番外編 お手紙
この番外編は読者様が私の質問箱に送ってくださった、当作品中のキャラクターへの手紙から思いついて書きました笑
それではどうぞっ
ひらひらと舞うピンク色の花弁がいつも通り窓ふきをしている私の視界に映った。
あのパーティーの日から2週間ほどが経ち、お城を取り巻く空気ももう暖かい春の空気になっている。
いつも通りの朝の仕事として窓を拭いていた私だったが、窓の向こうに手紙を咥えたまま空を羽ばたく真っ白な鳩を見つけた。
「あっ、伝書鳩! 今時めずらしいなぁ……」
私はそんな独り言を漏らしながらもちょうどいま拭いていた両開きの窓を大きく開く。
すると、空を飛んでいた鳩は私のほうへ近づいてきて窓の木製サッシの部分に留まった。
私がその伝書鳩の咥える手紙をつかむと伝書鳩はすぐに飛んで行ってしまう。私はかすかにその鳩に手を振り、手元に残った手紙へと視線を移す。
水色を基調としたような封筒は赤いハートのシールで止められていた。私は差出人と宛先を確認するためにくるりと手紙を半回転させる。するとそこには”拝啓、ルナ・グレイス・アレクサンダー王女”と丁寧にルナちゃんのフルネームだけが書かれていた。差出人の名前のようなものは一切なく、全く確認できない。
私はその手紙を届けるためにルナちゃんの部屋へと向かった。今日はまだルナちゃんが私を呼ぶ声が聞こえてこない。それがあらわすのはルナちゃんがおねしょをしていないということか、まだ眠っているということ。時計を見ると今はルナちゃんがいつも起きる時間よりも30分ほど遅かったため、私は少し安心した気持ちでルナちゃんの部屋へと歩いて行った。
部屋につき、軽くドアをノックしてドアノブをひねる。冬の間は金属製のドアノブがとても冷たかったのに、春となった今では全く冷たくなんかない。
ドアをあけると、明らかに人が入っているようなふくらみがベッドの上にはあった。
「こ、これはまだ寝てるのかな……」
私がルナちゃんを起こそうと近づくと、嗅ぎなれた臭いが私の鼻をかすかに刺激する。
「もしかして……」
私はルナちゃんのベッドの前に立ち、ルナちゃんの布団をふぁさっとめくった。
すると、むわっとした空気が立ち込め、それと同時に黄色い世界地図の上で眠っているルナちゃんの姿があらわとなった。
「ありゃりゃ……」
やっちゃったかぁ……
私がルナちゃんをゆすり起こそうと手を伸ばした時だった。
「んんっ、リア…… どうしたのぉ……?」
眠気眼をこすりながらむくりと体を起こすルナちゃんの表情が徐々に曇っていく。
「り、りあぁ…… またやっちゃったぁ……」
「大丈夫、大丈夫だよ! ほら、いいものあるから元気出して!」
「いいもの……?」
しまった。思わず言ってしまった。本来ならちゃんとお風呂に入らせてから読ませるべきだったのかもしれなかった。
「あのね、ルナちゃんに今朝伝書鳩を使ってお手紙が届いたんだけど、差出人がわからないの……」
私はポケットにしまっていた手紙を取り出しルナちゃんに差し出した。
ルナちゃんはかすかに手がおしっこでぬれていたことを気にしたのか布団のまだ濡れていない場所で拭ってから手紙を受け取った。
手紙を開けると便せん二枚にわたる長文のお手紙があった。
ルナちゃんはその手紙の文面を読み上げ始めた。
「えっ、えっ、えぇぇぇぇ!? り、リア! どうしよ、ばれちゃったよぉ」
涙目になり赤面したルナちゃんが私のほうをじっと見てきている。
「でも、向こうのお方もルナちゃんと同じような状況なんだからいいんじゃ…… で、でもお相手の名前がわかりませんね、所在を表す肝心なところがすべて塗りつぶされちゃってます」
ルナちゃんは少し黙ってから再び口を開いた。
