「脱出検討用に作った大まかなリスク・マップならあるッス。でも南方面は大してチェックできてないッスね。そこまで手がまわらんス」
準備よく広げた周辺地図には、いくつかの情報が書き込まれている。
「なぁ、クライス。これ、住民の避難誘導につかえる精度だな」
「そうだな。よし、ダッカス。今から警邏部隊にこのリスク・マップの写しを持っていけ。いざという時に役に立つ」
「タダで提供ッスか?」
そりゃ、手間を割いて作った物をタダでというのは、ダッカスにとって腑に落ちないだろう。
「領主と国から金を巻き上げる。現実になったときに、混乱するのと避難にオレらの手が取られる方が危険だ。オレらはオレらで、自分の命を守らにゃならん」
「ウッス。了解っス」
「あと、これもってけ」
クライスが腰の魔法の鞄から金貨をぞんざいに一掴みとって、ダッカスに握らせる。
「駄賃だ。お前はいい仕事をした」
「ありッス」
走っていくダッカスの軽い返答の中に、信頼と尊敬が滲む。
さすがクライスといったところか。
豪快で細やかな気遣い。
「さて、どこから手をつけるか」
「クライス、まずはこれとこれ……それと、これの位置に斥候を出してくれ。まだ定位置にいるようなら仕掛けて討伐しよう。細かいのはともかく、Aランクの奴は仕留めておかないと大暴走の時に対処できない」
大暴走という現象は、解明されていない点が多くある。
まず、目的だ。普段は縄張りを出ない魔物や凶暴でないモノまでが襲ってくる。
時に単種の場合もあるが、およその場合、周辺諸々の魔物を巻き込んで、一塊の大きな群れとなることもある。
普段はお互いを食い合うような魔物でもこの時ばかりは、協力関係のように動く。
……人間を殺す、その一点の目的の為に。
故に、大暴走の兆候があるというなら、危険な魔物は先に排除しておきたい。
いざ防衛となれば戦力を分散しなくてはならないし、必ず遭遇戦になる。
今のうちに、準備万端で叩いておくのが俺達の安全にもつながるのだ。
「丘巨人と、青翼竜、それに骸骨王!? こんなのまで確認されてるのか!?」
「群れどころか軍を組織してる可能性がある。早急に確認しておきたい」
「……了解した」
クライス・モルガンが緊張した面持ちで、俺に頷いた。
いかがでしたでしょうか('ω')
16.5話に関してはちょっと調整中です。
その内ノクタにポーイしますのでお待ちください……