第十話 バール、硬鱗の蛇竜と遭遇する
本日一回目の更新です('ω')!
木にロープをかけて血抜きをし、大型のナイフで梟熊の毛皮を剥いでいく。
梟熊は恐ろしい魔物ではあるが、冒険者にとっては実入りのいい獲物でもある。
毛皮は防寒具や防具の素材として使えるし、内臓や爪、手の平などは魔法薬の材料として取引される。
大きな躯体からとれる肉は鶏肉に似て美味く、部位によっては高額取引でこれもいい金になるのだ。
……当然、うまい部分は今日の夕食に並べる予定だが。
「初日の成果としてはまあまあだな」
「やっぱりバールって強い」
「いろいろ経験してるしな」
焚火にあたりながら、ロニが作業する俺をじっと見ている。
「どうした?」
「ううん。頼りになるなーって思って」
「? よし、肉も切り分けたし、じきに日も落ちてくる。そろそろ戻ろうか」
「うん。いくらか持つよ」
血抜きしてある程度軽くなったとはいえ、梟熊一匹分の素材や肉は少し重い。
俺一人で担げないこともないが、手伝ってもらうとしよう。
はぁ……『パルチザン』にいた時は、魔法の鞄があったんだけどな。
「ねえ、バール。今日はどうだった?」
「どう、とは?」
「冒険者として、再出発の一日目だよ」
ロニが何を言いたいかがよくわからない。
「そうだな。上手くいった、と思うがな。上々の滑り出しだ」
「なら、良いんだけど……」
「どうした?」
後ろを歩くロニを振り返る。
俯いたロニが、そこにいた。
「正直、びっくりしちゃった。今のバールは、昔よりもずっと強くて、大人なんだもの」
「年はそう変わらないだろ」
「そうじゃなくて。自分で道を決めて、自分で立ち上がって、昔よりもずっと強くって……わたし、勢いでついてきちゃったけど、邪魔になるんじゃないかなーって」
「そんなわけないだろ。ロニ、帰って祝杯を挙げようぜ」
俺の言葉に俯いていたロニが顔を上げる。
まったく、何を不安な顔をしてるんだ。
「ロニがいれば駆け出しだって悪くねぇって思ってるよ。あー、なんだ……正直、ロニと一緒だなんて、なんていい再出発なんだとか、ちょっと浮かれてる」
「ほんと?」
「俺が嘘を言ったことあるか?」
「いっぱいある」
そうだった。
俺はそこまで清廉潔白な人間じゃあなかった。
「でも、信じる。うん、ごめんね」
「気にすんな。こうなったら一蓮托生だ。俺の冒険者再起にとことん付き合ってもらうぜ」
「まかせて! 今度は……ずっと一緒だよ」
太陽のように笑うロニを見て、安心する。
よしよし、ロニはこうじゃなくっちゃな。
「それで──……!」
何か言いかけたロニが、急に後ろを振り返る。
探知魔法に何か反応があったのだろうか?
「どうした、ロニ」
「何か来る。すごい大きいのが」
「トラヴィか?」
「わからない」
そうこうしている間に、森の木がなぎ倒される音がこちらに近づいてくる。
おかしい……。トラヴィは大型のトカゲではあるらしいが、木々を薙ぐほどとは聞いていない。
地面から伝わる震動からして、相当大きな生物が近づいてきている。
「た、たすけてくれぇッ!」
「な、なんだ……!?」
森の奥から冒険者らしき姿の男たちが、全力で駆けてくる。
それを追って、地響きと共に信じられないような大きさの生き物が、俺達の前に姿を現した。
胴の太さが一メートルほどもある、竜頭の大蛇。
『パルチザン』時代、一度戦ったことがある魔物だ。
「硬鱗の蛇竜だと!? 危険度Aランクの魔物だぞ!」
危険度というのは、冒険者ギルドが魔物に対して暫定的に割り振る指標だ。
俺達冒険者に『冒険者信用度』があるように、魔物にもその危険さに応じたランクが存在する。
危険度Aランクともなれば、『パルチザン』のような手練れを集めたパーティが、入念に準備をして討伐に挑むような魔物だ。
こんな人里近いところに現れていい魔物ではない。
「ロニ、逃げろ!」
「え?」
「森の入り口の冒険者たちに伝えるんだ! こいつは、やばい! ギルドに緊急討伐クエストを発令してもらう必要がある!」
以前、『パルチザン』でクエストを受けた時……この魔物は近隣の村を尽く食い荒らし、領主が派遣した討伐隊を二つ全滅させていた。
森の入り口にいるような駆け出しどもなんか、エサにしかならない。
「こっちだ、蛇野郎!」
背中から金梃を引き抜いて、ありったけの気当たりをぶつけて注意を引く。
硬鱗の蛇竜の視線が、ぐるりとこちらに向いた。
よしよし、『敵』はここだぞ。
「バールは?」
「時間を稼ぐ。なに……ほどほどにして逃げるさ。さぁ、行ってくれ」
いかがでしたでしょうか('ω')?