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プロポーズ

その夜、貸し切りのレストランで英理はクラウンと会い、明日に向けた打ち合わせをおこなう。


「まさか、前日にお忍びで上流院に来てるとは……」


「王室に入ったほうがいいの?」


「いや、入らない方がいいです。王室では王子に主導権がありますから」


「上流院にそのまま所属して、王子に上流院へ頻繁に足を運ばせた方がいい。そうすれば、近くにいない絶世の美女、もどかしい気持ちになるでしょう」


「なるほど」


「それと王子を焦らせるために、他に言い寄られて気になっている男性がいると言いましょう」


「うん。いないけどね」


「…………」


クラウンは英理を見つめる。


「エリさん」


「はい」


「この革命が終わったら、俺と結婚しませんか?」


「はい?」


英理は驚いて、クラウンを怪訝な表情で見る。


「俺はエリさんが好きです。転生前の姿なんて関係ありません」


「何ですか? いきなり」


英理はきょどる。


「これから演技であっても王子に近づいていくうちに、王子を本当に好きになられたら困りますから。さきに俺の気持ちを知っておいてもらおうと」


英理は真剣な表情で見つめてくるクラウンにドキドキする。


「この姿は本当の私の姿じゃないですから。本当の私は平凡顔ですから」


「さっきも言ったはずです。そんなことは関係ありません。どんな姿であろうとエリさん自身が、これが自分なんだと思えば、それはエリさんだと思います」


英理は頬が少し赤らみ、鼓動が高鳴る。


「いや、クラウンさんはこの外見に惹かれてるだけです」


「その外見だけでは好きになりませんでしたよ。地球での英理さんの姿によって形成された中身がなければ好きにならなかったと思います」


「でも転生前の姿の私だったら、クラウンさんは恋してなかったと思います!」


「そうかもしれませんね」


「! ですよね」


「でも、それはそんなに大切なことですか?」


「え?」


「転生前の姿が実は本当の姿でなかったら? 催眠術にかかっていて実はゴリラの姿だったら?」


「……」


「自分の姿なんて、鏡に映る姿を自分と思えばいいんです。それもまぎれもない自分です」


「……」


英理は考え込む。


「この世界では、その外見に地球で形成されたその中身が備わった存在がエリさんなんです。転生前の姿など関係ありません」


英理は腑に落ちたような気がした。


「エリさん、好きです」


英理は顔を上げ、クラウンの真剣な目を見て、心臓が激しく音を立てる。


「考えてみます」


「そうですか。まあ、革命に失敗すれば俺は死刑ですからその話もなくなりますがね」


クラウンは苦笑する。


「あ、それと、俺がエリさんに言い寄っていることは内緒ですよ。刺客を送り込まれる可能性がありますから」


「わかった」


翌日、英理とノアは庭にあるテーブルをはさんで座っていた。


ノアは英理に話を切り出す。


「結婚の話、考えてくれましたか?」


「ごめんなさい。私、他に気になっている男の人がいて結婚はできません」


「その男とは誰ですか?」


「それは言いたくありません。その人に迷惑がかかる可能性がありますから」


「俺には可能性がありませんか?」


「そもそも王族の人はちょっと嫌です」


「? なぜですか」


「私は美人が優遇される制度や王政自体をあまり好ましく思ってないので」


「美人が優遇される制度の何が不満なんですか?」


「私は容姿関係なく、みんな平等の世界が素敵だなって思います」


ノアは考え込む。


「では、なぜ上流院に所属しているんですか?」


「上流院のような貴族の集まりの場所が、どんなに腐った場所なのか知りたかったから一時的に入ってみました」


クラウンとの打ち合わせ通りに英理はしゃべる。


ノアはその言葉を聴き、大笑いする。


「あなたは本当に面白い人だ」


「上流院に正式に所属しているのに雑巾がけを下流階級の子と一緒にやっているのには驚きました。確かに、それを見下していた周りの貴族たちより、あなたは素敵に見えましたよ」


事実、英理のような絶世の美女が下流階級の子と雑用をやる姿を見て、若い貴族の女性の中には感化され、こっそり手伝う者もいた。


「上流院では見下されている兵士に対する対応が、あなただけ他の者と違っている点も納得がいった」


「だから私は王室にも行きません。しばらくして上流院も辞めます」


「……そうですか。王政を嫌っている理由は?」


「一部の王族だけで世界を動かす王政だから、そんな馬鹿げた制度が存在すると思うからです。世界中の人たちで選んだ代表者が集って、会議で世界を動かしていくべきだと思います。その王政を変えようとしない王族は嫌いです」


「……なるほど」


「では、王政を変えようともしない王族である俺は恋愛対象外だと?」


「はい、土俵にすら立ててません」


ノアはまた大笑いする。


「仮にも王子に向かってそんなこと言う人は初めてだ」


「あ! すいません」


「いいんですよ。その美貌で腹も立ちません」


「では、俺が王政を変えようとすれば土俵にひとまず立つことができるってことでいいのかな?」


「美人を優遇する制度や階級制度をなくし、王政を崩壊させれば、あなたは土俵に立てます」


ノアは苦笑する。


「王族であることが不利に働くことがあるなんて思いもしなかった。王族に産まれたというだけで、ずいぶんと巨大なハンデがあるものだ」


ノアは空を見上げて、しばらく考え込む。そして英理を見る。


「わかりました。王政と制度を崩壊させてみます」


「本当ですか?」


「どんなことをしてでも、あなたと一緒になりたい。そのためには、まず土俵に立たなければいけないですから」


……地球で言う美女が国を亡ぼすってこんな感じなのかな。国っていう規模じゃないけど。


「どうして私のことをそんなに好きなんですか? 上流院にも私に近い顔立ちの子も結構いますけど」


「顔立ちが似ていても、その雰囲気は出せませんよ」


「雰囲気?」


「内面からにじみ出る雰囲気です。エリ、あなたは他の者とは比較にならない魅力的な雰囲気を放っている」


……直感でわかる。その雰囲気とやらも私の内面からにじみ出てるものではなく、この姿と同じで与えられたものだ。


「ありがとうございます」


英理は少し考え込み、口を開く。


「親たちを裏切ることになってもいいんですか?」


「構いません。幼少期から事務的に育てられましたから、愛情なんてありません。王族のほとんどは自分自身が一番なんですよ。だから、俺の親も自分の保身が一番大切なんです」


「俺は違います。エリ、あなたが一番大切だ。こんなに誰かを好きになったことはない。階段から転げ落ちたときに、兵士姿の俺を薬草で手当てしてくれたときのことは忘れられない」


英理はドキッとする。


……こんないい人を騙していいのだろうか?


英理は罪悪感に苛まれた。


「エリと一緒になるためなら何だってするよ」


……こんな人を騙してる私って、最悪じゃない?


英理はぎゅっと目を瞑る。


いや! 世界を変えるためにはそうするしかない。私は決めたんだ! この馬鹿げた世界を変えるって!


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