想い人
その後、英理とノアは数時間会話した。そして数日後にクラウンに結果を報告する。
「上手くいきましたね。あとは王子に王政を崩壊させる方法を念入り伝えて実行するだけです」
「……ねえ、ハニートラップみたいなことをする人は過去にいたの?」
「いませんよ。数百年間美女が優遇されてますから、わざわざ美人が自分の立場を危ぶめて、王族を陥れようなんてふつう考えないです。だからエリさんは特別なんです。美女に転生したからこそ、そういうことができる稀有な存在です」
……そっか。この世界は国なんてないから、そんなことが起こること自体ないのか。
「あのさ、ノアさんが王政と制度の撤廃を宣言するだけでいいんじゃないの?」
「いや、それではもみ消されるだけです。王子の頭がおかしくなったとか、気の迷いだとか適当な理由をつけられ王子が交代するだけだと思います」
「そうなんだ……」
「王族の信用自体を完全に失墜させなければ計画は失敗に終わるでしょう」
「うん」
それ以降、英理はノアと会って崩壊させる方法を伝えたり、クラウンに報告したりすることを続けた。
英理は王室に入る。そうすることで王族や貴族のいろいろな場所に行けるようになった。圧倒的な美貌を英理は持つので、王族の間でも噂は広まり、一目見たいと続々と招かれるようになった。英理は招かれるたびにその場所に気付かれないように隠しカメラを設置したり、王族や貴族の下賤な会話を録音したりした。ノアも王子として訪問した先々で英理と同じように行動する。
そして、ノアは全世界同時生中継で王政の腐敗を全て明らかにし、ネットに証拠データを拡散する。そして、美女を優遇する制度と階級制度を撤廃する。同時に民主主義制度を発表した。
その中継映像とネットに拡散されたデータを受け、各地で暴動が起き、王族・貴族の信用が地に落ちる。
王政の腐敗を告発したノアは世界中の人から慕われ、議会の代表の一人として選ばれる。
世界の教育も変わり、議会により旧来の馬鹿げた制度などが次々と変えられていった。
怒涛の日々が過ぎ、英理はルイの時計屋に久しぶりに行く。
「久しぶりだな、クリスさん」
「久しぶり、ルイさん」
「ねえ、ルイさんに聞きたいことがあるんだけど」
「何でも話してみな」
「私さ、これまで誰かに恋されても、転生前の自分の姿だったら同じように恋したのかっていう考えが頭に浮かんだんだよね。転生前の自分の姿に恋されなきゃ、本当に自分に恋されてるって言えるのかな?」
クラウンさんの考えには納得した。私はルイさんの考えを聞いてみたい。
ルイは少し考えて口を開く。
「……気になるんだったら、いっそ転生前の自分の姿を相手が好きになるかとかどうでもいいって思える、この人とずっと一緒にいたいって思える人が現れるのを待てばいいんじゃねえか?」
英理は目を見開く。
「ただこの人とずっと一緒にいたいって思える人が現れるのを待てばいいと俺は思う」
「……」
英理は笑む。
「ルイさん、ありがとう」
時計屋を出て、空を見上げる英理。
そして歩き始める。自分の想いを伝えるために。