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王子

私は後日、上流院に入る手続きをして、圧倒的な美貌によって許可された。最下流階級が上流院に入ることは前代未聞とのことだった。ピーチは私の美貌を使って無料でホテルに半永久的に住まわせてもらえることになった。交渉成立の対価としてクラウンが食費なども出してくれるみたいだ。


そして、私の上流院での生活が始まった。


上流院では最下流階級である私を見下す輩も当然いた(典型的な悪役令嬢のような者もいた)が、私は屈しなかった。上流院の中の馬鹿げた風習をこの美貌を使って次々と私は打ち砕いていった。


上流院では下流階級の女の子たちが掃除など雑用でこき使われていたが、英理もそれを手伝ったりして下流階級の女の子たちから慕われ、上流以上の階級の者たちからは侮蔑される。


定期的に行うクラウンと会って話し、私はいろいろなことを知った。私がどのお店もフリーパスだったのは人々が見たことがないほど美貌を持っていたためで、通常の美人はそこまで過剰なフリーパスや店の商品を何でももらえるわけではないらしい。格安や割引などのサービスは当然あるが。店員がもう一度来てほしい、また顔が見たいと思えばそれだけサービスするという仕組みだそうだ。


ルイさんの時計屋には足しげく通った。2人で地球やこの世界のことを楽しく話した。ルイさんが時計を持って作業しているところを見ると私はいつも心地よい落ち着いた気分になれる。


そして史上初の美女オーディションなるものが3ヵ月後に開催されることになった。しかも王都の近くに住む全ての人に周知するように徹底した宣伝がおこなわれていた。クラウンはこれに参加して王子の目に止まるという方法も計画に組み込んだが、その前にその時が来た。


ノアは王座に座って家来と話していた。


「ピンク色の髪の絶世の美女はまだ見つからないのか?」


「はっ。内密に調べてはいるのですが街中では見かけられないようです」


「そうか」


……あの時、見失ってさえいなければ!


「王子、今日のスケジュールでは明日の上流院への正式な訪問にそなえ、お忍びで上流院へ行く予定となっております」


「わかった」


美女オーディションは、ただ美貌を持っているだけで参加することが可能だ。入賞さえすれば金品がもらえるだけのデメリットのないオーディションでもある。既婚者でも恋人がいても参加可能としているし、周知もしっかりやった。あとはこれに賭けるだけか……。


王子は半年に一回、上流院へ出向く。その前日に兵士の姿に変装して上流院の中の様子、人の普段の振る舞いを見ることが昔からおこなわれていることだ。もちろん、それを知るのは王族でも限られている。


ノアは兵士姿に変装して上流院を歩いていた。


帽子をかぶって、兵服を着ているので、当然ながら誰も自分を王子だと気づかない。兵士は上流院の中では見下されているので、無視されることがほとんどだ。


ノアは大広間に行くため、階段を降りていると、ピンク色の髪の少女が床を雑巾がけしている姿が視界に入る。


「あ!」


ノアは瞬間、驚いて目を見開き確信する。


あの子だ!!!


驚きのあまり、階段を踏み外し、派手な音を立てて階段から転げ落ちる。幸い残りの段数が少なかったので怪我はしなかった。


兵士が階段を転げ落ちる姿を広間にいた多くの貴族の女性たちは見ており、くすくすと笑う。


「見て、ダサいわ」


「まぬけね」


嘲笑が広間に広がっていく。


ピンク色の髪の少女は兵士が転げ落ちたことに気づき、急いでノアのもとに駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


ノアは英理の美貌に圧倒される。


英理はポケットから薬草を取り出し、ノアが痛みにより右手で掴んでいた左腕に薬草をあて、痛みをなくす。


「他に痛むところはありませんか?」


「大丈夫です」


「よかった」


英理はにっこりと笑う。


周囲からは2人を馬鹿にする声が聴こえる。


ノアは帽子をとる。


周囲の貴族は帽子をとった兵士の顔を見て凍り付く。


「ノア・フェリックスです。あなたを王妃にしたい。俺と結婚してくれませんか?」


英理は目の前の帽子をとった金髪の美青年の姿に驚いて言葉を発す。


「王子様!?」


「はい、そうです」


ノアは笑った。


英理は予想外の事態に慌てふためく。明日がチャンスだとクラウンから聞いていたので、今日の夜、念入りに作戦の打ち合わせをする予定だったが、今日いきなり王子と対面することになるなど想像もしていなかった。


「あの……すいません、いきなりそんなこと言われても、すぐには決められないっていうか」


ノアはくすくすと笑う。


「そうですよね。ゆっくり考えてください。名前を聞いてもいいですか?」


「栗栖英理です」


「クリス・エリさんですね。ずっと会いたかった」


「え?」


「あなたを以前街中で偶然見かけたとき、声をかける前に見失ってしまったので、その後も必死に探したんですが、見つけられなくて」


英理は上流院に入って以降は、ナンパ防止のために帽子やかつら、サングラスを使用して、変装して街中を歩いていた。


「そうなんですか……」


「とにかく、会えて本当によかった」


2人は立ち上がる。周囲の貴族は時間が止まったように茫然と無言で立ちつくしている。


「さっき雑巾がけをしてましたが、下流階級ですか?」


「いえ、最下流階級です」


「? 最下流階級は上流院では雇っていないはずですが」


「私は正式に上流院に入ったので」


「……上流院に所属しているのに雑巾がけをしていたんですか?」


「はい、そうです」


ノアは驚き、そして英理に一層魅力を感じた。


「こんなところよりも、王室の方に来ませんか?」


……王室ってどのようなことをするんだろう。クラウンに相談しなきゃわからない。


「あ、ちょっと今すぐ答えを出せることじゃないので」


「わかりました。王室に来たいならいつでも言ってください」


「ありがとうございます」


「今日、これからどこかで話しませんか?」


「いえ、いろいろと雑用が残っているので」


「それは他の者に任せればいい」


「他の人の負担が増えちゃうんで、いいです」


「そうですか。明日も俺はここに来るのでその時に改めて話をしたいです」


「はい、明日ですね」


ノアは周辺の死刑宣告を受けたような顔の貴族たちに顔を向ける。


「おい!」


「はっ、はい」


上流院でも一番権力のある女性がノアの近くまで来る。


「今後、エリが酷い目に遭うようなことがあれば、どうなるかわかっているな?」


「はい! そのようなことは決して起こらないようにいたします!」


すると、兵士が一人、広間に降りてきて、驚いた声を出す。


「王子!? なぜ顔をお出しになられているのですか?」


「何でもない」


「スケジュールが詰まっております。中々出て来られないのでお迎えに上がりました」


「そうだったな。今、行く」


「エリ、また明日」


ノアは英理を見つめて言う。


「はい、また明日」


英理の返事を聞き、ノアは微笑み、立ち去っていった。


英理はノアの微笑みを見てドキッとする。


この人も何かふつうのイケメンと雰囲気が違う。王子だから、いろいろなものを背負ってるからかな?


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