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共闘

英理はクラウンを見つめる。つかの間、静寂がおちる。


「でも、あなたはその制度を使って、女の子から饅頭を奪い取ろうとしました」


くくっとクラウンは少し笑う。


「制度を変えるためには上に行く必要がある。上に行くには現行制度を順守してるように振る舞わなければいけない……仕方がなかったんですよ」


「中途半端に振る舞い、変な噂が広がって計画そのものが水泡に帰すリスクがあるなら、普段から忠実に徹して振る舞い、周囲からの信頼を勝ち取って確実に計画を成し遂げる。俺はそのように考え行動してます」


英理は少し考え、先ほどまで座っていた席に腰掛ける。


「どうして、あなたは私と手を組みたいんですか?」


「エリさんの力を借りることができれば、予定よりずっと早くこの制度を崩壊させることができるからです」


「何であなたはこの制度を壊したいんですか?」


「エリさんと同じです。馬鹿げてると思うからですよ。現在、王族だけが世界を動かしていますが、そうではなく世界の人たちで選んだ代表者たちが世界を動かすべきだ」


……民主主義だっけ? そういうことをやりたいってことだよね?


「王族だけが決めているから、今の文明レベルであっても、美女優遇や階級制度など、そういった馬鹿げた制度があたりまえのように存在する」


「なんで革命とか起きないんですか?」


「王族の力と信頼が強いからです。世界を統一したことによって、王族の決めたことは神の啓示と同じように人々はとらえてる」


「でも、あなたのような考えの人はたくさんいるんじゃないんですか?」


「もちろん、いると思いますよ。でも、いたとしても行動を起こす勇気のある人はごく少数ですし、大多数は王族を盲信してます。それは仕方がないことです。なにせ数百年、このような制度があたりまえのように続いているのだから。そういう教育を受けれて育てば、中々その考えから抜け出すことは難しいでしょう」


「エリさんも見たでしょう。火事場で野次馬の中流階級の人たちの様子。あの中にも何とかしたいと思う人はいたのかもしれませんが、下手に下流階級を助けようとすれば中流階級でのけ者扱いされる。だから動けなかった者もいると思います」


「でも、ルイさんは助けました」


「あの男は変わり者ですからね。中流階級の中では完全にのけ者扱いされてます。もとは親のいない孤児院の子供だったようで、中流階級の親に引き取られ、今は天涯孤独のはずです。小さいころから問題児扱いされてたとか。美人な子が地味な子から不当に物を取り上げたのを見て、美人な子にげんこつして問題になったりするなど、小さいころから変わってたらしいです」


……小さいころからそういうのが原因で、顔の整っている女が嫌いになったんだ。


「エリさん、あなたはいったい何者なんですか?」


英理は本当のことを話そうか考える。


「本当にエリさん以上の美貌を持った女性は見たことがない。それほどの美貌を持ってれば確実にどこかで噂になっていたはずです。それに王妃オーディションに参加すれば王子の伴侶にも余裕でなれたはず」


「俺は昨日エリさんを見て衝撃を受けました。エリさんの存在そのものにです。圧倒的な美貌もそうですが、昨日の数々の行動、あんなに目立つ行動をするのに、これまで噂にすらなっていないこと、王子の伴侶になっていないこと、エリさんの存在そのものが不思議でたまらない。饅頭の件のあと執事に後をつけさせてましたが、偶然同じホテルの最上階に泊まることになったのには驚いた」


「俺は世界の制度崩壊の話をエリさんにすることでリスクを負ってます。その覚悟に応えていただけるかどうかで英理さんと組むか決めます」


クラウンは真剣なまなざしで英理を見つめる。


……私もこの世界の制度をぶち壊したい。でも一人じゃ無理そう。


「話しても信じてもらえないと思いますけど」


「話してみなければわかりません」


英理は話すことを決意し、ルイに話したことと同じ説明をする。


「というわけで、この姿は私の本当の姿じゃありません」


「転生……」


クラウンは考え込むようにつぶやく。


「信じてくれます?」


「正直、そういった類の話は非科学的な馬鹿げた話だと軽蔑してましたが、エリさんが言うと……信憑性がありますね。エリさんの昨日の数々の行動。確かにそれほどの美貌をこれまで持っていたならば王子の耳に入っていないはずがない、幼少期から人前に出ることを控えていたとしても、急に昨日、噂になるような目立つ行動をしたことも不自然だ」