「多分、伝書鳩を使うからもし伝書鳩が手紙を落とした時のことを考えたのよ。それで名前でも書いていたら私の秘密も、この男性の秘密もばれてしまうんだから……」
「でもそれじゃあ、結局差出人がわからなくて意味がないんじゃ……」
すると、ルナちゃんはにんまりと解決策を持っているような顔をした。
「この時のお相手は、私がおむつにお漏らしをした時の男性…… だからほかの方よりも判断しやすいの。おそらくこの方はハイーダ王国のウルク王子よ。確か私より二歳ほど年上の……」
私は私の脳内にある記憶をすべて調べた。すると一人の美男子が私の脳裏によみがえる。
「あぁ! あのかっこいいお方ですね! いいじゃないですかっ!」
私がそういうとルナちゃんはぽっと少し頬を赤らめた。
そのまま私は続ける。
「ルナ・グレイス・アレクサンダー。私と結婚してほしい」
私は手紙にあったそのセリフを低めの声でかっこいい青年になりきって言い、同時に右手をルナちゃんにさしのばす。
すると、ルナちゃんの顔はもっと赤くなり、とても照れているようだった。
すると、”しゅうぅぅぅ”とおしっこの排泄音がかすかに私の耳に届いた。
「あっ、おしっこがっ……」
ルナちゃんは手紙の内容に動揺したばかりにベッドに座ったままその場でお漏らししてしまった。
「えっ、だ、大丈夫? ルナちゃん」
しばらくしてから、ルナちゃんは落ち着いたのか、ルナちゃんがその場から立ち上がると、ルナちゃんが座っていたベッドの部分には新しいおしっこのシミが作られていて、またルナちゃんのネグリジェも又ひどく黄色く染まっていた。
「もぅ、ルナちゃんもおむつつける必要があるんじゃないの?」
私は冗談っぽくそう言ってみた。
「か、彼も付けてるのならいいかなぁ……」
「えっ?」
私は予想外の答えに驚き思わず聞き返してしまった。
「な、何でもないなんでもない!」
「そ、それじゃあ風邪ひかないうちにお風呂に入ってから返事のお手紙書きましょっ」
「う、うん」
それから私とルナちゃんはお風呂へと向かった。
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お風呂からあがると、ルナちゃんはさっそく机の上に便せんを広げて、ペンを持った。
文面は短かったものの小さく丸っこい文字で書かれた手紙はとても心がこもっているようで、こう書かれていた。
”拝啓。ハイーダ王国、ウルク・S・ミューレン王子。お手紙、およびプロポーズありがとうございます。とっても嬉しいです。私はまだあなたのことを詳しくは存じ上げれてないのです。なのでどうかこんな私でよければ、結婚を前提としたお付き合いから始めたいです。
スプラッタ王国、ルナ・グレイス・アレクサンダー。”
「いいお手紙ですね」
「こんなに短くていいのかしら?」
「いいんですよ! これだけ気持ちがこもっているのですから」
私はそう言いながら便せんについた丸いシミを指さした。
かすかにレモン色のそのシミは紛れもなくルナちゃんのおしっこだった。
何らかの形で机の上に飛び散ってその上に手紙を置いたのだろう。
「えっ、ダメダメ、書き直さないとっ」
「大丈夫ですって! きっと!」
私はおもむろに真っ白な封筒を取り出して、ルナちゃんの手紙を入れて連れてきておいた伝書鳩に咥えさせてすぐに飛ばした。
「いちゃった……」
「いっちゃいましたね。ルナちゃん、幸せになれるといいですね!」
「うん!!」
私としてもこんな形で番外編を書けるとは思ってませんでした笑
しかし、あれだけ熱の篭ったメッセージを貰ったのならこうする他ありませんでしたよ笑
楽しんでいただけましたか??