「昨日に続いて二度目の自分の常識という枠を壊された気分だ」


「転生……この世界でそんなことがありえるなんて」


クラウンは目を瞑り、数秒後、開く。


「わかりました、信じます。俺と一緒にこの世界の制度を壊しましょう」


「まず、どのように壊すか聞かないと協力するかは決められないけど」


「簡単なことです。王族を失脚させる、ただそれだけです」


「どうやって?」


「エリさんの力を借りられれば、エリさんが王子に近づき虜にして思うままに操り、王族を裏切るように仕向けさせる」


「つまり、私がハニートラップを仕掛けるっていうわけ?」


「はい、それが一番の近道です」


「冗談じゃないわ! 私、まだ男の人と付き合ったこともないのに、なんで好きでもない男と、その、深い関係になんなきゃいけないのよ! 男性経験人数0の私にそんなことできるわけないでしょ。馬鹿じゃないの? キスも絶対嫌だし、ハグだってお断りよ」


英理はまくし立てる。クラウンは目を見開き驚いたあと、くすくすと笑う。


「大丈夫ですよ」


何が!?


英理はムカッとする。


「それは王妃オーディションを利用するパターンです。もう一つのパターンであれば、ハグすらしないで王子を意のままに動かせますよ」


「?」


「王妃オーディションは階級関係なく美貌を持つなら誰もが参加でき、美貌で決まるオーディションです。中流階級の女性が王妃になった例も少ないですがあります。エリさんが受ければ最下流階級での前代未聞の王妃になるという伝説のシンデレラストーリーをつくることも可能だと思いますが、これは女性から求婚するという形のものなので、王子に主導権があります。なので、王子を意のままに動かすのは難しいです」


「ですが、もう一つのパターンなら王妃オーディションより難易度が高いですが、成功すれば王子に求婚されるという形をとることができます。その場合は女性側が主導権を握ることができ、王子を言いなりに動かすことも決して難しくはないはずです」


「それってどんな?」


「上流院に入ることです」


「上流院?」


「最上流階級と上流階級の選ばれた者と圧倒的な美貌を持つ者だけで構成されている場所です。エリさんなら圧倒的な美貌を持っていますから上流院へ入ることが可能でしょう。そこは美を磨いたり、技芸を身につけたりするところでもあります。その場所には王子を含めた王族たちがたまに来るので、エリさんが王子の目に止まる可能性は極めて高いです。そうすれば王子の方から言い寄ってくるでしょう。なので、エリさんに主導権があり、ハグすらする必要はなく、一緒にいたいなら制度を崩壊させてくれないかと頼めばいいだけです」


「なるほど」


私がそんな小悪魔みたいなことをやる日がくるなんて……。


「わかったわ。それならやってみたい」


「よかった」


「あと、転生の件ですが、その話をもう誰かに話しましたか?」


「はい、ルイさんにだけ」


「そうですか。まあ、あの男なら言いふらすような人間じゃないから大丈夫か」


「?」


「エリさん、転生の話は今後誰にも話さないでください。もし、王子の耳に入ろうものなら、その計画が破綻する可能性があります」


「何で?」


「この世界では整形がもっとも忌み嫌われる行いです。化粧は大丈夫ですが、整形で美貌を手に入れれば、美しさを偽ろうとした罪で重い罰を受けます。整形をしたかどうかは見ればわかるように王族は訓練されているのでオーディションではばれますしね。転生の場合、どういった扱いになるのか、まったくわからないです。なので、絶対にこれ以降その話を誰かに言わないでください」


「わかった」


「2人で世界を変えましょう」


クラウンは右手をエリの前に出す。


エリはその手をにぎる。


「変えてやるわ。こんな世界」


「では、後日、上流院に入る手続きをしに行きましょう」


「わかったわ」


クラウンとの話が終わり、英理は広場から出るために歩き始める。


……上流階級のイケメンで何不自由ない生活を送っているはずなのに、そんなことをしようとしていたなんて。だから他のイケメンとは違った魅力を感じたんだ。地球で同じようなことができる人っているのかな? ルイさんのような人よりは、いてもおかしくないけど。


最初の出会い方は最悪の形だった。でも、今はクラウンに好印象を持っている自分がいる。


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